『解かれた魔法 運命の一日』〜第26話〜   




                          
                                   投稿者 フォーゲル




  荒れ狂う魔力の余波が消え去った。
 俺はゆっくりと顔を上げる。
 そこには何も無く、ただの荒れ果てた大地が広がっていた。
 まるで、『最初から何も無かった』とでも言いたいかのように・・・
 「和志くん・・・」
 すももが心配そうに声を掛ける。
 「あ、ああ・・・大丈夫だ」
 とにかく、今はこの場所を離れた方がいいのは懸命だ。
 母さんの想いを無駄にしないためにも。
 「行こう。すもも」
 俺がすももに声を掛けた次の瞬間――――


 “ドンッ”


 俺達の横の地面を魔力の攻撃が襲う。
 (何!?)
 見ると近くの丘の上から人の気配がする。
 俺達が無事だということに気がついているのか、それとも当てずっぽうに攻撃しているのか・・・
 それは分からないが、とにかく俺達に向って魔法攻撃が飛んで来ているのは間違い無かった。
 「逃げるぞ!すもも!」
 「う、うん!」
 俺達は急いでその場所を離れた。




  (マズイな・・・)
 俺はそんなことを考えていた。
 最初は正直、相手が念のためにということで魔法弾を撃って来たのかと思っていた。
 だけど・・・
 明らかに、気配が2つずっと付いて来ていた。
 どうやら敵は、俺達が無事だということに気が付いているらしい。
 倒れた木を乗り越え、俺達は走り続けた。
 
 “ドオオオオン!!”“ドオオオオン!!”

 また魔法弾が飛んで来る。
 「クソッ!!」
 俺は舌打ちしながら、呪文を唱え始める。
 『ウェル・シンティア・レイ・フェニス・・・』
 呪文を途中まで詠唱した時だった。

 “ピリッ”
 
 (クッ・・・)
 俺の首筋から背中に掛けて痛みが走る。
 さっきから魔法を使おうとすると、こんな風に痛みが走るようになっていた。
 『・・・リーマ・ダグ・ウェルド!!』
 痛みを無視しながら防御魔法を『飛ばして』何とかそれを防ぐ。
 (一体どうなってるんだ?)
 原因を考えてみたが、何も思いつかなかった。
 「和志くん!?」
 その声に耳を傾けるとすももが目の前に立ち止まっていた。
 「どうしたんだ!?早く逃げ・・・」
 俺はそう声を上げて―――口をつぐんだ。
 すももの隣に並び、立ち止まる。
 立ち止まった俺の足に当たった石がコロコロと転がり―――
 崖の下の海へ転がっていった。
 そう、俺達はいつの間にか崖の上に追い詰められていた。
 どんどん、気配と魔力が近づいて来る。
 (どうする?どうすればいい?)
 この状況を脱出する方法は一つだけある。
 それは―――
 でも、俺の魔力も残り少なくなって来ている。
 それに、この方法を使えばすももも危険な目に合うかも知れない。
 でも、他に思いつく方法は―――
 俺が他の方法を考え始めたその時・・・

 “ギュッ・・・”

 すももが俺の魔法服の胸の部分を掴んだ。
 そして、俺の目を見つめて、言った。
 「和志くん・・・大丈夫だよ」
 そう言ってこの状況にそぐわない笑顔を見せる。
 その瞬間、俺の心から不安が消えた。
 すももは魔法を使える訳じゃない。だけどその笑顔は俺に力をくれた。
 すももと一緒なら、どんなことも乗り越えられる。
 そんな気がした。
 「すもも・・・これからちょっと危険な目に合うかも知れない。だけど・・・俺を信じてくれるか?」
 俺の言葉にすももは何の迷いも無く、はっきりと答えた。
 「信じるも何も・・・わたしが和志くんのことを信じてない訳無いじゃないですか?」
 「そうか・・・ありがとう」
 俺はそう言って呪文を唱え始めた。




