『桜がもたらす再会と出会い』〜第38話〜






                                  投稿者 フォーゲル




  私は緊張していました。
 いよいよクリパ本番を迎えて、私と演劇部の人達は割り当てられた楽屋代わりの教室で待機していました。
 体育館の舞台を使うイベントは、公開する順番を公平にクジ引きで決めたのですが・・・
 (何で、一番最後なんですか〜?)
 私はそう心の中で叫びたい気分でした。
 私達の演劇はクリパ最後のイベントになっていました。
 最も、平謝りに謝る部長さんを見ると文句も言えませんでした。
 “キャー!キャー!”
 体育館の様子を写したテレビからは女の子達の歓声が聞こえて来ます。
 今、体育館では私達の前のイベント―――
 白河先輩達のバンドの公演が行われています。
 さっきまでは、白河先輩の美声に男の子達が聞き惚れていましたが、
 今は、工藤先輩と冬貴君の、ロックデュオが演奏中でした。
 『工藤くーん!柊くーん!』
 工藤先輩に負けず劣らず、冬貴君にも女の子からの黄色い声援が飛んでいました。
 (冬貴君・・・やっぱり女の子にモテるんですね)
 最も、肝心の冬貴君はそれに全く気が付いていませんが。
 (でも、いい加減美春さんの気持ちには気付いて欲しいですね・・・
  いや、それは美春さんも一緒かも知れないですね)
 冬貴君が美春さんをとても大切に想っているのに美春さんはそれに気が付いていない・・・
 私はそのことを知った昨日のことを思い出していました。





  「冬貴君、どのお店から回ろうか?」
 「そうだな・・・いろいろあるしな」
 クリパは学園の生徒だけに公開する日と、一般のお客さんに公開する日に別れています。
 その生徒だけに公開する日、私と冬貴君のように体育館でイベントを披露する人達は比較的自由な時間がありました。
 生徒だけに公開する日はイベント系は一回しか公開しないからです。
 なので、私と冬貴君は次の日の一般公開の日は何回も公演するからということで、時間のある内に出店などを見ておこう
 ということになり、一緒に回ることにしました。
 定番の食べ物系、お化け屋敷、喫茶店・・・
 喫茶店は、今流行のメイド喫茶で、冬貴君が女の子達を見て嬉しそうにしてるので、思わずムッとしたりもしましたが・・・
 そんなこんなで色々な出店を回りながら、私達はある出店の前に差し掛かりました。
 「お姉ちゃん〜そっちは終わった?」
 「大丈夫ですよ〜眞子ちゃん」
 眞子先輩と萌先輩がお菓子やおもちゃを袋に詰めているところでした。
 「お2人共、何やってるんですか?」
 「あ、柊さんに、天枷さん。こんにちは〜お2人こそ何やってるんですか?」
 その萌先輩の疑問に答えたのは私達ではありませんでした。
 「お姉ちゃん・・・この状況で2人でいるってことは『デート』以外にないじゃない?」
 笑いながら言う眞子先輩。
 「な、何を言ってるんですか〜?」
 (と、冬貴君がそう思ってくれるのなら私は嬉しいですけど・・・)
 そんなことを考えながら私は冬貴君の方をチラリと見ます。
 冬貴君は微妙な表情を浮かべていました。
 「なるほど、お2人は『らぶらぶ』ということなんですね〜」
 更に追い討ちを掛ける萌先輩。
 「ち、違いますよ〜、そ、それよりお2人は何してるんですか?」
 「ああ、クリスマスプレゼントを作ってるのよ」
 眞子先輩によると、水越病院に入院している子供達が、明日クリパを見に来るそうです。
 「病室に篭ってると気持ちまで沈んじゃうからね〜気晴らしになるんじゃないかな〜と思って」
 笑いながら言う眞子先輩。
 「そういう訳で、美春ちゃん。明日は期待してるからね」
 「み、美春ですか?」
 「そうよ〜明日来るのは女の子が多いからね〜ラブストーリーには期待しているのよ」
 「分かりました。頑張ります!!」
 私はそう答えました。



