『桜がもたらす再会と出会い〜第5話〜』

                          投稿者 フォーゲル


 「お前ら〜連休に入るからって気ぃ抜くなよ〜」
 暦先生の言葉と共に教室に開放感が広がる。
 このHRを持ってGWの連休に入るとあって皆、連休中の予定を話し合ったりしながら、帰り仕度をしている。
 「さ〜て、俺はどうしようかな」
 と言ってもこの連休中は野球部の練習やら試合がびっしり入ってるので遊ぶ余裕は全く無いが。
 「冬貴君〜一緒に帰ろ〜」
 「美春か・・・珍しいな、いつも音夢さんとかと一緒に帰ってるだろうが」
 風紀委員の美春は学園の見回りの時は、大抵遅いし仕事が無い時は音夢さんたちと一緒に帰ってることが多い。
 「音夢先輩は今日学園の見回りがあるし、朝倉先輩はもう帰っちゃったし。冬貴君は今日は部活休みでしょう?」
 「俺は代役か?」
 しかし、俺にしてみても1人で帰るよりはマシだろう。
 「分かったよ」
 俺はため息つきながら答えた。




  5月になって少しずつ暑くなって来ていた。
 もっとも1年中桜が咲き誇るこの初音島では見た目で季節の移り変わりを実感するのは難しい。
 それでも日に日に強くなってくる日差しは春が過ぎ季節が夏に変わって行くのを実感させてくれた。
 「冬貴君、学校には慣れた?」
 「ああ、一ヶ月もたてば大分な。購買での争奪戦でも負けなくなったぞ」
 俺達はそんな話をしながら桜並木を歩いていた。
 「それにしても、冬貴君スゴイね〜」
 「何が?」
 「だって野球部入って一ヶ月で今度の練習試合のメンバーに入ったんでしょう?」
 「ベンチ入りの最後の1人だけどな」
 「それでもスゴイよ」
 美春が隣でこくこくと本当に感心したように頷いている。
 いや、本当に感心してるんだろうな。コイツは。
 俺はそんなことを考えてると、ふと思い出したことがあった。
 「そういや、美春。親父が一週間前からお前の家で世話になってるみたいだな。悪い」
 「ううん、大丈夫だよ。お父さんがお願いしたことだし」
 初音島に戻って来てから知ったことだが、俺の親父と美春の父親の天枷教授は大学時代の同窓生だったらしい。
 親父が初音島に戻ってきたのを知ってこの桜研究に力を貸してくれと言って来たのだ。
 「それで、冬貴君・・・ご飯とかはどうしてるの?」
 「親父と2人の時には、分担していろいろ作ったりしてるけどな。1人だとどうしてもおっくうになっちゃって」
 「まさか、一週間コンビニや店屋物なんて言わないよね?」
 「だ、だってそっちの方が安上がりだし、手間も掛からないぞ?」
 「そうかも知れないけど、運動系の部活に入ってるんだからちゃんとバランスの取れた食生活しなきゃダメだよ」
 美春がまるで母親のように俺を注意する。
 「笑美流(えみる)さんが一緒に来てくれれば良かったのにね。料理上手かったし」
 笑美流ってのは俺の母親なのだが・・・
 「美春・・・頼むから恐ろしいこと言わないでくれ」
 「えっ?どうして?」
 「料理関係でオフクロは・・・ヤバイんだよ。ある意味では音夢さんの料理よりも」
 音夢さんの料理は純一先輩や美春があまりにもビビってるので恐い物みたさみたいな感覚で一回食べたが・・・
 口にした瞬間時が止まったぞ。
 「まあ、いない人間をアテにしてもしょうがないしな」
 「今、どこにいるの?笑美流さん?」
 「さあ?『世界には不思議なことがまだたくさんあるのよ!』とか言いながら世界の超常現象を追ってる人だから・・・
 今頃は・・・アフリカのジャングルか、ガラパゴス諸島あたりにでもいるんじゃないか?」
 「アハハ!笑美流さんらしいね」
 美春の笑い声が響く。
 「ところで美春。さっきのアレは何だったんだ」
 「え?アレって何?」
 「さっき、学園出ようとしたときに、お前自分の下駄箱開けたまま固まってたろ?アレって何だ?」
 「み、見てたの?」
 俺は頷く。
 「あ、あれは冬貴君には関係ないことだから気にしなくてもいいよ!?うん」
 傍目からみれば明らかに動揺してるとモロ分かりな表情で美春が言う。
 (全く・・・昔から顔に出るからな。コイツは)
 しかし、美春が俺には関係無いって言ってる以上、こっちから突っ込んで聞く訳にもいかない。
 (まあ、話したくなったら美春の方から話すだろ)
 俺はそれ以上何も聞かなかった。



