『桜がもたらす再会と出会い〜第9話』
投稿者 フォーゲル
「さ〜て、じゃあこれからどうする?」
喫茶店を出て、俺は隣を歩く美春に話を振る。
外は夕焼けから、夜の帳が落ち始め街灯がポツポツと明かりを付け始めていた。
「え〜とね〜。『バナナンボー』で新作チョコバナナが出たから、それを食べようかな〜なんて」
「お前な・・・さっき喫茶店でパーティサイズ用のバナナパフェ食ってただろ」
どうみても4,5人で食べるとしか思えないような器に入ったバナナパフェを美春は一人でぺロっと完食していた。
美春の胃袋はバナナ限定でブラックホール化してるんじゃないかと本気で思ったぞ。
そのおかげで俺は、食欲無くしコーヒーしか飲んでない訳だが。
「だって、バナナが美春に食べられたいって言ってる以上、美春がおいしく食べてあげないと」
真面目に力説する美春。
美春の目には『食べて!食べて!』と訴えるバナナ達のラブリーな姿でも見えてるんだろうか?
「ハァ〜分かったよ」
俺は美春の熱意に負けた。
「付き合ってやるよ・・・ついでに新作チョコバナナは俺が奢ってやるから」
「え?大丈夫だよ〜」
「今日は大分美春に楽しませて貰ったからな。最後に一つくらい奢らせろ」
「そう?じゃあ遠慮しないよ」
美春はそう言うと、先に立って歩き出す。
「冬貴君が奢ってくれるのなら、10本くらい買っちゃおうかな〜」
「あの、美春さん・・・オネガイデスカラソレハカンベンシテクダサイ」
さすがに10本は・・・
(というかまだ10本も食えるのか・・・)
俺はあきれながらも美春の後を追った。
「確か、こっちの大通りを抜ければ近いんだったか?」
「うん、だけど今日は大桜日に合わせて交通規制がされてるはずだから、人通りが多いかもね」
一週間の内5日は『バナナンボー』に通い詰めている美春の案内で俺は最短距離を移動していた。
そして、その大通りに出た。
『うっ・・・』
俺達は思わずその場に立ち止まった。
確かに人通りは多かった。
ただ・・・その人通りの7割ほどがどう考えてもカップルにしか見えない男女ばっかりというのは。
よく考えてみれば、『1年中桜が咲く島』ということで有名な初音島。
その何ヶ月かに1回のより一層桜が咲き誇る日である大桜日。
当然、綺麗に見えるので夜になると街中の桜はライトアップもされたりする。
となれば、格好のデートスポットになるのは当たり前か・・・
しかも、いつもより桜の花の量が多いらしく、観光客だけでなく地元の住民も多く出てるみたいだ。
あちこちからちょっと甘〜い雰囲気が漂って来てるし。
(これは・・・他のルートを探した方がいいかもな)
俺は隣の美春を見ながら、そんなことを考える。
だが、美春は俺の考えとは違うようだった。
「冬貴君、こういう場合は堂々としていた方がいいと思うんだよね」
「どういうことだ?」
「だから・・・『郷に入らずんば郷に従え』っていうか・・・」
いつもの美春らしくない歯切れの悪い言葉。
「結局、何が言いたいんだ?」
「つまりね・・・こういうこと!」
そう言って美春は俺の腕に自分の腕を絡ませて来た。
(え!え!え!)
美春の行動に俺は自分の顔が赤くなるのを感じだ。
「こうすれば美春達もカップルに見えて違和感無いと思うんだけど・・・ダメ?」
「いや、ダメというか・・・」
(俺はむしろ嬉しいが)
俺が返事に詰まると、不意に美春が不安気な表情を浮かべた。
そして、美春が俺の腕を掴む力がグッと強くなったのが感じられた。
「誰かこの状態を見られたくない人でも・・・いるの?」
「それは無いけど・・・」
俺の言葉に美春は何故かホッとした表情を浮かべた。
「じゃあ、大丈夫だね!行こう!」
かくして俺は美春と腕組んだまま、歩き始めた。
『ありがとうございました〜』
店員さんの元気のある声が響き渡る。
「う〜ん、おいしい〜」
俺の隣では新作チョコバナナの一本目にパクついた美春が嬉しそうな声を上げる。
『バナナンボー』新作チョコバナナはその名も『レインボー・トロピカル・バナナ』
バナナのトッピングに虹の7色をイメージした、チョコとトッピングがしてあるという南国テイスト満載の商品だ。
個人的な見立てでは一本ごとの味のバランスが取れてなさそうだ。
橙の『オレンジベースチョコバナナ』あたりは地雷のような・・・
店が閉まる寸前の時間に行ったのに、各色最後の一本が残ってたってのが美春のバナナ運(?)の良さか?
