『解かれた魔法 運命の一日』〜第10話〜
投稿者 フォーゲル
(どうしようかな・・・)
俺は自分の身に振りかかった緊急事態に頭を悩ませていた。
(いや、別に出ること自体は問題無いんだよな・・・手がかりになるかも知れないし)
手元に置かれているコーヒーを一口。
ブラックの苦い味が俺の舌の上で広がっていた。
(ただ、今の俺の実力だと出ても恥を掻くだけだし・・・)
それを防ぐために『あいつ』に頼んだのだが、考えてくれたのか?
俺がそんなことを考えてると・・・
「・・・志!!和志!!」
「うわっ!?」
急に耳元で叫ばれて、俺は思いっきりのけぞった。
「何するんですか〜柊さん?」
「さっきからずっと呼んでるんだけど?アンタが返事しないのが悪いんじゃない」
「あ、す、すいません」
「第一、アンタ・・・コーヒー一杯で1時間も粘らないでほしいんだけど?」
怒った口調で言う柊さん。
俺は授業が終った後、一人で『Oasis』に来ていた。
担任の先生に頼まれていた仕事が残っていたというのもあったが・・・
「それに・・・『oasis』には持ちこみは禁止よ」
俺の手元、コーヒーの横に置かれている巾着袋を見ながら言う柊さん。
その中身を摘むと口に運ぶ俺。
「・・・クッキーじゃない?どうしたのよ、これ?」
その様子を見ながら不思議そうな声を上げる柊さん。
「これですか?・・・貰ったんですよ」
「しかも手作りじゃない。誰から貰ったのよ〜・・・女の子?」
「別に柊さんが期待しているようなことではないですけど・・・実はですね」
俺がどうして手作りクッキーを貰っているのか柊さんに話そうとした時・・・
「う〜疲れた・・・」
「お疲れ様、雄真くん」
雄真さんと神坂さんが『oasis』に入って来た。
そして、俺と柊さんの姿を見つけると近寄ってくる。
「2人とも何やってるんだ?」
「和志にね〜彼女が出来たみたいだから、ちょっと相手が誰か吐かせようかと思って」
雄真さんの問いに、答える柊さん。
「そうなのか?和志?」
「杏璃ちゃん、そう言うプライベートなことを聞き出すのはどうかな?雄真くんも」
少し咎めるような口調で言う神坂さん。
「何よ〜アンタ達だって気になるでしょ?・・・で、和志。一体誰から貰ったのよ」
「え、え〜とですね」
反射的に雄真さんを一瞬見る俺。
「ふ〜ん・・・なるほど、そっかそっか」
急に一人で納得したような声を上げる柊さん。
見ると、神坂さんも微笑を漏らしている。
「?」
不思議に思う俺。
「和志。大丈夫よ。あたしはアンタを応援するから」
そう言って柊さんは俺の肩を叩いた。
「あ、そういえば・・・3人は出るんですか?」
その後しばらく4人で談笑した後、俺は不意に浮かんだ疑問を口にしていた。
「それって、『魔法科試験トーナメント』のことか?」
雄真さんの問いに頷く俺。
魔法科の昇格試験というのは年に3回ある。
その内、1学期の期末に行われるのが『試験トーナメント』という実戦形式の試験だ。
試験と言っても、実戦形式なのでチャレンジするしないは生徒の任意に任せられている。
この試験は魔法連盟の管轄で行われるため、全国の魔法科のある学校に結果が配信される。
そのため、この試験トーナメントで上位に来た生徒は注目されるし、進学などにも有利だ。
「わたしは出るわよ〜去年は初戦で負けちゃったし」
張り切った感じで言う柊さん。
「それに今年は、普通科との合同イベントだしね」
「どういうことですか?」
柊さんによると、せっかく魔法科と普通科の生徒が合同で授業受けてるんだから、
普通科の人にも魔法というものを詳しく知ってもらうのに、丁度いいだろうということで、
同じ時期に普通科でやっている、球技大会と合わせてクラス対抗のイベント戦にしようということになったらしい。
球技大会での獲得ポイント、魔法科でのトーナメントでの上位進出者、それに魔法科と普通科の生徒がペアで出る球技でのポイント。
それら3つを合計したポイント勝負で優勝を争うということだった。
それにそのトーナメントの様子を普通科の生徒達にも公開するらしい。
「雄真さんと神坂さんは?」
俺は2人に話を振る。
「俺も出るぞ。自分の力を試すためにな」
「私もです。もうすぐ『class A』に上がれそうだから」
