『解かれた魔法 運命の一日』〜第32話〜







                                       投稿者 フォーゲル





  お湯で濡れた髪を私は、ゆっくりと掻きあげる。
 お気に入りのパジャマに着替えた私は、ベットに腰掛けた。
 (カズ君・・・大丈夫よね)
 私がカズ君のボディーガードを始めてから、一週間程立つけど、未だに綾乃さん達が仕掛けて来る様子は無い。
 向こうも機会を伺ってるんじゃないかと思うんだけど・・・
 最初は、いっそのことカズ君の家に泊り込もうかとも思ったんだけど。
 『そ、それはダメだよ!!』というカズ君の意見に従うことにした。
 いざとなったら小日向君の家が近くにあるから、そこまで逃げなさいとは言ったんだけど。
 (・・・)
 私は泊り込みを断った時のカズ君の言葉を思い出す。
 
 『いくら、姉弟みたいなものとはいえ、やっぱり年頃の男女がひとつ屋根の下って言うのは・・・』

 (姉弟か・・・)
 私には分かっていた。
 カズ君は、私のことを『大切な姉』と思ってくれているということ。
 そして、『それ以上』にはなれないということ―――
 (多分、カズ君は―――)
 私がそこまで考えた時だった。

 “コンコン”

 不意に何かを叩く音がする。
 (?)
 私はその音の発信源を探し、窓の外からその音がしていることに気が付いた。
 窓の外ではハトがくちばしで窓ガラスをつついていた。
 「これは・・・」
 私は窓を空ける。
 そのハトは私の部屋の中に入ると、その姿が一枚の手紙に変わった。
 (やっぱり・・・美和(みわ)ちゃんの式神ね)
 美和ちゃんというのは、私の京都時代の親友、そして―――
 私はその手紙に目を通す。
 
 『渚さん、お久しぶりです。積もる話もあるのですが、取り急ぎ現状報告です。
  姉さん達が、私達に隠れて何かをしていることは事実のようです。
  謙三さんも、自分が監視されているような感じを受けていると言ってました。
  
  ・・・正直、私もそんな感じなんです。
  でも、私は姉さん達が何か悪いことを企んでいるとは思えないんです。
  藤林家の後継者問題でも、渚さんが後継者ということで一度は納得したのに・・・
  そもそも、姉さんが扇花家の当主として、渚さんの後継者指名に納得したはずなのに』

 そう、確かに美和ちゃんの姉、綾乃さんは私の後継者指名を、むしろ喜んでくれていた。
 (可能性としては、本当に柾影さんが生きているってことね・・・)
 そして、私は更に文章に目を通す。
 
 『今日、藤林家と風流四家の当主会義で決まったことをお知らせします。それは―――』
 その後に続いていた言葉に私は、身が引き締まって行く様な思いを感じていた。





  「よ〜し、みんな集まったわね」
 腰に手を当てながら、柊さんが頷きます。
 放課後の『Oasis』。
 今、ここには、わたしと柊さん、そして沙耶さんが集まっていました。
 信哉さんは、『俺は伊吹様から必要とされる時まで、己を磨くことが先決だ』とのことで、ここには来ないと沙耶さんが言いました。
 他でもない、『兄さん達の隠し事を探ろう』ということとその報告です。
 「伊吹様は、昨日学園から帰宅後、一日中蔵の中に篭っておられました」
 最初に口を開いたのは沙耶さんでした。
 「蔵?」
 「はい。式守家にはその家柄からかなり貴重なマジックアイテムなどが保存されていたりするのですが、そこの蔵を調べていたようです」
 「何か探し物をしてたんですか?」
 「いえ、ただ古代の魔法・神話に関する文献を読まれていたようです」
 「なるほどね・・・となるとやっぱり魔法絡みかしら?」
 「おそらくは・・・」
 沙耶さんの言葉に腕組みして考える柊さん。
 「あたしの方は、ちょっとムカツクこと言ってたのよね」
 その時のことを思い出したのか、ちょっと不機嫌になりながら言う柊さん。
 「どういうことですか?」
 「雄真も春姫も、ここのところ、魔法の特訓ばかりしてるのよ、それをあたしはコッソリ覗いてたんだけどね」
 柊さんによると―――


 『正直今回はキツイよな』
 『そうだね、けど私達が頑張らないといけないんだよ』
 『伊吹の時みたいに、柊達の協力を得られればいいんだけど』
 『雄真くん、それは・・・』
 『分かってるよ。母さんの話を聞く限り、今回は柊達は荷が重過ぎるみたいだしな』



