『解かれた魔法 運命の一日』〜第19話〜





                                    投稿者 フォーゲル






  「藤林(ふじばやし)渚(なぎさ)です。よろしくお願いします」
 そう言って皆に挨拶する姉ちゃん。
 あの後、姉ちゃんを泣き止ませてから俺ははすももと一緒に姉ちゃんを連れて校庭で待っているみんなのところに戻って来た。
 待ち合わせの場所には、雄真さん、準さん、柊さんがいた。
 三人共俺の事情説明を聞いた後、姉ちゃんに自己紹介をした。
 それが終わってから姉ちゃんがトントンと俺のヒジを突付く。
 「ねぇ・・・カズ君。八輔君、大丈夫なの?」
 心配そうに煙を上げながらピクピクしているハチ兄を見る。
 「大丈夫じゃないか?準さんに寄るといつものことらしいし」
 もうお約束過ぎて説明する気にもならないのだが・・・
 俺が姉ちゃんを連れて戻って来た時、姉ちゃんに一番最初に気がついたのはハチ兄だった。
 まあ、ハチ兄に取っても従妹みたいなものだから当たり前だが。
 そして例のごとく可愛く成長した姉ちゃんに抱きつこうとして―――

 『何やってんのよ!ハチ!』

 準さんに蹴り倒されたという訳だ。
 (パトリオットミサイルキックなどという名前が付いているらしい)
 「本当に?何か心配だけど・・・」
 そう言って倒れたままのハチ兄を見る姉ちゃん。
 「大丈夫よ〜ハチはあんな程度でどうかなるほどヤワじゃないから」
 姉ちゃんを安心させるように言う準さん。
 「だけど・・・和志くんにお姉さんいるとは聞いていたけど、こんなに可愛い人だなんてね〜」
 笑いながら言う準さん。
 「本当ですよ〜聞いてないですよ」
 準さんの意見に同意するように言うすもも。
 すももと姉ちゃんはここまで来る間に意気投合していた。
 (う〜ん、さすがすもものお友達ゲット能力は流石だ)
 「か、可愛いだなんて・・・」
 2人の言葉に照れる姉ちゃん。
 顔を左右に振りながら、ふと俺の方を見て眉間に皺を寄せる。
 「どうしたんだ?姉ちゃん?」
 「カズ君。ボタン」
 その声に俺は自分のシャツのボタンを見る。
 糸がほつれてボタンが取れかかっていた。
 「もう〜しょうがないなぁ・・・動かないでね」
 姉ちゃんはそう言って俺に近づく。
 (あ・・・)
 いつの間にか針と糸を取り出した姉ちゃんは俺のボタンを手早く直した。
 「・・・これでよし!」
 満足そうな笑みを浮かべる姉ちゃん。
 「あ、ありがとう・・・だけど」
 「何?」
 「は、離れてくれないか?みんな見てるし・・・」
 「別にいいじゃない?」
 (姉ちゃんはよくても俺が恥ずかしいんだって!)
 昔から世話を焼くのが好きなんだからこの人は・・・
 案の定、雄真さんと準さん、柊さんはニヤニヤしながら俺を見ている。もちろん―――
 (?)
 俺はすももも同じような感じで見ていると思っていた。
 すももも俺と姉ちゃんの姿を笑いながら見ていたのだが・・・
 何か笑みの中に違う感情が浮んでいるように見えた。




  「そういえば、渚、アンタも魔法科なの?」
 姉ちゃんが俺から離れた後、話題を振って来たのは柊さんだった。
 「え?ええ、そうですよ」
 姉ちゃんは背中から自分のマジックワンドを取り出す。
 「うわぁ・・・キレイです」
 すももが感嘆の声を上げるのも、無理はない。
 そのマジックワンドは長さは普通なのだが、杖の先に翼みたいな模様が付いていて
 色は無色透明、まるでガラス細工のようなものだった。
 「『スワンウインド』って名前なの。私は『スー君』って呼んでるけどね」
 姉ちゃんはそう言ってワンドに呼びかける。
 「スー君、みんなにご挨拶は?」
 しばらく反応が無かったが、やがて・・・
 『こ、こんにちは。ボク、スワンウインドって言います』
 おずおずとした声が返って来る。
 「ず、ずいぶんと人見知りするワンドなんだな」
 雄真さんがビックリした感じで言う。
 「私が作ったものをベースにしたから、カズ君と同じで私の弟みたいなものかな」
 「和志と同じわりにはずいぶん可愛いワンドじゃない。和志とは違って」
 「柊さん・・・それはどういう意味ですか?」
 「今じゃすっかり生意気な感じになってるってことよ」
 「へぇ〜そうなの?子供の頃は『お姉ちゃん、お姉ちゃん』って私の後を付いて回ってたのに・・・」
 「そうなんですか?興味あります〜」
 「聞きたい?すももちゃん?」
 「はい!聞きたいです」
 そうして姉ちゃんは俺の子供の頃について話し始める。
 俺にとってはある意味拷問みたいな感じだったが・・・
 すももがそれを嬉しそうに聞いているのが、妙に俺の印象に残っていた。