 「クリスマスプレゼントか〜・・・」
 眞子先輩達と別れた後、冬貴君はそんなことを呟きました。
「ひょっとして、冬貴君も何か欲しいものあるの?」
 私はそう尋ねました。
 (私からもあげますけど・・・)
 昨日、ようやく完成したマフラーのことを思い出します。
 私の家から、冬貴君の家の間だけでもいいから一緒に巻いて歩いて欲しい―――
 そんなことを私は考えていました。
 「う〜ん、あると言えばあるかな」
 「そうなの?聞かせてよ〜」
 「でもな〜こればっかりは本気でサンタにでも頼まないとダメっぽいからな〜」
 苦笑いを浮かべながら言う冬貴君。
 「そんなに欲しい物なの?」
 「ああ・・・俺が今一番欲しい物・・・というより願いだな」
 「何なの?それって?」
 私の言葉に冬貴君は窓の外を見ながら呟きます。
 「『美春を元気にして欲しい』ってことだよ」
 「!!」
 その言葉に私は何も言えなくなりました。
 気が付くと冬貴君は寂しそうな眼差しで窓の外を眺めていました。
 その瞳には一杯何が写っているのか―――
 「・・・ゴメンね」
 気が付くと私は謝っていました。
 「何で美春が謝るんだよ」
 「私・・・やっぱり完全に美春さんにはなりきれてないから・・・」
 「ち、違う!そういう意味で言ったんじゃない!」
 慌てて否定する冬貴君。
 「お前はお前でいいんだ。ここにいる『美春』はお前一人だけなんだしな・・・
  俺が言いたいのは、お前と美春が2人でいるところを見たいって言う意味だ」
 「2人で?」
 「だって楽しそうだしな。美春なんかお前相手に凄くお姉ちゃんぶりそうだし」
 笑いながら言う冬貴君。
 「そうですね〜だったら私は素直に可愛がられてあげようかな」
 「そうしてやれ、美春の奴喜ぶぞ〜」
 そう言いながら私達は出店回りを続行しました。




  

  (美春さんと冬貴君が恋人同士になって幸せそうなところを見たいな・・・)
 私の想いは届かないのは分かってるし、届いたとしても私は―――
 そんなことを考えたその時―――
 「・・・枷さん!天枷さん!」
 「へっ!な、何ですか?」
 演劇部の人が私を呼んでいました。
 「もう、出番ですよ!」
 「わ、分かりました!すぐに行きます!」
 私はその声に答えると楽屋を出ました。


  「よく似合ってるわよ〜美春」
 舞台袖まで来た私はそこで待っていた音夢先輩達に褒められました。
 私の衣装は手芸部の人達が手作りしてくれたライトイエローのドレスです。
 (簡単に言うとバナナ色です)
 「お〜『馬子にも何とか』とはよく言ったもんだ」
 「む〜それは褒めてるんですよね・・・朝倉先輩」
 私達がそんなことを話しながら待っていると・・・
 「凄い出来じゃないか?柊のスティック捌き」
 「いや〜工藤先輩の美声もなかなかのものですよ〜白河先輩の代わりにヴォーカルでもイケるんじゃないですか?」
 満足の行く演奏が出来たのか、冬貴君と工藤先輩が戻って来ます。
 私の姿を見つけた冬貴君は近づいて来ました。
 「美春、会場は暖めて・・・」
 そこまで言った冬貴君は私の姿を見て、絶句しました。
 「あ、あの冬貴君?どうしたの?」
 (どこか変なところでもあったのかな?)
 私はそんなことを考えながら冬貴君に聞きます。
 「い、いや〜似合ってるな〜と思って・・・」
 「そ、そうですか?」
 (う、嬉しいな・・・)
 私の顔が少し赤くなっているような気がしました。
 「さ〜て、じゃあ俺達は『熱い2人』のジャマをしないようにするか?音夢?」
 「そうですね〜兄さん」
 朝倉先輩は呆れながら、音夢先輩は笑いながらそんなことを言います。
 「じゃあ、美春、客席から見てるからな、頑張れよ」
 朝倉先輩達はそんなことを言って、去って行きました。
 「あ、『熱い2人』って・・・」
 冬貴君は困ったように私を見ます。
 「じゃあ、俺もことり達と一緒に見てるから」
 工藤先輩もそう言って去ろうとします。
 「あ、じゃあ俺も・・・」
 冬貴君もその後に続こうとしましたが、
 「柊・・・お前はここで見てろよ」
 工藤先輩はそう言って冬貴君の動きを止めます。
 「ここで見てた方が、天枷さんも心強いだろうし・・・そうだろ?天枷さん?」
 その言葉に私は思わず頷いていました。
 「そういうことだ。じゃあな」
 工藤先輩も立ち去った後。

