『解かれた魔法 運命の一日』〜第28話〜





                                  投稿者 フォーゲル





  「よ〜し・・・これでOKね」
 嬉しそうな声で俺の前から離れる準さん。
 「正直、不安なんですけど・・・」
 「大丈夫よ。私が保証するから!」
 他ならない、昨日すももと姉ちゃんの着替えを覗いた罰として『Oasis』で働くことになったのだ。
 ・・・ウェイトレスとして。
 『俺はメイクの仕方なんて知らない!!』とかいろいろと理由を付けて逃げようとしたのだが・・・
 『大丈夫よ〜私がちゃんとして和志くんをキレイにしてあげるから』
 自信たっぷりに言う準さんに押し切られ、結局女装するハメになってしまったのだ。
 「あの〜スカートがスースーして気持ち悪いんですが」
 「その内、慣れるから大丈夫よ。私も最初はそうだったしね」
 どこか懐かしそうに言う準さん。
 『準さ〜ん!和志くんの準備、終わりましたか?」
 外からすももの呼ぶ声がする。
 「うん!もうちょっとしたら連れていくから!」
 声に答える準さんは俺に向き直る。
 「どーしても行かなきゃダメなんですか?」
 「和志くん・・・男の子なんだから、諦めなさい」
 「ハァ・・・分かった!分かりましたよ!!」
 腹をくくった俺は、むしろ自分から更衣室を出て行った。



  『・・・・・』
 最初に出迎えたのは、すもも達の無言のリアクションだった。
 俺は思わず隣でニコニコしながら立っている準さんの腕をつつく。
 そして小声で訴える。
 「ほら〜皆ドン引きじゃないですか?」
 「そうかしら?私は違うリアクションだと思うけど?」
 笑いながら言う準さん。
 「なあ・・・準」
 そんな状況の中最初に口を開いたのは雄真さんだった。
 「これ・・・ヤバくないか?」
 「ヒドイわ。雄真。私という者がありながら、和志くんに見とれるなんて」
 少しムスッとしながら言う準さん。
 「ゆ、雄真・・・アンタそういう趣味があったのね?春姫に教えておかないと・・・道を踏み外す前に」
 「こら、準も柊も勝手なことを言うんじゃない」
 何やら雄真さんをイジッて遊び始めた2人を見ながら、俺はため息を付く。
 「全くしょうがないな〜なあ、すもも?」
 近くにいるだろうすももに話を振る。
 その時、すももは―――
 何故かしゃがみこんでいた。
 「ど、どうしたんだ?すもも?」
 「う〜・・・何か自信無くしちゃいます」
 「何が?」
 俺はその理由をすももに聞こうとした。
 「カズ君がキレイだからだと思うんだけどな」
 姉ちゃんが笑いながら言う。
 「ど、どういうことだよ」
 「はい、コレ!」
 姉ちゃんは俺に手鏡を渡す。
 鏡を見る俺。
 そこに写っていたのは―――
 風に流れそうな長い黒髪。パッチリとした二重瞼。少しナチュラルでかつ違和感をほとんど感じさせないメイク。
 もし、俺がその『女性』を見たら惚れていたかも知れない。
 ・・・それが俺自身じゃなければ。
 「これは・・・カズ君。いろいろと覚悟しておいた方がいいかもね」
 「何を?」
 俺の問いに姉ちゃんは意味ありげに笑うだけだった。
 




  そして、その日の俺にとっては『罰ゲーム』が始まった。
 と言っても実際にやってる仕事はちゃんとしたお客さん相手の仕事なので、キチンとやらなければならないのだが・・・
 だけど・・・
 『いらっしゃいませーー!!』
 次々に入って来るお客さんに挨拶をする俺。
 (な・・・何か、昨日より忙しくないか?)
 明らかにお客さんがドンドン入って来るのだ。
 「すももちゃ〜ん!2番テーブルのお客さん、お願い!」
 「分かりました〜!」
 音羽さんの声に答えてすももが注文の食べ物をテーブルに持って行こうとする。
 (って・・・大丈夫か?)
 特盛の『五穀米カレー』を両手に持って歩いていくすもも。
 更に悪いことにちょうど出て行こうとするお客さんとすももがぶつかった。
 「キャッ!」
 バランスを崩して倒れかけるすもも。
 (マズイ!!)
 とっさに呪文を唱える俺。
 『フェイ・・・』
 その時だった。
 