 
 「雄真ってば、あろうことかこのあたしを捕まえて『荷が重過ぎる』って言ったのよ!!」
 思わず、テーブルを叩きながら怒る柊さん。
 「ふっふっふっ・・・見てなさいよ。こうなったら何が何でも隠し事を突き止めて、あたしに『荷が重過ぎる』かどうか見て貰おうじゃない。
 完全に据わった目で言う柊さん。
 「あ、あの・・・それですもも様は何か分かったことはありましたか?」
 「え、え〜と、それが・・・すいません。何も・・・」
 わたしも和志くんから何とか和志くんを取り巻く状況について聞こうとしましたが、それは上手く行きませんでした。
 休み時間になるたびに、渚さんが和志くんを連れていっちゃうということもありましたが・・・
 そして、何より和志くんの目が、『俺に近づかない方がいい』と語っていました。
 そんな目で見られると、『和志くんに嫌われたくない』という思いが働いて、わたしは何も聞けなくなっていました。
 でも、そんなことじゃいけないと思いました。
 和志くんが何か悩んでいるのは事実だし。
 それに昨日、小雪さんに言われた言葉―――


 ―――だから、すももさんは『自分がしてあげたい』ことをしてあげて下さい―――

 わたしは、その言葉を忠実に実行することにしました。
 「う〜ん、まあ和志には渚がベッタリだしね〜・・・ところですももちゃん、それは何?」
 柊さんはわたしがテーブルの上に置いていた大きな缶に目をやります。
 「ああ、これですか?新しいクッキーを開発したので、試食して貰おうと思いまして・・・」
 「和志に?」
 「・・・はい」
 一晩考えた結果、わたしが思ったことは『和志くんには笑っていてほしい』ということでした。
 もし、わたしが普段通りに接することで、和志くんが一瞬でも自分の置かれている状況から解放されるのなら、
 それが、『私がしてあげたい』ことなんじゃないか―――
 そう思いました。
 「そう、じゃあ、今日はこれで解散ね。引き続き調査は続行するということね」
 立ち上がる柊さん。
 「分かりました。私も引き続き伊吹様の動向に注意したいと思います」
 「じゃあ、皆さん、何か分かったら連絡して下さいね」
 わたし達はそう言って解散しました。




  「和志くん、どこに行ったのかな」
 わたしは和志くんの姿を探して、校内を歩いていました。
 「すももちゃん!」
 その声に私が振り向くと準さんとハチさんが近づいて来ました。
 「お2人とも、こんにちは」
 「何やってるの?」
 「和志くんを探してるんですけど・・・お2人共知りませんか?」
 「ふ〜ん・・・愛する人を探して右往左往って訳ね」
 「い、いえ・・・そんなことは」
 準さんの言葉に思わず動揺するわたし。
 「ちくしょー。羨ましいぞ、和志〜」
 「は、ハチさん、何も泣かなくても・・・」
 「まあまあ、ハチはそういう星の元に生まれたとしか言えないわね」
 「コラ、準!そんな運命論で片付けるな!」
 泣くハチさんを宥める準さん。
 「そ、それで和志くんはどこに行ったか分かりませんか?」
 「さっき、見たわよ・・・渚ちゃんと一緒に屋上に行くのを」
 言いずらそうに、話す準さん。
 「そ、そうですか・・・分かりました」
 そう言って踵を返すわたし。
 その背中に―――
 「頑張ってね!すももちゃん」
 準さんの励ます声がわたしの背中に掛かりました。





  「うわぁ〜キレイだね」
 屋上から差し込む夕陽の光に感嘆の声を上げる姉ちゃん。
 その隣に並ぶ俺。
 「で、姉ちゃん・・・何か俺に相談したいことでもあるの?」
 「えっ?」
 「姉ちゃん、今日は何か朝から変だしな。不意にため息付いたりするし」
 「・・・」
 「何か悩み事でもあるの?良かったら相談に乗るよ」
 姉ちゃんはしばらく黙った後、口を開いた。
 「カズ君には隠し事は出来ないか」
 そう言って苦笑する姉ちゃん。
 「昨日ね、美和ちゃんから連絡あったの」
 「美和ちゃん?」
 「ああ、美和ちゃんは私の京都時代の親友なの。そして風流四家の一つ『扇花家』の人間よ」
 「!!」
 俺はその言葉に驚愕する。
 「そう、あの綾乃さんの妹なの」
 「それって・・・大丈夫なのか?」
 「ああ、元々次女だから後継者問題の話には絡んでこないし、私がこっちに来た後も向こうの状況を教えてくれたりしてたの。
  それでね、彼女が言うには、まだ正式な日取りは決まってないらしいんだけど、近く藤林家の後継者のお披露目をやるって
  ことになったって」
 「それって・・・」
 俺の言葉に姉ちゃんが頷く。
 「そう、私に一旦京都に戻って来てほしいってことになると思う」
 「・・・ダメだ」
 「えっ?」
 「ダメだって言ってんだよ!!今の状況分かってるのか!どう考えてもワナだろ!」
 思わず姉ちゃんの肩を掴んで、叫ぶ俺。
 「かもね」
 「かもねって・・・姉ちゃん!」
 「でもね、カズ君。これは私がいずれ遭遇する問題なの。みんなに認められなきゃ藤林家を継ぐことは出来ないし、それに・・・
 「それに?」
 「これは、チャンスでもあると思うの。うまくいったら綾乃さん達が何を考えて動いているのか一気に分かるかも知れないし。
  何で、カズ君達『四神』の力を継ぐ人達が狙われるのかも分かるかも」
 「だけど・・・」
 「もう、決めたの」
 姉ちゃんの瞳には強い決意が浮かんでいた。
 「分かったよ・・・姉ちゃんが決めたのなら俺はもう何も言わない」
 「ありがとう、カズ君。それともう一つ聞いてほしいことがあるの」
 「何?」
 「私はもちろん、無事に帰って来るつもりだけどそれでも、『万が一』ってことがあるかも知れない」
 「そんな遺言みたいな言葉は聞かないぞ」 
 思わず耳を塞ごうとする俺。
 「カズ君」
 強い口調の姉ちゃんの言葉に思わず耳から手を放す俺。
 「正直、言うつもりは無かったんだけど・・・後悔はしたくないから、言うね」
 姉ちゃんは俺の目を見て―――ハッキリと確かな口調で言った。



