『解かれた魔法 運命の一日』〜第29話〜





                                    投稿者 フォーゲル




  俺は重い気分を引きずりながら、待ち合わせ場所に佇んでいた。
 もちろん、ハチ兄との『デート』のためだ。
 俺自身が全く乗り気じゃないというのももちろんだが・・・
 (結果的にはハチ兄を騙してるってことなんだよな)
 ハチ兄は、なんだかんだで純情なところがあるから、バレた時がコワイ。
 俺がそんなことを考えている時だった。
 『志織ちゃん、聞こえる?』
 俺の耳元で準さんの声が聞こえた。
 「あ、はい、聞こえてます」
 いざと言う時のフォローのために準さん達が俺の耳に付いているイヤホンから指令を出してくれることになっている。
 準さん達はどこかに隠れて俺の様子を見ているはずだ。
 『もうすぐ、ハチが来ると思うけど、頑張ってね』
 「はあ・・・分かりました。だけど・・・」
 『だけど、何?』
 「ロングスカートにも慣れないんですけど」
 今日の俺の服装は白いワンピース。風に揺れるロングスカートが似合ってしまっているのが何とも・・・
 『ウェイトレスの服装よりは、いいでしょう?』
 「そりゃ、そうですけど・・・」
 俺が反論しようとしたその時だった。
 「志織ちゃん!!」
 その声と共に、俺の目の前に薔薇の花束が現れる。
 その影から満面の笑みを浮かべたハチ兄が顔を出した。
 「今日は来てくれてありがとう!これは俺からの気持ちだよ」
 「あ、ありがとう・・・」
 俺は戸惑いながら、その花束を受け取る。
 (というかこれを持って動き回らなくちゃならないのか?俺?)
 「さあ、行こうか?」
 そう言って歩き始めたハチ兄の後に、俺は苦笑いを浮かべてついて行くしかなかった。
 その時―――

 “ゾクッ”

 俺の背中に言い知れない悪寒が走った。
 最初は、また背中の痣のせいかと思った。
 だが、そうじゃない。
 何か、誰かに見られているようなそんな感覚だった。
 準さんたちなら、そんな風に気にも止めたりしない。
 俺が気になったのはその感覚に『悪意』のようなものを感じたからだ。




  「よ〜し、2人が動き出したわね」
 準ちゃんが面白そうに笑いながら立ち上がる。
 「ううっ・・・やっぱり和志くん、わたしより可愛いです」
 「大丈夫よ。すももちゃんも可愛いから」
 落ち込むすももちゃんを励ます私。
 「慰めてくれるんですか?渚さん」
 思わずすももちゃんの頭を撫で撫でする。
 「2人共、急ぎましょう?ハチ達を見失わないようにしないと」
 「そうですね。行きましょう!」
 すももちゃんに続いて私もその後を追おうとしたその時。

 『―――!?』

 私は思わず周囲を見渡す。
 一瞬、覚えのある魔力反応を感じたような気がした。
 だけど、それはすぐに掻き消えた。
 (・・・?今の反応は・・・だけど『あの人』は今京都にいるはず・・・)
 「どうしたんですか?渚さん?」
 すももちゃんの声が私を現実に引き戻す。
 「ううん!何でも無い!」
 私は疑念を振り払うように頭を振った。




  俺とハチ兄はその後いろいろなところを見て回った。
 と言ってもハチ兄が考えたデートプランに俺が付き合っているという感じだが。
 準さんやすもも、姉ちゃんのアドバイスもあって何とか切り抜けていた。
 正直、ハチ兄が考えたデートプランはちょっと暴走気味なこともあったが。
 (ブティックでペアルックを買わせられそうになった時には、全力で拒否したぞ)
 それでも、ハチ兄はハチ兄なりに俺を楽しませようとしてくれていることは分かった。
 (だから、つっけんどんにする訳にもいかないんだよな・・・)
 「志織ちゃん?どうしたんだい?」
 「あ、いいえ・・・何でもないです」
 俺達は学園近くの公園に戻って来ていた。
 秋になり、葉桜も秋の色合いを見せている。
 夕方になり、少し肌寒くなって来ていた。
 (そろそろ頃合いかな・・・)
 「・・・八輔さん。今日はありがとうございました」
 「え、あ、ああ・・・楽しんでもらえたかな?」
 「ええ!とっても。それじゃあ・・・」
 俺はそう言って立ち去ろうとする。
 「ま、待ってくれ」
 その声に振り向くと、ハチ兄は真剣な顔をして俺を見ていた。
 「志織ちゃん、俺は今日、君と居てとても楽しかった」
 (マ、マズイ・・・この展開は・・・)
 だが、そんな俺の動揺に気が付いていないのかハチ兄は言葉を続ける。
 「志織ちゃん・・・俺は、君のことが好きだ。付き合ってくれ」
 (うぁぁぁぁ!!やっぱり〜〜〜〜ハチ兄惚れっぽいからな〜〜〜)
 俺はそんなことを考えながら、昨日準さんにレクチャーされたことを思い出していた。

