『桜がもたらす再会と出会い』〜第37話〜





                                   投稿者 フォーゲル






  「ふぁ〜〜〜」
 私は大きなあくびをします。
 「オイオイ、珍しいな。美春が大あくびなんて・・・」
 私の隣を歩く冬貴君が意外そうに言います。
 冬にしては暖かい日差しが差すなか、私と冬貴君は学園に向っています。
 「ここのところ夜遅くまで起きてることが多くて・・・」
 「あんまり無理はするなよ?演劇の練習のしすぎで本番前に風邪を引いたら意味無いんだからな」
 「うん・・・分かってる」
 (本当はそれだけが理由じゃないんだけどね・・・)
 私が口には出さずにそう呟きます。
 もちろん、演劇の練習もありますが、もう一つの理由がありました。
 (出来たら、冬貴君巻いてくれるかな?)
 半分くらいまで出来て、家に置いてあるマフラーのことを思い浮かべながら、私はそんなことを考えます。
 しかも、私が作っているのは、『2人分』の長さのマフラーです。
 (一本のマフラーを2人で巻いて歩いたら、こ、『恋人同士』に見えるかな?)
 私はその風景を思い浮かべると、急に恥ずかしくなります。
 「美春、どうしたんだ?」
 「えっ!?な、何が?」
 「さっきから顔赤いし・・・熱あるんじゃないのか?」
 「そ、そうかな?何でも無いよ?何でも・・・」
 「そうか?何か心配なんだよな・・・」
 冬貴君はそこまで言うと私に近寄って耳打ちします。
 「・・・お前、ここのところゼンマイの切れるペースが速いし・・・本当に大丈夫なのか?」
 「だ、大丈夫ですよ、本当にダメだったらその時には冬貴君や暦先生にちゃんと言うから」
 心配掛けないように言う私。
 「美春を信じるけどさ・・・」
 まだ、心配そうに言う冬貴君。
 “キーン・コーン・カーン・コーン”
 学園の方からチャイムが聞こえて来たのはその時でした。
 「あ、ほらほら遅刻しちゃうよ。早く行かないと音夢先輩に怒られちゃいます!」
 「美春がいるから、特別扱いになったりは・・・」
 「無いよ〜ほら、早く行こう!!」
 私はそんなことを言いながら冬貴君を引っ張ります。
 「分かった!分かったから・・・」
 私達はそんなことを言い合いながら学園へと急ぎました。






  『・・・こうして王子と王女は永遠の愛を誓い合い、幸せに暮らしたということです』
 ナレーターの最後の台詞が流れ、演劇は幕を閉じた。
 “オオオオっ!!”
 歓声が―――舞台上の演劇部員の間から上がり、見ていた一部の観客から拍手が上がった。
 まあ、俺もその『一部の観客』の一人なのだが・・・
 クリパ本番まで後数日になったこの日、舞台の上で公演をやるチームは予行練習をすることになっていた。
 もちろん、俺が参加している白河先輩のバンドも、美春が参加している演劇部の舞台もそれに参加していた。
 俺達のバンドはほぼ100%に近い出来になり、本番を待つだけになった。
 そして、今、美春達の演劇も(素人の)俺から見てもほぼ完璧に近い感じで終了した。
 「スゴイじゃないですか〜天枷さん」
 「ああ、とても素人には見えないよ」
 俺と一緒に見ていた白河先輩と工藤先輩が揃って感心したような声を上げる。
 舞台の上では、美春が演劇部の人達に褒められているようだった。
 「だけど、ああいう内容だったら、柊君が王子様役やってあげた方が天枷さんもやる気出るんじゃないですか?」
 白河先輩が俺をからかうように言う。
 演劇の内容は―――
 『昔々、あるところに一人のお姫様がいました。そのお姫様はいつも元気で誰からも好かれていました。
  そんなお姫様が、ある日恋をしました。
  それは、隣国の王子様。
  姫は王子様のさりげない優しさが好きでした。
  しかし、姫はある日王子が女性と会っているところを目撃してしまいます。
  その会っていた女性というのが、自分の姉でした。
  姉と会っている時の王子の表情から姫は『王子様はお姉さんのことが好きなんだ』と思い込み、
  黙って身を引こうとします。
  しかし、王子が本当に好きなのは―――』


