『解かれた魔法 運命の一日』〜第21話〜
投稿者 フォーゲル
「これで終了っ・・・と」
最後の一文をPCの画面に打ち込んで私は大きく伸びをした。
魔法連盟に提出する論文がようやく仕上がったところだった。
外からは、夏まっさかりを意識させるセミの鳴き声が聞こえて来ている。
“コン・コン”
ドアをノックする音がした。
「御薙鈴莉よ、いるのか?」
「どうぞ、式守さん」
私の声に答えて式守さんが入って来る。
「仕事は終わったのか?」
「ええ、何とかね」
式守さんに座るように促しながら私は麦茶を用意する。
「それで、何か分かったのかしら?」
「ああ、式守家の密偵にいろいろ探らせたのだが、結構興味深いことが分かったのでな」
私が式守さんにお願いして調べてもらったこと、それは、この間のトーナメントで学園に侵入して来た男のことだった。
顔は分からなかったが、使った魔法の構成は分かったので、そこから調べて貰ったのだ。
「名は『風雪(ふうせつ)義人(よしひと)・・・関西の名門魔法一派『風流四家(ふうりゅうしけ)』の一つ、
風雪家の人間だ」
今、日本の魔法界を統括する魔法連盟は東と西に分かれている。
東は式守さんの祖父、護国さんがトップに付いていて、そして西は・・・
「だが、分からないのはそれを監督せねばならない関西の魔法連盟が何の処分もしていないということだ」
式守さんが腕組みをして考える。
彼がしたことは一種の不法侵入だ。
それに周りが気が付かないということは無いだろう。
よっぽどうまくやったのか、あるいは・・・
「組織ぐるみかしら・・・」
「どういうことだ?御薙鈴莉よ」
「彼の『上の人間』が彼に命じてやらせたという可能性よ」
「でも、風流四家の上の人間と言えば・・・」
「関西の魔法連盟のトップ・・・藤林家の誰かという可能性ね」
今現在関西の魔法連盟のトップは藤林 謙三(けんぞう)さん。
つい最近藤林家では問題が起こっているというのを謙三さん本人から聞いたことがある。
その一つが後継者問題。
藤林家では謙三さんと奥様の小百合(さゆり)さんの間には子供が出来なかった。
将来のことを考えて早めに後継者を決めておく必要があった。
そして、謙三さんが後継者に指名したのが・・・
(まさか、血の繋がりの無い渚ちゃんとはね・・・)
当然、反発が起こった。
それはそうだろう。式守さんみたいに分家でも『式守の血』を引いているのならともかく、
藤林家の血を持っていない渚ちゃんにかなりの権力を持っている藤林家の後継者の座を持っていかれたら、
近親者はいい気はしないだろう。
それをよく思わない誰かがやらせたという可能性はあるが・・・
「だが、何のためにだ?私も藤林家の問題は知っているがこちらに手を出したからと言って
向こうの問題に何かの影響を与えるとは思えないのだが・・・」
「・・・」
確かに式守さんの言う通りだ。
それに、あの段階では渚ちゃんはまだ転校もしてきていない。
そんな状況でトラブルを起こしてそれがバレたら処分されて、ますます後継者の座は遠のくだろう。
“コン・コン”
私と式守さんが考え込んでいるとまた、ドアをノックする音が聞こえた。
「失礼します。御薙先生」
「高峰さん?入っていいわよ」
高峰さんがゆっくりと入って来る。
「高峰さん、この間は助かったわ。雄真くん達の魔力の衝突を防いでくれて」
「いえ、そんなことは・・・」
今、あの段階で雄真くんと吾妻くんの魔力が衝突すると反発作用で大変なことになる。
「小雪よ、一体どうしたのだ?」
「実は、海外出張に行っている母様から連絡がありまして、御薙先生にお伝えしておこうと」
「ゆずはから?」
「はい・・・御薙先生と伊吹さんは『ラグナ=ワンド』はご存知ですか?」
「知ってるわ。確か古代に『神々の黄昏』と言われる魔法使い同士の世界最終戦争の引き金になった一本のマジックワンドのことよね?」
頷く高峰さん。
「では、それがいつの間にか無くなっていたというのは?」
「え?でも・・・アレは厳重な警備の元に管理されているはずじゃ・・・」
私の疑問に高峰さんが言葉を続ける。
「それがいつの間にか無くなっていたそうです・・・10年前に」
『!!』
その言葉に私と式守さんは驚きの表情を浮かべる。
「もちろん、那津音様の事件、和志さんの事故と関係あるかどうかは分かりません。
でも、強大な魔力は引かれ合うこともありますから・・・」
高峰さんの言葉を聞きながら私は頭を整理する。
(高峰さんは『無くなった』と言っている。『盗まれた』ではなく)
それに私は自分の考えている魔力に関する自説を考え合わせる。
