『桜がもたらす再会と出会い』〜第36話〜
投稿者 フォーゲル
校内では賑やかな雰囲気が漂っていた。
季節はもう冬、風見学園では恒例行事のクリスマスパーティー(通称・クリパ)に向けての
準備が始まっていた。
風見学園は伝統的にお祭り好きなのか、体育祭、学園祭などの伝統的な行事の他に、
学園を上げて行うイベントが多い。
その内の一つが今回のクリスマスパーティである。
その他にも卒業パーティ(通称・卒パ)などもあるらしい。
美春が『去年は杉並先輩も卒業生だったせいか大人しくしてましたけど、今年は分からないから・・・』
と警戒していた。
現に去年は音夢さんがミスコンに参加したせいで大変だったらしい。
最も、それがきっかけで純一さんと音夢さんが結ばれる要因になったらしいから、
美春としては、嬉しかったらしいが。
(卒業・・・か)
俺は、今も眠り続ける美春に想いを馳せる。
暦先生によると、今も美春の意識は戻らず絶対安静の状態が続いているらしい。
(美春・・・せめて卒業式くらいは一緒に出ようぜ・・・
もちろん、『美春』とも一緒にな)
あの2人は姉妹みたいなものだから、いつか2人が仲良くしているところを見れたら、
それは、俺にとっても嬉しいことだった。
俺がそんな未来を考えてると―――
「・・・君?柊君?」
「えっ?ああ・・・すいません。白河先輩」
話し掛けて来た白河先輩に俺は謝る。
「せっかく、いい感じになって来たんですから、頑張って練習しましょう!!」
「そうですね。分かりました!」
俺はそう言ってドラムのスティックを握り締める。
このクリパで、俺は白河先輩達のバンドメンバーのドラマーとして参加することになったのだ。
以前、音楽の授業で先生がお遊びで持って来たドラムセットを何気なく叩いて見たら、
「センスあるよ」と褒められたことがあったのだ。
それをどこからか、聞きつけたのか白河先輩達がバンドメンバーに誘って来た。
俺も以前からやってみたいとは思ってたし、人助けだと思って参加することにした。
「じゃあ、もう一回合わせてみよう?もう少しでほぼ完璧になるし」
そう言うのは森川先輩―――通称『みっくん』だった。
「そうだね。工藤君も、柊くんもいいかな?」
その意見に同意したのは佐伯先輩―――通称『ともちゃん』だった。
2人とも一応先輩なので、水族館で会った時同様、先輩付けで呼ぼうとしたが、
『正式なバンドメンバーなんだから、そんな他人行儀はダメ!!』という意見に押し切られた。
ちなみに、みっくんがベース、ともちゃんがキーボード、そして―――
「OKだよ。チューニングも終わったしね」
ギターの工藤先輩がスタンバイする。
最後に俺が呼吸を整えて―――
『one,two,one,two,three,four!』
ヴォーカルの白河先輩の声を合図に、俺達のセッションが始まった。
(何か、気持ちよかったな・・・)
最後に合わせたセッションはこれ以上無いってくらいビシッと決まって現時点での完成度としては、
申し分の無いものだった。
「学園祭の時にはドラマーがいなかったから、ロック調の曲は出来なかったし、柊君には感謝してます」
そう言ってペコリと頭を下げる白河先輩。
「いや、俺も楽しいですし、むしろ俺を誘ってくれてありがとうございます」
練習を終えて、楽器を片付けながら言う俺。
ふと、時計を見ると時間は夕方から夜になろうとしていた。
(まだ向こうも練習やってるのかな?)
