『桜がもたらす再会と出会い』〜第4話〜
         
                               投稿者 フォーゲル

「ハァ、ハァ、ハァ・・・どうやら撒いたみたいだな」
 部活及び委員会勧誘の魔の手から逃れた俺はホッと息を付く。
 「しかし、何で俺1人をあんな熱心に勧誘するんだ?」
 「た、多分」
 俺の疑問に一緒に逃げて来た美春が答える。
 「杉並先輩だと思う」
 「どういうことだ?」
 息を整えた美春が話し始める。
 「あの時、冬貴君は杉並先輩に結果的に協力して、美春達の仕掛けたワナとかをかいくぐったよね?」
 確かに、この島に帰ってきたあの日俺は風紀委員会特製トラップを交わしまくってたが・・・
 (一歩間違ったら本気でケガ人が出そうなもんがあったぞ・・・)
 「あのワナは対杉並先輩用に用意したもので、普通の人だったら間違いなく一発で捕まってるようなものが多いんだよ」
 「そうなのか?」
 (というかどんな人だよ、杉並先輩・・・)
 初めて会った時から、底知れなさは感じていたけど。
 「そうなの。それで、『風紀委員のワナを交わしたあの男は誰だ?』って噂が数日前から流れてて・・・」
 「噂を聞きつけた連中が俺のことを勧誘しに来たって訳か」
 「杉並先輩用のワナをかいくぐった人なら運動神経はいいだろうと思ってるんじゃないかな?」
 「なるほどね・・・」
 そういえば俺を取り囲んだ連中は体格がゴツイ人達が多かった。
 おそらく運動部系の人達だろう。
 「で、あの〜冬貴君」
 美春が少し恥ずかしそうに声を上げる。
 「うん?何だ」
 「あの・・・手」
 言われて視線を下に落とす。
 俺は美春の手を強く握っていた。
 「あ、わ、悪ぃ」
 しかも、よく見ると周りには結構な数の生徒がいて、その生徒達の視線が『新学期早々・・・』って感じの眼差しで見ている。
 美春の顔は真っ赤になっていた。
 (ま、参ったな)
 しかし、俺の顔も多分真っ赤になってるだろう。自分じゃ分からんが。
 「さ、さ〜てそれじゃ行くぞ」
 「う、うんそうだね」
 俺達はなるべく自然な感じを装ってその場を離れた。
 (それでも周りから見ると不自然だっただろうけどな・・・)




 「どこから見て回るかな」
 俺はそう言って考えを巡らせる。
 「どこからって、冬貴君今自分がどこにいるか分かってるの?」
 「それは・・・」
 美春のツッコミに俺は思わず沈黙する。
 勧誘合戦の魔の手からムチャクチャ逃げたので今自分がどこにいるのか分からなくなっていた。
 「全く、しょうがないなぁ」
 美春は溜息を付きながら、周りを見渡す。
 「ここは・・・高等部の校舎だね」
 どうやらかなり長い距離を逃げてきたらしい。
 「一番近いのは軽音楽部だね」
 「じゃあ、まずそこから見てみるか」
 俺達は音楽室に向かった。

  曲の演奏が終わり、一瞬静寂が訪れる。
 「うん!みんなバッチリ!いい感じよ!」
 ショートボブの髪の女の子が納得した表情で頷く。
 「お姉ちゃん、どうする?もう1回合わせようか?」
 「そうですね〜最後にもう1回あわせましょうか〜」
 緑の髪を大きなリボンで纏めた女の子がその声に答える。
 俺と美春が音楽室に入ったのはちょうどその時だった。
 「眞子先輩、萌先輩、こんにちは〜」
 「あれっ?美春じゃない。どうしたの今日は?」
 「ひょっとしたら、軽音楽部の新入部員になるかも知れない人を連れて来たんですよ〜」
 「新入部員?」
 眞子先輩は俺の方を見て、思い出したようにポンと手を打つ。
 「ああ、杉並専用トラップのことごとくを交わしたって噂の彼?」
 文化系のクラブにまで噂が拡大しているとは・・・俺は相当有名人になっちゃってるな。
 「ウチは男子の部員が少ないから、大歓迎よ。ねっ!お姉ちゃん」
 「そうですね〜。私も歓迎しますよ〜」 
 萌先輩も眞子先輩に同意する。
 「あ、でも何か楽器が出来た方がいいか。柊君だっけ?何か出来る楽器ってないの?」
 眞子先輩に話を振られた俺は答えた。
 「楽器よりは、歌うのに自信があります」
 「歌?・・・あ〜でもテノールやバリトンな声の人が入ればあたし達の出来る曲にもバリエーションが増えるかも・・・」
 「あの、眞子先輩、冬貴君の歌は・・・」
 美春が後ろで何やら言っているが、眞子先輩の耳には届いてないようだった。
 「じゃあ、柊君ちょっと歌って見てくれる?」
 「はい、分かりました」
 美春が引きつったような表情をするのを横目で見つつ、俺は息を吸い込んだ。
  
