『桜がもたらす再会と出会い〜第8話』

投稿者 フォーゲル

  俺は心地よい眠りに落ちようとしていた。
 昨日まで続いた中間テストがようやく終わり、今日はテスト終了後初の週末。
 部活も無いので、実質久々のマトモな休みの週末かもしれない。
 しかし、体に染み付いた習慣というのは恐ろしいもので、きっちりと学校に行く時間に目が覚めてしまった。
 (美春に起こされる時間って言った方が正しいかも知れんが)
 俺はそんな事を思いながら窓の外を見る。
 6月に入ってから梅雨入りしたせいもあるのか、どんよりと曇っていた。
(こんな日は2度寝でもするに限るな)
 「良く考えてみたら、2度寝なんかしたことないな。学生の特権なのに・・・」
 俺はそんなことを言いながら布団を被った。
 だが、俺がそんなことを思いながら寝ようと思ったその時、
 
 【ピンポーン】

 インターホンが鳴った。
 (無視!)
 俺は心に決めた。こんなことで安眠妨害されてたまるか!
 だが、インターホンはいつまでも鳴り続ける。
 「あ〜もう!分かった、分かった!」
 俺は諦めて着替えて下に降りていった。
 来ていたのは、宅配便だった。
 受け取りのサインをして、俺はその小包を受け取る。
 そんなにデカイ荷物ではないが・・・
 俺は、差出人の名前を見る。


  『EMIRU HIIRAGI』

 「ってオフクロからかよ」
 俺のオフクロは不思議な超常現象を追って、世界を飛び回っているのだがその旅の途中で珍しいモノを見つけると俺に送りつけて来るのだ。
 まあ、俺もそういうモノは嫌いじゃないし、内心楽しみにしてたりもするんだが・・・
 「さて、今回は何を送ってきたのか・・・」
 俺は小包を開ける。
 「何だ?これ・・・」
 中から出てきたのは、淡い輝きを放つ指輪だった。
 同封されていたオフクロからの手紙を読む。

  『ハ〜イ。冬貴。元気でやってる?

    私は今、人魚伝説の残る北欧のある国に来てるの。北欧はいい所よ。
    気候も過しやすいし。北欧神話なんかの興味ある伝説も数多いしね。
    あ、今回同封した指輪は、[フェアリー・ストーン]っていう、現地では魔力が残ってるって言われてる石なの。
    それを加工した指輪よ。
    あ、それとね・・・』

  
  俺は『私の書いた論文が雑誌『ヌー』に載ることになったから読んでね』
  とかいろいろ書かれている文章を読んでいたが、最後の一文には思わずツッコミを入れた。
  「余計なお世話だ」
  そんなことを思いつつ、俺は送られて来た指輪を指に嵌める。
  確かに指輪の輝きは、幻想的な気分にさせ、魔力が残ってるってことを信じさせるだけの力を持っているように見えた。
  『♪〜♪〜♪』
  そんな時、携帯が鳴った。
  (この南国トロピカルな着メロは・・・)
  俺は、携帯に出た。
 『あ、冬貴君?美春だけど?』
 『美春か?どうしたんだ?』
 『う〜んとね。冬貴君、今何してるの?』
 『今?宅配便で起こされて、今また寝ようかなって』
 『寝ようかなって・・・もうお昼近いよ?』
  美春の声に俺は思わず、部屋の時計を見る。
  時計は11時半を指していた。
 『いいだろう?テスト終わって俺の頭脳も休ませないと・・・』
 『何言ってるの?テスト終わった今の時期だからこそ、思いっきり遊ばないと!』
 『・・・美春、誰のおかげで遊べるようになったと思ってるんだ?』
 『ア、アハハ〜』
 『【このままじゃ赤点だよ〜冬貴君〜助けて〜】って泣きついてきたのは誰だったっけ?』
 『冬貴君・・・そんなことを気にしてたらビッグな人間にはなれないよ?』
 『お前が言うな』
 テスト前、美春が赤点スレスレの教科があるので勉強教えてくれって言って来たから教えてやったのだが・・・
 幸い俺の得意教科だったから良かったものの、危うく俺も他の教科で赤点取りそうになったからな・・・
 『とにかく、俺は今回は頭脳を休ませることにしたんだ』
 『え〜。せっかく勉強教えてくれたから、お礼でもしようかなと思ったのに〜』
 『お礼?』
 『うん!映画のチケットを貰ったから、一緒に見に行こうかな〜なんて』
 映画か・・・そういやここのところDVDばっかでスクリーンでは見てないな。
 『それに有効期限が今日までだからムダになっちゃうし・・・』
 『分かったよ。お礼を受け取るか』
 『本当?じゃあ1時に映画館の前でね!』
 『ああ、分かった』
 俺はそう言って電話を切った。
ふと、指に嵌めた指輪と置いてある手紙を見つめる。
 (まさかな・・・)
 俺はそんなことを思いつつ、身支度を整えることにした。