俺はそんなことを考える。
「柊君・・・美春ちゃんの所に早く行きたいんでしょう?」
「えっ?」
「ここは私達でやっておくから美春ちゃんの様子を見に行って上げて」
白河先輩の言葉に続けるように、工藤先輩が言葉を続ける
「美春ちゃん、今凄く緊張していると思うしな。早く行ってあげろよ」
「分かりました。すいません!」
俺はそう言うと音楽室を出た。
(まあ、確かに美春の性格を考えると緊張しまくりだろうが)
俺はそんなことを考えながら体育館へと向った。
俺はゆっくりとジャマにならないように体育館のドアを開ける。
そこで行われていたのは―――演劇部の公演の練習だった。
舞台上では通し稽古が行われていた。
「冬貴・・・冬貴」
ふと、上の方から俺を呼ぶ声がする。
見ると、純一先輩と音夢さんが体育館の2階席から俺を呼んでいた。
俺はそっちの方向に向った。
「こんにちは。お2人とも・・・どうですか?美春の様子は」
「それがな・・・」
純一先輩は苦笑を浮かべながら、舞台上の美春を見る。
「美春も頑張ってるんですけどね。いかんせん緊張しすぎです」
音夢さんがハラハラしながら見ていた。
そう、美春は演劇部の公演に出ることになったのだ。それも―――
「だけど、演劇部の部長も思い切ったよな。美春を主役に抜擢するなんて」
純一先輩はそう言って感嘆するような声を上げる。
「部長さんによると、主役のイメージと美春のイメージがピッタリだったらしいですよ」
美春から聞いた詳しい話によると、演じる役は『天真爛漫で無邪気なお姫様』とのことだった。
それは、確かに美春のイメージにピッタリだった。
演劇部の部長は、部員達ではイメージに合わず、『どうしようか・・・』と考えているところに
たまたま見かけた美春の姿が目に止まったらしく、スカウトして来たのだ。
『私は、みんなの太陽でありたいと・・・』
舞台上の美春が台詞を口にする。
だが、そこから先の言葉が出ない。
「ああ〜またですね」
音夢さんが心配そうな声を上げる。
「さっきから3回に1回は噛んじゃってるんですよね」
部長に注意されながら、必死に台本を見ている美春。
その表情は少し落ち込んでいるようだった。
「これは、練習が終わったら誰かが慰めてやらないとな」
「そうですね。・・・よろしくお願いしますね。柊君」
「・・・分かってますよ」
俺の慰めで美春が多少でも元気になってくれるなら、それが俺の役目だと自覚していた。
「おっ!今までのお前だったらキョトンとした顔をしてたのに・・・ひょっとしてお前達」
「兄さん!ダメですよ。そういうことを詮索するのは」
純一先輩と音夢さんが笑いあいながらそんなことを話す。
俺はそんな2人を見つめながら、一人考えていた。
(むしろ、そういう関係にはなれないからなおさらそう思うんですよーーー)
「はぁ・・・」
私はため息を付きながら帰り仕度をします。
今日の練習は正直自分でも情けなくなりました。
何度も台本を見て練習したはずなのに、いざ舞台の上に立つと緊張しちゃって台詞が上手く出てきません。
部長さんも演劇部の皆さんも、『気にしなくていいよ。時間はまだたっぷりあるんだし』
と言ってくれましたが・・・
(こんなんで本当にクリパ本番までに間に合うのかな・・・)
私の口からはまた、さっきと同じようにため息が漏れました。
校舎を出て校門の前まで来たその時です。
「どうしたんだ?そんなため息なんか付いて」
「・・・冬貴君?」
私の目の前には、この時間まで待っていてくれたのか、冬貴君がいました。
「お疲れ。一緒に帰ろうぜ。美春の好きな『ホットミルクバナナ』奢ってやるから」
『ホットミルクバナナ』とは最近コンビニで期間限定発売されたホットシェイクのような物です。
「バナナシェイクを暖めると美味いんだよな。意外だったぞ」
「そうだよ。みんな最初は『ええ〜!?』みたいな顔するんだけど・・・バナナの可能性は無限大です!」
私はそう力説すると、しっかりと冬貴君の腕を掴みます。
「冬貴君の奢りなら、早く行きましょう!無くなっちゃうかも知れないし」
「分かった!分かったからあんまり腕を引っ張るなって!!」
冬貴君の声を聞きながら私は自分の落ち込んだ気分が少し回復したのを感じました。
カップの中からストローを伝わって、中身が無くなって行きます。
(甘くておいしい〜〜〜!!)
