『解かれた魔法 運命の一日』〜第27話〜





                                    投稿者 フォーゲル





  「あ〜ヒマだ・・・」
 授業の終わった放課後の教室で、俺は机に身体を倒していた。
 いつもなら、師匠の修行の時間なのだが・・・
 (やっぱり、焦ってるように見えるのかな?)
 俺は昨日、師匠に言われた言葉を思い出していた―――




 
 “ドサッ”
 重い地響きと共に俺の身体が地面に倒れる。
 「うっ、ぐっ・・・」
 俺は慌てて体勢を立て直そうとする。しかし―――
 「どうしたのだ?吾妻和志よ」
 立ち上がろうと思った次の瞬間には、もう師匠が自分のマジックワンドであるビサイムを俺に突きつけていた。
 「海水浴から戻って以来、動きが悪いぞ」
 師匠の言う通りだった。
 「これは、ここのところのお主の動きを見てて思うのだが・・・」
 師匠はそこで少し言葉を切って、俺を見る。
 「何を焦っておるのだ?」
 「えっ?」
 「いや、今のお主は何かに突き動かされているような気がしてな」
 「・・・」
 師匠の言葉に黙ってしまう俺。
 その予想が当たっていたからだ。
 あの時―――すももが柾影に攻撃された時、俺は何も出来なかった。
 母さんの幻が居なければ、すももは―――
 そう考えるだけで、俺の心に寒々としたものが走る。
 だから、俺は『力』が欲しかった。
 すももを、好きになった人を守れるだけの力を。
 「・・・今日の修行はここまでだ」
 俺の顔を見ていた師匠はそんなことを言う。
 「ま、待って下さい!俺はまだ・・・」
 慌てて立ち上がろうとする俺。しかし―――
 「今のお主に修行をしたところで、身には付かぬぞ」
 ビサイムを背中に装着しながら冷たく言い放つ師匠。
 「しばらく魔法から離れて見るのもいいのではないか?」
 師匠はそう言ってその場を離れた。

 



  (でも、そうは言ってられないのも事実なんだよな・・・)
 あいつらがいつ、俺を狙ってくるのか分からないし、早急に強くなる必要がある。
 すももが攻撃されかけたように、いつ俺の周りに居る人間がとばっちりを食うかも分からない。
 それだけは、避けなければいけなかった。
 「はぁ〜・・・どうしたもんかな〜」
 俺の口からはまたため息が漏れる。
 その時だった。
 教室の外を男子生徒が通り過ぎて行く。
 『おい、今日も行くのか?』
 『もちろんだ!最近可愛い娘が多くなったしな』
 そんなことを言いながら教室の前を通過していく。
 (やっぱり、評判いいんだな・・・俺も行って見るか)
 俺はそんなことを考えながら、カバンを持つと教室を出た。
 