  映画館の前には1時ジャストに着いた。
 「美春は・・・まだ来てないみたいだな」
 俺は、しばらく待ってみることにした。
 (しかし、美春は何の映画見るつもりなんだ?)
 今、公開されている映画は、3作品あるがコメディ、ドキュメント、ホラーとどれも美春が見そうにないものばかりだった。
 (結局、単純にチケットが余ってるから勿体無いってだけなのか?)
 電話を受けて、ここに来るまでの間に自分が期待していたことを思い出し、思わず苦笑する。
 日曜日の午後、仲の良い男女が待ち合わせ・・・
 (これって世間一般で言う『デート』ってことなんじゃないのか?)
 とか思いながら嬉しい気分で来たのに、この上映ラインナップじゃ少なくともデートで見る内容じゃないよな・・・
 いや、ホラーを見れば高確率で嬉しいハプニングとかはあるかも知れないが・・・
 (抱きつかれたりとかさ・・・あ〜あ、ラブストーリーとはいかなくてもせめて感動できる作品でもやってれば良かったんだけど)
 俺はそんなことを思いながら、指輪を見つめる。
 (結局持ってきちゃったな・・・この指輪)
 オフクロが送ってきた手紙の最後の文章を思い出す。
 
   『この指輪にはもう一つ、【人魚の恋を叶えた】って伝説があってね。
    そのせいか、恋愛面でのご利益があるって言われてるの。
    この指輪を持ってれば、美春ちゃんといいことがあるかもよ〜』

 (というか何で知ってるんだ?俺の気持ち)
 そういえば、親父に付いて初音島に戻るっていった時も、『美春ちゃんに会いたいんでしょ〜』って散々おちょくられたのを思い出す。
 あの時は、まだ自分の気持ちに気付いていなかったから、否定したけど・・・
 ひょっとしたら、オフクロはあの時から・・・いや小さい頃から俺の気持ちを見抜いていたのかも知れない。
 「冬貴く〜ん!!」
 俺がそんなことを考えていると、後ろから美春の声がした。
 「遅いぞ?人を呼び出しておいて・・・」
 振り向いた俺は美春の姿を見て、言葉が出なかった。
 目の前に現れた美春は、珍しく女の子らしいスカート姿だった。
 制服でのスカート姿は見慣れてても、私服のスカート姿は俺の目には新鮮に映った。
 「ゴメ〜ン!準備に時間掛かっちゃって・・・どうしたの?」
 思わず、見入ってしまっていた俺はたまらず視線を外す。
 その様子を見た美春が俺に問い掛ける。
 「う〜ん、やっぱり・・・似合ってないかな?どう?」
 言いながらその場でクルリと一回転。
 「あ、ああ・・・似合ってるよ」
 「そう?ありがとう!冬貴君」
 ・・・実際は似合ってるなんてもんじゃなかった。
 (カワイイ・・・スゴイカワイイ)
 その場で腑抜けになりそうなくらい、今日の美春は魅力的だった。
 「?・・・どうしたの?冬貴君?」
 「え?い、いや何でもない・・・」
 美春に気取られないようにしながら、俺は今日の目的に話を戻す。
 「で、どの映画見るんだ?美春」
 俺は事前に買っていたパンフレットを開く。
 隣に来た美春がパンフを覗き込む。美春の顔がすぐ近くに来て、俺は思わずドキッとする。
 「う〜んとね〜どれにしようかな〜」
 選び始めた美春が妙に上機嫌だったのが、印象に残った。


 

