『桜がもたらす再会と出会い』〜第35話〜





                                      投稿者 フォーゲル


  「ふう〜・・・これで終わりね」
 私は最後の文章をパソコンに打ち込んでから大きく伸びをする。
 自分で入れたコーヒーを飲みながらしばし考え込む。
 (だけど、あんなことがあるなんてね・・・)
 私は昼間に間のあたりにした光景を思い出していた。




 

  冬貴が学園に出かけた後、私は久々に家の仕事をすることにした。
 いくら、あの人と冬貴の2人暮らしとはいえ、男しかいない家だから、汚れてるんじゃないかと思ったんだけど・・・
 「意外と片付いてるわね・・・」
 掃除の必要がないほどに、家の中は片付いていた。
 (これはやっぱり・・・)
 わたしがそんなことを考えてると・・・
 「笑美流さん・・・何してるんですか?」
 目を覚ました美春ちゃんがそこに立っていた。
 「う〜ん・・・ちょっと家の中の仕事をね。美春ちゃんは大丈夫なの?起きて来て?」
 「は、はい!もう大丈夫です」
 だけど、私の目にはまだ無理をしているようにも見えた。
 「美春ちゃん。もう少し寝てなさい」
 「え・・・だけど」
 「ご両親には私から連絡しておいたし、学園には冬貴がうまく話しておいてくれるでしょうし」
 「・・・」
 だけど、美春ちゃんは何も答えなかった。
 (全く・・・冬貴と同じで変なところで生真面目なんだから・・・)
 「大丈夫だから。大人しく寝てていいわよ」
 「でも・・・それじゃ悪いですし」
 「それとも・・・将来の『お義母さん』の言うことが聞けないのかしら〜〜〜!!」
 私はからかいの意味もこめて美春ちゃんにそんなことを告げる。
 「・・・そうですね」
 だけど、美春ちゃんのリアクションは私の予想とは少し違っていた。
 何というか、少し寂しそうなそんな感じだった。
 (私としてはそこは恥ずかしがって欲しかったんだけど・・・)
 私はそんなことを考えながら、美春ちゃんを布団の中に誘導した。




  「ゴメンなさい。笑美流さん」
 布団の中に戻った美春ちゃんが最初に呟いた言葉がそれだった。
 「別に気にしなくていいのよ〜私と美春ちゃんの仲じゃない。それに・・・」
 「それに・・・何ですか?」
 「冬貴が大分お世話になってるみたいだしね」
 「えっ?」
 この部屋の中を見る限り、とても冬貴が自分で掃除をしているとは思えなかった。
 「美春ちゃんが、たまに来て掃除とかしてくれてるんでしょう?」
 「そんなこと無いですよ。冬貴君も何だかんだ言って結構自分でやっているみたいですし・・・」
 その後、身体を起こした美春ちゃんは冬貴との間に何があったのかを私に話してくれた。
 冬貴のことを話す美春ちゃんの顔はだんだん熱を帯びて来た。
 私はそれを微笑ましい顔で見ていたんだけど・・・
 “プス・プス・・・”
 私の耳に変な音が聞こえて来たのはその時だった。
 (?)
 私はその音の発生源を探して、周囲を見回す。
 そして―――私の視線はある一点で止まった。
 「み、美春ちゃん・・・頭・・・」
 美春ちゃんの頭から白い煙が出ていた。
 「・・・!?」
 美春ちゃんは自分の頭を押さえると、私の方を見つめた。
 「え、笑美流さん・・・お願いが・・・」
 そう言って美春ちゃんは古めかしいゼンマイを私に差し出して来た―――