 
 【チーン!】
 「おっ!やっと出来たな」
 俺はすきっ腹を抱えて台所に向かう。
 「やっぱりこういう時は、松野屋の牛丼だよな〜」
 暖めた牛丼を持って、再びリビングに戻る。
 「じゃあ、頂きます」
 俺が牛丼食べ始めようとしたその時、
 【ピンポーン】
 玄関のチャイムが鳴った。
 「・・・」
 一瞬無視しようかと思ったが、
 【ピンポーン】
 「はいはい、分かりましたよ」
 俺は牛丼をその場に置いて立ち上がる。
 「どなたですか?」
 俺はゆっくりと玄関を開ける。
 「こんばんわ〜冬貴君」
 「美春!?どうしたんだ?こんな時間に?」
 玄関先には何故か買い物袋を両手に下げた美春が立っていた。
 「え〜っとね。冬貴君、夕ご飯食べた?」
 「いや、まだ・・・というか今食べるところだったんだけど」
 「そうなんだ。良かった」
 美春の説明によると、親父と天枷教授は今夜『枯れずの桜』のデータを整理するために研究室に閉じこもっているらしい。
 データが膨大過ぎてメシ食ってる時間も無いらしい。
 「それでね。1人でご飯食べるのも味気無いなって思って」
 「俺のところに来たって訳?」
 「そういうこと!冬貴君も1人で食べるよりは楽しくていいでしょ?」
 「まあ、それはそうだな」
 「じゃあ、決まりだね!台所借りるね」
 「ちょ!ちょっと待った。お前が作るのか?」
 「そうだよ〜期待しててね」
 美春は台所に入っていった。

 俺は妙に落ち着かなかった。
 美春が台所に入ってから30分くらいたったが・・・
 とりあえず、変な音とかは何もしないから任せておいても大丈夫だろう。
 (しかし、美春の奴どんな料理作る気だ)
 俺の知ってる美春の料理というと、子供の頃に作ってたバナナ料理・・・
 ってまさか、バナナご飯・バナナスープ・バナナの天麩羅とかいったバナナ料理オンパレードじゃないだろうな?
 俺は不安になって台所に顔を出してみることにした。
 「美春〜大丈夫か?」
 「うん、大丈夫だよ。もう少しで出来るから待っててね」
 制服の上からエプロンを付けた美春が笑いながら言う。
 俺はその姿に一瞬見とれてしまった。
 「あ、ああ分かった」
 俺の胸は妙にドキドキしていた・・・

 「出来たよ〜さあ、食べて食べて」
 ご飯、味噌汁、鶏の唐揚・・・
 並んだ料理は意外にも(?)普通の料理だった。
 「あ、それじゃ・・・頂きます」
 美春に促がされた俺は唐揚を口の中に入れてみる。
 「・・・美味い」
 俺は驚いた。美春の料理ははっきりいってそこらへんの定食屋とかのレベルを超えていた。
 「良かった〜おかわりあるからたくさん食べてね」
 美春はニコニコしながら、俺の食べる様子を嬉しそうに見ていた。


 「よし、これで洗い物は終わりと」
 俺は使い終わった食器を並べて一息つく。
 美春に夕飯作ってもらったので、必然的に後片付けは俺の仕事になった。
 ふと時計を見ると9時を回ったところだった。
 「こんな時間か・・・美春を送ってやらないと」
 さすがにこんな時間になると、家まで付いてった方がいいだろう。
 俺はリビングに居る美春に声を掛ける。
 「美春〜そろそろ帰った方が・・・」
 しかし、美春からの返事は無い。
 俺はリビングを覗き込む。
 「ZZZ・・・」
 美春は疲れたのかテーブルに突っ伏して寝ていた。
 「全く、しょうがないな」
 俺はシーツを持ってきて美春にそっと掛けてやる。
 (というか、一応俺だって男なんだから、無警戒に寝るなよ・・・)
 よく言えば信頼されてるってことなんだろうけど。
 そんなことを考えながら、俺は美春の寝顔を見つめる。
 (こうしてれば可愛いんだけどな・・・うるさくなくて)
 そんなことを考えながら俺は回りを見る。
 「?」
 ふと見ると美春の持ってきた通学用のカバンから何かがはみ出ているのに気付いた。
 何気なしにつまんで見ると。
 「封筒?」
 『天枷美春様』と書かれた白い封筒だが差出人の名前が無い。
 「・・・」
 おそらく、これが昼間美春の下駄箱の中に入ってた物なのだろうが・・・
 さすがにこれ以上詮索するのはプライバシーの侵害になるような気がした俺はその封筒をそっと戻した。
 その後、起きた美春を家まで送っていった。


