『解かれた魔法 運命の一日』〜第11話〜







                                    投稿者 フォーゲル







 (これだけあれば足りますよね)
 わたしは、チラリと手に持ったバスケットの中身を見ます。
 中には大量のサンドイッチが入っていました。
 (だけど・・・和志くん、大丈夫なのかな?)
 和志くんが伊吹ちゃんのお弟子さんになってから、もう2週間が経ちます。
 最初の内は元気があった和志くんでしたが、だんだん身体には生傷が増えていって、それに合わせるように
 和志くんは疲れていっているみたいでした。
 (昨日なんかほとんど伊吹ちゃんに引きずられるようにして教室出て行ったし・・・)
 魔法科のトーナメント、そしてイベントは明日に迫っていました。
 今日はそのイベント前の休日です。
 最も、和志くんと伊吹ちゃんは前日まで修行しているみたいでした。
 そこでわたしは、頑張っている和志くんと伊吹ちゃんに差し入れでも持っていってあげようと、
 こうして伊吹ちゃんの家に向っていました。
 「すももちゃ〜ん!!」
 不意にわたしを呼ぶ声がしました。
 声がした方を見ると、準さんとハチさんがいました。
 「すももちゃん、今日も可愛いね〜」
 「ハチ、雄真がそばにいないからって会うなりすももちゃんを口説かないの」
 「準、これは天が俺にくれた大チャンスなんだから邪魔をするな」
 「ゴマ粒くらいの可能性だと思うけどね・・・ところですももちゃんはどこか行くの?」
 わたしが持っているバスケットに目を止めた準さんが聞いてきます。
 「あ、はい。実はですね・・・」
 私は2人にザッと事情を説明しました。
 「伊吹ちゃんの家か〜ちょっと興味あるかも」
 「良かったら一緒に行きますか?ハチさんも」
 「伊吹ちゃんの家?行く行く!!絶対に行く」
 「でも、大丈夫なの?私達も押しかけたりして?」
 「大丈夫だと思いますよ〜和志くんと伊吹ちゃんの修行のジャマさえしなければ」
 「ぬわぁに〜〜〜!!」
 わたしの言葉に反応したのはハチさんでした。
 「すももちゃん!それは和志と伊吹ちゃんが『2人きり』で修行しているってことか?」
 「えっ?た、多分そうだと思いますけど」
 「ぬぉぉぉ!!こうしちゃいられん!伊吹ちゃんが和志の毒牙にかかる前に何とかしなければ!伊吹ちゃん、待ってろよ〜〜〜!!」
 「あ、コラ!!ハチ!待ちなさい。アンタ伊吹ちゃんの家がどこにあるのか知らないでしょう!」
 準さんの声も聞こえないのか、ハチさんはどこかに走っていってしまいました。
 「毒牙って・・・ハチじゃあるまいし、和志くんがそんなことする訳ないでしょうが」
 呆れた声で呟く準さん。
 「そうですよね〜和志くんはそんな人じゃないですよ」
 何気なく言ったわたしの言葉を聞きながら、不意に準さんが意外なことを口にします。
 「だけど、すももちゃん・・・ハチの言葉じゃないけど、最近可愛くなったわね〜〜〜」
 「えっ?な、何言ってるんですか?準さん。冗談はやめて下さいよ〜」
 「ううん。雄真が春姫ちゃんと恋人になったあたりに比べると全然違うわよ」
 そう言って準さんはわたしに聞いて来ました。
 「ズバリ!!すももちゃんは今、誰か気になってる人がいるでしょ!!」
 「そ、そんな〜・・・別にわたしは気になってる人なんて・・・」
 そう言葉を続けようとしたその時でした。
 (・・・和志くん?)
 わたしの脳裏に何故か和志くんの顔が思い浮かびました。
 (な、なんでここで和志くんの顔が?)
 動揺して言葉が出ないわたしを見ながら準さんが呟きます。
 「そういう反応をするってことは・・・やっぱりいるのね〜すももちゃん。それも雄真以外で」
 「べ、別にいいじゃないですか〜〜さ、さあ、ハチさん探して早く行きましょう!」
 わたしは強引にその話題を終わりにしました。




