『解かれた魔法 運命の一日』〜第25話〜
投稿者 フォーゲル
“ドサッ”
最初に俺の耳に聞こえた音は、俺の身体が地に落ちた音だった。
(な・・・何とか脱出出来たか・・・)
あの男―――吾妻和志の魔力攻撃を直に味わったことで確信出来たことがある。
(あの『神の力』―――『青龍』の力は俺達に取って脅威だ)
ましてや、他の神の力と『融合』でもされたら―――
「柾影さん!?」
俺の名を呼ぶ声がしたのでそっちを向く。
16・7歳くらいの黒髪でショートヘアの女の子が俺に慌てて走り寄る。
「伊織か?どうしたんだ?こんなところに?」
俺の仲間で、風流四家の一人鳥野(とりの)伊織(いおり)がその場にいた。
「こちらは『準備』がほぼ終わったので、その報告と様子を見て来なさいと純聖さんが・・・」
そこまで話して、俺の傷が気になったのか回復呪文を掛ける。
身体の傷が癒えるのを感じながら、俺は自分がさっき脱出した廃屋同然の家を見る。
(そういえば・・・和志の傍らにいたあの女―――気になるな)
和志から青龍の力を引き出そうとして、その女に攻撃しようとしたが・・・
(何となく・・・俺の魔法はあの女に効かないような気がしたんだよな)
俺が使おうとしたのは、和志にしたのとは違って『普通』の魔法攻撃だ。
それが効かないと感じたということは―――
(まさか―――)
「柾影さん。終わりましたよ」
俺の思考を遮るように伊織が声を掛ける。
「あ、ありがとうな」
俺はゆっくりと立ち上がる。
「それで、これからどうするんですか?」
「調査は終わった。でも立ち去る前に念のためにやっておくことがある」
俺はそう言って呪文を唱え始めた。
狙いは―――今脱出して来た廃屋。
(どこだ?どこにいるんだ?)
俺は必死に姿が見えなくなったすももの姿を探していた。
『和志!落ちつきなさい!すももちゃんは無事だから!』
「分かってる!分かってるけど・・・」
レイアの声に叫び返しながら、俺は10年前のことを思い出していた。
この場所で起こった俺達家族に振りかかった魔法の暴走事故―――
あの事故以来、母さんも姉ちゃんも心の底から笑ったような日が無かったような気がする。
『和志くん♪』
不意にすももの笑顔が―――あの太陽のような笑顔が俺の心によぎった。
すももの笑顔は俺に、いや俺だけじゃなく周りのみんなに元気を与えることが出来る。
もし、今回のことが原因ですももがあの笑顔を見せてくれなくなったら―――
そう考えると、俺は不安で仕方なかった。
と、同時に俺は気が付いた。
すももと知り合ってから、約3ヶ月が経っている。
その間にはいろいろなことがあった。
最初の出会いから始まって、一緒に買い物して見たり、すももの家に泊まってみたり、
それが原因で雄真さんやハチ兄にあらぬ関係を疑われたり・・・
だけどその思い出の一つ一つがどれも楽しいことだった。
そして、いつの間にか―――
すももの隣は俺にとって居心地のいい場所になっていた。
そして、自分でも気が付かない内にそれは俺の心に『ある想い』を芽生えてさせていた。
それは―――
『俺はすもものそばにずっと居たい』という単純な想い―――
『大丈夫かしら?』
その女性(ひと)の優しそうな声は一瞬わたしにホッとした感覚を与えてくれました。
長い髪に優しそうな雰囲気。そして何よりも印象に残るのが―――
和志くんそっくりな目元の。
(やっぱりこの人は―――)
わたしの考えたことを口に出すより前にその女性がわたしに2・3歩近づきます。
『あなたは、和志のお友達?』
「は、はい。そうです。あなたはひょっとして―――和志くんの、お母さんですか?」
わたしの問いにその女性は優しそうな笑顔を浮べて言います。
『そうよ。吾妻玲香です。よろしくね』
和志くんのお母さんはもう亡くなったと聞いていました。ということは今この目の前にいる玲香さんは幽霊ということになります。
だけど、わたしはあまり怖さは感じていませんでした。
(や、やっぱり好きな人のお母さんだからかな・・・)
わたしがそんなことを考えていると、玲香さんがわたしに近づいて手をかざします。
「あ、あの玲香さん?」
『ゴメンね。和志のお友達ならゆっくりお話したいんだけど・・・あまり時間も無いかも知れないから』
目を閉じた玲香さんは、しばらく集中するとゆっくり目を開けました。
『なるほど、和志が大分お世話になったみたいね。ありがとう。すももちゃん』
名乗らなかったわたしの名前を玲香さんは知っていました。
そして、また優しい目でわたしを見ると、不意に近くにある机を見ました。
『ねえ、すももちゃん。あの机、開けてもらえるかな?」
「分かりました」
玲香さんの言葉に従ってわたしはその机を開けます。
その机の中には手のひらサイズの石がありました。
わたしがそれに手を伸ばすと―――
“ポゥッ”
その石が『虹色』に光りました。
(えっ?)
