〜『桜がもたらす再会と出会い』〜第6話〜

投稿者 フォーゲル


 俺が、美春と純一先輩のデート現場を目撃してから一週間が過ぎた。
 幸い連休中だったことと、連休が終わってからは朝練があることで朝から美春と顔を会わせることは無くなっていた。
 とにかく今は美春と顔を会わせることが辛かった。
 もちろん美春にあの日のことを聞ければ良かったのだが・・・
 正直、俺は聞く気にもなれなかった
 しかし、朝練があるからと家に迎えに来なくていいと連絡した時のことはヤバかった。
 『そうなんだ。分かったよ・・・ねぇ、冬貴君?』
 『何だよ』
 『何か辛いことでもあった?美春で良かったら相談にのるよ?』
 『・・・どうしてそう思うんだ?』
 『何だか声が沈んでるから。いつもの冬貴君だったらもっと明るい声だし』
 『そうか?別に何も無いけどな』
 俺は何とか美春に気取られないように努めて明るい声を出すようにする。
 『本当に?美春と冬貴君は幼馴染なんだから、何かあったらすぐに相談してね』

 ―――幼馴染―――
 
 その言葉が俺の心をまたざわつかせたような気がした。
(そうだよな・・・俺と美春は幼馴染なんだよな)
 俺は今更ながらそのことを実感した。
 (何故だろう・・・当たり前のことのはずなのに、どうしてこんなに悲しいんだろう)
 【ツー・・・】
 俺の頬をいつの間にか涙が伝っていた。
 「ゲッ、ヤバい、ヤバい」
 俺はあわてて涙を拭く。
 こんなところ誰かに見られたら恥ずかしいからな。
 そんな時後ろから聞きなれた声がした。
 「それで、あの一件は何とかなったの?美春」
 「はい!音夢先輩のアドバイス通りに」
 音夢さんと美春?
 (マ、マズイ)
 俺はとっさに桜並木の木の上に登って2人をやり過ごすことにした。
 ほとんど条件反射的に最近の俺は美春を避けるようになっていた。
 「だけど、まさか美春から『ラブレター貰ったんですけど・・・』って相談を受けるとは思わなかったな」
 「はい、美春もそんな相談をすることになるとは、意外でした」
 自分で言ってしみじみ頷く美春。
 (もうちょっと自信持ってもいいような気もするけどな)
 俺はそんなことを思う。
 「でも、さすが音夢先輩です。アドバイス通りにしたら、その男の子も分かってくれました」
 「私はただ、『ウソはつかない方がいいんじゃない?』って思っただけよ。その男の子もウソをつかなかった美春の気持ちを理解したから諦めもついたんじゃない?」
 どうやら美春は音夢さんにラブレター貰った時の対処法を聞いていたらしい。
 音夢さんもその手のものはたくさん貰ってるみたいだから美春よりは対処する方法を知ってるようだ。
 「それで、美春、話は変わるけどプレゼントは完成したの?」
 「ハイ!何あげるかは決めたんですけど・・・」
 話題が変わり2人の声が遠ざかって行くのを確認した俺はゆっくり木の上から降りる。
 「・・・」
 俺は心のどこかであの時の美春の『好きな人』うんぬんというのはその場しのぎのウソかも知れないと思っていた。
 しかし、音夢さんのアドバイスを受けてああいう発言をしたということは、ウソをついているという可能性はほぼゼロだろう。
 (プレゼントか・・・純一先輩へのプレゼントかな)
 俺はそんなことを思いながら学園に続く道を歩き出した。


 

 俺は校舎の裏に回りフェンスを乗り越えて、桜公園の方に回ろうとした。
 ここを通れば最短で学園の外に出られる。
 人もほとんど通らない秘密の通路みたいなもので案の定人は居なかった。
 走りながら俺は自分に自己嫌悪を抱いていた。
 (何であんなこと言っちゃったんだろう)
 
 時間は2日ほど前に遡る。
 
 HRが終わり、俺は速攻で帰る準備を始めた。
 そんな俺に声を掛けて来た人物がいる。
 美春だった。
 「あの・・・冬貴君?」
 俺が美春を避けているというのは、美春も気付いているのかいつもよりもおどおどと話し掛ける。
 「何?」
 俺は思わずキツイ口調になりながら語りかける。
 「ちょっと・・・話があるんだけど外に来てくれない?」
 どうもここでは話せる内容ではないらしい。
 「分かったよ」
 俺は美春と一緒に教室を出た。
 