「そうですか・・・」
俺は腕を組んで考え込む。
「そういう和志はどうなの?出るの?」
「あ、はい、一応出るつもりです」
柊さんの問いに答える俺。
「えっ!でも柊くんって出場資格持ってるの?」
神坂さんの疑問通り、この試験に挑戦するには、最低でも『class D』にランクされてないと出ることが出来ない。
「それは、大丈夫です。この間登録試験には合格しましたから」
「そうなの?おめでとう!!」
「最低ランクの『class D』ですけどね」
「それでもスゴイよ。魔法習い始めたばかりで登録される人もなかなか居ないから」
「そうなんですか?」
「私が知ってる限りだと、雄真くんに続いて2人目だよ」
感心したような声を上げる神坂さん。
「そうか・・・トーナメント戦ってことは俺と和志が戦う可能性もあるってことだな」
「あ、あの〜その時には手加減して下さいね」
「ああ、分かってるよ」
弱気なお願いを雄真さんに向ってする俺。
トーナメントは、男女別に別れているお陰で、神坂さんや柊さんと当たる可能性は無いが、雄真さんと当たる可能性はある。
雄真さんは『Class C』で俺よりランク上だから、俺が勝つ可能性はほとんど無いだろうし。
「甘い!甘いわよ!!和志!!」
俺の言葉に声を上げたのは柊さんだった。
「あのね。和志。そんな弱気じゃ勝てるものも勝てないわよ。あたしはどんな相手でも勝つって思って戦うわ」
柊さんはそう言うと神坂さんに視線を向ける。
「という訳で、春姫!あたしと春姫が当たったら手加減無しよ!!」
「うん!分かってるよ。杏璃ちゃん」
神坂さんと柊さんが健闘を誓いあっているのを俺と雄真さんは苦笑いを浮かべて見ていた。
俺は商店街を歩いていた。
『oasia』を出た後、雄真さんと神坂さんは『修行の続きをしてくる』と言って俺と別れた。
雄真さん曰く、『後輩に負ける訳には行かないからな』ということだった。
(俺が雄真さんに勝てるようになるかは、かなり怪しいけど)
しかし、今の俺の実力じゃ雄真さんと戦うどころか、初戦で秒殺されるのが関の山だ。
(これは・・・御薙先生に言われたことを本気で考えないと)
それは『魔法の先生を見つける』ということだった。
(一応頼んではいるんだけど・・・)
そんなことを考えながら、俺は『oasis』で食べ損なったクッキーの残りを食べていた。
(だけど良かったな〜質問を回避出来て・・・)
俺はトーナメントの話でクッキーの話が忘れ去られたことを感謝していた。
(柊さんが期待しているようなことは、本当に無いけど・・・
誤解されるのもアレだしな。特に雄真さんには)
俺は苦笑いを浮かべた。
その時、俺の目にある店先の光景が入って来た。
(やれやれ、相変わらず仲がいいな)
俺はそんなことを考えながら、その光景に近づいていった。
「はい!伊吹ちゃん。『あ〜ん』」
「すもも・・・一人で食べられると言っておるだろう」
そんなことを話している2人に俺は声を掛ける。
「2人とも何やってるんだ?」
「あっ!和志くん!実はね〜」
すももの説明によると、この店は最近出来たばかりの甘味どころで伊吹の好きな店らしい。
「伊吹ちゃんからわたしを誘ってくれたことが嬉しくてですね。わたしはこうやって頑張ってる訳です」
「・・・すももは私の親友だからな。これくらいの礼はせねば」
「伊吹ちゃん・・・」
嬉しそうなすもも。
その光景に俺は思わず呟く。
「あの〜2人とも?俺を放っといてラブラブな空気を醸し出さないで欲しいんだが?」
「ら、らぶぅ!?」
俺の言葉に吹き出す伊吹。
「どうやら、貴様も小日向の兄と同類のようだな・・・吾妻 和志よ」
怒りを滲ませながら、マジックワンドを握り締める伊吹。
「じ、冗談だ。冗談だからそれで殴るのは勘弁してくれ〜」
何とか逃げようとする俺。
その時、俺のポケットから例のクッキーが入っていた巾着袋が落ちた。
「あ、和志くん・・・食べてくれたんですか?」
「うん。ありがとう。すもも。美味しかったよ」
そう、このクッキーはすももが俺に作ってくれたものだ。
どこからか、俺が魔法科の登録試験に受かったことを知ったすももが、『わたしからのささやかなお祝いです!!』
と言って俺にくれたのだ。
「和志くん・・・ありがとうございます」
