〜『桜がもたらす再会と出会い〜第7話〜』
投稿者 フォーゲル
【カン、カン、カン―――】
美春の足音に合わせて鉄製の階段が甲高い音を立てる。
ここは天枷研究所。
美春の自宅にして、初音島の桜研究の第一人者、天枷教授の研究拠点である。
研究所は地上と地下に別れており、地上は桜研究の拠点になっており、地下では『ある研究』が進んでいる。
美春が向かっているのはその地下の研究所だった。
「・・・」
美春のチャームポイントともいえる笑顔は今は無くその顔には悲しみが宿っていた。
そしてある一室の前に立つと、自分の手をかざす。
【静脈データ、ニンショウ。ロックカイジョシマス】
機械的な音声が流れたと思うと、その部屋の扉が開いた。
美春はその部屋の中に入った。
その部屋は一般人には良く分からないものが散乱していた。
ただ、その部屋にあるものはどれも完璧なまでの手入れがされており、どれもが重要なものであることは間違いないようだった。
美春はその機材のようなものを踏み越えると、近くにあった椅子に座った。
(どうしたんですか―――今日は―――)
その声は直接美春の頭の中に流れてきた。
普通ならその段階でびっくりするところなんだろうが、美春は慣れているのかそれも気にせず淡々と喋り始める。
「なんでこんなことになっちゃったのかなぁ・・・って」
(最近『美春さん』の話の中に出てくる人―――冬貴さんのことですか?)
「うん・・・最近はほとんど喋ってもくれないし。どうしたらいいのか・・・」
【ポタッ、ポタッ・・・】
今まで堪えていたのか、美春の瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。
「イヤだよ・・・ずっとずっと逢いたくてせっかく再会出来たのに、こんな関係なんて・・・」
(元気出して下さい。美春さん・・・大丈夫ですよ)
「えっ?」
頭の中に響いた声に美春は顔を上げる。
(今はただ、お互いの気持ちがすれ違ってるだけだと思います)
「でも・・・怖いよ。もし本当に冬貴君に嫌われてたらって思うと・・・」
(そんな弱気な美春さんは美春さんらしくないですよ)
「美春らしくない?」
(そうです。・・・きっと冬貴さんもそう思ってると思いますよ)
「そっか・・・そうだよね」
その言葉でようやく、我に帰ったのか美春は顔を上げて笑った。多少涙の後は残っていたが。
「美春、もう一回冬貴君と会ってみる。プレゼントも渡さないといけないし・・・ありがとう!!」
美春はその言葉を残して部屋を出て行った。
(頑張って下さいね。美春さん―――)
(ダァ―――!!もう!俺って勝負運無いな・・・)
俺はそんなことを毒つきながら、石段を昇っていた。
(そもそも、あんなことがあっていいのか?)
