〜『桜がもたらす再会と出会い』〜第10話〜

                       投稿者 フォーゲル


 「ハァ!?」
 俺は一瞬夢でも見てるのかと思った。
 だが、確かにテレビの中のアナウンサーは『2021年』だとハッキリ言っている。
 ためしに近くのコンビニに入ってその日の新聞を端から1部ずつ買ってみた。
 持っていたお金がそのまま使えたので、やっぱり夢なんじゃないかと思ったが、
 どの新聞も、西暦のところには『2021年』と書いてあった。
 「つまり・・・」
           (タイムスリップ!?)

 そんなファンタジーな言葉が俺の脳裏をよぎる。
 あまりにも突拍子の無い事態だが、それしか該当する言葉が無い。
 (まいったな・・・)
 頭を抱える。
 そもそも何でこんなことに・・・
 俺は意識を取り戻す前のことを考える。
 少なくとも、起きる前までは元の時代―――2006年に居たはずだ。
 (あの桜の木か?)
 初音島は島全体の枯れない桜が有名だが、もちろん元々は春だけに咲く普通の桜だった。
 少なくとも俺がこの島を離れるまでは。
 唯一例外だったのが桜公園の中心に存在感バツグンの『枯れずの桜』。
 あの木だけが一年中咲き続ける桜として有名だった。
 実際に帰って来てみて、島中の桜が枯れないのを見てビックリしたのだが・・・
 噂ではあの桜には『不思議なことを起こす力』があるという都市伝説に近い話があったりもする。
 俺はさすがに、それは話半分にしか聞いて無かったのだが・・・
 (それが原因か?)
 しかし、それが理由だとしても現状対応方法が分からない以上考えるだけムダだった。
 
 最初は『枯れずの桜』を研究しているだろう天枷研究所に行こうと思ったのだが・・・
 『タイムスリップをして来ました、どうしたらいいでしょう?』
 なんて言っても信じてもらえないだろうし、何故か足が向かなかった。
 正確には頭では行こうと思うのだが、本能がそれを避けようとするのだ。
 (家にも行く気はしないし・・・どうしよう?)
 結局俺はどうしようも無く、また桜公園の方に戻ってきた。
 ふと、枯れずの桜の方から、歩いてくる人影がいる。
 「うにゅ〜、伝言通りだとすると、今日のはずなんだけど・・・」
 (さくら先生!?)
 俺はやっぱりこれは夢なんじゃないかと思った。
 目の前にいるさくら先生は15年後の世界でも俺の時代と全く変わってない姿だったからだ。
 (純一先輩が言ってた『さくらは小学生のころからルックスが変わってない』ってのはマジだったのか)
 ふと、さくら先生が俺の姿を見る。そして、次の瞬間大きな声を上げた。

   『あ〜!!本当に居た〜!?』

 さくら先生は俺の姿を見つけると、驚きに満ちた顔を見せた。
 「柊くんだね」
 「わざわざ、確認しなくてもいつも学園で会ってるじゃないですか」
 「それは柊くんの時代での話でしょう?」
 「!!」
 さくら先生は俺が過去から来たってことを知ってる?
 「とにかく、詳しい事情説明はボクの家でするから一緒に来てくれる?」
 「・・・分かりました」
 現状頼れる人もいない以上、俺はさくら先生について行くことにした。


 さくら先生の家は典型的な日本家屋だった。
 庭があってそこには枝ぶりが立派な桜の木があった。
 俺はその桜の木が見える縁側に腰掛けて、さくら先生が入れたお茶を飲んでいた。
 「どう、落ち着いた?」
 新しいお茶を持って来ながら、さくら先生が俺の隣に腰を下ろす。
 「ハイ」
 「そう・・・良かった」
 「あの・・・」
 俺はさっそく俺自身に起こっている現象についてさくら先生に聞こうとした。
 「分かってるよ。何で柊くんが未来の世界にいるかだよね」
 さくら先生はフウッと深いため息をついた。
 そして、さくら先生はいきなり突拍子も無い話を始めた。
 「柊くんは・・・魔法って信じる?」
 「は?」
 そこからのさくら先生の話は正直オカルトじみていてにわかには信じがたい話だった。
 『枯れずの桜』には魔法の力があること。
 その桜を植えたのはさくら先生のお婆ちゃんであること。
 お婆ちゃんはさくら先生のことが心配で桜の木を植えたこと。
 その桜の木に魔法を掛けたこと。
 さくら先生のお婆ちゃんが魔法使いであること。
 そして、さくら先生と純一先輩がその力を引き継いで魔法を使えること。