「人のことを言えぬではないか・・・」
俺の後ろで伊吹がそんなことを呟いていた。
その後、俺達3人は成り行き上一緒に帰っていた。
(こんなところハチ兄が見たら激怒するだろうな・・・)
俺はそんなことを考えながら伊吹に話し掛ける。
「ところで伊吹・・・『例の話』考えてくれたか?」
「あの話か・・・私はそんなもの取る気は無いと言ったはずだ」
「そこを何とか!!」
「ダメなものはダメだ!!」
「2人共〜ケンカはダメですよ。一体どうしたんですか?」
俺達の言い争いを聞いたすももが割って入る。
「・・・吾妻和志が『自分を私の弟子にしてくれ』とうるさいのだ」
「お弟子さん・・・ですか?」
俺の方を見るすもも。
すももにトーナメントやイベントの詳しい説明をした後、俺は伊吹に向き直る。
「だって、今のままじゃ俺、確実にいいところ無く終っちゃうし、御薙先生だって言ってたじゃないか」
「何をですか?」
すももの疑問に俺はそのまま伊吹の方を見ながら言葉を続ける。
「『俺と伊吹は相性バツグンだ』って」
だが、俺の言葉に反応したのは伊吹では無かった。
「えっ・・・」
すももが何故か不安そうな表情で声を上げる。
「ち、違うぞ。すもも!御薙鈴莉が言っていたのは『魔法の』相性がバツグンと言う意味だ。
すももが思っているような意味では無い!!」
焦りながら話す伊吹。
「そ、そうですよね〜それに伊吹ちゃんはわたしとラブラブなんですから」
そう言って伊吹に抱きつくすもも。
「だから、それも違うって言っておる〜〜!!」
すももの顔からは一瞬浮かんだ不安そうな表情は消えていた。
「と、とにかく!!・・・吾妻和志よ。本当に私の弟子になりたいのか?」
すももに抱きつかれながら俺の方を見て言う伊吹。
「ああ」
迷わずキッパリ答える俺。
「分かった。では、付いてくるのだ」
そう言って歩き出す伊吹。
俺とすももは顔を見合わせると伊吹の後に付いて行った。
伊吹が足を止めたのはとある河原の木の下だった。
「吾妻和志。これからテストをしてやろう」
「ほ、本当か?」
「ああ、それで私が納得する結果を出したら弟子にしてやっても良いぞ」
「良かったですね〜和志くん」
俺とすももを見ながら伊吹は木に両手を当てると呪文を唱え始める。
『ア・ゾーラ・デオニルス・・・』
呪文と共に、伊吹の両手から魔力が放出されて木の葉を赤く染めて行く。
「キレイ・・・」
すももがそんな声を漏らした。
そして、一本の木の木の葉は完全に赤く染められた。
「この状態から、吾妻和志。お前の魔力で木の葉を染めて見せるのだ。
期限は・・・明日は学園が休みだから24時間以内だな。
それでダメだったら、諦めて貰う。良いな」
「・・・分かった」
俺は木の前に立つ。
「頑張って下さい〜和志くん」
すももの応援の声を聞きながら、俺は呪文を唱え始めた。
「・・・」
わたしは戸惑っていました。
理由は分かっています。
(どうしてあんな気分になっちゃったんだろう・・・)
リビングでテレビを見ていたわたしは昼間のことを思い出していました。
『俺と伊吹は相性バツグンだ』
その言葉を和志くんの口から聞いた時にわたしは―――
何故か心がざわつくような変な感覚に襲われました。
今までは、伊吹ちゃんにお友達が出来た時にはわたしも嬉しかったのに。
和志くんは、夜遅くなった今でも、伊吹ちゃんのテストを受けているはずです。
わたしも、本当はずっとそばで応援してあげたかったんですけど、
『あんまり夜遅くなると、雄真さんや音羽さんが心配するぞ』
っていう和志くんの意見に従って家に帰って来ました。
テレビは天気予報を流しています。
『今夜の瑞穂坂町は強い雨が降るでしょう』
その声に合わせたかのように―――
「あっ・・・」
窓の外からは雨の音が聞こえて来ました。
(和志くん・・・)
わたしは和志くんのことが心配になって来ました。
きっとこの雨の中でもテストを続けているでしょう。
でも、それで体調悪くしたら意味ないです。
(よ〜し・・・)
私は和志くんの様子を見に行くことにしました。
「だけど・・・何で伊吹の奴はそんな時間のかかるテストをしたんだ?」
私の隣を走りながら兄さんはわたしに聞きます。
わたしが家を出ようとしたところで、兄さんが「どこに行くんだ?こんな夜遅くに?」と