 という感じのストーリーだ。
 (そういえば、美春の奴、スカウトされた時、台本読んでから決めたって言ってたな・・・)
 今、実際に公演を見てみて、美春が何故主役を引き受ける気になったのかが分かった気がした。
 (この主人公の姫の立場が、今の美春の立場に似ているからか・・・)
 しかし、そうなると不安なことが出てくる。
 (ひょっとして、美春は俺が好きな人が誰かバレてるのか?)
 俺がそんなことを考えてると・・・
 「冬貴君♪」
 「うわっ!?・・・美春か?」
 練習が終わったのか、美春が帰り支度を整えて、俺の近くに寄って来ていた。
 「うん、今日は始めて最初から最後まで通してうまく行ったからって、部長さんが」
 「そうか・・・」
 「じゃあ、私達も帰りますね」
 そう言って白河先輩と工藤先輩は立ち上がる。
 「えっ?せっかくだから4人で何か食べて・・・」
 俺はそう言って2人を引きとめた。
 「俺とことりはこれから用事があるから・・・」
 「それに私達は、2人のジャマをするつもりはありませんから♪」
 「ジ、ジャマって・・・」
 白河先輩の言葉に顔を赤くする美春。
 「じゃあ、2人共、また明日!!」
 そう挨拶すると白河先輩は工藤先輩と共に立ち去っていった。
 「さ、さてこれからどうする。美春」
 「え、え〜とそうですね・・・」
 未だに顔を赤くしながら考える美春。
 「あ、そうだ・・・冬貴君、じゃああそこに行こう!!」
 美春はそう言うと先に立って歩き始める。
 俺は黙ってその後に付いて行った。





  俺が美春の後に付いて辿り付いた場所。そこは―――
 (枯れずの桜?)
 初音島名物の一年中枯れない桜の木。
 それは相変わらず雄大な姿で俺に迫って来る。
 (そういえば、初音島に帰って来た時、本物の美春に連れてこられたのもこの桜の木のところだったっけ・・・)
 俺はふとそんなことを思い出す。
 「それで、美春。ここまで連れて来て一体なんの用事なんだ?」
 「あ、え〜と。実はですね・・・」
 美春は何故か頬を赤く染めながら、一冊の本を取り出す。
 (さっきの演劇の台本?)
 俺の顔に浮んだ疑問を感じたのか美春は言葉を続ける。
 「あ、あのね、部長さんからは褒められたんだけど、私としては納得行かないところがあって・・・」
 「・・・つまり、練習に付き合ってくれと?」
 「そ、そうだけど・・・ダメ?」
 腕を組んで考え込む俺。
 (まあ、練習には付き合うって約束したしな・・・)
 「分かったよ、どのシーンだ?」
 「ありがとう〜!!冬貴君ならそう言ってくれると思ってたよ」
 そう言って美春はとあるシーンを指差す。
 「このシーンなんだけど・・・いいかな?」
 俺はそのシーンのページを見て―――思わず固まってしまった。






  (う〜ん・・・冬貴君、やっぱり緊張しちゃってたかな?)
 練習が終わった後、家に帰った私は自分の部屋でくつろぎながらそんなことを考えます。
 私が冬貴君に付き合って貰ったシーン、それは・・・
 (まあ、さすがに緊張するよね・・・『愛の告白シーン』は)
 冬貴君に王子様役をやってもらって練習をしたのに、結果は・・・
 (あれで大丈夫なのかな・・・)
 冬貴君が王子様役の台詞を、姫に対する『愛の告白』のところで緊張して噛んでしまって、
 ほとんど練習になりませんでした。
 『ゴメンな、ゴメンな〜』
 平謝りに謝る冬貴君を見ながら私は複雑な気分になっていました。
 いくら演技とはいえ、『私』への『愛の告白』に対して『緊張してくれて』嬉しいという気持ちと―――
 演技でそんな状態でいつか冬貴君がすることになる『本物の美春さん』への告白がうまく行くの?という
 心配する気持ちと―――
 そんな2つの心が私の中でごちゃ混ぜになっていました。
 (まあ、例え告白の言葉を噛んだとしても美春さんは冬貴君を―――)
 私がそこまで考えた時です。
 『♪〜♪〜♪』
 私の携帯電話が鳴りました。
 「はい、もしもし?」
 「天枷かい?私だけど・・・」
 「あ、暦先生・・・どうしたんですか?こんな時間に?」
 時間を見るともう大分遅い時間です。
 「ちょっと大事な話があるんだ。悪いけど今から研究所の私の部屋に来れるかい?」
 「大丈夫ですよ・・・今から行きますね」
 私は身支度を整えて(といっても研究所は私の家の隣ですが)家を出ました。