 
 「和志くん、明日はハチに告白されるでしょうね」
 「へっ?」
 その日一日掛けて、女の子らしい仕草をレクチャーされた俺に最後に準さんが告げた言葉がそれだった。
 「い、いや〜いくらハチ兄でも初デートの女の子に告白なんて先走ったことは・・・」
 「しないと思う?」
 「・・・」
 思わず黙った俺に苦笑いを浮かべる準さん。
 「やっぱり、そう思うわよね」
 「・・・どうしましょう?」
 「そうね〜私が言えるのは・・・」
 準さんは俺を見て言う。
 「『そこだけは演技をしないほうがいい』ってことね」
 「えっ?」
 「ハチを諦めさせるにはそれが一番よ」
 「で、でも・・・」
 「簡単でしょう?『私には好きな人がいます』って言えばいいんだし」
 準さんは俺を見て少し笑った。
 「志織ちゃんは和志くんの女装で、ウソだけど、和志くんの考えることは『真実』でしょう?」
 「・・・分かりました」


 (俺がしてきたことは結果的にはハチ兄を騙して来たことだ。だからここは・・・)
 俺はハチ兄を見ると、言葉を紡ぎ始めた。




  「ごめんなさい、八輔さんの気持ちはとても嬉しいんですけど・・・」
 カズ君は八輔君の目を見て真剣に語り始めた。
 その眼差しはとても真剣で、カズ君が本心を話していることは明らかだった。
 「・・・私、好きな人がいるんです」
 「!!」
 分かっていたこととはいえ、実際に聞くと・・・
 「その人はいつも私と一緒に居てくれて、いつも励ましてくれるんです、その人を私はいつの間にか目で追っていました」
 「・・・」
 私の視線は隣でその告白をジッとみているすももちゃんに向けられた。
 そうこうしている内にカズ君の告白は続いています。
 「私の想いにその人は気が付いていません。けどいつか必ず結果がどうなろうとも想いを伝えようと思います。
  ですから―――」
 カズ君がそこまで口にした時だった。
 (・・・?)
 2人が立っている場所の先、数メートル先には『使鬼の杜』へと続く森が広がっている。
 その森の中から不意に光が生まれた。
 と、今度はハッキリと『あの人』だと分かる魔力反応が生まれた。
 問題なのはそれが、攻撃魔法で対象がカズ君達だと言うこと―――!!
 「カズ君、八輔君!伏せて―――!!」
 私は思わず隠れていた物陰から立ち上がって叫んでいました。




  「カズ君、八輔君!伏せて―――!!」
 姉ちゃんの声が響いたのはその時だった。
 その声と同時に俺はハチ兄をその場に押し倒す!!
 それと同時に―――
 
 “ドウンッ”
 
 倒れた俺達のすぐ横に攻撃魔法が着弾する。
 『ウェル・シンティア・ラーク・フォレス・ウィレル・フォルガ!!』
 姉ちゃんの攻撃魔法が森の中に着弾する。
 (な、何だ?何があったんだ?)
 俺は慌てて周囲を見渡す。
 俺達の様子をすももが呆然と見つめる。
 (・・・!!)
 そのすももの後ろ、魔力の光が生まれた。
 俺は呪文を唱え始める。
 『ウェル・シンティア・レイ・フェニス・ダグ・ウェルド!!』
 俺の言葉に答えてすももの後ろに防御の鎖が出現する。

 “ドドドドドドン!!”

 すももに迫っていた攻撃魔法がそれに当たり消える。
 (今の魔法―――まさか、すももを・・・)
 俺がそこまで考えた時―――
 「痛って〜・・・」
 俺の身体の下でハチ兄が声を上げる。
 「あ、だ、大丈夫ですか?」
 「う、うん・・・だけど、志織ちゃんがこんなに大胆な・・・」
 そこまで言った時にハチ兄が明らかに固まった。
 (・・・?)
 準さんが苦笑いを浮かべながら、俺の頭を指差す。
 俺は自分の頭を触ってみた。
 短い。
 ふと気が付くと、俺が付けていたロングヘアーのヴィッグが地面に落ちていた。
 「か、和志〜〜〜〜〜!!」
 ハチ兄の絶叫が秋の空に響いた。