それは、俺が今こうやって石段を昇ってる訳にも繋がっているのだが。
「冬貴、ちょっと来い」
「何だよ」
自分の名前を呼ばれた俺は、その場で振り返る。
そこには今度の大会で試合に出ると思われる野球部のメンバーがいた。
「どうしたんだ?みんな揃って」
「実はな・・・ちょっと監督の頼まれごとをしなくちゃならなくてな」
何でも、今度の大会のゲンかつぎとやらで必勝祈願のご利益のあるお守りを取って来なくちゃならないらしい。
「そこで、誰が取ってくるかは公平に試合に出る可能性のある奴らでジャンケンで決めようってことになってな」
それで俺のことを探してたのか・・・
「分かったよ」
「よし、じゃあ行くぞ。一回勝負な」
『せ〜の、ジャンケン・・・』
「最初の一回で俺の一人負けってどういうことだよ」
そんな訳で俺はみんなの代わりにそのお守りとやらを取りに神社に向かってる訳だ。
やがて、石段が途切れやっと神社の社が見えてくる。
「ふう、やっと着いたな」
俺はさっさと用事を済ませて戻ろうと思っていた。
「だけど、誰からそれを受け取ればいいんだ?」
肝心なこと聞くのを忘れていた。
周りを見渡す。と賽銭箱の近くにに知り合いが立っていた。
・・・一瞬そのまま回れ右して帰ろうかと思ったのだが、部活関係の用事で来ている以上、そのまま帰る訳にもいかず、
俺はその人物に声を掛けた。
「何してるんですか?純一先輩」
「ああ、冬貴か?お前こそ何やってるんだ?こんなところで?」
俺はここに来た理由を簡単に説明する。
「なるほどな。そういう願掛けみたいな物の類は俺の知り合いがやっている可能性があるぞ」
「そうなんですか?」
「呼んでやろうか?」
俺は一瞬ためらったが、頼れるのが純一先輩しかいなかったのでお願いすることにした。
「はい、これで全部ですね」
俺はその大量―――おそらく部員全員分だろうと思われるお守りを受け取る。
「だけど、知りませんでしたよ。純一先輩のクラスメイトが巫女さんやってるとは」
「俺だって最初は知らなかったぞ、以前食堂で巫女服姿になられた時は何かのコスプレかと思ったしな」
「あ、朝倉様・・・その時のことは忘れて下さい」
そう言って胡ノ宮先輩は頬を赤く染める。
「ああ。悪い、悪い。・・・だけど」
純一先輩は大量のお守りと俺とを見比べながら言う。
「冬貴、お前の分は要らなくないか?」
「何でです?」
「何でって・・・お前、自分専用の貰ってないのか?・・・美春から」
「美春から・・・ですか?」
純一先輩によると、俺が今度の大会で試合に出るかも知れないから何かしてあげたいって美春が相談してきたらしい。
「それで、2人でいろいろ回って何か無いかと思って探したんだけど、これといった物が無くてな」
「最後に私のことを思い出した朝倉様が、天枷様を連れてここに来たんです」
純一先輩の後に胡ノ宮先輩が言葉を続ける。
「ちょっと聞きたいんですけど・・・それっていつのことですか?」
「いつだったっけ?環?」
「あれは確か・・・そうそう連休中の雨が降った日のことですね」
「!!」
―――連休中の雨の降った日―――
それは俺が美春と純一先輩が2人でいるところを目撃した日だった。
(じゃあ、全部俺の勘違い―――?)
俺の脳裏にあの日―――美春のことを突き放した日のことが蘇る。
あの時、俺は自分のことばっかり考えてて美春の気持ちなんかこれっぽっちも考えてやしなかった。
去り際に、美春は―――泣いていた―――
【ガタッ】
急に立ち上がった俺に純一先輩と瑚ノ宮先輩は驚いたようだった。
「ど、どうした。冬貴」
「俺、美春に謝らないと・・・」
「謝る?そういえば美春もここのところ元気が無いって音夢の奴が心配してたな・・・何かあったのか?」
「実は・・・」
俺はここ数日の出来事を純一先輩に話す。
「はぁ?何で俺と美春が付き合ってるなんて解釈になるんだよ?」
「だって2人であんな楽しそうに会話してるの見たら、誰だってそう思うでしょう!?」
「はぁ・・・しょうがねぇなぁ。お前は」
純一先輩はそう言うと、俺の傍らに置いてあったお守りが入っている袋を肩に担ぐ。
「冬貴、これは付属の野球部の連中に渡して置けばいいんだな?」
「え?あ、はいそうですけど・・・どうしてですか?」
「これは、俺が持っていってやるからお前は美春を探してとっとと謝ってこい」
「で、でも・・・」
すると、今まで黙っていた瑚ノ宮先輩が口を開いた。
「柊様、私も早く謝った方がいいと思います。天枷様、柊様のことを想って真剣でしたから・・・」
「そういうことだ。ほら、早く行け」
「・・・分かりました!!ありがとうございます!!」
俺は2人に背を向けて走り出そうとした。
「あ、ちょっと待った。冬貴」
近寄ってきた純一先輩が俺の肩に手を置きながら喋り始める。
「いいか、冬貴。今のお前の話を聞いてお前にとって美春が大切な存在だってのは分かった。
だけど、俺や音夢にとっても美春は小さいころから知ってる妹みたいなものなんだ。
だから、またお前が美春を傷つけるようなことがあったら・・・分かってるな?」
真剣な表情で話す純一先輩。俺の肩に置かれた手にグッと力が入ったのが分かった。
「はい!」
俺も真剣な表情で一言返事すると、走り出した。
(美春・・・どこだ?)