  (うわ〜スゴイ混雑ぶりだな・・・)
 俺は改めて呆然としていた。
 大量のお客さん(主に男子)で溢れまくっている『Oasis』の前で。
 一学期が終わる前に、音羽さんが『最近客足が遠のいてるのよね〜』って嘆いていたのだが・・・
 (やっぱりキレイどころを増やしたからかな?)
 俺はそんなことを考えながら、ドアを開ける。
 『いらっしゃいませ〜!!』
 店内で忙しそうに動いていたウェイトレスさん達が元気に挨拶する。
 この状況でも挨拶は忘れないあたりがプロ意識の高さなんだろうか?
 「あ、カズ君!来てくれたんだ」
 そう言いながら俺に近づいて来たのは、姉ちゃんだった。
 姉ちゃんも2学期になってから『Oasis』でバイトを始めたのは知っていたが・・・
 (ああ〜何か周りの視線が痛い・・・)
 お客さんの男子の一部が俺に敵視するような視線を送ってくる。
 (姉ちゃん目的の男子もいるのか?)
 「カズ君。相席でもいい?」
 「ああ、いいよ」
 「じゃあ、こっちね」
 俺は人並みを縫って姉ちゃんの後について行く。
 そして、テーブルに居たのは・・・
 「あら、和志くんじゃない?」
 パフェをおいしそうにパクついていた準さんが俺を見る。
 「こんにちは。準さん」
 「和志くんは、様子を見に来たの?」
 「ええ、姉ちゃんがバイト始めて『Oasis』に客足が戻ったって聞いたんで」
 「そうね〜確かに渚ちゃんがアルバイト始めて活気付き始めたわね」
 改めて混雑している店内を見渡す。
 「杏璃ちゃんも感心してたわよ。『いいとこのお嬢様だからどうかしら?』って思ってたらしいけど、
  なかなかやるじゃないって」
 「『高校生にもなったら自分のお小遣い分くらいは自分で稼がないと』って言ってましたよ?」
 「そうなんだ。和志くん注文は?」
 準さんに促され、俺はメニューを見る。
 「そうですね・・・ナポリタンでも食べます」
 俺はウェイトレスさんを呼ぶ。
 そして―――
 「お待たせしました。ご注―――」
 オーダーを取りに来たウェイトレスさんを見て、俺は固まった。
 「あ、和志くん!来てくれたんですね」
 そこには『Oasis』のウェイトレスの衣装に身を包んだすももが居た。
 「す、すもも!?何やってんだ?」
 「わたしも最初は遊びに来てたんですけど、忙しそうなのでお手伝いしてるんですよ」
 「そ、そうなんだ」
 俺は平静を装いながら、何とか返事をする。
 「そ、それであの〜和志くん?」
 何故か、おずおずと話し掛けるすもも。
 「な、何?」
 「どうですか?」
 「だから、何が?」
 「えっと・・・そのわたしの格好ですけど・・・似合ってますか?」
 そう言いながら、スカートの裾を摘み、可愛らしくポーズを取るすもも。
 スカートを上げた分、その下から覗く生足が見えて、思わず視線を逸らしながら俺は口を開く。
 「大丈夫だよ。とても似合ってるから」
 「本当ですか?・・・嬉しいです♪」
 満面の笑顔を浮かべながら言うすもも。
 その笑顔を見ながら、俺は自分の心が満たされていくのを感じていた。
 「もしも〜し、和志くん〜?すももちゃ〜ん?」
 その声にふと我に変えると、準さんが笑いながら俺達を見ていた。
 「2人共〜私を置いてラブラブな世界に行かないでくれない?」
 「ラ、ラブって・・・」
 「じ、準さん・・・」
 すももは赤くなった顔をトレイで隠していた。
 その仕草がまた、たまらなく可愛く感じられる。
 明らかに、俺の顔も赤くなってるんだろうな。
 「すももちゃ〜ん!こっちのテーブルお願い〜!」
 その時、柊さんの声が聞こえて来た。
 「は〜い!分かりました!じゃあ、和志くん、後でね」
 すももはそう言ってバタバタと戻っていった。
 「・・・」
 「和志くん?寂しそうな顔してるわね」
 「べ、別にそんなことは・・・」
 「そうか〜俺の目にもず・い・ぶ・んと寂しそうな顔をしてたように見えたが」
 不意に第3の声が割って入る。
 そこには、ウェイターの格好をした雄真さんが立っていた。
 「あ〜ん、雄真は何来ても似合うわね〜」
 「だぁぁぁっ!準!ひっつくんじゃない!」
 抱きつく準さんを何とか引き剥がそうとする雄真さん。
 「それで、和志・・・注文は?」
 何とか準さんを引き剥がしてから俺に聞く。
 「え、え〜と」
 俺はどぎまぎしながら答える。
 何で、動揺しているかというと・・・
 (雄真さん・・・目がコワイですよ)
 そういえば、この間の海水浴の時も雄真さんの誤解を解くのに散々苦労したしな・・・
 (よし・・・ここは・・・)
 俺は思いついたことを実行に移すことにした。



  「ふう〜疲れた〜」
 俺はカウンターに持たれかかった。
 「ご苦労様、和志くん」
 ジュースをコップに注ぎながら、音羽さんが俺に声を掛ける。
 「和志くんが手伝ってくれたおかげで、みんな休憩時間が取れたし助かったわ〜」
 そう、俺が思いついたことと言うのは、
 『俺も『Oasia』の手伝いをする』ということだった。
 (特に雄真さんが死にそうな顔をしてたしな)
 「アルバイト代も弾んであげるわね」
 「い、いえ別にいいですよ」
 俺はそう言って立ち上がる。
 「着替えて来ますね」
 「あ、更衣室は通路を入って右ね」
 だが、俺も疲れていたのだろう。
 音羽さんの声は半分聞き流していた。
 「え〜と・・・確か通路を入って左のドアだったっけ?」
 俺はノックもせずにドアを開けた。
 「あ〜渚さん、可愛いキーホルダーですね。どこのお店で買ったんですか?」
 「学園の近くの雑貨屋さんよ」
 部屋の中では、すももと姉ちゃんが仲良く話をしていた。
 それだけなら、何にも問題無いのだが・・・
 問題は、2人がウェイトレスの格好から制服に着替えている真っ最中だったということだった。
 
