『解かれた魔法 運命の一日』〜第12話〜






                                   投稿者 フォーゲル







  「ただいま〜〜!!」
 玄関にすももの元気な声が響く。
 だが、その声に答える返事は無かった。
 「あれ〜?お母さんも帰って来てないですね・・・」
 すももは小首を傾げながら、俺を振り返っていった。
 「和志くん?遠慮しないで上がっていいですよ?」
 「じ、じゃあ・・・おじゃまします」
 俺は少し緊張しながら、小日向家に上がらせて貰う。
 「わたしは着替えて来ますから、ゆっくりしてていいですよ」
 リビングに俺を案内した後、すももはそう言って自分の部屋に戻って行った。
 とりあえず、ソファーに座った俺だったが・・・
 (何か・・・落ち着かないな・・・)
 よく考えたら、母さんの看病してたからあんまり友達の家に遊びに行ったことって無いからな。
 しかも、女の子の家に・・・
 (って部屋に入ってる訳でもないのに何緊張してるんだ?俺?)
 思わずブンブンと自分の頭を振る。
 「どうしたんですか?和志くん?」
 着替え終わって予告通りに教科書などを持って来たすももが不思議そうに俺を見ていた。
 「な、何でもない。それより俺の勉強見てくれるんだろ?」
 俺もカバンからノートなどを取ろうとする。
 だが、すももは俺の顔をじっと見てから口を開いた。
 「と、思ったんですけど・・・それより前にやらなきゃいけないことがあるみたいですね」
 ニコッと笑いながらそんなことを言うすもも。
 「?」
 俺が疑問に思いながら見ていると・・・
 「ちょっと待っててくださいね」
 そう言ってすももは、何かを取りに行った。
 