  「これでいいのかしら?」
 私は、美春ちゃんの背後から離れる。
 「あ、ありがとうございます・・・」
 そう言って美春ちゃんは、また服を着なおす。
 私はそれを黙って見つめていた。
 「・・・」
 「・・・」
 しばらく沈黙が落ちる。
 「・・・ゴメンなさい」
 私に頭を下げる美春ちゃん。
 「どうして謝るの?」
 「・・・私は笑美流さんの知っている美春さんじゃないですから・・・」
 「確かに『あなた』が本物の美春ちゃんじゃないことは分かったわ。でもまずは何でこんなことになってるのか、
 事情を説明してほしいな」
 あくまでも優しく語り掛ける私。
 「分かりました・・・まず、私は―――」
 そう言って美春ちゃんは、自分の境遇、何故自分が『美春ちゃん』と呼ばれているのかについて話してくれた。
 「なるほどね・・・そういうことか」
 全ての事情を聞き終えた私は思わずため息を付く。
 「あ、あの・・・笑美流さん」
 「うん?何?」
 「あんまり驚かないんですね・・・」
 「私は、『科学で説明出来ないこと』も一杯見て来てるからね。ロボットって科学技術の結晶でしょ?
  人間が出来ることなら、『ああ、そういうことも出来るかもね』って思うし」
 「そうですか・・・」
 「それに本物の美春ちゃんも命に別状はないんでしょう?」
 「は、はい。それは大丈夫です」
 「そう、ならいいのよ」
 私はそう言ってそれから―――思わずニンマリと笑う。
 「そっか〜それで昨日のリアクションか」
 「な、何ですか?」
 「昨日、冬貴に『美春ちゃんとキスしたの?』って聞いた時、美春ちゃんは複雑な表情したじゃない?
  あの時、私は単に恥ずかしがってるだけなのかと思ったんだけど・・・」
 そこまで言って私は目の前のもう一人の美春ちゃんに指を突きつける。
 「ズバリ!美春ちゃんもあの子のことが好きなのね!」
 「・・・」
 美春ちゃんは何も語らなかった。
 ただ、その顔が真っ赤に染まっていく様は私の問いに答えているも同然だった。
 「そうか〜あの子もそんなプレイボーイだったとはね〜」
 思わず笑ってしまう私。
 「で、でも私は、冬貴君には美春さんを選んでもらいたいって思ってます」
 「何で?入院している美春ちゃんに遠慮してるの?」
 「そういう訳じゃありません。・・・美春さんは小さい頃からずっと冬貴君を想い続けてるみたいですし―――それに―――」
 そう言ってもう一人の美春ちゃんが洩らした言葉を聞いた私は、衝撃を受けた。





  (だから冬貴が、『その娘とは距離を置いた方がいいのか』って言った時、私は、公演を聞きに来いって言ったのよね)
 そこまで考えて私は、目の前のパソコンのディスプレイを見た。
 「それだけは冬貴にさせちゃいけないわよね・・・」
 そこには冬貴と美春ちゃんのために追加で入れた文章が入っていた。







  「うわ〜・・・凄い人だな・・・」
 翌日、俺はオフクロの指定した通りに講演を聞きに来ていた。
 『急いで来た方がいいわよ』とオフクロに言われていたが、『芸能人が来る訳じゃあるまいし・・・』とタカをくくっていたら・・・
 「オフクロ・・・相当有名人なんだな」
 体育館は大勢の人で溢れかえり、取材のマスコミの人達も来ていた。
 美春や音夢さん達、風紀委員、白河先輩達中央委員会の人達はあっちこっちへ飛び回っていた。
 (声掛けようと思ったんだけど・・・忙しそうだしな)
 特に風紀委員は、杉並先輩達『非公式新聞部』の動向をマークするので大変そうだったし。
 俺は、オフクロの講演を体育館の2階席で聞くことにした。
 『ア〜、ア〜、それでは、皆様大変お待たせいたしました。初音島出身の世界的ミステリーハンター。
  柊 笑美流氏です。拍手でどうぞ!!』
 “パチ、パチ、パチ!!”
 盛大な拍手と共にスーツに身を包んだオフクロが舞台袖から現れる。
 その姿はいつものカジュアルなスタイルではなく、『仕事が出来るキャリアウーマン』という感じだった。
 『え〜、皆さん、こんにちは。今日は縁あって皆さんの前で、こうしてお話させていただくことになりました。
  皆さんが、退屈しないような話をしたいと思います。
  ・・・学園長先生のように話が長すぎて、眠る人が続出しないように』
  学生の一団からドッと笑い声が上がる。
 (オフクロ・・・昨日、俺から仕入れた情報も生かしてるな・・・)
 その後も、時折笑いを交えながら、流れるように話を進めるオフクロ。
 巧みな話術に話を聞いてる人達は引き込まれるようにオフクロの話す不思議な世界に興味を持ったようだ。
 だが・・・
 (俺に来いって言ったのはこの話を聞かせるため・・・じゃないよな)
 オフクロの血を引いているだけあって、俺もこういう世界には興味があるが・・・
 昨日の夜、オフクロが言っていた言葉を思い出す。
 『「じゃあ、私の講演を聞きに来なさい。ひょっとしたらアンタの悩みの解決になるかも知れないわよ」』
 だけど、少なくとも今までの話の中で、俺の悩み―――『これから美春とどう接していけばいいのか』という解答が
 あるようには思えなかった。
 (いや、別に答えを出してくれと言っている訳じゃない。せめてヒントになるようなことでもあれば・・・)
 『それでは、皆さん、最後になりますが私の個人的な思い出話を聞いて下さい』
 オフクロの講演は最後の段階に入りつつあった。