  『それでは、これより演劇部による公演を―――』

 アナウンスが鳴り響き、拍手が聞こえて来ます。
 (・・・よし!!)
 私は緊張気味な自分に活を入れます。
 その時でした。
 “フワッ”
 不意に柔らかな感じに包まれました。
 冬貴君が私を後ろからそっと抱きしめていました。
 「どうだ。落ち着いたか?」
 「・・・うん、ありがとう」
 私の緊張が次第に解けていくのが分かりました。そして冬貴君に背中を押されて―――
 私はスポットライトの中に出て行きました―――





  演劇は順調に進み、いよいよクライマックスに差し掛かった。
 ここまでは何事も無く、進んで来た。
 美春の懸念だった『ゼンマイ切れのペース』もどうやら最後まで持ちそうだ。
 俺はふっと息を付く。
 いよいよ、最後のシーン、『美春演じる妹姫の愛の告白シーン』だ。
 だが・・・
 (・・・?)
 いつまで経っても美春が台詞を喋らない。
 俺が訝しげに眉を潜めたその瞬間。
 「天枷さん!天枷さん!」
 演劇部の生徒がマイクに向って呼びかけていた。
 「どうしたんですか?」
 「えっ?ああ実は・・・」
 その生徒によると、万が一台詞を忘れた時のために、そのマイクから役者達に渡してある
 イヤホンを通じて演劇部の生徒が台詞を教えるようにしているらしい。
 もちろん、美春にも渡してあるらしいのだが・・・
 「天枷さんから反応が無いんですよ〜どうしよう・・・」
 会場もざわつき始めた。
 (・・・イチかバチかだ!)
 俺は演劇部の生徒さんにお願いをした。




 白い―――白い空間が私の前に広がっていました。
 (あれ?私、今舞台に立っているはずなのに―――)
 私がそう思った次の瞬間―――
 『・・・春!美春!?』
 冬貴君の声が聞こえました。
 その時―――
 私の目の前にはスポットライトの光と私の相手役の王子様が居ました。
 (あ、あれ―――私―――)
 耳に当てているイヤホンから冬貴君の声が聞こえて来ます。
 『美春聞こえるか?聞こえたら王子の後ろを見ろ!』
 (王子の後ろ?)
 そこには舞台袖の闇に紛れるようにして冬貴君が立っていました。
 『どうやら、大丈夫みたいだな・・・いいかこれから俺が美春の最後の台詞を言うから
  お前は、それに続けて言え。分かったな?』
 私は目で冬貴君に合図します。
 イヤホンから冬貴君の声が聞こえて来ます。
 私は―――その言葉を―――『愛の告白の言葉』を―――
 『王子様の後ろ』を見つめながら紡ぎました―――




  「いや〜何とか無事に終わったな〜」
 冬貴君はそんなことを言いながら、私に声を掛けます。
 「そうですね〜また、冬貴君には迷惑かけちゃったけど・・・」
 最後の台詞の部分を冬貴君のお陰で何とか乗り越えた私は、無事に主役を勤めることが出来ました。
 「気にすんなって・・・それ以外は完璧だったんだし」
 冬貴君はそう言って笑います。
 「だけど・・・美春は大変だったな。あの後・・・」
 冬貴君の指摘通り、あの後演劇部の打ち上げ会に出たり眞子先輩達が連れて来た病院の子供達に、
 『ねぇねぇ、お姉ちゃん、チューしたの?』とかおマセな質問をされたりして大変でした。
 「冬貴君は、大丈夫なんですか?白河先輩達の打ち上げに参加しなくて・・・」
 私の質問に冬貴君は苦笑を浮かべながら答えます。
 「それがさ〜白河先輩の命令で『今日は美春ちゃんと居てあげなさい』ってさ」
 笑いながら言う冬貴君。
 そんなことを言いながら私達は来たかった場所―――『枯れずの桜』の所に来ました。
 真冬にも関わらず桜の木は綺麗に咲いていました。
 「思えばここで初めて会ったんだよね。私達」
 私は桜の木の根元に立って言います。
 「そうだな・・・あの時はとても『美春』と別人とは思わなかったぞ」
 冬貴君も桜の木を見ながら言います。
 「その時から冬貴君はいつも私の事を見ててくれて―――助けてくれて―――」
 私は少しづつ喋ります。
 (私の想いは届かない―――それは分かってる。でも―――)
 「私を『美春さん』の代わりじゃなく一人の女の子として見てくれた―――」
 (―――この想いを伝えないと後悔するから―――)
 「私はそんな冬貴君のことが―――」
 そこまで言ったその時です。
 『♪〜♪〜♪』
 私の携帯電話が鳴りました。
 (ど、どうしてこんな時に?―――暦先生?)
 私は携帯電話に出ました。
 「もしもし?どうしたんですか?」
 『あ、天枷かい?じ、実は・・・』
 暦先生の慌てたような声を聞いた時、私には予感がしました―――