  
  「待ってたよ。天枷」
 暦先生はコーヒーを飲みながら私のことを待っていました。
 「天枷は何か飲むかい?」
 「あ、いえ大丈夫です」
 それきり黙ってしまう暦先生。
 その横顔には少し辛いような表情が浮んでいました。
 「・・・暦先生?私に何か話があったんじゃないんですか?」
 「あ、そうそう、そうだね・・・」
 暦先生はしばらく考えた後、口を開きました。
 「天枷・・・演劇部で主役やってるんだね」
 「えっ?は、はい・・・」
 「私も今日は練習を見てたんだけど・・・」
 暦先生はそこで一旦言葉を切って続けます。
 「なあ、天枷・・・今からでもその主役・・・断れないかい?」
 「えっ?・・・どうしてですか?」
 突然の言葉に私は思わず聞き返します。
 「天枷・・・今日アンタの演劇見て思ったんだけど・・・台詞が出てこないシーンがあったよね」
 「・・・」
 それは事実でした。確かに少し台詞が出てこないシーンがあったのは本当のことです。
 「その時に『台詞が出てこなかった』んじゃなくて『意識が無かった』んじゃないかい?
 「!!」
 確かに舞台の上で記憶が途切れる時がありました。
 「やっぱり、そうなんだね・・・」
 暦先生は悲しそうな表情をしながら言葉を続けます。
 「単刀直入に言うと、天枷、アンタの人工知能には普通に生活しているだけでもかなりの負担が掛かるんだ」
 私に言い聞かせるように暦先生は言います。
 「その上に長い台詞を暗記するなんて作業が入ったら、ますます人工知能に負担が掛かる」
 一言一言を噛み締めるように言葉を続ける。
 「このままだと、機能停止するのが早くなっちゃうんだ」
 「・・・」
 「だから、天枷・・・」
 「・・・イヤです」
 私はそう答えていました。
 「ここまで来て、『やっぱり出来ません』なんて言えないです!みんな私を必要としてくれてるんです!
  長く生きられるからって何もせずにいるよりも、短くたってみんなの心に『私』という存在を残しておきたいんです!
  きっと本物の美春さんだって私と同じ立場だったらそう思うでしょうし・・・
  それに何より・・・これは私が自分で決めたことです!!」
 そこまで一気に喋ると私は一息付きました。
 「・・・決心は固いんだね」
 暦先生は諦めたようにため息を付きます。
 私は無言で頷きました。
 「ただ、今のままだと確実に近い内に機能停止してしまうよ。もちろん私も対策を考えるけど・・・」
 「・・・覚悟はしてます」
 私はそう呟きました。





  暦先生の研究室を出た後、私は『ある場所』に行きました。
 そこは―――
 (美春さん・・・気分はどうですか?)
 ベットの上で未だに眠り続ける美春さんに私は心の中で語りかけます。
 美春さんの顔には生気が戻り始めていて、顔にも赤みが差して来ていました。
 (美春さん・・・早く目覚めて下さいね。私は長くは冬貴君の側にはいられないみたいです)
 暦先生が立てた予想だと、今のままだと私は冬貴君と美春さんが本校に進学する頃には―――
 (でも、そうなったとしても、私は後悔しません。色んな経験が出来たし何より―――)
 私は一人の男の子に想いを馳せます。
 (冬貴君に出会って―――『恋』が出来たから―――)
 私がそんなことを考えたその時でした。
 「―――!!」
 「美春さん!!」
 私は思わず叫んでいました。
 だけど美春さんには何の変化もありません。
 (おかしいですね・・・今美春さんの指がピクッと動いたような気がしたんですけど・・・)
 私はそんなことを考えていました―――






                      〜第38話に続く〜


              こんばんわ〜フォーゲルです。第37話になります〜

                   順調に調整が進むミハルの演劇。

        冬貴へのクリスマスプレゼントの準備など忙しくも充実な日々を過ごすが・・・

   暦から自分の身体の限界を告げられても『自分らしく』生きたいと思うミハルに感情移入して貰えると嬉しいです。

           次回はついにクリパ本番、演劇は成功するのか?(冬貴のバンドも)

        そして、今回のラストシーン・・・ついに来るのかなども注目して頂けるいいな〜と。

                      それでは、失礼します〜


管理人の感想

なんか切ないけど甘いなぁなんて思った今話。

今回はほとんどミハル視点で、彼女の感情が入る分尚更そう思ったのかもしれませんが。

たとえば、冒頭に出てくる「二人分の長さのマフラー」とか。

想像してみれば、どう考えても恋人を超えたバカップルなのですが、けれどそれをミハルがすることは叶うのか?・・・と思うと切なくなってしまいます。

台本も、まさに今の美春・ミハル・冬貴の三人を表しているようなストーリー。しかし最終的には「妹」を愛しているということから、それがミハルの願望に思えてならないんですよねぇ。

そして徐々に聞こえてきた死神の足音。ミハルの人工知能は明らかに負荷が掛かっており、もはや近い内の機能停止は免れない身。

しかしそれでも、ミハルは舞台に立ちたいと願う。皆の期待に応えるため、そして何より、冬貴に見てもらいたいがために・・・。


次回はとうとうクリパの本番ですかぁ。冬貴のバンドも気になりますが、やはりミハルの舞台の方が気になってしまいますね^^



2007.12.3