俺は美春の姿を探して、島の中を走り回った。
なじみのチョコバナナの屋台、桜公園の高台・・・
美春の行きそうな場所は徹底的に探した。
しかし、美春はどこにも居なかった。
最初は美春を探して謝りたいと思っていた。
だけど、美春に会えずにいるうちにだんだん考えが変わってきた。
(謝っても許してはくれないかも知れない―――だけど、俺は―――)
『ただ、美春に会いたい―――』
最後の方はその想いだけが俺の体を動かしていた。
そして、自分の中にあったモヤモヤな気持ちの理由も薄々気付きかけていた・・・
(どこにもいない・・・一体どこにいるんだ?)
あちこち探して結局俺は自分の家の近くまで戻って来てしまっていた。
(俺の家―――いや、さすがにそれは無いだろ)
それでも一応俺は自分の家に向かい、門の前を見てみた。
そこに―――
「あれ?冬貴君?どうしたの?そんなに汗びっしょりで?」
美春は立っていた。
俺は思わず膝から崩れ落ちた。
「美春、ゴメン」
家の前で待っていた美春を家の中に招き入れて、俺の口から最初に出た言葉がそれだった。
結局、何を言っても言い訳にしかならないと判断した俺は、何故あんな態度を取ったのか正直に話した。
「・・・」
美春は何も言わず、ただ俺の話を黙って聞いていた。
俺が話終わると沈黙が落ちた。
どれくらいの時間がたったのだろうか?
「・・・許さない」
ずっと黙っていた美春の口から最初に漏れた言葉がそれだった。
(!!)
覚悟していたこととはいえ実際に聞くと辛かった。
俺は顔を上げることも出来ずにうつむくしか無かった。
「冬貴君・・・手を出して」
美春に言われるままに俺は素直に手を出す。
【ポン】
手に生まれた柔らかい感触に俺は思わず顔を上げる。
俺は自分の手の中に置かれたものをマジマジと見つめる。
バナナ型をした柔らかいものが、俺の手の中にあった。
「そのお守りを着けて、今度の試合に出て活躍出来たら許してあげる」
美春の声には怒りは無く、むしろホッとしたような感じが滲んでいた。
「その・・・怒ってないのか?」
俺は思わず聞いてしまう。
「だって、勘違いだよね?勘違いは誰でもあることだし」
(よ、良かった〜)
俺は思わず心の中でそんな声を漏らす。
「良かった」
美春も俺と同じ台詞を言った。
「お守りがムダになっちゃったら・・・冬貴君に嫌われちゃったらどうしようって・・・」
美春の声には涙声が混ざっていた。
「み、美春?お前が泣くなよ」
「だって、冬貴君は全然口聞いてくれないし、毎日不安だったんだもん・・・」
「分かった、分かった、俺が悪かった!だからもう泣くなって・・・」
「う、うん、ゴメンね」
美春はそう言って涙の跡が残る笑顔を見せた。
その顔は今まで俺が見たどの笑顔よりも可愛い、守ってあげたくなる笑顔だった。
(ああ、そうか―――)
俺はそんな美春を見て確信した。
(俺は、美春のこんな笑顔がいつも見たかったんだ―――)
ある晴れた日の昼休み、俺は学園の屋上に来ていた。
初夏が近づいてきたせいか、気候も安定しており昼寝をするには丁度いい感じだ。
(ふわぁ〜あ)
俺は気持ちよさに身を任せ、フェンスに持たれかかりそのまま眠りに落ちようとした。
「冬貴君?何やってるの?こんなところで?」
声に気付いて、目を開けると美春が立っていた。
「お前こそ、何やってんだ」