 『・・・』

 3人して固まる俺達。
 (う〜ん、姉ちゃんはセクシーで、すももは可愛いな・・・)
 俺はそんなことを考えていた。
 が、すぐにそんなことをしている場合じゃないということに気が付く。
 
 『キャアアアア!!』

 すももと姉ちゃんの悲鳴が上がる。
 「か、カズ君、何してるの?」
 「早く出て行って下さい〜!!」
 更衣室の中のありとあらゆるものを俺に向って投げつける2人。
 「ま、待って!出る、出るから物を投げるのは・・・」
 だが、俺は飛んで来る物を避けるのが精一杯だった。
 そんな俺の目に最後に写ったのは、すももが投げたバックが俺の顔面目掛けて飛んで来る光景だった。





  「だから・・・わざとじゃないって言ってるでしょう?」
 俺は椅子にグルグルに縛り付けられた姿で、抗議の声を上げていた。
 すもものカバン攻撃を喰らって倒れた後、俺は縛り上げられたらしい。
 気絶していたので覚えていないが。
 ちなみに縛り上げられているのは、柊さんの捕縛魔法だ。
 「その割りには、マジマジと見てたわよね〜すももちゃん」
 「・・・目がお皿みたいでした」
 「だ、だって、それは・・・」
 男の本能みたいなものだし、しょうがないと思うのだが・・・
 「まあ、和志には責任を取ってもらう必要があるよな」
 そう言ったのは雄真さん。
 「まさか、人の妹の下着姿を見ておいて、何も無く許して貰えるとは思ってないよなぁ?」
 「に、兄さん、そこをあまり強調しないで下さい・・・」
 すももが視線を外す。
 そういう表情をされると、さっきの光景を思い出しちゃうんだけど・・・
 「まあまあ、2人共、落ち着いて」
 割って入った準さん。
 (ああ、救いの声だ・・・)
 俺は一瞬そう思った。
 しかし、その思いはあっさり否定されることになる。
 「じゃあ、着替えを覗いた罰として、和志くんには明日『Oasis』で働いてもらうってことでどう?」
 「でも、準、そんなの今日だってやってただろう?」
 当然のように疑問の声を上げる雄真さん。
 「音羽さん〜!明日って人手少ないんですよね?」
 「うん〜明日は『ウェイトレス』さんが少ないのよ〜」
 なるほど、ウェイトレスさんが・・・
 (ってまさか・・・)
 「ふふ〜ん♪和志くんって私と同じで、お化粧するとお肌のノリが良さそうなのよね」
 いつの間にか、俺ににじり寄る準さん。
 「あ、あの〜皆さん?助けて下さい?」
 「和志・・・アンタが悪いんだから諦めなさい」
 柊さんの無情な声が響き―――

 『さあ〜和志くん、キレイになりましょうね〜』

 「嫌だぁぁぁぁぁ!!」


 俺の絶叫が『Oasis』の中に響き渡った―――





                         〜第28話に続く〜


                  こんばんわ〜フォーゲルです。第27話になります。

         今回の話は、海水浴編がシリアスだったので、ほとんどコメディ展開にして見ました。

   すももがウェイトレスをするのは、ゲーム本編で杏璃から誕生日プレゼントで、]ウェイトレスの服を貰ってたことから、

                           思いつきました。

          次回は『Oasis』での女装バイト編です(我ながら嫌なタイトルだな)(汗)

                         それでは、失礼します〜


管理人の感想

前話までシリアス全開だったので、今回の話でギャップが付きましたね。

でもこういう高低差も、物語を面白くするための技術だと思います^^

渚がオアシスでバイトをしているのには驚きましたが、すももの場合は納得ですね。なんと言っても母子ですから。

そして雄真も・・・彼もウェイターとして、女子生徒から人気がありそうですよねぇ。

次回は・・・和志は「男子生徒」からの熱いラブコールを受ける羽目に?(笑)

楽しみなり。



2008.4.9