 風が吹き抜ける屋上に俺達はやってきた。
 「で、何だよ。話って?」
 「・・・」
 だが、美春は黙ったまま何も答えない。
 「話が無いなら―――」
 俺は立ち去ろうとする。
 「待って!!」
 美春が声を上げる。美春らしくない大声に俺の足は思わず立ち止まる。
 「冬貴君・・・美春のこと避けてるでしょ?」
 「そんなことないけど」
 「じゃあ、何で今も美春から目を逸らしてるの?」
 「・・・」
 「ねえ、冬貴君・・・美春が何かした?怒らせるようなことをしたのなら、美春、謝るから」
 (そうじゃない・・・そうじゃないんだ)
 俺は心の中でそう呟く。
 結局、全ては俺のせいだ。俺のこのモヤモヤしてどうにもならない心が結局は美春も苦しめている。
 「だから、美春のせいじゃないって。俺の問題だから・・・放っといてくれ」
 そう言って俺は話題を終わらせようとする。
 「放っとけないよ!だって美春は―――」
 美春が次の言葉を続けようとした瞬間俺は思わず言い放ってしまっていた。
 「放っとけよ!もう1人にしてくれ!!」
 「!!」
 言ってしまった後に気がついた。目の前にいる美春の瞳には悲しみの色が宿っていた。
 「あ・・・ゴ、ゴメン」
 思わず謝ったが、もう後の祭りだった。
 「う、うん・・・大丈夫・・・ゴメンね。冬貴君。美春・・・帰るね」
 俺に背を向けた美春の肩が小さく震えているような気がした。
 

 
 その時のことを思い出し、俺は走りながら自嘲気味の笑みを漏らす。
   『だって美春は―――』
 あの言葉の後、何で俺はあんな酷いことを言ってしまったんだろう。
 美春はただ純粋に俺の様子が変わった原因が自分にあると思っただけで、俺のことを心配してくれたのに・・・
 いや、本当はその理由も俺には分かっていた。
   『冬貴君の幼馴染なんだから―――』
 その言葉が続くと思った瞬間、とっさにあの言葉が口をついて出てしまっていた。
 幼馴染―――小さい頃からの知り合いである以上どうしてもついて回る言葉だ。
 頭じゃ分かってる。でも最近の俺はその事実を受け入れられなくなってきている。
 それと同時に俺の頭の中にはある考えが浮かんでは消えるようになってた。
 (まさかな・・・)
 それだけは無いと思いながら、俺はフェンスを乗り越えた。
 その時、聞き慣れた声がした。
 「何だ、最近の野球部はアスレチック・トレーニングでもしているのか?」
 俺はその声にバランスを崩してフェンスの上から落っこちた。
 「痛って〜・・・何するんですか」
 「何を言う。勝手にバランス崩した柊が悪いのではないか」
 俺は目の前にいた人物・・・杉並先輩に向かって文句を言った。



杉並先輩は俺に用事があるとかで、ずっと探し回っていたらしい。
 俺はとりあえず、一旦校内に戻り誰もいない教室を見つけるとその中に入った。
 「で、杉並先輩?何ですか?俺に用事って」
 椅子を出して座った俺に、杉並先輩は口を開いた。
 「うむ、それなんだがな・・・わんこの弱点を教えて貰いたい」
 わんこってのは美春のニックネームだ。
 「弱点って・・・バナナ好きっていう最大の弱点があるじゃないですか?」
 「そうなんだが、それ以外の弱点があればってことだ」
 杉並先輩によると、ここ最近非公式新聞部の活動がことごとく風紀委員によって封じられているらしい。
 それに一番貢献しているのが、他ならない美春だという。
 「美春がですか?とてもそうは思えないですけど・・・」
 「最初は俺もそう思ったんだがな。昨日などあやうく捕まりそうになってな。あわてて逃げた」
 杉並先輩を追いつめるとは、確かに美春らしくない気もする。
 音夢さんならともかく、美春ではせいぜいが杉並先輩の手のひらで踊らされるのが関の山だろう。
 「それで、新たな弱点ですか・・・」
 「そうなのだ。何かないか?my同志よ」
 「俺、同志になった覚えは無いですよ」
 俺は苦笑を浮かべながら、ため息をつく。
 「・・・俺に聞くより純一先輩に聞いた方が早いと思いますよ」
 「朝倉にか、何故だ?」
 「それは・・・」
 俺はそこまで言って口をつぐんだ。もう『そのこと』は現実として受け入れなければならないはずなのに、俺は口にすることをためらった。
 あるいは、『そのこと』を口にすれば、それを認めたような気がして怖かったのかもしれない。
 「・・・まあいい」
 俺が何も答えないのを見て杉並先輩が言った。
 「確かに弱点なんか調べても無意味かも知れないからな」
 「どういうことですか?」
 疑問に思って聞き返した時、声がした。
 「こっちの方に逃げて来たような気がするんだけど」
 美春!?
 「むぅ・・・わんこの奴的確に追ってきているようだ」
 どうやら、杉並先輩の言ってることはウソではないらしい。
 「柊よ。俺は隠れる。お前もどこかに隠れたほうがいいぞ」
 「えっ!ええっ!そんな急に言われても」
 杉並先輩はあっという間に姿が消えた。
 (アンタは忍者か?)
 心の中でそんなツッコミを入れながら俺は近くにあった掃除用具入れの近くに隠れた。
 