 
 「以上です」
 歌い終わった俺はそう言って周りを見た。
 「はい、ありがとうございました〜」
 俺の言葉に萌先輩が声をかける。
 だが、それ以外の声は帰って来なかった。
 見ると、眞子先輩も含めた音楽部員の人達は床に倒れたまま何故かピクピクしていた。
 「そうか、俺の歌声に聞き惚れたんですね」
 「絶対に違うと思うな」
 耳を塞いでいた美春が手を離しながら言ってくれる。
 「それで、どうします〜。私は歓迎しますよ〜」
 萌先輩の声を聞きながら、俺は考えた。
 (他にも見てみたい部活もあるし、返事は後日にするか)
 「すいません、しばらく考えさせて下さい」
 「分かりました〜眞子ちゃんには、私が伝えておきます〜」
 俺はそう言って音楽室を出た。
 後から出た美春が謝りながら出てきたが、それについては深く考えないことにした。


 

  「なかなか無いもんだな〜自分に会いそうな部活って」
 俺はため息をついた。
 「まあ、そんなあっさり見つかるものじゃないしゆっくり探せばいいよ」
 美春が励ます。
 「サンキュー。美春。アレ?」
 「どうしたの?冬貴君」
 足を止めた俺に美春が聞いてくる。
 「いや、あの人だかりなんだ?」
 前の方から人の集団が移動してくる。
 「ちょっと見てみる?」
 「ああ」
 俺と美春はその人だかりに向かって歩きだした。

 その人だかりの一番外に辿りついた時、俺は一瞬あっけに取られた。
 それは正確には人だかりでは無かった。
 例えるなら、『旅行帰りの芸能人を取り囲むマスコミの皆さん』って感じの光景だった。
 そして、その中心に1人の女生徒がいた。
 「やっぱり、白河先輩だ」
 美春が呟く。
 「美春、お前知ってたの?」
 「この学園で、歩くだけで注目を集められる人がいるとしたら白河先輩くらいしかいないよ」
 俺も転入初日だが、この学園のアイドルだという白河ことりの噂は知っていた。
 知ってはいたけど・・・
 「これほどのものだとは」
 何しろ白河先輩が通るたびに、男女問わずその姿に見とれているのだ。
 俺はさすがに学園のアイドルという言葉にはウソは無いと思っていた。
 だが、次に白河先輩が発した言葉に俺は驚いた。
 「あっ、天枷さん、こんちわっす」
 「白河先輩、こんにちはです〜」
 俺は2人が言葉を交わしたのに驚いた。
 「美春、知り合いなのか?」
 「うん、そうだよ。一緒にチョコバナナ食べに行ったりもするし」 
 昔から美春は人懐っこい性格だったから友達作るのはバツグンに上手かったな。そういえば。
 「天枷さん、お友達?」
 「あ、紹介しますね。美春の幼馴染の・・・」
 だが、美春が俺のことを紹介しようとしたその時、
 「杉並君用のトラップを回避して、風紀委員の人達を倒したって噂の人ですか?」
 白河先輩の言葉を聞いて俺はがっくりとうなだれた。 
 「何かどんどん噂が大きくなってる気が」
 このままでは最終的にどんな噂になっていることやら。想像したくないが。
 「初めまして。白河ことりです」
 「柊 冬貴といいます」
 白河先輩が差し出して来た手を握りかえして俺は思った。
 (しかし、改めてそばで見ると、本当にキレイな人だな。こんな人が彼女だったらいいんだろうけどな)
 (というかそもそも俺に彼女が出来るかどうか・・・ルックスだってそんないいほうじゃ無いし)
 「そんなことないですよ」
 「えっ?」
 白河先輩がまるで俺の心を読んだかのような答えを返してくる。
 「私は、柊君もカッコイイと思いますよ」
 「そ、そうですか?ありがとうございます」
 お世辞だと分かっていても思わず、顔がにやけてしまう。
 その時、校内放送で流れていた音楽が切り替わった。
 (おっ・・・この曲は・・・)
 流れて来た曲は俺が好きなバンドの曲だった。
 ただ、あまりメジャーバンドでは無いので知ってる人が少ないのが難点だが。
 俺は思わずその曲に合わせてリズムを取る。
 「柊君も、このバンド好きなんですか?」
 白河先輩が驚いたような声を上げる。
 「『も』ってことは白河先輩もですか?」
 「そうなんですよ〜私はアルバム全部持ってますから」
 (おお、意外な所で趣味が合う人を見つけた)
 俺はその後も白河先輩とバンド談義に花を咲かせた。



