『解かれた魔法 運命の一日』〜第15話〜




                                        投稿者 フォーゲル





  頭をバトルモードに切り替えながら、俺は考える。
 信哉さんのマジックワンド『風神雷神』は木刀の形をしている。
 ここまでの信哉さんの試合を見る限り、最初の一振りで決着を付けていた。
 (なら、接近戦を避けて、まずは間合いを・・・)
 俺が悠長にそんなことを考えていた時。
 「はぁぁぁぁ!!」
 雄叫びとともに信哉さんが、あっという間に俺の懐に飛び込む!
 (速い!)
 そのまま『風神雷神』を振り下ろす。
 俺は何とかその一撃から身を交わした。
 だが、信哉さんはその振り下ろした勢いを利用して身を捻り、そのまま俺に二撃目を打つ。
 何とか、レイアで受け止める俺。
 (重い・・・)
 パワーも十分な一撃に俺の身体が後ろに下がる。
 「吾妻殿・・・やるではないか?」
 俺の身体を押しながら言う信哉さん。
 「いえ・・・それほどでも・・・」
 信哉さんのプレッシャーに押されながら、呪文を唱え始める俺。
 『ウェル・シンティア・レイ・フェニス・・・』
 「させぬ!」
 更にプレッシャーを強める信哉さん。
 『リ・バルダス!』
 俺と信哉さんの『間』に小さな魔力の玉が生まれる。
 その魔力の玉が破裂し、俺と信哉さんを吹き飛ばす。
 爆風で間合いが離れたのを利用して、俺は呪文を唱える。
 『・・・ラル・フェステル!』
 俺の周りに生まれた4・5発の魔法弾が信哉さんに向って飛んで行く。
 だが・・・
 「甘い!」
 その言葉と共に信哉さんは、全ての魔法弾を叩き落とす!
 (クソッ!話通りか・・・)
 『風神雷神』には強力なレジスト(抵抗)効果が備わっているというのは師匠から聞いていたが・・・
 しかし、それだと普通に撃ってもことごとく撃墜させられるということになる。
 魔法弾を叩き落とし、再び間合いを詰めようとする信哉さん。
 (とにかく、接近戦に持ち込まれると不利だ!)
 近づいて来る信哉さんに向って俺は再び呪文を唱え始める。
 『ウェル・シンティア・レイ・フェニス・ヴァン・ジ・ラズーガ!』
 呪文と共に俺は、レイアを自分の前の床に向って振る。
 振った前の床が凍り始め、その氷が試合場の床に広がっていく。
 (これでちょっとでも足を止めてくれれば・・・!)
 だが、信哉さんは『風神雷神』を一振りしてあっさりそれを打ち消すと、俺に迫る。
 (防御魔法が間に合わない!)
 信哉さんが振り下ろした、『風神雷神』から生まれた稲妻が俺を捉える。
 「ぐわっ!!」
 倒れた俺は床を転がり何とか、また間合いを取る。
 「どうした?吾妻殿。逃げてるだけでは俺にダメージは与えられんぞ」
 微笑しながら言う信哉さん。
 確かに信哉さんの言う通りだ。
 だが、現状俺は信哉さんにダメージを与えられる方法が無いのは事実だった。
 (正攻法じゃ当てられないのは分かりきってる・・・だとすると不意を付くしかないけど・・・)
 不意を付く・・・信哉さんが予想出来ないような攻撃・・・
 俺がダメージを与えられそうなのは遠距離からの魔法攻撃。それが通じないのは証明済みだ。
 (じゃあ、接近戦・・・いや接近戦の名手である信哉さんにそんなことしたら確実に・・・!)
 その時だった。
 俺の脳裏に『ある戦法』が浮んだ。
 (相当危険だけど・・・試してみる価値はあるか?)
 俺はそう腹を括ると呪文を唱え始めた―――