 会話の流れ的に美春が俺に告白しようとしているのは分かった。
 だけど、それは俺にとってはその告白を断らなければならないという辛い立場だった。
 だから、美春に電話が掛かって来た時、俺は思わずホッとしてしまった。
 (いつかは伝えなきゃならないのに・・・)
 俺がそんな自己嫌悪に陥っていると―――
 「本当ですか!?分かりました!すぐに行きます!」
 美春はそう言って電話を切った。
 「美春?どうしたんだ?」
 だが、美春は俺の問いに答えることなく、俺に近づくと言った。
 「冬貴君も来て下さい!!」
 「えっ!ち、ちょっと!」
 俺は美春に引きずられるようにしながら、その場を立ち去った。
 美春が俺を連れて来たのは天枷研究所だった。
 その一室のドアの前に美春は俺を連れて来た。
 「な、なぁ一体どうしたんだよ?」
 俺の問いに美春は笑顔を浮かべながら言った。
 「このドアを開ければ分かります」
 言われるままに俺はそのドアを―――開けた。
 そこには、俺の望んだ光景が広がっていた。

 色々な機械が並んだ部屋―――その中心のベットの上―――
 暦先生やおじさん・おばさんが嬉し涙を流す中―――
 意識を取り戻した『本物の美春』が俺をじっと見ていた―――
 
 「あ、と・・うき・・・くん?」

 『本物の美春』のその声を聞いたとたん―――
 俺は、その美春を思いっきり抱きしめていた。
 「ち、ちょっと・・・冬貴君・・・い、痛いよ・・・」
 だが、そんな声も今の俺には聞こえなかった―――
 「良かった・・・本当に良かった・・・」
 俺の声も涙声になっていた―――




 美春さんを抱きしめている冬貴君の姿を見ながら、私はそっとドアを閉めて部屋の外に出ました。
 (良かったね・・・冬貴君)
 私はそんなことを考えながらある事を思い出しました。
 冬貴君とそして半分は私のために作ったクリスマスプレゼントです。
 (あのマフラー渡せなくなっちゃったな・・・)
 私の心にそんなどことなく寂しい想いが溢れました―――





                          〜第39話に続く〜



                 こんばんわ〜フォーゲルです。第38話になります〜

             今回はミハルの演劇本番とついに来た本物の美春の復活イベントです。

            冬貴の協力もあって何とか重責をこなしたミハル。その想いは強くなり、

                     ついに冬貴に告白しようとするが・・・

            美春の復活がこれからどんな影響を与えるか注目して頂けると嬉しいです。

              個人的には最後のミハル視点で切なくなって欲しいですね〜

             20話までが『美春編』21話から今回が『ミハル編』だとすると、

                次回からはFS(フォーシーズンズ)編だと思って下さい。

                        それでは、失礼します〜


管理人の感想

はい、いろいろと急展開な38話でした〜^^

もちろん、美春復活!のことなんですが・・・。

・・・ん〜、急展開というほどでもないかな?前々から美春の容体は快復に向かっていましたし。

次回からは美春&ミハルのコンビが、どのように活躍するのかにも注目ですね。


それでは、第3部(?)のフォーシーズンズ編でお会いしましょう〜。



2007.12.28