家に続く道を歩きながら、私はそんなことを感じていました。
「バナナ絡みだと本当に幸せそうな顔するな〜美春は」
冬貴君が呆れたような顔をしながら私を見ています。
「バナナは私にとって主食みたいなものだからね」
そう言って私は『両手』に持った『ホットミルクバナナ』を飲みます。
「まあ、それで美春が元気になるのなら安いものだけどな」
「えっ?」
私は驚いた表情を浮べ、冬貴君を見つめます。
「演劇で失敗しまくってたみたいだし・・・元気になったか?」
「う、うん・・・やっぱり分かっちゃった?」
「まあ、あれだけ分かりやすく顔に出てればな」
冬貴君はそう言って笑います。
「だけど、美春が演劇の・・・それも主役をOKするとは意外だったな〜」
心底意外そうな声を上げて言う冬貴君。
「そ、そうかな?・・・これでも随分迷ったんだよ」
私は、そう言って空を見上げます。
冬の空には月が無く、澄んだ空気の空にはキレイな星が見えていました。
「でも、私を必要としてくれる人がいるのなら、役に立ちたかったし・・・それに」
「それに?」
「冬貴君も協力してくれるって言ってくれたし」
「まあ、確かに言ったな」
「それなんだけど・・・冬貴君、白河先輩達とのバンドの練習は進んでるの?」
「ああ。こっちは8割方完成しているけどな」
いきなり話題が変わったことに少し驚いた冬貴君を見ながら私は言葉を続けます。
「じゃあですね。時間が空いた時でいいんだけど、私の個人的な練習に付き合ってくれない?」
「いいぜ。時間が空いた時ならな」
「本当?やった!!」
私は思わず嬉しくなって声を上げます。
その時でした。
寒い冬の北風が私と冬貴君に向って吹き付けます。
「うっ・・・寒っ」
冬貴君は思わず肩を竦めます。
「じゃあ、こうしよう!」
私は冬貴君の隣に並ぶと寒くて赤くなっている手をギュッと握ります。
「み、美春?」
「こうすれば、暖かいよ」
私の行動に驚いた表情をしながらもしょうがないなという感じの冬貴君。
冬貴君の手の温もりを感じながら、私は幸せな気持ちになっていました。
冬貴君と別れて家に帰った後、私は買い物をして家に帰りました。
宿題などを終わらせてから、私は買ってきた品物を出します。
それは毛糸と編物の本でした。
(冬貴君へのクリスマスプレゼント・・・何にしようか悩んでたんだけど、決まりました)
寒そうに首を竦める冬貴君の姿を見て思いついたのが―――
(『手編みのマフラー』なんかいいかも知れないですね)
私はそんなことを考えながら、編み始めます。
(喜んでくれるといいな〜冬貴君)
一編み一編みに冬貴君への想いを込めながら私は編んでいきます。
それは届かないと分かっている想い。
だったらせめて、その想いを形にしたい―――
私はそんなことを考えていました。
それに、冬貴君が演劇の練習に付き合ってくれると言うのも私にとっては嬉しいことでした。
私の演じる役には―――『愛の告白』シーンがあったから―――
〜第37話に続く〜
こんばんわ〜フォーゲルです。第36話になります〜
新展開はクリパ編です。
冬貴はことり達と一緒にバンドを、ミハルは演劇の主役を務めることになりました。
果たして2人のクリパには何が待っているのか?
失敗が多いミハルの演劇は無事に成功するのか?などに注目して頂けると嬉しいです。
後は、後半のミハル視点が可愛いと想ってくれればいいなと。
それでは、失礼します〜
管理人の感想
今回から新展開。クリスマスパーティー編といったところでしょうか。
冬貴はことりのバンドグループのドラマーとして。そして美春は、演劇部の舞台のあろうことか主役で。
あ〜、確かに美春の性格だと、必要以上に緊張しちゃうんだろうなぁとか思いながら読んでました(笑)
それでも引き受けてしまうのが、美春らしいですね^^
今回の話は導入だったので、いくつかフラグも立っておりますが(「手編みのマフラー」とか「愛の告白シーン」とか)
それを今後、どう回収していくか、楽しみにしておきたいと思います。
それでは皆様。次話も是非ご拝読あれ〜^^