  「む・・・?」
 俺は警戒態勢を取る。
 目の前の吾妻殿が呪文を唱え始めたのだ。
 「どんな呪文を使うにせよ、叩き落とせばいいだけのこと!」
 俺は再び吾妻殿との間合いを詰める。
 『ウェル・シンティア・レイ・フェニス・シンズ・ミラージェル!』
 吾妻殿の唱えた呪文は俺の予想とは違う効果を発揮した。
 「霧だと?」
 吾妻殿のマジックワンドから生まれた霧―――正確には霧状の魔力が試合場を包む。
 「目くらましか・・・だが!」
 俺は心眼―――心の目も鍛えている。霧で会場を覆って視界を無くしても、魔力の波動を辿れば俺は、吾妻殿がどこにいるのか分かるのだ。
 現に霧の中でハッキリと吾妻殿の魔力を感じ取れる。
 「そこか!」
 俺は吾妻殿の魔力に近づくと『風神雷神』を思いっきり振り下ろす!
 手応えは―――無かった。
 「何っ!」
 俺の目の前で魔力の塊が霧散していくのが分かった。
 (魔力だけをおとりに残したのか!?)
 しかし、では本物の吾妻殿は!?
 俺が慌てて周囲を探った時―――
 『・・・ラル・フェール!』
 吾妻殿の声はかなり近く、それも俺の『下』の方から聞こえて来た―――





  “ドンッ”
 爆発音は俺の耳元で聞こえた。
 見ると、信哉さんの身体が舞い上がり、弾き飛ばされるのが見えた。
 だが、次の瞬間信哉さんは、クルリと身体を一回転させると数メートル後方に着地した。
 (クッ・・・ダメか)
 霧が晴れるなか、俺は信哉さんの姿を確認する。
 信哉さんは、魔法服の一部が煤けている以外にはさしたるダメージを受けていないようだった。
 「やるな・・・吾妻殿」
 信哉さんが感心したような声を上げながら、切れた唇から流れる血を拭う。
 「目くらましの魔法を掛けて、俺の懐に潜り込むとは」
 そう、俺が考えた作戦は、霧の魔法で信哉さんの視覚を奪い、放出した魔力を自分のおとりとして残し、
 信哉さんがその魔力の塊に攻撃した後、懐に潜り込んで至近距離から攻撃魔法を当てるというものだった。
 「しかも、『風神雷神』の間合いの『内側』に入りこむとは・・・」
 『風神雷神』が木刀の形をしている以上、信哉さんが構えた時には『その間の腕の長さ』分の隙間が生まれる。
 その隙間の部分は『風神雷神』でもガードしきれない部分のはず・・・
 俺はそこに潜りこんで、信哉さんの対応が遅れるように下から、ボクシングで言うところのアッパーパンチみたいな感じで魔法を放ったのだ。
 (『超接近戦』で勝負したんだが通じなかったか・・・)
 「では、行くぞ、ここからが本当の勝負だ!」
 信哉さんが再び間合いを詰める。
 俺も気合を入れて信哉さんを迎え撃った。




  しかし、時間が経つに連れ状況は俺に不利になっていった。
 不意をついた一撃で信哉さんを倒せなかった以上、俺に出来ることは信哉さんの攻撃を防ぎ続けることだけだった。
 ときたま、魔法を放つがことごとく信哉さんに撃墜されている。
 試合場には、撃墜された魔力の余波で出来た穴が出来ていた。
 (どうする?どうすればいい?)
 信哉さんの斬撃をあるいは防御呪文で防ぎ、あるいは身を交わしながら俺は考えていた。
 (風神雷神の特性も分かったのに・・・)
 どうも攻撃の時は『雷神の太刀』で、こっちの呪文を撃墜するときは『風神の太刀』という風に信哉さんは使い分けているようだった。
 (ということは、攻撃している時はこっちの呪文をレジスト出来ないってことだよな・・・)
 その時、俺の目に魔力の余波で出来た小さな穴が目に入った。
 (・・・)
 俺は『あること』を思いつき、それを実行に移すことにした。
 (これでもダメなら俺は勝てない・・・頼む、通じてくれ!)
 信哉さんの斬撃を交わしながら、俺はバランスを崩してしまった。
 「しまっ・・」
 「貰った!」
 信哉さんは『風神雷神』を俺の身体に叩きつける。
 “ミシッ”
 当たった鎖骨のあたりから嫌な音がする。
 そして、『雷神』の電撃が俺の身体を流れる!
 信哉さんが一瞬勝ちを確信した笑みを浮かべる。
 (今だ!)
 俺は電撃が流れる『風神雷神』を右手で掴んだ。
 「何っ!」
 『・・・ジ・ラルーゼ!』
 俺の手から生まれた氷がそのまま『風神雷神』ごと氷付けにしていく。
 慌てて『風神雷神』から手を放す信哉さん。
 そこに―――
 『ウェル・シンティア・レイ・フェニス・ラル・フェール!』
 一つだけ生み出された魔力弾が、防御する手段の無い信哉さんに当たる!
 「ぐおおおおっ!!」
 信哉さんはマトモに魔法弾を喰らいながらも、懸命に堪える。
 身体がグングン押されていってやがて―――止まった。
 信哉さんは、倒れなかった。
 (クソッ・・・ダメだ。もう手段が・・・)
 俺は思わず膝を付く。
 「そこまで!」
 審判の御薙先生が試合を止めた。
 (俺の負けか・・・)
 だが、次に聞こえて来たのは意外な言葉だった。
 「勝者、吾妻和志君!」
 “オオオオッ!!”
 体育館中からどよめきの声が上がる。
 (えっ!!)
 俺は思わず信哉さんを見る。
 信哉さんは納得した表情を浮かべていた。
 そして、その足元は、片足がフィールドの外、つまり場外に出ていた―――