  「カズ君、私は―――カズ君のことが好きです。弟としてじゃなく一人の男の子として、愛しています」



 その言葉を聞いた瞬間、世界が止まったような気がした。
 姉ちゃんが?俺を?一人の男として?
 グルグルと言葉が回る。
 それでも、何とか言葉を整理する。
 同時に一人の女の子の姿が脳裏をよぎった
 そして、最初に俺の口から漏れた言葉は―――
 「ありがとう・・・姉ちゃん。だけど―――ゴメン、俺は―――」

 “ガラン、ガラン!!”

 何かが地面に落ちる音がしたのは、その時だった。
 俺は思わずそっちを見た。
 そこに居たのは―――

 「す、すもも!?」

 いつから、そこに居たのか。
 呆然とした顔で立っているすももがそこにいた。
 すももの全身が小さく震えていた。
 「あ、あの・・・その・・・ゴメンなさい!!」
 踵を返してすももは走り出した。
 とっさに身体が硬直して動かない俺。
 「―――行ってあげて」
 そんな俺に後ろから声が掛かる。
 姉ちゃんが俺を見ながらそう言っていた。
 その表情は、夕陽の逆光のせいでよく見えなかった。
 「カズ君・・・すももちゃんのことが好きなんでしょう?」
 「姉ちゃん、分かってたのか?」
 「当たり前でしょう?私はカズ君の『お姉ちゃん』なんだよ」
 『お姉ちゃん』の部分を強調する姉ちゃん。
 「だから、さっきの言葉の続きはすももちゃんに言ってあげて」
 「・・・分かった、ありがとう。姉ちゃん」
 俺はそう言ってすももの後を追った。
 姉ちゃんに声は掛けずに。
 それをしてしまったら、姉ちゃんを余計傷つけるだけだと思ったから。




  “タンタンタン・・・”
 カズ君の足音が遠ざかっていく。
 (大丈夫だよ、きっとすももちゃんもカズ君のことが大好きだから―――)
 『お姉ちゃん―――』
 「スー君・・・私フラレちゃった」
 何故か笑みが浮かぶ。
 こうなることは分かっていたけど、いざ現実になると―――
 大分、陽も傾いて来た。秋だし、人も来ないだろう。
 「今、一人なのは、良かったかも」
 思いっきり、泣けるから―――
 「そう、そしてそれは『私達』にとってもチャンスなのよ。渚」
 突然、自分とは違う声が割り込んで来た。
 「!!」
 急に私の周りに魔力反応が生まれる。
 (し、しまった―――)
 “バチッ”
 私の身体を鈍い痺れが襲う。
 「しばらくあなた達を張っていたかいがあったわ」
 意識が急速に遠のく。
 「渚、あなたにはしばらく眠っていてもらうわ」
 (カズ君―――すももちゃん―――)
 女性の声、綾乃さんの声を聞きながら私の意識は闇に落ちていった。






                         〜第33話に続く〜

                 こんばんわ〜フォーゲルです。第32話になります。

                  今回はかなり話を動かしました(特に恋愛方面で)

                 後半の渚に思いっきり感情移入して頂けたら幸いです。
 
              結果は分かっていても告白した渚、その想いを受けて動き出した和志。

                これはもう『和志も腹くくるしかないよなぁ』な展開だな。

        更に渚の動揺を利用して動き出した綾乃など四神絡みの動きも注目して頂けると嬉しいです。

                        それでは、失礼します〜


管理人の感想

今回は激動の回でしたね。

渚の想い・・・それは報われることはないと本人も分かっていつつも、言わずにはいられなかった感情。

そのタイミングを見計らって接触し、渚を連れていく綾乃。

そして渚のことを気にかけつつ、自分の想いを伝えるために走り去っていったすももを追いかけるすもも。

三者三様の想い。気になりますね、次回が。

まあ、「いい加減くっつきやがれこんちくしょー(byハチ」って感じでもあるのですが(汗)

それでは、今回もありがとうございました〜^^



2008.5.28