『やっぱり・・・』
わたしの後ろで玲香さんが呟きました。
わたしはその玲香さんの言葉よりも、あることを思い出していました。
『この砂を虹色に染めてあげるから、持ってて!』
それはわたしに自信を与えてくれた男の子の言葉。
『この浜辺にはその昔、『記憶を呼び覚ます魔法の石』があったんだよ』
それは和志くんが昼間にわたしに教えてくれたこと。
確証は持てませんが、あの男の子が言っていたのがこの石のことだったとしたら―――
そして、和志くんは昔この家に住んでいたこと―――
(ひょっとして―――)
わたしがそこまで考えたその時でした。
“バンッ”
ドアの空く大きな音がしました。
「か、和志くん?無事だったんですね!」
大きく息を切らせた和志くんがそこには立っていました。
だけど、和志くんはわたしの言葉にも、わたしを見つめる玲香さんにも反応しませんでした。
そのまま、一息にわたしに近づくと―――
“ギュッ”
わたしの身体を和志くんは強く抱きしめていました。
「ち、ちょっと和志くん?」
わたしの声にも反応を見せない和志くん。
「良かった・・・本当に良かった」
和志くんの声は涙声になっていました。
「あ、あの和志くん?その・・・玲香さんが見てますよ」
わたし達を優しいまなざしで見つめる玲香さんの姿が見えます。
「えっ?」
和志くんは、わたしの後ろを振り向き―――
「母さん・・・母さん!」
和志くんは信じられないような物を見る目でフラフラと玲香さんに近づきます。
しかし、玲香さんの身体を掴もうとした和志くんの手は空を切りました。
『残念だけど・・・私は生きていたって訳じゃないの』
「じゃあ、何で母さんはここに居るんだよ」
『それはね・・・』
玲香さんがその訳を話し始めようとしたその時でした。
『!?』
玲香さんの表情が曇ります。
「な、何だ!?」
和志くんも何かに気が付いたようです。
『あの男・・・最後に全部吹っ飛ばすつもりね』
あの男って・・・わたしが和志くんとはぐれる前に出会ったあの長い髪の男の人でしょうか?