 【ガラッ】
 「あれ〜おかしいな〜杉並先輩の声が聞こえた気がしたんだけど」
 美春が入ってくる。
 俺は掃除用具入れの中から美春の様子を伺う。
 (・・・?)
 俺は久々にマトモに見る(あの出来事以来俺と美春はほとんど口を聞いてなかった)美春に妙な感じを受ける。
 「・・・気のせいだったのかな」
 そんなことを言いながら美春は教室を出て行った。
 俺はゆっくりと掃除用具入れから出る。
 (何か・・・変だったな)
 「柊もそう思ったか?」
 「うわっ!?ビックリした〜普通に出てくださいよ」
 何故か天井から逆さづりで現れた杉並先輩に俺はビビッた。
 「柊よ。お前も気付いたか?わんこの様子」
 「え、ええ・・・おかしいってのは分かりました」
 「それだけか?」
 天井から着地した杉並先輩は俺の答えを聞くとふうっとため息をついた。
 「じゃあ、単刀直入に聞くが・・・柊、わんこと何かあったか?」
 「へっ・・・な、何でです」
 「さっきのわんこの顔、よく見たか?辛いことがあったのを無理して明るく振舞ってたように俺には見えた」
 「・・・」
 「ちょうど、俺が見つけた時の柊と同じような顔をしていたぞ」
 「・・・」
 「何があった?俺で良ければ話を聞いてやるが」
 「・・・実は」
 俺は思い切って今まで俺と美春の間に起こったことを杉並先輩に話した。
 今にして思えばそんな話を杉並先輩にするってのは自爆行為な気もするが・・・
 この苦しい気持ちをもう自分1人の心の中に溜め込んでおくのは辛かったのかも知れない。
 「・・・なるほどな」
 俺の話を聞き終えた杉並先輩はそれで納得した表情を見せた。
 「正直、あんなこと言っちゃった以上、どう美春に接していいのか分からないんですよ」
 今更、どのツラ下げて謝ればいいのか・・・
 「簡単だ」
 「え?」
 杉並先輩が言う。簡単って・・・
 「柊・・・お前が自分の気持ちに正直になれば大丈夫だと俺は思う」
 「正直にってどういうことですか?」
 「ここ数日の柊自身のわんこに対する気持ちをよく考えてみればおのずと答えは出るぞ」
 「・・・」
 「では,俺はもう行く。わんこの動きが収まるまで非公式新聞部も活動は休止だ」
 そう言って杉並先輩は教室を出て行った。
 俺は自分の気持ちについて、もう一度冷静に考えて見ることにした。


                 〜第7話に続く〜 



         こんばんわ〜フォーゲルです。第6話をお届けします!

     前回のラストで一気にシリアスモードに突入して、そのままシリアスストーリーです。

        今回の話は冬貴にどれだけ感情移入出来るかがポイントかと思ってます。

        なんせ、美春を傷つけるという大罪をやらかしているからな(汗)

      読者の皆さんが感情移入しやすいように冬貴の心理描写は詳しく書いたつもりですが。

少ない笑いポイントとしては、杉並としては2人に仲良くしてもらった方が活動しやすいとかいう当たりか?(笑)

        次回は山場最後なので頑張って行きたいと思います。それでは!!


管理人の感想

さらに悪化する二人のすれ違い・・・切ない!切なすぎる!(笑)

ってなわけで第6話でした〜(?)

今回の話もある意味王道ですよね。純一に嫉妬して、辛いからという理由で美春を避け続けて怒鳴ってしまって。

でもそれが良い!しかし美春の反応は、幼馴染というよりは――

まあその辺りも期待して、次回を楽しみにしておきましょう^^



2006.12.9