 全てを聞いて俺はため息をついた。
 「信じる信じないは柊くんに任せるけどね。でも柊くんの身に起こってる現象の原因の一つだと思うんだ」
 「信じますよ」
 事実、タイムスリップなどという現象が起きてるのだ。信じる気にもなる。
 「でも、いくら桜の木の魔法があるって言っても、それだけでタイムスリップなんて起きないと思うんだよね」
 確かに、桜の魔法だけが原因だとしたら、しょっちゅう俺みたいに過去や未来にタイムスリップする人間が続出することになる。
 それはいくらなんでも考えづらかった。
 「となると、それだけじゃ無くて他にも何か原因があるってことですか?」
 「そうなるんだけど・・・柊くん、その指輪、何?」
 さくら先生は過去の時と全く同じ質問をして来た。
 俺は、フェアリーストーンをかざしながら過去と同じ答えを返した。
 ただ、過去の時とは違って今度はフェアリーストーンの言い伝えについても伝えた。
 恋愛関係のご利益と魔力が残ってるという伝説についてだ。
 「柊くん・・・それが伝説なんかじゃなくて事実だとしたら?」
 「え?」
 「それならタイムスリップの説明も付くかもしれない」
 さくら先生はそう言いながら、フェアリーストーンに自分の手をかざして目を閉じる。
 「やっぱり・・・」
 「何か分かったんですか?」
 「桜の木の魔力の波長とこの指輪の魔力の波長がピッタリ会ってる」
 「どういうことですか?」
 「簡単に言うとこの指輪が桜の木の魔力を増幅させたってこと」
 さくら先生によると元々大桜日というのは、桜の木に溜まった魔力が限界に近くなると、
 それを放出するために、魔力が桜の花びらとして変換される現象のこと。
 それで普段よりも桜が咲き誇ってるように見えるらしい。
 大桜日でただでさえ魔力が高まってたところへ、魔力の波長が同じフェアリーストーンが接近したことで、
 タイムスリップを起こすほどの魔力が発生したんじゃないか―――
 それがさくら先生の考えだった。
 そういえば、元の時代で意識を失う直前に『枯れずの桜』とフェアリーストーンが同時に発光したような・・・
 あの時は、気のせいかと思ったんだが。
 「だけど・・・あの桜に掛けられてる魔法は『人の純粋な願いを叶える』って魔法が掛かってるんだ」
 さくら先生が呟く。
 「ねぇ、柊くん。その魔力が増幅した時に何か願わなかった?多分その柊くんの願いに反応してこんな現象が起きたんだとボクは思うんだけど」
 言われて俺は考え込む。あの時願ったことというか思ったことっていったら・・・

   (例えば・・・15年後・・・俺と美春は・・・)

 (アレか?あのことか?)
 しかし、実際に15年後に飛ばされてることを考えると・・・
 「何か心当たりでもあるの?」
 「あの・・・実はですね」
 俺は正直にさくら先生に願ったことというか思ったことを話した。
 「なるほどね・・・これでこの現象の説明が付いたよ」
 「桜の木の魔力と、フェアリーストーン、俺の願い、3つが重なってこんな事態になったってことですか?」
 「そういうことだね。だけどそれならその3つの内、どれかが欠ければ柊くんは元の時代に帰れるってことだよ」
 3つのどれか・・・一番早そうなのは俺と美春の関係がこの世界でどうなってるのか知るってことだと思うけど。
 それを知るためにはさくら先生に聞いておきたいことがあった。
 「ところで、さくら先生。俺何故か自分の家や天枷研究所の方に足が向かないんですけど」
 「どういうこと?」
 俺は、頭じゃ向かおうとするんだけど、本能がまるで警戒でもするかのようにためらうってことを話した。
 「うにゃ、ボクもそっちの分野は専門外だから詳しいことは分からないけど・・・柊くんの存在自体がこの世界には本来はいないはずの存在だからね」
 「SF小説とかでよくあるタイム・パラドックスとかなんですかね」
 「多分、そんな感じなんだと思う。この時代を生きている柊くんと過去から来た柊くんが万が一でも出会ったりしたら、何が起こるか分からないし」
 「そんなにヤバイんですか?」
 「最悪、どっちかは存在が消えちゃうかも」
 「じゃあ、『俺の願い』を実現させて元の時代に戻るのは・・・」
 「多分、無理だと思う」
 普通はガッカリするところだが、俺は何故かホッとしていた。
 「確か、元の時代にいた時は大桜日だったんだよね」
 さくら先生が確認するかのように聞いてくる。
 「は、はい、それがどうしたんですか?」
 「じゃあ、元の世界で大桜日が終わるか・・・」
 そう言いながら、さくら先生はもう一回フェアリーストーンを見つめる。
 「その指輪の魔力が消えれば強制的に元の時代に戻されるんじゃないかな」
 俺はじっとフェアリーストーンを見つめる。朝見た時よりは輝きが減っているように見えた。
 (俺をこの時代に留まらせてるだけでも魔力を消費してるのか?)
 「まあ、現状ではどうしようも無いし、元の時代に戻る時までボクの家でゆっくりしてるといいよ」
 「ええ、そうします」
 確かに、今の状況ではジッとしているのが一番賢そうだった。
 「だけど、柊くん・・・そんなことを願ったなんて、昔から・・・」
 「へッ?何ですか」
 「べ〜つ〜に〜」
 さくら先生は意味ありげな含み笑いを浮かべながら、奥の方に消えていった。