  「ほら〜和志くん?あんまり動かないで下さい」
 わたしはそんなことを言いながら、和志くんに近寄ります。
 「そ、そんなこと言われても・・・やるならもうちょっと優しく・・・イタッ!」
 「傷に染みるのはしょうがないじゃないですか〜〜男の子なんだから我慢して下さい」
 伊吹ちゃんとの特訓で和志くんの顔に出来た傷が気になったわたしは救急箱を持ってきて、傷の治療をすることにしました。
 「はい、これで終わりです」
 最後にバンソーコーを貼ってわたしは和志くんに言います。
 「あ、ありがとう」
 「だけど・・・和志くん。何でそんなケガしそうな傷を作りながら、伊吹ちゃんに教えて貰ってるんですか?」
 わたしは抱いていた疑問を和志くんにぶつけます。
 別にトーナメントに参加しなくても、魔法科の昇格試験は他にもあるはずですし、
 何よりも、そんなに急いで魔法の実力を身に付けなくてもとわたしは思っていました。
 「・・・」
 わたしの問いに和志くんはしばらく黙った後、口を開きました。
 「・・・誰かを守れるだけの力が欲しいから・・・かな?」
 和志くんは寂しそうな顔をして言葉を続けます。
 「俺の家族が何者かに襲われたってのは知ってるよな?」
 わたしは頷きます。
 「俺は、家族を守れなかった。そのことをずっと後悔しながら生きてきた。
  あの時に、魔法が使えれば家族を助けられたかも知れないのにってな」
 「でも、それは和志くんが悪い訳じゃ・・・それに子供の頃の話だし」
 わたしはそう反論します。
 だけど、わたしの言葉を遮るように和志くんは言葉を続けます。
 「でも、今は違う。今の俺には誰かを守れるだけの力がある。
  だったらその力をキチンと使いこなしたいって思うのは当然だろ?」
 和志くんはそこで言葉を切ってさらに続けます。
 「それに、ここに来てから俺は本当に充実した毎日を送ってる。今までの生活がウソみたいにな」
 それはわたしも感じていました。
 初めて会った時に比べると和志くんは本当にいい表情をしていることが多くなりました。
 「雄真さんに、神坂さん、師匠に柊さんに小雪さん、準さんやハチ兄・・・みんないい人達だ。
  俺のことを『友達だ』って言って可愛がってくれる。そんな人達を俺の力で守れるのなら守りたい・・・俺はそう思う」
 和志くんの言葉には強い決意がこもっていました。
 そして、わたしの方を見て言います。
 「もちろん、すもも・・・お前のことも俺は全力で守ってやりたいと思ってる」
 「えっ・・・」
 和志くんの言葉にわたしは自分の顔が赤くなるのを感じました。
 それと同時にわたしは『あの時』のことを思い出していました。
 『あの時』―――アンティークショップの前でわたしが泣いてしまって、和志くんに抱きしめられた時のことです。
 抱きしめられた和志くんの胸の中は―――暖かくて、とても安心できた―――
 わたしがそんなことを思い出した、その時です。
 “トクン”
 不意にわたしの心臓が跳ね上がったように感じました。
 (えっ・・・)
 わたしがそのことに驚いていると・・・
 「すもも?どうしたんだ?」
 「〜〜〜!!」
 いきなりわたしが黙ってしまったことに疑問を持った和志くんがわたしの顔を覗き込むように見てきます。
 “トクン・トクン・トクン・・・”
 それに合わせるようにわたしの心臓の鼓動が早くなります。
 気が付くと外で降っているはずの雨の音も私の耳には聞こえなくなっていました。
 まるで、この世界にわたしと和志くんの2人だけしかいない様な感覚に―――
 そして、わたしの心臓の音が和志くんに聞こえちゃうんじゃないか―――そんなことをわたしは考えていました。
 「そうよ〜すももちゃん。そこでゆっくりと目を閉じるの。キスしやすいようにね〜〜〜」
 わたしを現実に引き戻したのはどこかで聞いたことがあるそんな声でした。
 「お、お母さん!?」
 「音羽さん!?」
 わたし達は思わず座っていたソファーの左と右に離れます。
 「別にいいのよ♪2人とも〜私に遠慮しないで続けて続けて♪」
 いつ帰って来ていたのかお母さんが笑顔を浮かべながら立っていました。
 「完全に2人だけの世界に入ってたからどうしようかな〜と思ったんだけど」
 「あ、あの〜音羽さん?ちなみにいつから見てました?」
 和志くんがおそるおそるという感じでお母さんに聞きます。
 「和志くんがカッコ良く『すもも・・・お前のことも俺は全力で守ってやりたいと思ってる』ってあたりからよ♪」
 自分の言葉に照れたのか和志くんの顔が真っ赤になります。
 「だけど、すももちゃんがプロポーズされるなんて・・・お母さん嬉しいわ〜〜〜」
 「プ、プロ・・・」
 和志くんが思わず黙り込んでしまいます。
 「ほ、ほら、お母さん!和志くんが困ってるじゃないですか!!」
 わたしは思わず和志くんに助け舟を出します。
 「あら〜そういうすももちゃんも内心は嬉しいくせに〜〜〜」
 お母さんの言葉にわたしも思わず黙り込んでしまいました。
 「うんうん♪じゃあ2人のために私はもう2時間ほど出かけてくるわね♪」
 『別にいいです!!』
 わたしと和志くんは全く同じ言葉をお母さんに返していました。





 (何か・・・妙なことになってきたな)
 俺はそんなことを考えながらため息を付いた。
 目の前のベッドを見ながら俺は何故こんな展開になったのかを思い出していた。
 


  「音羽さん。全部終わりました」
 「ありがとう〜!やっぱり男の子ってこういう時には頼りになるわね〜」
 すももお手製の晩御飯をご馳走になった後、俺はしばらくゆっくりしていたのだが、
 ふと、音羽さんが電球を持って困っている姿が目に入った。
 聞いてみると、切れた電球の交換をしようとしたらしいのだが脚立を使っても届かないらしい。
 そこで俺は晩御飯ご馳走になったお礼として、やってあげることにしたのだ。
 「本当は雄真くんにやってもらおうかと思ってたんだけど・・・助かったわ〜」
 「いえいえ、これくらいのことは・・・」
 俺はそう言って自分の腕時計を見る。
 「もう10時か・・・そろそろ帰りますね」
 あんまり長居するのも迷惑だろうと思った俺は帰り仕度を始めることにした。
 だが、俺の言葉に音羽さんが異論を挟む。
 「え〜!!和志くん。帰っちゃうの?」
 「帰っちゃうのって・・・さすがにこんな時間ですし・・・」
 俺の言葉を遮るように音羽さんが言葉を続ける。
 「ふ〜ん。和志くんはか弱い乙女を2人だけにして帰っちゃうんだ〜〜〜」
 (『か弱い』ってところは百歩譲って認めても、すももはともかく音羽さんは『乙女』って年じゃ・・・)
 「和志く〜ん!?何か言いたそうね・・・」
 心の中のツッコミを読んだかのように音羽さんは怒りが篭った声を上げる。
 「い、いえ!!何でも無いです!!・・・だいたいすももが何て言うか・・・」
 さすがに雄真さん以外の男と一つ屋根の下ってのは問題あるだろう。
 「さっき聞いたんだけどね。すももちゃんもOKだって。むしろ泊まって欲しいって言ってたわよ」
 「そ、そうなんですか?」
 (そ、それはどういう意味なんだ?)
 思わず動揺する俺。
 「あら〜和志くん?何を考えてるのかな〜!?」
 「な、何も考えてないです!」
 「ふふっ・・・本当に可愛いわね〜和志くん」
 音羽さんのからかうような声が響いた。