  
 「全く・・・あいつらちゃんと道具片付けてから帰れよ」
 俺はそう言いながら部室の中に道具をしまう。
 連休最初の部活の練習日、練習終了後に後片付けをしていた。
 「よし、これで終わり!」
 最後の道具をしまい俺は大きく伸びをした。
 「さて、今日はもう疲れたから・・・家帰って寝るか?」
 俺は自分の野球道具を抱えて家路に着こうとして、人気の無い中庭を抜けようとする。
 「!?」
 俺は思わず近くにあった樹の影に身を隠す。
 進もうとしていた方向に2人の人物が居たからだ。
 1人は俺の知らない男子生徒で、そしてもう1人は・・・
 「美春?」
 美春が男子生徒と何やら話している。
 「・・・」
 何故か―――何故かその光景を見て心がざわついた俺は2人の会話が聞こえる位置まで近づいた。
 「天枷さん、僕の手紙読んでくれましたか?」
 「はい・・・あの」
 この展開・・・手紙・・・
 俺は昨日美春のカバンの中に入っていた封筒を思い出す。
 (・・・ラブレター?)
 つまり美春がラブレター貰ったってこと?
 そう考えた瞬間、俺の心が複雑な感情に支配された。
 「僕の気持ちはあの手紙の中に書いてあったとおりです」
 「・・・」
 美春は黙ったまま答えない。俺にはその時間が永遠に続くようにも感じられた。
 どれくらいの時間が過ぎただろうか?一瞬美春は何かに気付いたような表情をした。
 そして、口を開いた。
 「ゴメンなさい!あなたの気持ちは嬉しいんですけど・・・美春には好きな人がいます。
  だからあなたの気持ちには答えられません。本当にゴメンなさい!」
 「!?」
 俺はその発言を聞いて驚いた。
 (美春に好きな人が・・・)
 俺の心がまたざわついたような気がした。


 

 あれから2日たった。
 俺は部活の練習をこなしながら、家に帰って休むという日々を送っていた。
 だが、頭の中をよぎるのは美春の好きな人発言のことばかりだった。
 (美春の好きな人って誰なんだろう)って考えと(美春が誰を好きだろうと俺には関係ないだろう?)
 っていう相反する考えが俺の頭の中を行ったり来たりしていた。
 「ダァ―――――!!ダメだ、ダメだ!」
 俺は思いっきり寝てた布団から跳ね起きた。
 「こんなの俺らしくねぇ・・・気分転換でもしてくるか」
 今日は幸いにも練習試合が遠征先の雨で中止になったため時間はある。
 俺は着替えて街に繰り出した。
 
 雲はどんよりとその厚さを増し、もうすぐこちらにも雨が降ってきそうだった。
 まるで今の俺の心を表現しているかのように見えた。
 俺はトボトボと街の中を歩いていた。
 そんな時だった。美春を見かけたのは・・・
 誰かを待っているような美春に俺は思い切って声を掛けようと思った。
 だが、俺が掛けようとした声は結局声にならなかった。
 美春は待ち合わせに現れた人―――純一先輩と笑い合っていた。
 俺の中であの日の美春の言葉が蘇る。
 
  『美春には好きな人が―――』

 「そっか・・・そういうことか・・・」
 俺は悟った。
 (声は―――掛けない方がいいよな―――)
 俺は2人に気付かれないようにそっとその場を離れた。
 【ポツッ、ポツッ、ザァ―――】
 雨が降り出した。
 俺は夢中で走っていた。俺はその雨に感謝した。
 この雨が俺が泣いているのをごまかしていてくれる―――そんな気がした。

    
                  〜第6話に続く〜


     こんばんわ〜いつもより投稿ペースが速いですが、第5話をお届けします〜

     ついに少しずつ2人の関係が変わり始めます。

     この話から3話分はこのシリーズ最初の山場なんで気合い入れて書いてます。

     と言いつつ前半から中盤にかけては、冬貴と美春が完全にラブラブな感じだ(笑)

     個人的にはエプロン姿には物凄く萌えを感じるんだがそのへんどうでしょう?

     学校帰りの制服姿でエプロン付けて料理してくれるとかなりイイと思う(マテ)

     後は、冬貴の母親、絵美流さんは例えるなら『女・杉並』みたいな人だと思って貰えば(笑)

     それでは、次回の話も楽しみにしてくれると嬉しいです。それでは!!


管理人の感想

前半はほのぼの、しかし後半で急転直下がありましたねぇ〜。

美春が告白を受けるシーンを目撃してしまい、その中で彼女に好きな人がいると知ってしまった冬貴。

そして2日後に純一と歩いている姿を見てしまい・・・。

むう、シリアスな展開。しかしこういうの大好きです(笑)

これはもう次回も期待大っしょ!

ってことで、5話でした〜〜。





2006.12.1