そうすると、ある一つの考えが成立する。
しかし、『それ』はまだ高峰さんや式守さんの前で話す気は無かった。
それを話すと魔法の概念すら代えかねないものだから―――
結局、その日は高峰さんと式守さんには引き続き情報を集めてもらうことにして解散になった。
“ピーヒャラ、ピーヒャラ・・・”
お囃子の音が聞こえて来ます。
今日は近くの神社で夏祭りが行われてました。
わたしは兄さんや姫ちゃん達と一緒に遊びに行くことにしました。
もっとも、兄さんと姫ちゃんはラブラブなので、早めに2人きりにしてあげることにしました。
それに、わたしは―――
(和志くん・・・いないかな)
わたしが自分自身の気持ちに気づいてから、改めて分かったことがありました。
それは、わたしは常に和志くんのことを目で追っていたということです。
(わたし、和志くんのことを好きなんだ)
わたしは自分の気持ちを改めて実感していました。
この夏休みの間、わたしは和志くんの近くにずっといたいと思っていました。
だけど―――
わたしはそこまで考えて、和志くんの姿を人ごみの中に見つけました。
「かず・・・」
わたしは声を掛けようとして、そこで声が止まりました。
和志くんの隣には―――浴衣姿の渚さんが居ました。
しかも―――手を繋いで。
「だから、姉ちゃん。子供じゃないんだから手なんか繋ぐなって」
「いいじゃない。久しぶりに」
「はぁ・・・しょうがないな」
和志くんはされるがままに渚さんに手を繋がれていました。
渚さんのお姉さんぶりが存分に発揮されているようです。
どうやら、和志くんの方から手を繋いだ訳では無いみたいです。
だけど・・・
“ズキッ”
胸の痛みを感じたわたしはそのままそこに立ち尽くしていました。
(和志くんは・・・やっぱり渚さんのことが好きなんですか?)
そんなことをわたしは和志くんの背中に問い掛けていました。
「・・・も!すもも!!」
ふと、わたしに声を掛けてくる人がいました。
「あ、あれ?伊吹ちゃん?」
そこには浴衣姿の伊吹ちゃんが立っていました。
「全く、どうしたのだ?そんなところに立ち尽くして」
「え、ええっと・・・な、何でも無いですよ?」
「そうか・・・すもも、ちょっとわたしに付き合わぬか?」
「えっ?い、いいですけど・・・」
「そうか。では行くぞ」
伊吹ちゃんはわたしの返事を聞いて歩き出しました。
焼きそば屋さん、わたあめ屋さん・・・
お祭りではお馴染みの屋台が並んでいます。
しかし、わたしにはそれらの食べ物は目に入りませんでした。
頭の中は和志くんと渚さんのツーショット姿が回っています。
2人の姿はとてもお似合いで、わたしが割って入る隙なんか無いように見えました。
(タイミング逃しちゃいましたね)
実は今日出かけてくる前に、お母さんに頼まれたことがありました。
何でも、この間テレビ番組の懸賞に出した『海水浴と温泉旅行』の団体旅行のチケットが当たったそうです。
そこで、姫ちゃん達も誘ってみようという話になって・・・
お母さんはわたしの耳元で囁きます。
『すももちゃん、和志くんを誘いなさい。うまく連れて来たら私がお膳立てしてあげるから♪』
わたしとしては、『何をですか!?』とツッコミたかったです。
その時のわたしの顔は真っ赤になっていたでしょう。
「・・・すもも。大丈夫か?」
気が付くと伊吹ちゃんがわたしに声を掛けていました。
「・・・う、うん!大丈夫ですよ」
だけど、わたしの表情を見た伊吹ちゃんはため息を付きました。
「すもも・・・お主はこのままでよいのか?」
「えっ?」
「吾妻和志と藤林渚のことだ。お主は吾妻和志のことが好きなのだろう?」
「なっ・・・」
伊吹ちゃんの言葉にわたしの顔が真っ赤になるのが自分でも分かりました。
「私だけでは無いぞ、小日向雄真を始め、周りの人間はすももの想いに気が付いておるぞ。
気がついていないのは吾妻和志本人くらいのものでは無いのか?」
笑いながら言う伊吹ちゃん。
わたしは小さく頷きました。
「多分、2人の仲の良さを見て、不安なのだろうが・・・」
伊吹ちゃんは言葉を続けます。
「私の知っている小日向すももという女はそんなにウジウジとしている女では無いぞ。
私を友にしようとした時の行動力はどこへ行ったのだ」
「!!」
(そうだ、友情も恋も決して諦めないこと、まずはアタックしないと何も始まらないです)
伊吹ちゃんの言葉にわたしは胸のつかえが取れていくのを感じていました。
「ありがとう、伊吹ちゃん!」
「頑張るのだぞ!すもも」
伊吹ちゃんの言葉に背中を押され、わたしは和志くんの姿を探し始めました。
(あ、居ました!)