 やっと俺の過去話が終わり、俺は姉ちゃんに疑問を向ける。
 「姉ちゃんはどこの学校に通ってたんだ?」
 「瑞宝(ずいほう)学園よ」
 「ええっ!?」
 その言葉に驚きの声を上げたのは柊さんだった。
 「どうしたんだ?柊?」
 雄真さんの声に柊さんは腕組みして答える。
 「そっか、雄真や和志は魔法習い始めたばっかりだから知らないのね・・・
  瑞宝学園っていったら関西ではトップクラスの魔法科がある学校よ。
 『瑞宝学園の魔法科卒』ってだけで将来安泰って言われてるんだから」
 「へ〜そうなんですか?」
 俺は感心して声を上げる。
 「しかも、『藤林』って言ったらそこの理事長の名前じゃない」
 「ね、姉ちゃんって・・・超お嬢様なのか?」
 思わず姉ちゃんに聞く俺。
 「お、お嬢様って言っても普通の女の子と変わらないよ?」
 (まあ確かに、姉ちゃんは子供の頃と何にも変わってないな・・・)
 「だけど・・・藤林がそんなスゴイ奴なら、柊、お前のナンバー2の座も危ないな」
 「雄真、あたしのことを舐めてる訳?」
 俺達がそんなことを話していると・・・
 「雄真く〜ん!」
 遠くから神坂さんが走ってくるのが見えた。
 「ゴ、ゴメンなさい、みんな待った?」
 「いや、大丈夫だ。ちょっと和志の話で盛り上がってたところだしな」
 「吾妻くんの?」
 と、同時に姉ちゃんのところで視線が止まる。
 「あ、紹介しますね。神坂さん。俺の―――」
 俺がそこまで言った時、声を上げたのは姉ちゃんだった。
 「神坂さん?ひょっとして・・・『神坂春姫』さん?
 「は、はい。そうですけど」
 「うわ〜一度お会いしたかったんです」
 そう言って姉ちゃんは神坂さんの手を取る。
 「?」
 思いっきり神坂さんの顔に疑問が浮ぶ。
 「ね、姉ちゃん?どういうことだ?」
 「カズ君、知らないの?神坂さんって魔法の世界じゃちょっとした有名人なんだよ?
  大魔法使い御薙鈴莉さんの愛弟子で、将来は確実に日本の魔法界を背負って立つって言われているほどだし」
 「そ、そんな・・・私、別にそんな凄くは・・・」
 謙遜して言う神坂さん。
 「それはともかく、私は神坂さんを目標にして魔法を勉強していたって感じもあるから、
  お会いできて嬉しいです」
 神坂さんの手を取りながら言う姉ちゃん。
 そして、俺は忘れていた。
 神坂さんが絶賛されると、プライドを刺激される人物がいることを。
 「ふ、ふ〜ん・・・渚、この学園でスゴイのは春姫だけじゃないのよ」
 そう言って柊さんは、パエリアを取り出し呪文を唱え始める。
 『オン・エルメサス・ルク・ゼオートラス・アルクサス・・・』
 「あ、杏璃ちゃん?そんな魔法をフィールドも無く使ったら・・・」
 神坂さんの忠告も聞かず、呪文を唱え続ける柊さん。
 『・・・ディオーラ・ギガントス・イオラ!!』
 数発の強力な光弾が生まれる。
 「杏璃ちゃん?大丈夫なの?」
 「大丈夫よ。ちょっと地面に穴を開けるだけだから!」
 柊さんがそう言った瞬間―――
 “ヴンッ、ヴンッ”
 柊さんが生み出した光弾が不規則に歪み―――
 四方八方に飛び散った。
 「やっぱりコントロール出来てないじゃない!」
 神坂さんの叫びと共にその光弾が俺達に向ってくる。
 とっさに俺達は防御呪文を唱える。
 “ガシッ”
 俺に誰かがしがみつく感触を感じながら俺は防御魔法を開放した。
 その時姉ちゃんに一発の光弾が向って行くのが見えた。
 「行くわよ。スー君!」
 『分かった、お姉ちゃん!』
 姉ちゃんもワンドを構え―――
 『ウェル・シンティア・ラーク・フォレス・ディ・ダグ・ウェルド!!』
 姉ちゃんの回りに俺の防御魔法に似た構成の防御魔法が展開される。
 だが、その魔法の密度は俺のより更に濃かった。
 それはあっさり柊さんの魔法を掻き消す。
 俺がホッとしたのもつかの間―――
 残った最後の一発が、倒れたハチ兄の方へ飛んで行く。
 (マズイ!!)
 いくらハチ兄が頑丈とはいえ、あの魔法の直撃を喰らったら・・・
 それに気がついたのか、姉ちゃんはまた呪文を唱え始めた。
 『アル・ライルネス・リレート・ディス・シル・トールド!!』
 ハチ兄の前に小さな竜巻が現れる。
 その竜巻が柊さんの最後の光弾を掻き消す。
 その光景を俺は呆然と見ていた。
 姉ちゃんは『自分の防御魔法を展開させたまま、同時に呪文を使った』ということになるのだから―――
 安全を確認して俺達は自分の防御呪文を消す。
 姉ちゃんは俺を見てそして、少し笑った。
 「で、カズ君も小日向君も、一体いつまでそうやってるのかな?」
 「えっ?」
 よく見ると雄真さんには準さんがピッタリとくっついていて、そして―――
 俺にはすももがしっかりとしがみついていたのだ。
 「あ、か、和志くんが近くにいたから・・・」
 そんなことを言いながら俺から離れるすもも。
 そんな様子を俺は戸惑いながら見ていた。