  「和志くん!」
 試合終了の挨拶をした後、試合場を降りた俺に最初に話し掛けて来たのは、すももだった。
 てっきり試合に勝ったことを祝福してくれるのかと思ったら・・・
 「大丈夫ですか?ケガとかしてないですか?」
 すももは俺の身体のことを心配していた。
 「あ、ああ・・・大丈夫だ。心配してくれたのか?」
 「当たり前です!ムチャしすぎですよ!」
 ま、まあ確かに信哉さんの懐に飛び込んだり、自分の身体に攻撃させたりしたしな・・・
 「そうだな・・・私もあんな勝ち方は認めぬぞ」
 いつのまにか近くに来ていた師匠も俺にダメ出しをした。
 「今回は『試合』だったからいいようなものの、『実戦』だったら信哉に一撃貰った時点で終わっておったぞ」
 「うっ・・・確かに」
 「そもそも、隙が多すぎるのだ。だいたい・・・」
 師匠のお説教が始まりそうになったその時。
 「吾妻殿・・・俺の負けだ」
 反対側から信哉さんがやって来て、俺に声を掛ける。
 隣には試合を見ていたのか沙耶さんも一緒だった。
 「吾妻様・・・大丈夫ですか?」
 沙耶さんが俺の右手を見ながら心配そうに言う。
 右手は『風神雷神』ごと氷付けにしたせいで少し凍傷気味だった。
 「むっ・・・沙耶、頼む」
 「分かりました、兄様」
 信哉さんの言葉に沙耶さんは、俺の手を取ると呪文を唱え始める。
 『前奏曲幻夜・癒しの清流・・・』
 沙耶さんの言葉と共に、俺の右手が温かくなる。
 じんわりと凍傷が回復していくのが分かった。
 「ところで吾妻殿・・・一つ聞きたいことがあるのだが?」
 信哉さんが口を開いたのはその時だった。
 「何ですか?」
 「最後のあの時、何故俺の雷神の攻撃が効かなかったのだ?」
 「ああ、そのことですか?」
 俺は、ゆっくりと答え始める。
 「それは、こいつのお陰です」
 そう言って傍らに置いてあったレイアを掴む。
 「雷撃を喰らった瞬間に、レイアを試合場に出来た穴に突き刺したんです」
 電撃である以上、自然の雷と同じ動きをするんじゃないかと思ったのだ。
 その予想通り、電撃は全て俺の身体を通った後、レイアを流れて、地面に流れた。
 「レイアさんをアース代わりにしたってことですか?」
 すももの言葉に俺はコクリと頷く。
 『おかげで私は未だに痺れてるんだけど・・・』
 黙っていたレイアが文句を言う。
 「しょうがないだろ・・・信哉さんに勝つためにはそれしか思いつかなかったんだから」
 「なるほど・・・そういうことなのだな」
 納得したように言う信哉さん。
 「まあ、もしあの時信哉さんが『風神』の方で攻撃してきたら、俺が負けてましたけどね。実力差はありましたから」
 「いや、そういう状況に持っていかされた時点で、吾妻殿の実力はかなりあるのでは無いか?
  俺もますます、精進せねばならぬな」
 信哉さんが自分を戒めるように言う。
 その時、俺の手を覆っていた光が消えた。
 沙耶さんが魔法を掛け終わったのだ。
 「これで大丈夫ですね」
 俺の手の凍傷は完全に回復していた。
 「あ、ありがとうございます」
 「では、俺達はこれで。吾妻殿」
 信哉さんは俺の目を見て言う。
 「俺に勝ったのだからこの大会、是非優勝して欲しい」
 「・・・分かりました」
 俺の返事を聞いた信哉さんは、微笑を浮かべると沙耶さんと共に去っていった。