「クソッ!」
和志くんは魔法の呪文を唱え始めます。
『和志・・・あなたはすももちゃんを連れて逃げなさい』
「えっ?」
『さっき、すももちゃんの記憶を見せて貰って分かったわ。あなたが魔法を使えるようになったのは。
けど、和志の実力じゃ、あの男には叶わないわよ』
「あの男って・・・母さん、何か知ってるのか?」
詰め寄る和志くん。
“ゴゴゴゴゴ・・・”
家の振動が大きくなってきました。
『さあ、早く行きなさい!!』
「分かった・・・だけど、母さんも一緒だ」
だけど、その言葉に玲香さんはゆっくり首を振ります。
『私は、この家全体に特殊な魔法陣を掛けて私の意識だけを定着させたの。つまりこの家が私自身・・・
私は逃げることは出来ないわ』
「そんな・・・」
悲しそうな表情を浮かべる和志くんに玲香さんは、諭すような口調で言います。
『和志・・・私はもう死んだ人間よ。今のあなたには私よりも守ってあげなきゃならない女性(ひと)がいるでしょう?』
そう言ってわたしの方を見る玲香さん。
「・・・分かった」
和志くんはそう言ってわたしに近寄ると悲しみを押し殺した声で言いました。
「すもも、逃げるぞ」
「う、うん」
その迫力ある言葉にわたしは思わず頷いていました。
『レイア。2人をお願い』
「分かったわ」
わたし達は部屋のドアに向います。
部屋を出る直前、不意に玲香さんが声を掛けます。
『すももちゃん、和志を・・・和志をよろしくお願いね』
それは、和志くんに幸せになって欲しいという願いが込められた言葉。
「・・・分かりました!!」
だからわたしも精一杯の想いを込めて答えました。
2人の姿が視界から消えた後、私は全力で防御呪文を唱え始める。
彼の魔法を防ぐことは今の私には出来ない。
だったら、私に出来るのはこの家に掛かっている私の意識を残すための魔法を全部防御魔法の構成に変換して、
彼の魔法と相殺させるしかない。
彼の『神の力』を相殺出来るのは、私と鈴莉ちゃん・ゆずはさん達四神の力を継ぐ者達だけだから・・・
唯一、和志が魔法の力に目覚めた時、一緒に『青龍』の力も出始めるから、それを狙って『彼ら』が動き出すのが心配だったんだけど。
和志を救える人物が近くにいたことが幸いだった。
(彼女―――すももちゃんが『あの力』の持ち主だったなんて・・・)
だけど、私はそれともう一つ嬉しいことがあった。
和志が中学に入ったばかりの頃、からかう意味も込めて言ったことがある。
『和志の『お嫁さん』になる人に会うまでは私も死ねないわね』
『じゃあ、後20年は生きてて貰わないとダメだな』
『和志・・・あなた晩婚がいいの?』
『いや、そう言う訳じゃないけど・・・俺はモテないからな』
『お母さん、早く孫の顔が見たいんだけど』
『なっ・・・何言ってんだよ』
『そういう人いないの?』
『居ないよ・・・もし仮に出来たら真っ先に母さんに紹介するから』
『期待してるわよ〜』
(何だかんだ言って、ちゃんといるじゃない?)
彼女が出来たら、真っ先に私に紹介する。
結果的に和志は私との約束を果たしてくれた。
すももちゃんの心を読んだ時に、私はすももちゃんが和志をどう想ってくれているのかが分かった。
(これで、私も安心ね)
それを最後に私は意識を防御魔法に向けた―――。
俺は家を飛び出したのと同時に、慌ててすももの手を引き、なるべく家から離れる。
そして近くの茂みに飛び込み、身を低くすると全力で防御呪文を俺とすももの周りに展開される。
俺が最後に感じたのは―――
膨大な魔力が家に接触した瞬間、弾けたのと、荒れ狂う魔力の余波だった―――
〜第26話に続く〜
こんばんわ〜フォーゲルです。第25話になります〜
今回は視点が、柾影→和志→すもも→玲香と頻繁に変わっているので、読み辛いんじゃないかというのが心配です。
今回は玲香とすももの最初で最後の交流がポイントかなと。
すもも絡みの伏線や、和志の想い、玲香の願いなどには力を入れて書きました。
次回で多分この『海水浴編』(もはやそんなお気楽な展開じゃないが)(汗)は終わりです。
それでは、次回も楽しみにして頂けると嬉しいです。それでは!!
管理人の感想
はい、25話でした〜。
今回は、海水浴編で起こった出来事のまとめって感じでしたね。
おそらく「敵」であるものとの遭遇。すももの過去と能力。七色に光る石。そして玲香の残留意思。
全てが複雑に絡み合い、怒涛の展開に魅せられました^^
次回の海水浴編最終話も楽しみですね。