 ポカポカして気持ちのいい日だった。
 さくら先生の言葉に甘えてこうしてゆっくりと横になっていると、ここが15年後の未来世界だと言うことを忘れてしまいそうだった。
 (未来の世界か・・・あんまり俺の世界と代わらないんだな)
 もちろん、100年も200年も未来に来ている訳じゃないんだから劇的に変わってても困るけど。
 そんなことを考えながら、俺はこの時代を生きているだろう15年後の自分に思いを馳せる。
 (俺は・・・この世界でちゃんと生活出来てるのかな?結婚とかもして・・・)
 もちろん、さっきのさくら先生の話でそれを『過去の』俺が知ることは出来ないのだが。
 (俺の結婚相手は・・・)
 そこまで考えて、俺は自分の顔が真っ赤になるのを感じる。 
 元の時代で見た、ウェディングドレス姿の美春を想像したからだ。
 (俺はマジでアイツにベタ惚れらしいな)
 思わず苦笑を漏らす。

  「さくらお姉ちゃん〜」

 元気な声がしたのはその時だった。
 俺は声のした方を思わず見る。
 縁側の方にあるもう一つの出入り口から4・5歳の女の子がこっちを見ていた。
 『?』
 俺はその女の子を見て、不思議な感じになった。何かどこかで会ったことがあるような・・
 「あ、いらっしゃ〜い。春菜(はるな)ちゃん」
 その元気な声に呼ばれたのか、さくら先生が奥から出てくる。
 「こんにちは〜さくらお姉ちゃん」
 春菜ちゃんと呼ばれた女の子はさくら先生に元気よくあいさつする。
 それからこっちを見て、「こんにちは!」とあいさつをした。
 「さくらお姉ちゃん、この人だれ?」
 春菜ちゃんは俺のことを疑問に思ったのかさくら先生に質問する。
 「う〜んとね、ボクの外国に行ってた親戚の人だよ。しばらくボクの家にいることになったんだ」
 さすがに『過去から来た人です』と説明するわけにもいかず、無難なウソを付く。
 「そうなんだ〜」
 春菜ちゃんは俺の方を興味津々な眼差しで見つめる。
 どうもさくら先生の『外国に行ってた』ってあたりが春菜ちゃんの興味を引いてるらしい。
 そして、俺はその後春菜ちゃんの質問攻めにあった。

  「どこの国にすんでたの?」
 
  「いくつのころから行ってたの?」

  「外国でおともだちは?」 etc,etc・・・


 全ての質問に答え終わった時、春菜ちゃんは質問疲れなのか?
 俺の膝の上で眠ってしまっていた。
 「・・・」
 春菜ちゃんの寝顔を見ながら、俺はますますどっかで会ったことがあるような変な感覚を感じていた。
 日の光の関係で時々茶髪にも見えるオレンジ色の髪、さっきまでの旺盛な好奇心。
 その時、俺の答えの一つ一つに輝かせていたクリクリッとした大きな瞳・・・
 (ああ、そうか―――どこかで見たことあると思ったら―――)
 俺はやっとどこかで会ったことあると思ったのかが分かった。


       (この子、子供の頃の美春に印象がそっくりなんだ―――)



                  〜第11話に続く〜


                   <後書きコメント>

こんばんわ〜フォーゲルです。第10話目をお送りします。

新年一発目&記念すべき10話目なのに、実質説明の話なので語ることがほとんど無い(汗)

一応枯れずの桜の魔法効果に関してはゲームからの筋を外してないと思うのですが、間違ってたらゴメンなさい。

Tの桜に関しては『純粋な願いであれば誰の願いでも叶える』って感じだったと思うのですが・・・

(ことりや頼子さんを見る限りは)

内容に関しては、やっぱり春菜ちゃんの存在が未来編の伏線って感じですね。

読者の皆さんは事情説明を終えたさくらの最後のセリフが気になるでしょうが・・・

そのあたりを楽しみにしながら、次回を楽しみにして頂けると嬉しいです。それでは!!


管理人の感想

さて、第10話の公開です。

前回の話の伏線通り、未来編に突入しましたねぇ〜。

さらに大桜日の伏線も・・・なるほど。こうして未来に来たのは桜の魔力が上がっていたからなんですね。

これに関しては、特に矛盾などはないと思います。むしろ、よく考えられているなぁと感じました。

そして早速さくらと遭遇。・・・というよりは、さくらは冬貴がこの世界に来ることが事前に分かってたっぽいですね。

そういえば今回は美春が出てきていませんねぇ・・・まあその代わりに「春菜」ちゃんが出てきたのだと思いますが(ニヤソ)

事情説明を終えた後のさくらの台詞は・・・私は何となく分かりましたが^^;


それでは、今回もありがとうございました〜^^

読者の皆様は、次回もお楽しみに!



2007.1.6