 “ズキッ”

 背中に痛みが走った。
 だが、考えているヒマは無い。俺はかまわず痛みをこらえながら呪文を発動させた。
 『・・・ファルス!!』
 
 “フワッ”

 一瞬すももの身体を抱きかかえているような感触が俺の両手に生まれる。
 この呪文は『空気を操れる魔法』で、今はすももの周りの空気を操ってすももを支えているのだ。
 その間にすももは何とか体勢を立て直したようだ。
 すももはホッと息を付いた後、俺が助けたことに気が付いたのか、ウインクをして来た。
 それに手を上げて答える俺。
 (しかし・・・何だったんだ?さっきの痛みは・・・)
 だが、ドンドンお客さんが入って来る状況で、いつしかそんなことは俺の頭から消え去っていた。





  「いや〜・・・やっと終わった」
 着替え終わった俺は昨日と同じようにテーブルにへたり込んでいた。
 「お疲れ様、和志くん」
 すももが水が入ったコップを俺に差し出す。
 「ああ、ありがとう」
 その水を俺は一気に飲み干した。
 冷たい水が喉を通って、身体を潤していく。
 「だけど・・・今日は一段と忙しかったな」
 音羽さんによると『Oasis』オープン以来の盛況だったらしいし。
 「それは・・・『志織(しおり)ちゃん』のおかげじゃないかな?」
 「それもどうなんだ?」
 俺は思わず苦笑いを浮かべる。
 志織というのは、俺の女装時の名前だ。
 (何か、キャバクラの源氏名みたいな感じだ)
 「志織ちゃん目当てで来た男の子が多かったんじゃないかとわたしは思うんだけど・・・」
 「勘弁してくれ・・・」
 確かに俺を見る男子の目がヤバかったというか見とれている奴が多かったような。
 (お前ら、キレイなら男でもいいのか?)
 仕事中、そう心の中でツッコンでいた。
 まあ、準さんが男子に大人気だと言うことを考えても瑞穂坂学園の男子は病んでいるのかも知れないが。
 「あ、そうだ。すもも・・・お前達大丈夫なのか?」
 「何が?」
 「いや・・・その・・・手を触られたりしてないかなって」
 俺が接客している時に、本当に一部のお客さんなのだが・・・
 セクハラ紛いに手を触ってくるお客さんとかがいたのだ。
 すももが―――好きな娘がそういうことをされてるんじゃないかと思うと何か、ムカツいた。
 「和志くん・・・心配してくれるんですか?」
 「・・・心配しちゃダメなのか?」
 「いいえ・・・ただ・・・嬉しいなって」
 そう言って笑うすもも。
 「・・・」
 「・・・」
 その一瞬訪れた沈黙。
 (これは・・・雰囲気的にチャンスなんじゃ・・・)
 「す、すもも?」
 「は、はひ?」
 急に話し掛けられたことに動揺したのか、声が裏返るすもも。
 俺が次の言葉を続けようとした次の瞬間。
 「カズ君、すももちゃん、着替え終わったよ。帰ろっか?」
 着替え終わった姉ちゃんがバックヤードから出てきた。
 「ね、ねねね姉ちゃん!?」
 今度は俺の声が動揺する。
 「どうしたの?カズ君?」
 「い、いや?何でも?」
 「ふ〜ん・・・」
 首を傾げながら言う姉ちゃん。
 ふと、見るとすももは複雑な表情を浮かべていた。