  (良く考えたら、すもももそんな深い意味まで考えてないんだろうな)
 結局、音羽さんの勢いに押し切られ、俺は小日向家に泊まることにした。
 (あ〜しかし、何か今日は音羽さんのペースにすっかり巻き込まれてるな・・・俺)
 腕時計を見るともう日付が変わりそうだった。
 (もう、寝るか・・・明日は早起きしないといけないし)
 というか、早起きしてとっとと出ないと万が一雄真さんと鉢合わせしたりしたら・・・
 俺は背中が寒くなるような感覚を覚えた。
 ちなみに俺が案内された部屋は現在海外に長期出張に行っているというすもものお父さんの部屋。
 シングルのベットと本棚があってちょっとした書斎のような感じだ。
 ふと、その部屋から窓の外を見る。
 いつの間にか降っていた雨は上がって、星空が広がっていた。
 (そういえば・・・)
 俺があることを思い出そうとしたその時―――
 “コン、コン”
 ドアをノックする音が聞こえた。
 「・・・和志くん?まだ起きてるんですか?」
 「ああ、どうしたんだ。すもも」
 俺はそんなことを言いながら俺はドアを開ける。
 可愛らしいアップリケが施された白いパジャマに身を包み、両手にマグカップを持ったすももがそこに立っていた。
 ・・・ちょっと可愛いと思ったのは内緒だ。
 「寝れないのかなと思って、ホットミルク持って来たんですけど・・・飲みますか?」
 「ああ、貰おうかな」
 俺はすももを部屋の中に招き入れる。
 ベットに腰掛けたすももは俺にカップを渡す。
 そのカップの中のミルクを飲みながら、俺はすももの隣に座る。
 「あ、そうだ、すもも・・・今日はありがとうな」
 「えっ?」
 いきなりお礼の言葉を言った俺に驚いたような顔をするすもも。
 「いや、今日、晩御飯に招待してくれて。あんなに楽しい晩御飯は久々だったしな」
 よく考えたら、あの事故で父さんが死に、姉ちゃんと離れ離れになってからは、
 基本的に、食事、特に夕食は一人で食べてることが多かった。
 母さんは入院していることが多かったし。
 「寂しかったら、いつでも来ていいですよ。わたしもお母さんも、兄さんも歓迎しますから」
 「いや、雄真さんはどうだろう・・・」
 そんな話をしながら、俺はまた窓の外の星空を見た。
 「どうしたんですか?和志くん?」
 俺の視線に気が付いたすももが不思議そうに聞いてくる。
 「あ、いや・・・姉ちゃんもこういう星空が好きだったなって・・・」
 「離れ離れになったっていう渚さんっていうお姉さんですか?・・・確かわたしと兄さんのように血が繋がってないって・・・」
 「そうだけど・・・でも本当の姉弟みたいに育ったぞ」
 そして、俺はすももに姉ちゃんの思い出を話した。
 それを聞き終わったすももはおもむろに口を開いた。
 「・・・和志くんは、お姉さんのことが・・・好き・・・なんですか?」
 「まあな。嫌いだったら、わざわざトーナメントに出てまで探そうとは思わないだろうし」
 今回のトーナメントはベスト4に残れば、全国の魔法科のある学校に結果が配信される。
 母さんが少しだけ俺に話してくれたことによると、姉ちゃんは『魔法の才能』を買われて養子として引き取られたらしい。
 最も、最大の理由はその引取り先が一番姉ちゃんを可愛がってくれそうだったからと母さんは言っていたが。
 「姉ちゃんも魔法使いを目指している可能性はあるからやってみる可能性はあるんじゃないかと思ってな」
 「そうですか・・・」
 すももは何ともいえない複雑な表情を浮かべていた。
 「・・・ってこんなことを言ってると雄真さんと同じ『シスコン』のレッテルを貼られるか?」
 「えっ?」
 すももが驚いたような表情をする。
 「確かに、姉ちゃんには幸せになってて欲しいと思うのは当然だと思うんだけどな」
 「そ、そうですよね〜?『弟』なら当たり前ですよ」
 すももの表情が多少明るくなったような気がした。
 「ただ、姉ちゃんは確実に『ブラコン』だったなぁ・・・」
 「どういうことですか?」
 「いや、常に俺の世話を焼こうとするんだよ。俺はいいって言ってるのに・・・
  しかも、俺が女の子と遊んでると、一緒に遊ぼうとするんだよな。何か知らないけど・・・」
 俺はそう言うと苦笑を浮かべる。
 「・・・」
 だが、すももは俺の言葉を聞くと考え込むような表情をする。
 「すもも?」
 「あっ?い、いいえ。何でもないですよ〜」
 だが、すももの顔が何かを確信したような表情になったのは分かった―――