空は完全に暗くなり、ライトアップされた桜が綺麗に咲いていた。
初音島の桜は日本の他の地域で咲く桜よりも見事に咲いていると聞いたことがある。
その理由としては、気候条件、初音島の回りを流れる海流などの影響などと言われている。
だが、俺にはそういう自然環境以外の何らかの神秘的な何かが初音島の桜にはあるような気がしていた。
それが何かと聞かれると俺にもうまく説明は出来ないのだが。
「・・・君!冬貴君!」
俺がそんなことを考えていると美春に呼びかけられた。
「何か考え事?」
「いや、そんな大したことじゃないけど。どうした?」
「・・・あの娘、何かなと思って」
美春の視線を追って見ると、そこには4,5歳くらいの女の子が泣きながら座っていた。
「こんな時間に小さい女の子が一人でいるなんておかしくない?」
確かに完全に夜という時間ではまだ無いが、小さい女の子が一人で遊んでいるような時間でも無い。
「確かに気になるな・・・」
ちょっと声を掛けて見るか?
俺がそう話を振ろうとした瞬間、美春の姿は俺の隣にはなかった。
「どうしたの?良かったらお姉ちゃんにお話してくれるかな〜?」
美春はもうその女の子の前に立ち、女の子と同じ目線で優しく話しかけていた。
美春の話によると、女の子の名前は玲那(れいな)ちゃん。母親と一緒に遊びに来てはぐれてしまったらしい。
「迷子か・・・」
「ねぇ、冬貴君。玲那ちゃんの親捜してあげようよ。このままじゃ玲那ちゃん可哀想だよ」
確かにこのまま放っておいたら、その後どうなったか気になるし、万が一何かあったら、それこそ夢見が悪い。
「分かったよ。なるべく早く見つけてあげないとな」
「そうだね」
そして美春はまだ、少し泣いている玲那ちゃんに向き直ると言った。
「大丈夫だよ!お姉ちゃんとお兄ちゃんが必ず見つけてあげるからね!」
その言葉に安心したのか玲那ちゃんはやっと泣き止んでくれた。
とはいえ、この人通りの多さで一人の人間を探すというのは大変なことだった。
現に探して一時間ほどたっているが、見つかる気配が全く無かった。
とりあえず歩き回って疲れている美春と玲那ちゃんを休ませることにして、
俺はもう一回大通りを一周してみたが、見つけることは出来なかった。
肩を落として美春がいる場所に戻る。
「冬貴君・・・見つかった?」
戻ってきた俺に美春が声を掛ける。
「全く、手がかり無し」
「そうなんだ・・・どこに行っちゃったんだろうね」
美春もがっくりと肩を落とす。
「玲那ちゃん、眠っちゃったのか?」
泣き疲れたのか、玲那ちゃんは美春の膝の上でスヤスヤ寝息を立てていた。
「うん・・・早く見つけてあげないと」
美春は玲那ちゃんの頭を優しく撫でている。
その表情はまるで美春が玲那ちゃんの母親であるかのような錯覚を俺に覚えさせた。
俺の心はその表情につき動かされた。
「じゃあ、もう一回行ってくるよ」
「でも、冬貴君今行ってきたばかりじゃない?今度は美春が・・・」
「その状態じゃ美春は動けないだろ?今度こそ見つけてくるから大人しく待ってろ」
俺がそう言って、また探しに行こうとした時だった。
『玲那!!』
俺達がその声に振り向くと若い女性が立っていた。
ひょっとして・・・
その女性に問いかけようと俺が口を開きかけた次の瞬間。
『ママ〜!!』
その声で起きたのか玲那ちゃんがその女性の胸の中に飛び込んでいた。
「すいません〜ありがとうございました」
「美春お姉ちゃん、冬貴お兄ちゃん、バイバ〜イ」
「玲那ちゃん、今度はお姉ちゃんと遊ぼうね〜」
人混みに消えてゆく玲那ちゃんとお母さんの姿を見送った後、俺達は安堵のため息をついた。
すっかり暗くなっていたので俺達も帰路に着くことにした。
「そういえば、美春、玲那ちゃんのお母さんと何か話してたみたいじゃないか?」
「え?結構若い人だったから、何歳なんですかって聞いてたの。・・・25歳だって」
「ずいぶん若いお母さんなんだな」
最近深刻化している晩婚化の現状を考えるとかなり若い方だろう。
「それでね、玲那ちゃんが生まれたのが20歳の時だって言ってたの」
そこまで話すと美春は一息ついた。
「20歳だと美春達と5歳しか違わないんだなって思って」
「そっか、そうだよな」
「最低でも後15年したら、美春も冬貴君もちゃんとお母さんお父さんしてるのかなって考えると不思議だなって思って」
「美春はいいお母さんになってるんじゃないか?子供のおやつはバナナばっかりだと思うが」
「む〜!冬貴君だって子供にスポーツは野球しか教えてなさそうだよ」
俺達は笑いながらそんな話をして、家路に着いた。
「今日はいろいろあったな〜」
俺は美春を家まで送っていったあと、桜公園に足が向いた。
商店街・大通り方面は人が多く賑わっていたが、何故か桜が多いこの公園には人が集まっていなかった。
(だけど、本当にスゴイな・・・コレ)
ポケットからフェアリーストーンを取り出す。