 
  冬貴君と白河先輩は共通する話題でもあったのか、会話が結構盛り上がってました。
 その間、美春はじっと2人の会話が終わるのを待ってました。
 (それにしても本当に楽しそう・・・)
 学園のアイドルとして有名な白河先輩と話せて嬉しいのか冬貴君の表情は心なしか赤くなっているように美春には見えました。
 (やっぱり・・・冬貴君も白河先輩みたいな美人でスタイルのいい女の子が・・・好き・・・なのかな)
 そんなことを考えると美春の胸にはチクッと針で刺されたような痛みが走ります。
 (何なのかな・・・この気持ち・・・)
 冬貴君と再会してから、美春の心にはこんな不安な気持ちが芽生えるようになっていました。
 そして、次の瞬間美春は思わず冬貴君に声を掛けてました。



 「冬貴君」
 俺は後ろから聞こえた美春の声に振り返る。
 「・・・そろそろ行かない?時間も大分たったし」
 「え?今話盛り上がってるんだけど・・・」
 「でも、いろんなところ見て回ってる最中だし、早いところは終わり始めてるところもあるから・・・」
 「そうか?美春がそう言うなら・・・すいません、白河先輩」
 「あ、いえいえいいんですよ。私のことは気にしないで下さい」
 そう言う白河先輩は俺と美春を交互に見ながら一人納得したような表情を浮かべていた。
 
 



 「今日は結局どの部活に入るのか決まらなかったな〜」
 俺はそんなことを呟きながらまだ、整理してなかった荷物を片付けていた。
 荷物を整理していると、何か硬いものに当たった。
 「?・・・何だこりゃ?」
 埃を被ったその板状の物を取り出し、その表面を拭き取ると何か文字のような物が出てきた。
  
  『しょうらいのゆめ ぼくのしょうらいのゆめはプロ野球選手になることです ひいらぎ とうき』


 そのプレートを見た瞬間、思い出した。
 「そうだ、これ小学生の頃に書いた自分の夢っていう課題だ」
 確か、将来の夢をこのプレートに書いて未来の自分に残しておこうっていう授業の課題だったな。
 「これ書いた時に、確か誰もマトモに話を聞いてくれなかったんだよな」
 俺の夢はこんな小さな島からプロなんて無理無理と誰も取り合ってくれなかった。
 「美春だけか・・・真面目に聞いてくれたのは」
 美春だけが俺の話を真面目に聞いてくれて、『冬貴君ならなれるよ。美春は信じてるから』って言ってくれたんだっけ」
 「野球か・・・久々にやってみるのもいいかもな」
 俺が初音島を出る頃に創設された風見学園は、悲しいかな野球部は激弱だと聞いたけど・・・
 「プロうんぬんはともかくとして、自分の夢に向かって挑戦してみるか?」
 俺はそう決意した。
 「そういえば、美春も俺と同じ課題を受けてるはずだから、プレート持ってるはずだな。どういう訳か俺には絶対に見せてくれなかったけど」
 いつか、絶対に見てやる。・・・というかそもそもそのプレート美春が未だに持ってるかどうかも怪しいが。
 
 こうして俺は風見学園野球部に正式入部することにした。

                      第5話に続く 


                    <後書きコメント>


                  こんばんわ!第4話になります〜

   今回の話は少しギャグの要素も入れて見ました。眞子はご愁傷様という感じで(笑)

   ちなみに冬貴の『音痴なのに歌歌うのは好き』というのはまんま作者のスキルだったりします。

   美春の微妙な乙女心とかうまく表現出来てるか少し心配です。

   冬貴は杉並共々校内での有名人に(笑)

   次回も楽しみにしてくれると嬉しいです!それでは!!



管理人の感想

ってことでフォーゲルさんの第4話でした〜。

やっぱり美春可愛いですね〜、自分の中にある分からない感情に戸惑い振り回されている姿なんか特に♪

そして冬貴は冬貴でことりと話に華を咲かせつつ、しかし「学園のアイドル」以上にはことりを見ようとしない・・・一途ですねぇ。

なんかじれったくもなってきますが、それも楽しみのひとつです。

これからの作品にも期待しましょう^^



2006.11.27  掲載