 「全く、あいつは・・・」
 俺は袋を受け取った後、思わず愚痴の言葉を漏らした。
 映画を見た後、美春が「いろいろ見ていかない?」と言ったので、俺達はウィンドーショッピングを楽しんでいた。
 美春が気になっていた小物がある店や、俺に似合いそうな服を美春がコーディネートしてみたりといろんなことしていたのだが・・・
 不意に美春が「買ったもの忘れて来ちゃった」とか言い出したのだ。
 何でも、本屋で買った本をそのままレジに置き忘れてきたらしい。
 仕方が無いので、美春を待たせて俺がひとっ走り行ってきて取ってくるという方法を取ることにした。
 それに美春が漏らした言葉が気になる。
 「その本、冬貴君にも関係してくるかも知れないから・・・」
 美春が買った俺にも関係してくるかも知れない本ってのは何だ?
 俺は受け取った袋を見つめる。袋ごしに見えるその本は―――
 「料理のレシピ本?」
 どこからどう見ても普通の料理の本にしか見えない。
 これのどこが、「俺にも関係してくる本」なんだ?
 考えてみても、全く理由が分からなかった。
 「まあ、本人に聞けば分かるか・・・」
 俺は急いで美春のところに戻ろうとしたその時、
 「あれ?柊君じゃないですか?どうしたんですか?こんなところで」
 買い物にでも来ていたらしい白河先輩に会った。
 「あ、白河先輩。俺は美春と遊びに来てたんですけど、ちょっとこの本屋に用事があって・・・」
 「・・・ひょっとしてデートですか?」
 ズバリな質問をしてくる白河先輩に俺は苦笑を浮かべる。
 「どうなんでしょうね・・・」
 (俺はそう思いたいけどな〜美春の奴は全然そんな気無いみたいだし・・・)
 もし、美春がこれをデートだと思ってるなら、もう少し緊張とかもするんだろうけど、
 俺の見た限り普段通りだしな・・・
 そんなことを考えてると、何故か白河先輩が少し微笑んだ。
 「何で、笑うんですか?」
 「えっ?ああ、ゴメンなさい。天枷さんも大変だな〜って思って」
 「どうして美春が大変なんですか?」
 俺がその疑問を口にすると、白河先輩は今度は少しため息まじりな苦笑を浮かべながら言った。
 「柊君はもうちょっと勉強した方がいいですね」
 「勉強って、何をですか?」
 「それは私の口からは言えませんよ〜そうですね・・・ヒントをあげるとしたら・・・」
 白河先輩はしばらく考えた後、おもむろに口を開いた。

  「『理由は何でもよかった』ってことだと思いますよ」

 「は?それがヒントなんですか?」
 「そうです。後は柊君が自分で考えなきゃいけないことですよ」
 そんなこと言われても、抽象的過ぎてよく分からないんですけど・・・
 「じゃあ、私はこれで・・・柊君、頑張って下さいね」
 「は、はあ・・・頑張ります」
 よく分からないヒントと応援の言葉を残し、白河先輩は去っていった。
 
 
 

 俺が戻ってみると美春は元いた場所には居なかった。
 「あれ?どこ行ったんだ」
 周りを見回す。
 美春はある店のショーウインドーを眺めていた。
 「どうしたんだ?ほら・・・取ってきてやったぞ」
 「え?ありがとう。これを見てたの」
 そこに飾られていたのは純白のウェディングドレスだった。
 「こういうのに憧れるのか?」
 「美春だって女の子だよ〜一回くらいは着てみたいって思うよ」
 俺達がそんなことを話していると、声を掛けてきた人物がいた。
 「あの〜私この店の従業員なんですけど」
 「あっ・・・すいません、冬貴君行こう」
 その場を立ち去ろうとする美春。
 「あっ、いえいえそうじゃなくてですね。・・・よろしかったら着てみますか?」
 「えっ?」
 「実は今ですね【ジューンブライドフェア】ってことでお客様に無料試着のサービスをしてるんですよ。よろしかったらどうですか?」
 「ど、どうしよう。冬貴君」
 「どうしようって・・・着てみればいいじゃん。着てみたいんだろ?」
 (俺も見てみたいしな)
 口には出さずに付け加える。
 「そうだね。こんなチャンスなかなか無いし・・・じゃあお願いします」
 俺と美春は店員さんの案内で店の中へ入っていった。