  「お待ちしておりました。すもも様」
 わたし達3人が伊吹ちゃんの家に着くと沙耶さんが待っていてくれました。
 「沙耶ちゃん、私達も一緒なんだけど、いいかしら?」
 「渡良瀬様と高溝様ですね。大丈夫ですよ。伊吹様も歓迎されると思います」
 わたし達は沙耶さんの後に着いて歩いて行きます。
 「う〜ん、やっぱり伊吹ちゃんの家って超セレブなのね〜」
 「沙耶ちゃん。俺達この格好でつまみ出されたりしないのか?」
 準さんとハチさんはそんなことを言います。
 お2人がそう言うのも無理ありません。
 伊吹ちゃんの家は、庭だけでわたしの家が2・3個入っちゃうんじゃないかというほどの広さでした。
 「大丈夫ですよ。伊吹様のご友人なのですから」
 ハチさんを安心させるように言う沙耶さん。
 「ところで沙耶さん・・・和志くん達の特訓の様子はどうですか?」
 「そうですね・・・私もお手伝いさせて貰った時の様子だけで、判断させて頂きますと
  吾妻様は魔法を習い始めたばかりにしては、伊吹様に良く付いて行ってると思いますよ」
 「そうなんですか。怪我とかしてませんか?」
 「そんなに大きなものは・・・伊吹様も加減はしておりますし」
 「沙耶ちゃんが手伝ってるってことは・・・信哉もか?」
 疑問に思ったのかハチさんが質問します。
 「いえ・・・兄様は別の場所で修行しております。『好敵手に手の内は見せられない』と言いまして」
 「じゃあ、信哉の奴も?」
 「はい。その試験に参加されるようです」
 「あら〜信哉くんが出るんじゃ雄真も和志くんも大変ね」
 準さんが同情したような口調で言います。
 「兄様は試験が目的と言うよりは、謹慎処分中も修行をしておりましたので・・・
  その成果を確かめるためだと思いますが・・・到着しましたよ」
 そう言って沙耶さんが足を止めたのは、小高い丘の上。
 その丘の上から下を見ると―――
 和志くんと伊吹ちゃんが戦っていました。




  『・・・ラ・ディーエ!!』
 師匠の言葉に答えて上空の魔法陣が光輝く。
 無数の魔法の矢が俺に向って降り注ぐ!!
 『和志!!』
 「分かってる!!」
 レイアの声に答えるまでも無く、俺は呪文を唱え始めた。
 『ウェル・シンティア・レイ・フェニス・ダグ・ウェルド!!』
 【キィン!!】
 俺の声に答えて、氷状の鎖のようなものが俺の周りを回転する。
 それは師匠の魔法の矢を防ぎきる!!
 『甘い!!』
 防御魔法が消えたのを見計らったように、新たな魔法反応が生まれる。
 呪文を唱えている時間は無い!
 俺は何とか新しく出現した魔法の矢を交わしきる。
 それきり反応は生まれなかった。
 (ひょっとして・・・初めて師匠の攻撃全部防いだ?)
 俺がそう油断した次の瞬間―――
 『・・・ル・サージュ!!』
 師匠の声は今までよりも遠くから聞こえた。
 「!!」
 一本だけだが、今までよりも威力のある魔法の矢が俺目掛けて飛んでくる!
 「くっ!!」
 俺はとっさの判断でレイアでそれを叩き落とす!
 【ズガァァン!!】
 辺りに爆発音が響きわたり、それと同時に周りに被害が出ないようにと師匠が展開していたフィールドが消えた。
 「なるほど・・・マジックワンドで魔法を叩き落としたか。
  だが、それではマジックワンドが耐え切れなかった時に、戦えぬぞ」
 師匠の声は俺の上の方から聞こえていた。
 俺がそっちの方を見ると、師匠はいつの間にか丘の上に転移していた。
 そしてその横には―――
 「和志くん、スゴイです〜!」
 歓声を上げるすもも達が居た。





  「師匠〜ヒドイですよ」
 「何がだ」
 「だって、『ラ・ディーエ』以外の魔法は使わないって約束だったじゃないですか?」
 「何を言う。戦いとはいかに相手の不意を付くかなのだ。そんなことでは勝てぬぞ」
 師匠の言葉に俺はため息を付いた。
 すももの持って来た差し入れを食べながら、俺と師匠は修行の反省会をしていた。
 「まあ、とっさの判断とはいえ私の魔法を全て防いだのは褒めてやろう」
 「あ、ありがとうございます!」
 「だけど・・・すっかり和志くん、伊吹ちゃんのお弟子さんって感じですね」
 すももが俺達の様子を見ながら笑う。
 「私はその『師匠』というのは止めよと言ってるのだがな・・・」
 「だって、弟子が師匠を『師匠』と呼ぶのは当然だと思うんだけど」
 「とにかく!『師匠』は止めよ!!」
 「和志くん。大丈夫ですよ。伊吹ちゃんは照れてるだけなんですから」
 「違う〜〜〜!!」
 そんな俺達3人の会話を準さんと沙耶さんは微笑ましく、ハチ兄は羨ましそうに眺めていた。
 「クソ〜〜〜・・・雄真といい和志といい、やっぱり魔法使いの方がモテるのか〜〜〜?
  ハッ!ということは俺も魔法使いになればモテモテに!」
 「ハチ・・・それ関係無いと思うわよ。きっと」
 準さんが呆れたように呟いた。