聞いて来たので、わたしは事情を手短に兄さんに説明しました。
兄さんは『そういう事情なら・・・』とわたしに付いて来てくれました。
「分かりません・・・」
わたし達はそんなことを話しながら、その河原の近くまで来ました。
「すもも!!」
「伊吹ちゃん!!」
わたしは伊吹ちゃんに走り寄ります。
「やっぱり、伊吹ちゃんも和志くんのことが心配で?」
「うむ、まさかこんなに天気が荒れると思ってなかったのでな」
雨がますます強くなってきます。
「・・・急ぎましょう」
「うむ・・・」
わたし達は大急ぎでその場所に向いました。
「和志くん!!」
わたし達がその木の側に来た時、和志くんは木に背を預けてグッタリしていました。
「う、うん・・・すもも?」
走り寄ったわたしに気が付いたのか、和志くんはゆっくりと目を開けます。
「大丈夫ですか?」
「少し休憩してから、また続けようと思って休んでたんだよ」
見ると伊吹ちゃんが染めた葉っぱの色は四分の一くらいまで和志くんの魔法の色なのか、
青い色に染まってました。
その光景を伊吹ちゃん達は呆然と見つめていました。
「・・・伊吹ちゃん。わたしからもお願いします!!和志くんを・・・」
「分かっている」
わたしの言葉を遮ると伊吹ちゃんは和志くんの前に座ります。
「吾妻和志よ。お主の努力はよく分かった」
「えっ・・・」
「弟子にしてやろう。ただし・・・」
そこまで言って伊吹ちゃんは少し笑います。
「私の修行は厳しいぞ。それでも大丈夫か?」
「ああ、それくらいの方が・・・俺に・・・とっても」
和志くんはそこまで言うと意識を失いました。
「和志くん!?」
「大丈夫だ、すもも。気が抜けて気絶しただけだ」
「兄さん・・・そうですか〜良かった〜」
「すもも、和志はお前が見ててやれ」
「はい!分かりました」
兄さんはそう言うと伊吹ちゃんの方に近寄って行きました。
和志を介抱しているすももを横目で見ながら、俺は伊吹に近寄る。
「伊吹・・・どうしたんだ」
「小日向雄真か・・・ちょっと予想外の展開になってな」
「あいつがこの木の葉を染めたからか?」
「うむ。本来このテストは吾妻和志に私への弟子入りを『諦めさせる』ためのものだったからな」
「どういうことだ?」
「この木には私の魔力が掛けられている。つまりこの木の木の葉を違う色に変えようと思ったら、
『私の魔力を一瞬でも凌駕しなければならない』ということだ」
俺は伊吹の話を黙って聞いている。
「どうも、吾妻和志の魔力も、小日向雄真・・・お主の魔力と同じで膨大すぎるようだ」
「俺と?」
「そうだ。そんな膨大な魔力の持ち主ならば誰かが使い方を教えてやらねばなるまい」
笑いながら言う伊吹。
俺はそんなこととは違うことを考えていた。
(御薙先生から膨大な魔力を受け継いだ俺。魔法使いの名門中の名門、式守家の後継者の伊吹、そして和志・・・)
小雪さんじゃないが、俺には何かの運命的な力が働いているような気がしていた―――
〜第11話に続く〜
こんばんわ〜フォーゲルです。第10話になります。
新展開になる今回の話はいかがでしたでしょうか?
実戦形式の試験『魔法トーナメント』に挑むことになった和志。
上位に残るために伊吹に弟子入りしたのだが・・・
作者的には、試合に出るまでに修行で潰れるんじゃないかと心配(笑)
超スパルタそうだしな>伊吹の修行
そして、和志に手作りクッキーでアピールしつつ、和志と伊吹の仲の良さ(?)に焦る
すももにも注目して貰えると嬉しいです。
次回は修行編になる予定です。それでは失礼します〜
管理人の感想
10話目をお送りして頂きました〜^^
どうやら9話から少し時間が経っているようですね。和志も、ClassDに合格してますし。
しかし独学ではそれ以上を目指すのはとても厳しい。そこで和志が目につけた師匠は・・・同級生であり、すももの愛人(?)、伊吹。
魔法の相性が良いとのことですが、やっぱり術式も似ているのでしょうか?
・・・確かにスパルタそうだなぁ、伊吹。でもおそらく上条兄妹も手伝ってくれるので、結構ナイスな選択だったかも。
「魔法科試験トーナメント」という、ゲームにはない新しい展開。それをどう表現していくのか、ますます目が離せないですね!