 『これは私の先生の話なんですが・・・』
 私はゆっくりと言葉を紡ぎ始める。
 そして、それと同時に私は昨日のもう一人の美春ちゃんの言葉を思い出していた。




  「美春さんは小さい頃からずっと冬貴君を想い続けてるみたいですし―――それに―――」
 「それに?」
 「例え、冬貴君が私を選んでくれたとしても・・・私はずっと冬貴君の側には居られませんから」
 「どういうこと?」
 「私は、元々長期運用を考えては作られていないんです。そもそも今回、私が動き出したことだって『奇跡』みたいな
  ものだって暦先生は言ってました」
 「それってつまり・・・いつかは『死ぬ』ってことなの?」
 「人間で言えばそういうことですね」
 そう言う美春ちゃんは、普通の表情をしていた。
 「・・・怖く・・・ないの?」
 思わずそう問い掛ける私。
 「私はそういう感情を持たないように作られましたから。だけど・・・」
 美春ちゃんはそう言って言葉を続ける。
 「自分が止まってしまうことよりも、私が止まった後に『私』の存在を忘れられるのが怖いんです」
 自分の身体を抱きしめるように腕を交差させる美春ちゃん。
 「だから、せめて冬貴君の心に『私』の存在が残ってくれればいいなって、そう思います」
 もう一人の美春ちゃんの穏やかな表情が私の心に残った―――





  
  「う、う〜ん・・・」
 俺は眠い目を擦りながら目覚める。
 大分、朝は寒くなってきたことを実感していた。
 「おはよう〜オフク・・・」
 階段を降りて、俺はキッチンに顔を出し―――
 「あ、そっか・・・」
 俺はオフクロがもう次の調査先へ出発したことを思い出した。
 誰もいないキッチンには、俺の好きな和食メニューが用意してあった。
 きっと、オフクロが用意していったのだろう。
 普通の母親のように一緒にはいれないオフクロなりの愛情表現なんだろう。
 「頂きます・・・」
 オフクロに感謝しながら、俺は朝食に手を付ける。
 食べながら俺は、昨日のオフクロの講演の最後の言葉を思い出していた。
 オフクロの講演、最後の話は、オフクロの先生の話だった。
 オフクロの先生は、どんな危険な土地にも自分の奥さんを連れて行くことで有名だったらしい。
 ある時、オフクロは先生の奥さんに聞いた。
 『どうして、奥様は先生に付いてこられるんですか?』と。
 先生の奥さんはこう答えたらしい。


  『私はあの人を愛している。仕事上いつあの人は死んでしまうかも知れない。
   その時には、私はあの人が亡くなる時まで、側にいたい。
   立場が逆になっても、私は自分が死ぬ時まで、あの人にそばに居て欲しい。
   そのために、私はこうして付いて来ているのよ』


 オフクロはその言葉に感動し、そしてこうも付け加えた。
 『私だけじゃなく、女性はみんな愛している人の側にいたいと思っていると思います。
  例え、それが報われない想いだとしても―――
  そして、男性はその彼女の想いに答えてあげられないのなら―――
  せめて、楽しい思い出を作ってあげて下さい。
  お互いが『出会えて良かった』と思えるような―――』



 オフクロの言葉を聞きながら、俺は『美春』のことを思い出していた。
 俺のことを好きだと言ってくれた美春。
 そんな美春のために俺が出来ることは―――
 (美春が楽しいと思えるような思い出をたくさん作ってやること―――か?)
 俺はそんなことを考えながら、味噌汁を啜る。
 そして、美春が―――
 (俺と出会えて良かったと思ってくれるように―――)
 そんな決意を俺は固めていた―――





                        〜第36話に続く〜



                 こんばんわ〜フォーゲルです。第35話になります〜

        まずは、更新ぺースを崩してしまい、ほぼ一ヶ月振りになったことをお詫びいたします。

     そして、今回の話の内容ですが・・・正直、読者の皆さんは予想してなかったんではないでしょうか?

                『実は笑美流にミハルの正体がバレました』という展開は。

                  健気なミハルに感情移入して貰えると嬉しいです。

                   次回は・・・『大抜擢』がキーワードです。

                       それでは、失礼します〜 


管理人の感想

35話をお送りして頂きました〜^^

今回は笑美流が主体の話となっていましたね。彼女の視点が大半を占めていましたし。

そしてこれは流石に予想外な展開。まさかミハルの正体が笑美流にバレるとは・・・。

まあ本編では誰にもバレないのですが、むしろそっちの方が確率は低いですよねぇ。どう考えても誰かにはバレるって^^;

正体がバレたミハルの口から語られるのは、そうなった経緯と・・・。彼への想い。

自分は将来(さき)の無い者だから。だから、せめて二人には幸せになって欲しい。語られる願いは、余りにも切なく響く。

そしてそれを聞いた笑美流が、講演会で冬貴に伝えたかった言葉。それを受けての冬貴の決意。

お互いが出会って良かったと思えるような思い出を――。



2007.10.22