  「ハチさんちょっと可哀想でしたね」
 すももが苦笑いを浮かべながら言う。
 結局、俺達に騙されていたことにようやく気が付いたハチ兄はしばらく落ち込んでいた。
 「男に告白するなんて〜・・・」
 そう嘆きまくっていたハチ兄を宥めるために準さんが連れて行き、姉ちゃんもちょっと考えることが出来たと言って学園に向った。
 なので今は、俺とすももの2人で家路に着いていた。
 「というか、ハチ兄も途中で気が付けよって俺は言いたかったけどな」
 「でも、それは和志くんが美人だったからじゃないですか」
 そんなことを言いながら歩いていると、不意にすももが黙った。
 「あの・・・和志くん」
 「何だ?」
 「さっきのハチさんの告白に対する言葉ですけど・・・和志くん、好きな人が―――」
 すももがそこまで言った時だった。
 
 “ゾクッ”

 昼間感じた悪寒がまた俺の背中を駆け抜ける。
 そして、また攻撃呪文が飛んで来る。
 『ウェル・シンティア・レイ・フェニス・ダグ・ウェルド!!』
 またさっきと同じように俺は防御呪文を展開する。
 さっきのリプレイを見るかのように呪文が消える。
 「なるほど、やっぱり一筋縄では行かないわね」
 そう言って現れたのは、俺の見たことある顔だった。
 20代半ばくらいのメガネを掛けたプラチナブロンドの女性―――
 俺が魔法科試験トーナメントの時、ケガをして助けてもらった人だ。
 だが、今の彼女からはその時のフレンドリーな感じは無かった。
 俺は思わずすももを背後に庇う。
 「・・・何の用ですか」
 「別に。あなたをちょっと試しただけよ。どうやら覚醒の時が近いみたいね」
 「どういう意味だ?」
 「それは、あなたの後ろにいる人物に聞いて見るといいわ」
 俺はその言葉に後ろを見る。
 俺の背に隠れるようにして立っているすもも。その更に後ろに―――
 「姉ちゃん?」
 姉ちゃんが立っていた。ただし、その手にマジックワンドが握られていて、その切っ先は真っ直ぐに女性の方を向いていた。
 「綾乃さん・・・何やってるんですか?」
 「久しぶりね。渚」
 「質問に答えてください」
 「そこの彼に用事があった―――と言ったら?」
 「今ここであなたを捕まえます」
 「なるほど、渚の実力だったら可能でしょうね。最もそんな余裕は無くなるでしょうけど」
 そう言って女性―――綾乃は不適な笑みを浮かべる。
 「どういう意味?」
 姉ちゃんが問い正したその時―――

 “ズキッッッィィ!!”

 俺の背中に猛烈な激痛が走った。



 次の瞬間、私の視界に入ったのは、崩れ落ちるカズ君の姿だった。
 「和志くん!?」
 すももちゃんが慌てて和志くんの身体を支える。
 私は思わず綾乃さんを見る。
 「私を追う気なら追いなさい。大切な弟がどうなってもいいと言うならね」
 そう言うと綾乃さんはマジックワンドを一振り。
 その姿は虚空に消えた。
 迷わず私はカズ君に歩み寄る。
 「カズ君!?大丈夫!?」
 苦痛に顔が歪むカズ君。
 「すももちゃん!カズ君の身体を抑えて!!」
 「分かりました!」
 「や、やめろ・・・大丈夫だから・・・」
 カズ君の声を無視して私はワンピースの背中を開ける。
 「うっ・・・」
 私の口から思わずうめき声が漏れる。
 カズ君の背中全体に青い痣が広がりつつあった―――




                         〜第30話に続く〜



                 こんばんわ〜フォーゲルです。第29話になります。

             今回は和志女装編(笑)のオチと次の展開への伏線という感じですね。

               もうちょっとコメディの要素が多くても良かったかなと思ったり。

                後半が急展開過ぎるかな〜とか個人的に思っています。

              怒涛の展開で読者の方が引き込まれる感じになってるといいんですが。

                  次回は説明の回になるかも?それでは、失礼します〜


管理人の感想

今回はハチのおバカ珍道中で終わると思っていたのですが・・・いい意味で期待を裏切られましたね^^

まさかこんな「日常」にまでも、奴らの手が及んでくるとは・・・。

和志と渚の咄嗟の判断で事なきを得たものの、一歩間違えれば友達が怪我をするという容赦のなさ。

そして、広がり始めた青い痣の謎。次回は説明編らしいので、なぞ解きを待つとしましょうか。

それでは〜。



2008.5.3