  「誰かが見てないとカズ君がまた覗きに来るかも知れないしね」
 「だから・・・アレは事故だって言ってるだろ」
 「でも、兄さんもそうですけど、男の子はエッチですからね」
 「そうよね〜すももちゃん」
 昨日の俺の覗き行為をネタにしながら、すももと姉ちゃんは楽しそうに会話していた。
 最も、2人共口調は怒ってないようなので、その点は安心だが。
 「あ、あれは・・・準さんとハチさんじゃないですか?」
 道の先で何やら話している人影を見てすももが声を上げる。
 
 「なあ〜準、頼むよ、紹介してくれ」
 「だけどね〜何ていうか・・・」
 
 「準さん、ハチさん!!」
 何やら話している準さんとハチ兄にすももが声を掛けたのはその時だった。
 「あら、すももちゃん。和志くんに渚ちゃんも。今帰り?」
 「そうです、お2人は何してるんですか?」
 「ハチがね・・・女の子を紹介してくれって」
 「今度こそ、俺に春が来るかも知れないんだぞ。頼む!準!」
 真剣に準さんに頭を下げるハチ兄。
 (ちょっと、助け舟出して上げるか・・・)
 「準さん、俺からもお願いします。ハチ兄だって学習能力はあるんだから変に暴走したりしないでしょう?」
 「・・・和志くんがそう言うなら」
 準さんはそう言ってハチ兄を見る。
 「分かったわ。ハチ。じゃあね・・・」
 準さんはそう言ってその女の子との待ち合わせ場所をハチ兄に教えた。
 「分かったぜ!ありがとう!」
 ハチ兄はそう言って嬉しそうに帰っていった。
 「でも・・・誰なんですか?今度ハチ兄が惚れた女の子って」
 すると、準さんは―――
 少し笑いながら俺を見て行った。
 「名前はね―――三国(みくに)志織ちゃん」
 
 “ピシッ”

 俺の思考がその場で停止して、頭にヒビが入る音が聞こえたような気がした。
 その名前は―――俺が今日女装していた時の名前だ。
 「和志くん・・・自分で言ったんだし、当日は頑張って、ハチとデートしてね♪」
 俺は、そんな準さんの声を呆然としながら聞いていた。




  「変なことになったな・・・」
 俺はそう呟きながら、脱衣所で風呂に入る準備をしていた。
 結局、ハチ兄とのデート(?)は準さん達がコッソリ付いて来てフォローしてくれることになった。
 (うわあ〜全然楽しくねぇ・・・)
 俺は少しブルーになりながら服を脱ぐ。
 (・・・)
 俺は鏡に写った自分の背中をマジマジと見つめる。
 (何だ?これ・・・)
 背中には小さな青い痣が出来ていた。
 その時、俺の脳裏には、昼間すももを助けたときに魔法を使った時、背中に痛みが走ったことがよぎっていた。




                       〜第29話に続く〜


               こんばんわ〜フォーゲルです。第28話になります。

           今回は女装してキレイになった(笑)和志のドタバタな一日を描いて見ました。

           最もそれ以外にもすももに告白寸前になってみたり、魔法と背中の痣の絡みなど、

               先に繋がる話も入れて見ましたが、どうだったでしょうか?

          次回はハチとのデート編ですね(いやこれは読者的にはどうなんだ?)(笑)

                      それでは、失礼します〜


管理人の感想

三国志織ちゃん、爆誕!(笑)

ってことで28話でした〜。

やはりイケメンは女装しても美少女なのでしょうか?まあ和志がもともと中性的な顔立ちだったというのもあると思いますが。

和志とすももの関係も順調ですね。っていうか、いつくっつくのか焦れったくなってきた(笑)

そして和志の背中には青い痣が・・・やはり青というところからして「青龍」と関係しているのでしょうか。

ハチとのデートに期待しながら、今日はこの辺で。



2008.4.23