  (とは言ったものの・・・)
 俺は一人観客席に座りで考え込んでいた。
 会場は決勝戦使用の強力なフィールドを貼り直している最中だった。
 ちなみに女子の部決勝は神坂さんvs柊さんというライバル同士(柊さん曰く)の対決になった。
 その後、俺は準決勝も何とか突破し、決勝戦にコマを進めた。
 だが、信哉さんとの試合で体力と魔力を消耗していた俺は、ギリギリの状態だった。
 当初の目的―――『姉ちゃんを見つけるためにベスト4以上』という目的は達成したのでテンションが上がって来ないし。
 しかも、その上―――
 「和志くん・・・大丈夫ですか?」
 心配したのかすももが俺の隣に座る。
 「ああ・・・大丈夫だ。決勝まで来たからには優勝したいしな」
 「わたしとしては、複雑です」
 すももが気乗りしない感じで話す。
 「和志くんと兄さんが戦うなんて・・・」
 そう、男子の部決勝は俺と雄真さんという組み合わせになったのだ。
 「しかも、兄さんはやる気マンマンでしたし・・・」
 (すもも・・・それは『殺(や)る気マンマン』ってことなんじゃ・・・)
 誤解とはいえ、すももとの関係で雄真さんを怒らせてるのは事実だし。
 俺の背中を冷や汗が流れる。
 「和志くん?どうかしたんですか?」
 黙った俺にすももが聞いて来る。
 「いや・・・俺としては目的達成したし、優勝したいっていう他にもモチベーションを上げる何かがあるといいんだけど」
 「・・・」
 俺の言葉に黙ったすももはしばらくして口を開いた。
 「じゃあ・・・もし兄さんに勝ったら、わたしから何か『ご褒美』あげるってことでどうですか?」
 「えっ?」
 意外なすももの言葉に思わず聞き返す俺。
 「・・・それとも、わたしなんかの『ご褒美』じゃダメ・・・ですか?」
 「い、いやそんなことは無いぞ」
 動揺しながら答える俺。
 「そうですか?じゃあそれで行きましょう!」
 笑いながら言うすもも。
 その頬が少し赤くなっていること。
 そして、その『ご褒美』に少し期待している自分がいた――――





                        〜第16話に続く〜


                 こんばんわ〜フォーゲルです。第15話になります〜

                今回は信哉とのバトルをメインに決勝への前フリへの話です。
 
            実は私SS書いて来てバトルシーン書いたのって今回が初めてなんです。

                 読んでる皆さんが手に汗握ってくれたら、嬉しいなと。

             『風神雷神』の設定が微妙に変わってますが、気にしないで下さい(爆)

           和志の魔法は今回出てきたのが、基本の魔法だと思って下さい。(防御魔法もありますが)

             次回は雄真との決勝戦。和志の魔法の謎に迫る部分も出てくる予定です。

           すももの『ご褒美』期待効果で和志がどこまで雄真と戦えるかに注目して下さい。

                       それでは、失礼します〜


管理人の感想

今回は予定を変更して、D.C.の「桜がもたらす再会と出会い」の方ではなく、「解かれた魔法」の15話を掲載いたしました〜。

和志と信哉の、手に汗握る魔法戦。まともな戦闘描写はこれが初めてとのことですが、正直レベルはかなり高かったと思います。

しかし本当に信哉に勝ってしまうとは・・・和志の実力も相当なものですね。

使える魔法は、攻撃魔法(魔力弾)、防御魔法、そして冷却魔法といったところでしょうか。

地力では確かに少し劣っていたかもしれませんが、魔法に関する閃きは天性のものを感じさせますね。


さて、とうとう次回は雄真との決勝戦。雄真も張り切ってるんだろうなぁ(笑)

和志の魔法に関する謎も露呈するとのことなので、非常に楽しみです!



2007.11.19