正直最初は半信半疑だった。
だけど、今日の一日を見る限り恋愛面でのご利益があるのは間違い無かった。
(美春とデート気分も味わえたし、コレに感謝しなきゃな)
思わず、俺はフェアリーストーンをもう一度自分の指に嵌めながらそんなことを思った。
そんなことを考えながら歩いていると、『枯れずの桜』の方で人影が動いたのを俺は見た。
(何だろう・・・行ってみよう)
俺はその人影を追いかけた。
『枯れずの桜』の下には俺の知っている人物がいた。
「うにゅ〜、今日はいつもの大桜日とは桜の反応がおかしいなぁ」
「何やってるんですか?さくら先生?」
「はにゃ!?・・・何だ、柊くんか・・・脅かさないでよ」
芳乃さくら先生は風見学園の講師をしている。
面白い授業をしてくれるので生徒達にも人気はあるが、いろんな意味で学園では注目されている存在だ。
純一先輩達と同じ年齢で講師をしていること。IQ180以上と言われる頭脳などもそうだが、
最大の要因はそのルックスだ。
幼なじみの純一先輩によると小学生の時にアメリカに行ってしまったらしいが、その時と全く変わっていないらしい。
俺が、『芳乃先生』ではなく『さくら先生』と呼ぶのもそこに理由がある。
(何か苗字で呼ぶ気にはなれないんだよな)
「柊くん、学生がこんな夜遅くに出歩いてるなんて、感心しないなぁ〜」
「今日はちょっと用事があって遅くなったんですよ」
「美春ちゃんとデートしていい雰囲気にでもなった?」
「み、見てたんですか?」
さくら先生の言葉に思いっきり動揺する俺。
「うん、2人で腕組んで歩いてるところをバッチリ!で、どんなデートしたの?」
「さくら先生には関係ないじゃないですか」
「関係あるよ〜場合によっては『不純異性交遊』で学園に報告しないと」
「言っときますけど、変なことはしてないですからね」
「にゃはは、冗談だよ、冗談」
さくら先生のからかい攻撃に俺は話題を変えることにした。
「さくら先生はこんな時間に何やってたんですか」
「ボクはね〜この桜を見に来たんだ」
「夜桜見物ですか?」
「まあ、そんなとこかな。・・・柊くん、その指輪、何?」
さくら先生は俺が指に嵌めているフェアリーストーンを興味深そうな眼差しで見ていた。
朝見た時より、フェアリーストーンは輝きを増していた。
「ああ、これですか?俺のオフクロが外国土産で送ってくれたんですよ」
さくら先生はフェアリーストーンをしばらく眺めていた。
「これが原因かも・・・」
「さくら先生?どうしたんですか?」
「えっ?何でもないよ?ボクはもう帰るけど、柊くんは?」
「俺はもう少し桜を見てから帰ります」
「そっか、じゃあ早めに家に帰りなよ?お父さんが心配すると思うから」
さくら先生はそう言い残すと、俺が来た道を逆に戻っていった。
俺は『枯れずの桜』の根元に腰を下ろす。
桜は夜だというのに下から見上げると昼間のような明るさを見せていた。
ふと俺は、さっきの美春の言葉を思い出す。
「最低でも後15年したら、美春も冬貴君もちゃんとお母さんお父さんしてるのかなって考えると不思議だなって思って」
(15年か・・・大人になればなるほど時の流れを早く感じるというから、あっという間なんだろうな)
不意に睡魔に襲われた。
とてもまぶたを開けていられないほどの強烈な睡魔だった。
だが俺はあることを考えていた。
(例えば・・・15年後・・・俺と美春は・・・)
そんなことを考えながら俺の意識は闇に落ちていった。
意識を失う寸前、『枯れずの桜』の樹木全体ととフェアリーストーンが同時に強く発光したような気がした・・・
次に俺が気がついた時にはもう、夜明けを過ぎて日が昇っていた。
「ヤバイ・・・早く家に帰らないと」
俺は急いで家に向かった。
だが、起きたときから、何か違和感を感じていた。
家の近くにある電気屋の前を通る。テレビから流れて来た音声に俺は思わず耳を疑った。
『皆さん、おはようございます。2021年6月―――』
〜第10話へ続く〜
<後書きコメント>
こんばんわ〜フォーゲルです。
第9話をお届けします〜
今回はデート編の続きになります。
冒頭で美春が完食しているパフェは、ゲームでミハルがダウンしたあのパフェだと思って下さい。さすが本物(笑)
今回は中盤のお姉ちゃん(母親?)な美春が萌えポイントかなと思ってます(爆)
前回のウエディングドレスと合わせて、2人の将来を暗示するようなデート展開にしてみました。
ひょっとして未来編?な次回も楽しみにして下さい。それでは!!
管理人の感想
今回は、前話のほのぼのデートの続きですね。
速攻でバナナ節炸裂の美春が良い味出してますね(笑)
そして「大桜日」を言い訳に、積極的に冬貴にアプローチする美春。
しかしそれに鈍感な冬貴が気付く筈もなく・・・。
後半はファンタジー。
さくらとの会話後、突然光りだすフェアリーストーン。
まさに急展開・・・なのかな?
次回が気になりますね。