  プスプスと呪文が抉った跡が崖の淵ギリギリに残っていた。
 俺はその攻撃の跡から下を覗き込む。
 下には海が拡がっていて、波が当たって砕けるのが見えた。
 (普通に考えれば、ここから下に落ちたと考えるのが妥当なんだが・・・)
 さっきの俺に対する攻撃からして、あいつの『青龍』の力が覚醒しかかっているのは間違い無い。
 その力を利用して生き残っている可能性はある。
 「・・・そうなの?分かったわ」
 いつの間にか、近くに居た鳥の1羽と会話していた伊織が俺に近づいて来る。
 いっけん危ない奴のように見えるが、これが彼女の家『鳥野家』の血筋を引き継ぐ人間が使える能力の一つ。
 『動物と意思の疎通が出来る』力だ。
 「柾影さん。あの子達によると、確かに男女がここの崖から落ちたのを見たそうです」
 「そうか・・・」
 「どうします?更に念入りに調べますか?」
 「いや・・・これで引き上げよう」
 少なくとも、『青龍』が存在していたことは分かったし。式守家などの魔法連盟の連中はもう調査することは出来ない。
 それに・・・
 俺に攻撃を仕掛けて来たあの男が、『青龍』の力に目覚めかけていることは事実だ。
 事実、あの男が逃げながら使って来た魔法には、『青龍』の力が暴走しかかっていることが分かった。
 (あの男が・・・魔法を暴走させた時。俺達が動くのはその時だ)
 俺は崖下を眺めながら、そんなことを考えていた―――





  気が付くと、俺は一人の少年を見ていた。
 それだけなら、別に驚くことでも無いのだが・・・
 それでも俺は驚かざるを得なかった。
 何故ならそれは・・・
 (あれは・・・子供の頃の俺?)
 いくら何でも、自分の姿を見間違えることは無いだろう。
 そして見覚えのある風景を見ての気が付いた。
 ここは10年前の―――あの事故の前日だと。
 (だけど―――何で今更そんな光景を)
 俺はそんなことを考えながら、目の前の子供の自分を見る。
 子供の頃の俺は泣いていた。
 (そうだ―――確か、俺は魔法が使えないのが情けなくて泣いてたんだ)
 そんな子供の頃の俺に近づいて来る人が居た。
 「どうしたの?・・・どこか痛いの?」
 俺は思わず近くの木の影に隠れる。
 子供の頃の俺は俺の存在には気が付いていないようだった。
 つまり、俺の存在は見えてないということだ。
 だから、隠れる必要も無いのだが・・・
 それでも、俺は反射的に隠れてしまった。
 何故なら・・・
 (そうか、この時に『あの娘』に会ったんだっけ・・・)
 子供の頃の俺の前に一人の女の子が現れていた。
 金色に近い髪の色に、頭に付けている大きなリボンが特徴的だった。
 そして―――
 胸元には、白いペンダントが光っていた。
 (・・・!?)
 俺の動揺をよそに、その娘は子供の頃の俺に話し掛けている。
 「よしよし・・・大丈夫だよ」
 頭を撫でられながら、その言葉にニッコリと笑う子供の頃の俺。
 (そうだ・・・俺はその娘の笑顔に何故かドキッとしたんだった)
 今にして思えば、それが俺の初恋だったんだと分かるけど・・・
 
 “ヴンッ”