  「だけど、渚ちゃんは私よりスゴイですよ」
 その後、ハチ兄を起こし、柊さんを神坂さんが注意した後、口を開いたのは神坂さんだった。
 「え〜そんなことないですよ」
 「渚ちゃんって変わった体質を持ってるんだね」
 「どういうことですか?」
 俺の疑問を神坂さんが解説し始める。
 「普通、人間は誰でも特定の魔力の波動を持って生まれて来るんだけど、渚ちゃんは波動パターンを
  『2つ』持ってるの。そうだよね?」
 神坂さんの問いに頷く姉ちゃん。
 「それがそんなにスゴイことなのか?」
 雄真さんの問いに神坂さんは言葉を続ける。
 「まず、魔力の波動パターンを2つ持って生まれてくるっていうのがそもそも稀だし・・・
  大抵は、魔力の波動パターンを2つ持ってると、良くて片方にもう片方が同化するか、
  悪ければ、波動パターンが反発し合って魔力が無くなっちゃうこともあるの。
  だから、2つの魔力を持ったまま、しかも全く違う魔法式で魔法を使いこなせる人となると
  かなり数が限られて来るんだよ」
 「でも、それはたまたまそうなったってだけで・・・別に私が何かしたって訳じゃないし」
 「だけど、2つの魔法式を構築するだけでも大変なんだよ」
 「つまり・・・柊の奴はナンバー2から降格ってことか?」
 笑いながら言う雄真さん。
 「う〜〜〜」
 悔しそうに姉ちゃんを見ながら言う柊さん。
 「ふんっ!まあいいわ。この際、渚もあたしのライバルにしてあげるわよ!覚悟しなさい!」
 「よ、よろしくね。柊さん」
 「杏璃でいいわよ」
 「あ、じゃあ私も春姫って呼んでね。渚ちゃん」
 そんなことを話していると―――
 『♪〜♪〜♪』
 神坂さんの携帯が鳴った。
 「姫ちゃん、携帯鳴ってますよ」
 すももの声に答えて神坂さんが携帯に出る。
 『はい、神坂です・・・出張先の仕事は終わったんですか?』
 どうやら電話は御薙先生からのようだった。
 『えっ?転校生がいるか?ひょっとして渚ちゃんのことですか?』
 姉ちゃんのことが話題に出たらしい。
 『はい、はい・・・分かりました。伝えておきます』
 神坂さんが携帯を切って姉ちゃんを見る。
 「渚ちゃん、今日御薙先生戻って来れないみたいだよ」
 「えっ?困ったな〜どうしよう・・・」
 姉ちゃんに寄ると、まだ、魔法科の寮の部屋が開いてないので今日は御薙先生の家に泊めてもらうという話だったらしい。
 魔法科の学年主任ともなるとそういうこともしなければならないのだろう。
 「どうしようかな〜・・・」
 姉ちゃんはそう言って俺を見て―――思いついたように頷いた。
 「ねえ、カズ君。お願い!今日一晩だけでいいから、カズ君の家に泊めて!!」
 「ブッ!!」
 ちなみに俺は人生勉強も兼ねて母さんが瑞穂坂学園に通ってた頃に住んでた家に住んでいる。
 (高校生から家を出て自立するのが吾妻家の家風だったらしい)
 俺は思わず吹き出した。
 「お願い!いいでしょう?姉弟みたいなものなんだし」
 全く、何を言い出すんだこの人は・・・
 俺達はそう思ってても世間はそう見ないだろう・・・
 (ダメに決まってるじゃん・・・)
 俺がそう言おうとしたその瞬間―――