 ―――待つこと1時間―――


 「冬貴君〜終わったよ〜」
 美春の声が試着室の中から聞こえてくる。
 どうやら着替え終わったらしい。
 「じゃあ・・・開けますね」
 店員さんがゆっくりと試着室のドアを開けた。
 おずおずとウェディングドレスに身を包んだ美春が出てくる。
 「・・・」
 俺は正直ビックリしていた。
 美春ではウェディングドレスに『着られている』っていう感じだと思っていたのだが。
 実際にドレスを着た美春はとてもキレイだった。
 美春はゆっくりと俺の前に来て立ち止まる。
 「ちょっと、彼氏さん」
 「へっ?俺ですか?」
 「あなた以外に誰がいるんですか?彼女さんのヴェール取って上げて下さいよ」
 (ま、参ったな)
 意外とノリやすい性格らしい店員さんに後押しされ、俺はゆっくりと美春のヴェールを上げる。
 美春が真剣なまなざしで俺のことを見つめる。
 そして、美春がつぶやいた。

   『私は―――あなたを生涯愛することを―――誓います』

 「・・・」
 思わず俺が黙ってしまうと沈黙が落ちた。
 そして、次に言葉を発したのはその美春だった。
 「な〜んちゃって。冗談だよ。冬貴君」
 「へ?」
 そして、次の瞬間には店内が笑い声に包まれていた。



 「つまり、店員さん達にああいう演技をしろと言われてたってことか?」
 「うん。冬貴君がきっと喜ぶだろうからって」
 あの後、店を出た俺と美春は近くの喫茶店に入っていた。
 (いや、まあ嬉しかったけどさ)
 実際に美春の言葉が後3秒遅かったら俺はマジ告白していた可能性が高い。
 それほどにウェディングドレス姿の美春はキレイだった。
 「いや〜だけど。美春、お前演技うまいな〜」
 「そうかな・・・」
 「愛の告白のところなんか、女優でもやっていけるぞ」
 「・・・あそこは演技じゃなかったんだけどな」
 「何か言ったか?」
 「う、ううん何にも」
 俺はそんな美春から視線を外し、窓の外を見る。そして話題を変えた。
 「そういえば、今日は桜の花の量がいつもより多く見えるんだけど、気のせいか?」
 「今日は大桜日(たいおうび)だからじゃないかな」
 「大桜日?」
 美春によると何ヶ月かに一回初音島中の桜が花を多く咲かせる日があるという。
 それが大桜日。天枷研究所でも調べてるらしいが原因は不明らしい。
 「美春は桜吹雪がキレイだから好きだけどね」
 「俺も同感だな」
 だが、その時俺はまだ気付いていなかった。
 フェアリーストーンが朝見た時よりも、輝きを増していたことを。




                〜 第9話に続く〜


  こんばんわ〜フォーゲルです。第8話お届けします〜

  今回はせっかくD・Cの世界観にある魔法設定を有効利用しない手はないと思い、
 
  不思議アイテムを出して見ました(笑)

  読んでくれた人が「冬貴、どけ!お前のポジションは俺が(略)」とか思ってくれればいいな〜と思います。
  
  しかし、この主人公は超がつくニブさだな・・・(自分で生み出したキャラとはいえ・・・)

  純一や義之をしのいでるな〜美春の言動やことりのアドバイスでも全く気付かず(笑)

  冬貴ほど鈍くはないであろう読者の皆さんはことりが何を言いたいかは分かると思いますが・・・

  それでは、失礼します〜


管理人の感想

今回は二人のほのぼのデート(?)。

着実に愛を育んでいる二人を見ているのは、読者の側から見ても微笑ましいですねぇ^^

しかしフォーゲルさん自身も後書きで仰っていますが、冬貴すげー鈍感。

ことりの言葉は・・・まあ純一や義之なんかでもわからないと思いますが、料理の本が冬貴にも関係あると美春に言われて気付かないとは・・・。

重度ですね。King of Donkanです(←失礼)

そして何やら意味あり気な不思議アイテムと、本編には無い設定「大桜日」

これらがこれからのシナリオにどう絡んでくるのかも見ものですね。


しかし・・・フォーゲルさんが書く美春は本当に可愛いなぁ(爆)



2006.12.23