 耳障りな音が耳元でしたかと思うと、場面が切り替わっていた。
 そこは、ある洞窟の中だった。
 「うわ〜キレイ・・・」
 その娘が驚いたような声を上げる。
 「ここはね、僕のお母さんが好きな場所なんだ」
 そこは母さんが俺や姉ちゃんを連れてよく遊びに来ていた、海辺の洞窟だった。
 干潮になって潮が引くと入れる洞窟で、特徴的なのは・・・
 洞窟の天井も壁も虹色に染まっていた。
 「どう?スゴイでしょ?」
 自分の功績でも無いのに自信満々に話す子供の頃の俺。
 「うん!」
 その娘はしばらくその虹色に染まる壁を見つめていた。
 「・・・欲しいな」
 その娘がしばらくしてそんなことを呟いた。
 「・・・ひょっとして、この虹色の石?」
 その娘がコクリと頷く。
 「でも、お母さんが『この石は貴重な物だからとっちゃダメよ』って言ってたんだよね」
 「そうなんだ・・・じゃあ、しょうがないですね」
 残念そうな表情を浮かべるその娘。
 「砂じゃダメかな?」
 「えっ?」
 「砂を虹色に染めることだったら、出来るよ」
 「本当ですか?」
 「うん。・・・一日待ってくれるかな?この砂を虹色に変えて上げるから!!」
 「ありがとう!!」
 そう言って俺に抱きつくその娘。
 端から見てても顔が真っ赤になっていくのが分かる子供の頃の俺。
 (あからさまに惚れてるな〜)
 過去の自分に向って苦笑する俺。
 その娘が離れた後、子供の頃の俺は自分の表情を誤魔化すようにその娘を見た。
 「・・・虹色に染めたら、そのペンダントに入れて上げるから」
 俺も子供の頃の俺の視線に合わせてその娘のペンダントに視点を移す。
 (・・・!!)
 そのペンダントは、教会の鐘を逆さまにしたような変わった形をしていた。
 俺の知る限り、そのペンダントを持っている人物は一人だけだった。
 (まさか・・・俺の初恋の人って・・・)
 そこまで考えた時だった。
 
 “ヴンッ”

 また、俺の耳元で耳障りな音がする。
 それと同時に俺の意識は急速に遠くなっていった。
 


  
  「う・・・うん?」
 俺は頭を振りながら、目を覚ます。
 目の前には、虹色の光景が広がっていた。
 「ここは・・・」
 俺は記憶を思い出す。
 敵に断崖絶壁に追い詰められて、とっさに取った方法が
『魔法でシャボン玉状のバリアを作って、魔法攻撃に合わせて崖から飛び降りる』という方法だった。
 俺の残りの魔力を考えると降りる途中で魔法が切れる可能性もあったが―――
 『わたしが和志くんのことを信じてない訳無いじゃないですか?』
 そのすももの言葉が俺の中に残った。
 と、同時にすももに信頼されているということが、俺にとっては嬉しかった。
 それと、同時に確信したことがある。
 それは―――
 「うんっ・・・」
 俺の近くでうめき声がする。
 見ると、気を失っていたすももが目を覚ましたところだった。
 「すもも・・・大丈夫か?」
 すももは俺を見て、目をパチパチさせた後―――
 「和志くん・・・和志くん!?」
 すももは叫ぶと、俺に抱きついた。
 「ち、ちょっと、すもも!?」
 だが、すももは俺に抱きついたまま、離れない。
 「嬉しいよ・・・和志くんがあの時の男の子だったなんて・・・」
 その言葉を聞いて俺は、母さんから聞いたこの洞窟を壁一面に輝く虹色の石―――
 貴重な魔力の石『アルカンシェル』の特性を思い出していた。
 一つは『過去の記憶を掘り返す』
 そしてもう一つは―――『2人の人間がいた場合はその2人に共通する一番古い過去を見せる』という特性だった。
 俺とすももが転校して来た時に初めて出会ったんだとしたら、
 その時の記憶が見えるはずだ。
 でも、実際に見えたのは、俺にとっても思い出の記憶だった。
 それは、つまり―――
 俺とすももは子供の頃に出会っていたということになる。
 そして、俺の口から出てきた言葉は―――
 「すもも・・・ゴメンな」
 謝罪の言葉だった。
 「どうして謝るんですか?」
 「いや、だって・・・結局、約束破っちゃったし」
 「しょうがないですよ。その次の日に和志くんは、例の事故に会っちゃったんですから」
 「えっ?ど、どうしてそれを・・・」
 「この石が教えてくれました」
 すももは握っていた自分の手を開いて見せた。
 そこには、『アルカンシェル』が握られていた。
 ただ、すももが持っている石からは、虹色の輝きが消えていた。
 (多分、魔力が消えちゃったんだな・・・)
 俺はそんなことを考えながら、すももに向き直る。
 「じゃあ、お詫びで・・・今からでもいいか?」
 すももは俺の言葉に頷いていた。
 虹色に染める魔法を使いながら、俺は確信していた。
 (すももが俺の初恋の娘だったのか・・・だけど)
 あの男にすももが攻撃されそうになった時、すももが俺の前から居なくなるかも知れないと思った時―――
 ハッキリと分かった。
 俺は、すもものことが好きなんだと。