「美春は、さっき杉並先輩が屋上に逃げたっていう目撃情報があったからここに来たの。冬貴君、見てない?」
「いや?見てないな」
「そう?おっかしいな〜・・・あ、そういえば冬貴君、試合で大活躍だったんだって?噂で聞いたよ?」
「ああ、おかげさまで」
俺は、試合でチームを勝利に導く活躍をしていた。
「美春のお守りのおかげかもな」
「ううん。冬貴君の実力だよ。美春のお守りのおかげだと思ってくれるのは嬉しいけどね」
俺はふと、美春の指が目に入る。
美春の指には切り傷やバンソーコーなどがたくさん巻かれていた。
「美春、その指の傷・・・」
「え?ああ・・・さすがに裁縫は料理と違ってうまく行かなくて・・・」
「・・・悪いな」
「気にしなくていいよ。美春がやりたくてやったことだから」
だけど、気まずかったあの時期に美春は俺のために手作りでお守り作ってくれたのか・・・
【トクン】
俺の心臓の鼓動が早くなる。
以前の俺は理由が分からず戸惑っていたが、今はその理由も分かっていた。
「杉並先輩がいないなら、美春は戻るね。冬貴君、寝るのはいいけど寝過ごしちゃダメだよ?」
「ああ、分かってるよ」
そう言い残し、美春は屋上を出ていった。
「杉並先輩。大丈夫ですよ」
俺はそう呼び掛ける。
「ふう、助かったぞ、柊よ」
屋上の物陰から、杉並先輩が出てくる。
「言っておきますけど、これで貸しは無しですからね」
「ああ、分かっている。しかし・・・」
杉並先輩は俺の顔を見て笑みを浮かべる。
「いい顔をしているな。柊よ。その分だと自分の気持ちに気付いたようだな」
「・・・はい」
ここ数日のモヤモヤした気持ち、その理由は物凄く単純なことだった。
「だけど、分からないものですね」
「何がだ?」
「俺の好みは白河先輩や音夢さんみたいなおしとやかな人だと思ってました」
「恋とは理屈ではないからな。理屈ではないからこそ真剣に向き合わねばならない」
「・・・そうですね」
「では俺ももう行く。見つかっても今のわんこだったら何とか対応出来るだろう。では、さらばだ」
「・・・」
誰も居なくなった屋上で俺は一人自分の想いを実感していた。
(俺は―――美春のことが―――好きだ)
〜 第8話に続く〜
すっかり週間連載作家気分のフォーゲルです。
ちょっとななこの気持ちが理解出来た(笑)(っても無理してる訳じゃないが)
さて、『雨降って地固まる』的な第7話をお届けします〜
実は仲直りしたことよりも、冬貴が自分の気持ちに気付いたことよりも重要なのは今回の冒頭シーンだったりします。
美春とテレパシーのような会話をしてるのは誰なのか?(って『美春さん』って時点で9割方バレてる気が・・・)
後は今回純一をカッコいいポジションにしました。(本編主人公だしねぇ・・・)
余談ですが、このSSでの美春の家事設定は「料理得意、裁縫ダメ」って感じにしてます。(それの方が個人的には萌えるし)(爆)
(これ書いた時点ではゲームのアリスルート攻略してなかったんですよ・・・)
それでは、失礼します〜
管理人の感想
ようやく、冬貴が美春への想いを自覚しましたね。
それによって、何か二人の関係に変化は訪れるのか・・・。
そして冒頭に出てきた伏線のシーン。
美春に話しかけてくる謎の人物・・・というより、もう読者の方々は分かったのでは?
私は”彼女”ではないかと睨んでいます(ニヤソ)
あと、とりあえず最後に言っておきたいことは・・・。
美春、可愛いよ!(壊)