  『ダ・・・ダメです!!』


 俺よりも早くすももが口を開いていた。
 その叫びにも近い言葉に俺は一瞬固まる。
 見ると、雄真さん達もその言葉にあっけに取られていた。
 「す・・・すもも?」
 俺の言葉にすももは我に返ったようでその顔が真っ赤に染まっていく。
 「あ・・・え、えっと・・・や、やっぱり年頃の男の子と女の子が一つ屋根の下って言うのは問題があるというか・・・」
 「・・・まあ、確かにそうよね」
 準さんの言葉に姉ちゃんも頷く。
 結局、姉ちゃんは神坂さんの部屋に泊まるということで確定した。
 余談だが、ハチ兄が『だったら俺の家に・・・』と言ったのだが問答無用で却下されたのは言うまでもない。
 (親いないらしいし・・・)





  「じゃあ、和志くん。また明日ね」
 準さんの声に俺は手を振って答える。
 本当は俺もみんなと一緒に遊びに行く予定だったのだが、姉ちゃんと再会したのでそれは断ったのだ。
 姉ちゃんを連れて行きたい場所があるから―――
 「じゃあ、カズ君。お姉ちゃんをどこに連れて行ってくれるのかな?」
 「・・・姉ちゃんもきっと会いたい人に会える場所だよ」
 そんなことを答えながら、俺は別のことを考えていた。
 (すもも・・・何であんな表情を・・・?)
 別れ際のすももが不安そうな表情をしていたこと―――
 そのことが何故か俺は妙に気になっていた―――





                       〜第20話に続く〜


               こんばんわ〜フォーゲルです。第19話になります。

                    今回は渚の設定公開の話ですね。

            渚のキャラクターが今回の話で分かって貰えたかなと思います。

             そのせいで杏璃が踏み台になってしまったのがアレですが(笑)

           『魔力2つ持ち』という設定は重要なので覚えていてくれると嬉しいなと。

                 そして、すももの叫びももちろん重要ポイントです。

              さすがに周りは気づいただろうと・・・本人達以外は(笑)

      次回はすもも視点が多いかな・・・ってこの時点で次がどういうストーリーかバレバレなような。

                次回も楽しみにして頂けると嬉しいです。それでは!!


管理人の感想

フォーゲルさん、今年お初の投稿ですね^^

ってことで「解かれた魔法」19話の主役は渚さんでした〜。


やはりというか・・・思ったとおり、魔法の実力はかなりのもののようですね。

2つの魔法体質の持ち主・・・それはすなわち、2つの属性の魔法を使えるということでしょうか。

今回は、杏璃の光弾を弾いた密度の高い防御壁と、同じく光弾をかき消した小さな竜巻。

これを同時に使えるというのは、作中にもあるようにとても稀有なことのようですね。

いくらでも応用が効きそうですし。


すももの嫉妬も可愛らしかったです!次回のすもも視点にも期待しましょう!



2007.1.11