  本当は修行をもっと続けたかったのだが、次に師匠が出した指示は『修行はこれで終了だ』とのことだった。
 師匠曰く、『大会で上位に残るためには、現時点でやれることだけのことはやった。
 後は、本番に備えて体力と魔力の回復を優先させた方が良い』
 とのことだった。
 となると、やることも無いので、すもも達と一緒に家に帰ることにしたのだが・・・
 「雨・・・降ってますね」
 すももが「どうしよう・・・」みたいな感じで呟く。
 さっきまで快晴の天気だったのに、いつの間にか外は雨が振っていた。
 もちろん、俺は傘を持ってきていない。すもも達も同じだった。
 「じゃあ、貸してやろう。沙耶、持ってきてくれぬか?」
 「分かりました」
 だが、数分後に沙耶さんが持って来た傘(古風な番傘)は2本しか無かった。
 「すみません。皆様使っておられるようでして・・・」
 「ああ、いいわよ。2・2で入っていけばいいんだし」
 沙耶さんを気遣うように言う準さん。
 「となると・・・公平にジャンケンか?」
 何か妙に気合を入れながら言うハチ兄。
 (まあ、すももと2人で入りたいとかそんな理由だろうけど)
 しかし、そんなハチ兄を尻目に準さんは2本ある番傘を比べて、一本を俺に渡して来た。
 「和志くん。そっちの傘ですももちゃんと帰りなさい」
 「えっ・・・でも」
 「いいのよ。私とハチは家の方向同じだしね」
 「おい!準!何勝手に決めてるんだ!」
 抗議の声を上げるハチ兄。
 「いいじゃない〜手間にならないし・・・それに」
 準さんはハチ兄を自分の方に引っ張りながら言う。
 「ハチだって『馬に蹴られて』死にたくないでしょう?」
 訳分からないことを言う準さん。
 だがハチ兄はその意味が分かったらしく、しばらく俺とすももを交互に見つめ・・・
 「嫌だ〜!俺はそんなの認めねぇぞ〜〜〜!!」
 「あ〜ほら、行くわよ!ハチ!諦めなさい!じゃあね!2人とも!」
 準さんはそう言うとハチ兄を引きずって帰っていった。
 「・・・俺達も帰るか?」
 「そうですね。じゃあね!伊吹ちゃん!沙耶さんも」
 「ああ、また明日な。すもも」
 「お2人とも、お気をつけて」
 師匠と沙耶さんに見送られ、俺達も師匠の家を後にした。