  トーナメントの開催を明日に控えて、闇に沈む瑞穂坂学園。
 その校門の前に2人の人物が立っていた。
 一人は褐色の肌をした青年の男。もう一人はメガネを掛けたプラチナブロンドの美女。
 「おい。本当にこのへんなんだろうな」
 「間違いないわ。2ヶ月程前に膨大な、そして『あの力』に酷似した魔力反応が観測されたわ」
 「しかし、『あの方』の指示とはいえ、本当に存在するのか?そんな『神の力』とやらが」
 「あら?その『力』の存在はあなた自身がよく知っていると思うけど」
 彼女はそう言うと、青年の持っている槍の形をしている杖―――マジックワンドに目をやる。
 「まあな。で、俺達は何をすればいいんだ?」
 「まずは、明日、ここで行われるトーナメント出場者をチェックすることね。いたらしばらくは泳がせるってことで」
 「分かったよ。他の『神の力』の継承者もいるんだろ?」
 「そっちは、スキを見てってことで・・・まあ、スキなんか出してくれないでしょうけど」
 「分かったよ・・・じゃあ今日はひとまず撤退ってことだな」
 「ええ。そうね。お願い。」
 「しょうがねぇな・・・」
 青年はマジックワンドを降る。それと同時に青年と美女の姿も虚空に消えた―――






                         〜第13話に続く〜



                  こんばんわ〜フォーゲルです。第12話になります〜

            気が付くと、小日向家『ご招待編』じゃなくて『お泊り編』になってる(笑)

               前半は前回の後半に続き、ほのラブ編が続いてます(爆)

            和志・・・音羽の指摘を待つまでもなく、それは8割方プロポーズだぞ(笑)

               後半は、和志の口から語られるトーナメント参戦の理由。

            そして、渚の存在を気にし始めるすももなどに注目してもらえると嬉しいです。

                動き始める謎の人物達も含めてこれから楽しみにして下さいね。

                         それでは、失礼します〜


管理人の感想

今回の話のサブタイトルは、「音羽さん大爆発」で決まりでしょう!(爆)

いや、本当に絶好調でしたね。でも彼女のお陰で、和志とすももの距離も一層縮まったのではないでしょうか。

・・・しかしあの言葉はホント、プロポーズもどきですよねぇ。それを自覚していなかった和志はやはり天然なのか。

そしてその言葉に胸を高鳴らせるすもも。あっ、攻略フラグが立った(笑)

もう意識しまくりですね。最後の渚の話が出てきた場面でも、軽く嫉妬しているようですし。
次回はいよいよトーナメント当日。学校の前にいた怪しげな二人組みの動向が気になりつつ、今日はこの辺で^^



2007.10.13