  「和志くん、ありがとうございます」
 わたしは和志くんにお礼を言います。
 「いや、俺も約束果たせてホッとしたよ」
 「大事にしますからね」
 わたしはそう言って自分の胸元のペンダントを見つめます。
 和志くんの魔法で虹色に染まったペンダントがわたしの胸元で光っています。
 今、わたし達は流れ着いた洞窟から出て、旅館に帰っているところです。
 和志くんによると、わたしが持っていた石の魔法の効果であの場所に流れ着いたんじゃないかということでした。
 「あ・・・」
 和志くんの声にわたしが反応すると、ちょうど朝日が水平線から昇って来るところでした。
 朝日に照らされた和志くんの顔を見た時、わたしは思わず和志くんに聞いていました。
 「和志くん・・・大丈夫ですか?」
 「何で、そんなことを聞くんだ」
 「和志くん・・・何か寂しそうな顔をしてますよ?」
 「そうか?」
 「和志くん。これだけは忘れないで下さいね」
 わたしは和志くんの手を握って言います。
 「和志くんは決して一人ぼっちなんかじゃないです。和志くんを大切に想ってる人はちゃんと居ますよ」
 わたしは言葉を続けます。
 「現に、わたしは―――」
 いつの間にか、わたしの心臓はドキドキとしていました。
 今のわたしは和志くんの目にどんな風に写っているんだろう?
 そんなことを考えながら、わたしは次の言葉を続けようとしました。
 その時です。
 「和志く〜ん!すももちゃん〜!!」
 丁度目の前に準さんが現れました。
 「じ、準さん!?何でここに?」
 「それは、こっちの台詞よ。朝起きてみたら2人の姿が見えないから・・・心配して探しに来たのよ」
 「魔法が解けたのかな・・・」
 和志くんが小さくそう呟いたのが分かりました。
 「だけど・・・和志くんもなかなかやるわね〜夜中にすももちゃんを連れ出すなんて♪」
 「なっ・・・ち、違います。誤解です!!」
 「テレなくてもいいのに〜雄真には内緒にしてあげるから」
 「ですから・・・」
 弁解をする和志くんを見ながら、わたしは―――
  
 (玲香さん・・・わたしは何があっても和志くんの側にいます。だから安心してくださいね)

 そんなことを誓っていました―――




                        〜第27話に続く〜

                 こんばんわ〜フォーゲルです。第27話になります。

                      海水浴編の最終回になります。

               今回は、柾影と出会ったことで和志の身体に起きはじめた異変。

           すももと和志の過去の接点。そしてついに和志が気がついたすももへの想いなどですね。

            次回は海水浴編がシリアスな流れだったので、コメディな流れになるかと思います。

                       それでは、失礼します〜


管理人の感想

26話をお送りしました〜^^

謎の組織の手が和志とすももに迫る中、自身の体に異変を感じる和志。柾影の話では、青龍の力が暴走し始めているとのことですが・・・?

そして思いだされる二人の過去の接点。やはり和志の思い出(初恋)の女の子はすももだったわけですね。何となく予想はしていましたが・・・大きなリボンという時点で。

そしてようやく・・・ようやく自身の想いに気づいた和志。これからの二人の関係に期待ですね。

それでは!



2008.3.28