わたしは和志くんと渚さんの姿を見つけました。
「和志くん!渚さん!」
「すももじゃないか。どうしたんだ」
和志くんはそう言いながらわたしに話し掛けます。
「こんばんわ。すももちゃん」
「渚さんも・・・こんばんわ」
「で、すもも、俺達に何の用だ?」
「えっと・・・実はですね」
わたしはお母さんが団体旅行のチケットを当てたこと。そして2人共一緒に行きませんかということを話しました。
「その場所は?」
「えっと・・・ここです」
わたしはお母さんから渡されたその旅行先のパンプレットを2人に見せます。
『・・・』
2人はしばらく黙っていましたが・・・
「・・・ゴメンね。わたしはパス」
そう言ったのは渚さんでした。
(じゃあ、和志くんもパスですかね)
わたしはガッカリしながら、和志くんの言葉を待ちます。
「・・・俺は行ってもいいぞ」
『えっ!?』
わたしと渚さん、2人の驚きの声がハモりました。
「な、何も2人して驚かなくても・・・」
驚きながら言う和志くん。
「分かりました。和志くんは参加予定ですね」
そう言うわたしの声は自分でもハッキリと分かるほど嬉しさに溢れていました。
「ねぇ、カズ君。すももちゃんと一緒にお祭り見てきたら?」
(えっ?)
渚さんの言葉にわたしは心の中で驚きの声を上げました。
「私、ちょっとレイアちゃんと話したいことがあるから」
「分かったよ」
和志くんはそう言ってレイアさんを渚さんに渡します。
「じゃあ、行くか?すもも」
「う、うん・・・」
もちろん、わたしとしては嬉しいのですが・・・
(はぁ・・・やっぱり渚さん、大人ですね。でも!負けません!)
わたしはそんなことを誓っていました。
2人の姿が消えた後、私はそっとレイアちゃんに話し掛ける。
「レイアちゃん。カズ君は『本当のこと』を知っているの?」
「ううん・・・和志は『あのこと』は事故だと思っているはずよ」
「そう・・・」
すももちゃんが誘ってくれた旅行先―――
その近くにあるあの場所は私達姉弟にとっては鬼門とも言える場所。
そこに行くということは―――
(やっぱり、すももちゃんがいるからなの?ねぇ、カズ君・・・)
私は心の中で和志くんにそんなことを問い掛けていた―――
〜第22話に続く〜
こんばんわ〜フォーゲルです。第21話になります。
今回は伏線とすももの嫉妬がメインでした。
前半は渚の転校にもいろいろ事情があるのか?と思わせる展開。
後半は和志と渚の関係にますます焦るすももと、それを見て励ます伊吹という展開にしてみました。
『すももを励ます伊吹』というのは一度書いて見たかったんですよね。
次回は海水浴旅行編です。
それでは、失礼します〜
管理人の感想
今回は色々と驚きの連続でしたね。まさか、渚の義父が関西の魔法使いのトップだとは・・・。
まだ、今回の伏線の話の流れが上手く見えてきませんね。鈴莉は何かに気づいたようですが・・・確信は持てないといったところでしょうか。
そして後半では、ついに自分の想いを自覚したすももが、和志に猛アタック・・・かと思いきや。あれ?和志いねーじゃん(笑)
探し周り、ようやく和志を見つけたすももだが、彼は渚と手を繋ぎながら歩いていて・・・。
伊吹、だいぶ丸くなりましたね。まさか恋のアドバイザーになろうとは(爆)
そして旅行の話。段々と和志たちにも、伏線の話が迫ってきているって感じですねぇ。
ってことで、次回もお楽しみに〜^^