  「ほら〜和志くん。もっとわたしの方に寄らないと濡れちゃいますよ」
 「わ、わかってるけどさ・・・」
 俺達はそんなことを言いながら、雨の振る街中を歩いていた。
 準さんは大きな方の傘を取ったらしく、俺達の傘は2人で入るにはちょっと小さかった。
 そのため、すももが濡れないようにしていた結果、俺の身体は半分近く濡れていた。
 【ザァァァ―――】
 ますます、雨が強くなる。
 「あ〜ほら、もっと寄って下さい」
 すももは俺の身体を自分の方に近づける。
 自然と俺とすももの身体が密着した。
 しかも、ちょっとでも俺の身体を傘の中に入れようとするため、自然と腕を組むような形になる。
 その上、すももの柔らかい身体の一部が―――
 (って、いかんいかん!何考えてるんだ俺は)
 俺は自分に冷静になることを言い聞かせる。
 「だけど、すいません。和志くん。お買い物に付き合って貰っちゃって」
 「えっ?あ、ああ。いいよ別に。俺も自分の夕飯買わないと行けなかったし」
 師匠の家を出た後、すももは『夕ご飯のお買い物したいんですけど・・・』と言ったので、
 家に帰る前に商店街で買い物をしてきたのだ。
 「だけど・・・スゴイ量だな。雄真さん、こんなに食べるのか?」
 すももが買った食材の量はとても一食分とは思えなかった。
 「今日は兄さんのためにボリュームのある料理にしようかと思いまして」
 「なるほどね」
 明日は体力勝負になる可能性もあるしな。
 「和志くんには荷物持ちみたいな真似させちゃって・・・すいません」
 謝るすもも。
 「まあ、こういう時には荷物持ちは男の役目だしな・・・すももの買い物のうまさも参考になったし」
 「そ、そうですか?」
 「ああ、あの値切りのテクニックはスゴイと思うぞ」
 事実、すももが交渉することで、店頭の価格から2割引きになってたりするし。
 「この商店街はお母さんの顔が聞きますから、それが大きいんだと思いますけど」
 そういえば、雄真さんが言ってたっけ・・・
 『かーさんの愛嬌にヤラレている『Oasis』の出入り業者が多いんだよな』とか。
 商店街の店主も同じような人達が多いんだろう。
 音羽さんの魅力にメロメロな人が多いのなら、愛娘のすももにも良くしてくれるのは当然かもしれないが・・・
 (すもも自身の魅力もあると思うけどな・・・俺は)
 すももが食材を品定めしている時に、俺は勘違いした店の店主からこんなことを言われた。
 『兄ちゃん。すももちゃんはいいお嫁さんになるから、掴んだなら、決して離しちゃダメだぞ』と。
 「和志くん?どうしたんですか?」
 いつの間にか考え事をしていた俺に、すももが話し掛ける。
 「うん?『すももをお嫁さんに貰う奴は幸せものだな〜』って」
 「なっ・・・何言ってるんですか〜」
 頬を染めながら言うすもも。
 「わたしより素敵な人なんて、世の中にたくさんいますよ〜」
 「そんなこと無いと思うけどな。俺が保障してやってもいいぞ」
 「本当ですか!!」
 俺の顔を覗き込むようにして来るすもも。
 「あ、ああ・・・」
 「そうですか〜和志くんが保障してくれるんですね」
 嬉しそうな声で言うすもも。
 (って言うか俺の保障がそんなに嬉しいのか?)
 俺がそんな疑問を感じていると―――
 『♪〜♪〜♪』
 すももの携帯電話が鳴った。
 「はい、もしもし。・・・兄さんですか?」
 「!!」
 その声に俺は思わず周りを警戒する。
 (雄真さん、まさかどっかで見てるんじゃないだろうな?)
 今のこの状況を雄真さんに見られたら、俺確実にボコられるぞ・・・
 俺のそんな心配をよそにすももは会話を続ける。
 「はい、はい・・・分かりました。姫ちゃんと御薙先生によろしく伝えておいて下さいね」
 すももはそう言うと電話を切ってため息を付いた。
 「雄真さん、何だって?」
 「兄さん。今日は姫ちゃんや御薙先生と一緒に泊り込みで最後の調整をするそうなんです」
 「そうなんだ・・・」
 「あ〜あ、どうしよう。わたしとお母さんだけじゃこんなに食べ切れな・・・」
 すももはそんなことを言いながら視線を食材の山から、俺に向けて―――そこで視線が止まった。
 「和志くん、夕飯これから作って食べるんですよね」
 「ああ、まあな・・・」
 「だったら、わたしの家に来ませんか?」
 「えっ・・・でも、いいのか?」
 「今聞いたとおり、兄さんは今日帰って来ませんし、お母さんも歓迎しますよ。
  それに、和志くん、ここのところ授業ちゃんと聞いてますか?」
 「うっ・・・」
 そういえば、師匠の修行で疲れ果ててほとんどマトモに聞いてないや・・・
 「ついでにわたしが勉強も見てあげますから。
  それに、一人で食べるよりは大勢で食べた方が楽しいですよ」
 まあ、確かにそれはそうだ。
 「分かった。じゃあお言葉に甘えて・・・」
 「じゃあ、決まりです。行きましょう!!」
 そう言って張り切って歩き出すすもも。
 その足取りはどことなく軽やかだった。







                       〜第12話に続く〜

               こんばんわ〜フォーゲルです。第11話になります。

          ふと気が付くと『修行編』と言っときながら修行シーンが少ないような(汗)

        まあ、それでも伊吹の魔法を捌き切ってるあたり、修行の成果は出ていると思うが>和志

         信哉も参戦でさらにレベルが上がったので相当キツくはなりますね>トーナメント

                  そして、後半はすももとのほのラブ展開。

              端から見ると『相合傘で夕飯の買い物をしている年頃の男女』

                ラブラブカップル通り越してどこの新婚さんだと(笑)

                次回は小日向家ご招待編(しかも雄真がいない)ですね。

           この流れで次回は『あの人』が活躍するんだろうな〜と思う人が多そう(笑)

                      それでは、失礼します〜


管理人の感想

皆様こんばんは(?)。「解かれた魔法」の11話をお送りして頂きました〜。

とうとうトーナメント前日。参加者は皆、最後の調整へ。

さて、主役である和志も、だいぶ魔法が板についてきた様子ですね。やはり伊吹のスパルタのおかg(ry)

いくら手加減しているからといって、伊吹の攻撃をことごとく防ぐとは・・・。

今回の話では防御シーンしか見られませんでしたが、和志の攻撃がどのようなものなのかにも注目していきたいですね。

そして後半。修行モードから一転して、ほのらぶモードに。

相合傘ですねぇ。見事なまでに相合傘ですねぇ。雄真が見たら脳血管プッツン逝きそうですねぇ(笑)

っていうか何気に和志、プロポーズしてる?それに双方とも気付いていないのですから、かなりの天然カップルですよね〜。

さて次回は小日向家へ召還。もちろん、あの「Oasis」のチーフも出てくることでしょう(爆)


2007.9.30