『桜がもたらす再会と出会い』〜第34話〜






                                 投稿者 フォーゲル






  (どうすればいいんだ・・・)
 俺は頭を抱えて考えていた。
 自分の斜め前の席―――美春の席を眺めていた。
 美春は今日、学園を欠席している。
 (まあ、あの状態では出るのは無理だよな・・・)
 俺は昨日の夜のことを思い出していた―――



 
  「だから、冬貴君とキスしたいのに・・・」
 酒を飲んだ酔っ払っている美春の言葉に俺はしばらく固まっていた。
 「み、美春・・・」
 最初は『美春がこんなに酒に弱いとは・・・』とか軽く考えていた。
 だが、その言葉を口にした美春の表情は真剣そのもので―――
 とても酔った勢いで喋っているようには見えなかった。
 「分かってます・・・」
 固まっている俺には構わずに喋り続ける美春。
 「冬貴君の心の中には、美春さんが居るってことも・・・
  私が割って入れる余地なんか、これっぽっちも無いってことも」
 美春の言葉をただ聞くことしか出来ない俺。
 「私を『彼女にして下さい』とは言いません。でも―――」
 俺を見つめる美春の瞳にはうっすらと涙が溜まっていた。
 「今は私だけを見て下さい―――」
 そう言って俺の首に腕を回して来る美春。
 密着度が上がってドキドキする俺。
 しかも、上を脱いでいるせいで、ブラだけの胸の感触がさらに俺を動揺させた。
 俺の眼を見つめ、唇を寄せてくる美春。
 動けずにその様子をまるで他人事のように見ていた俺の脳裏に『ある人物』の顔がよぎった。
 本物の美春の顔だった。
 今までにもこういうことがあった。
 キャンプの時には、人工呼吸をしようとしたら、怒ったような美春の表情がよぎったこともあった。
 だけど今回、俺の脳裏によぎった美春の表情は―――
 目の前の美春と同じ、涙を目に溜めた悲しそうな表情だった。
 (・・・やっぱりダメだ!!)
 あるいはそれは俺の願望だったのかも知れない。
 美春が俺を好きでいてほしいと言う。
 それでも、俺には本物の美春しか居なかった。
 「美春・・・お前の気持ちは嬉しい。けど、俺は―――」
 俺はそう言葉を続けようとした。その時―――
 ふっと美春の腕から力が抜けた。
 そして、そのまま俺にもたれかかる。
 「み、美春!?」
 俺はあわてて美春の体を揺する。
 『ZZZ・・・』
 美春からは規則正しい寝息が聞こえて来た。
 「な、何だ・・・酔っ払って寝ただけか・・・」
 俺は思わずホッとしていた。
 美春を傷つけることなく済んだのだから。
 (ゴメンな・・・美春)
 俺はせめてもの償いで―――
 眠っている美春の体をギュッと抱きしめた。
 「冬貴君・・・大好きだよ・・・」
 穏やかに眠る美春からそんな寝言が聞こえて来た―――





  その後、美春が何しても動かなかったので、そのまま朝までそうしていた。
 (そのせいでオフクロには思いっきり勘違いされたけどな・・・)
 朝帰りしてきたオフクロは俺達の姿を見て思いっきり固まっていた。
 まあ、固まりもするだろうな・・・
 何せ、俺はともかく、美春は上はブラだけ、下は制服のプリーツスカートという、
 もの凄くアレな格好だったし。
 オフクロは呆れたような口調で言った。
 「冬貴・・・私はアンタをこんなマニアックな性癖の持ち主に育てた覚えは無いわよ」
 「誰がマニアックだ!!」
 俺はおおまかな事情を説明した。
 もちろん告白うんぬんのところはカットして。
 「ふ〜ん・・・じゃあ一晩中2人きりにしてあげたのに何もしなかった・・・と」
 「当たり前だ!!」
 俺はそう抗議をした。
 (っていうかこんな事態になったのはオフクロのせいじゃないか・・・)
 そう心の中でツッコんでいた。
 「・・・う、う〜ん」
 俺とオフクロの声が大きかったのか、身じろぎをして美春が目を覚ます。
 「起きたの?美春ちゃん?」
 優しい声で話しかけるオフクロ。
 美春はしばらくキョロキョロと辺りを見回してから―――
 「キャッ!!」
 自分の格好に気がついたのか慌てて俺の視線から身体を隠す。
 (って・・・今のリアクション・・・)
 俺は美春に話し掛ける。
 「美春?お前、昨日の夜のこと・・・何か覚えてるか?」
 「昨日の夜?」
 美春はしばらく考えていたが、力なく頭を振った。
 「ううん・・・冬貴君と一緒にパーティの後片付けをしていたところまでは覚えてるけど・・・」
 (じゃあ、昨日の告白も―――)
 俺はそんなことを考えてると―――
 「美春ちゃん・・・お酒臭いわよ」
 オフクロが顔をしかめる。
 「そういえば、キッチンのテーブルの上に置いてあったジュースを飲んでから意識が・・・」
 「なるほどね〜」
 何故か、ニヤリとしながら俺を見るオフクロ。
 「冬貴〜一体美春ちゃんにお酒飲ませて何するつもりだったのよ〜〜」
 「だぁぁ!!何でそうなる!!大体、テーブルにワイン置いてったのはオフクロじゃねーか!!」
 「あれ〜そうだったかしら〜?」
 トボけた口調で答えるオフクロ
 (というかそこまで計算に入れてたな・・・この人)
 俺は呆れながらため息を付く。
 「冬貴君・・・ちょっと静かにして・・・頭痛い・・・」
 美春が頭を押さえて呟く。
 「だ、大丈夫か?」
 身体に不安を抱えている美春を気遣いながら声を掛ける。
 「ダメかも・・・それに・・・気持ち悪い・・・」
 「完全に二日酔いね・・・動ける?美春ちゃん?」
 オフクロもさすがに心配になったのか美春に話し掛ける。
 だが、美春は話すのも辛いのか、ただ頭を左右に振るだけだった。
 「仕方ないわね。私の責任でもあるし・・・」
 オフクロは俺を見て言った。
 「冬貴。アンタは学園行きなさい。美春ちゃんは私が見てるから」
 「でも・・・」
 「美春ちゃんが心配なのは分かるけど、学生は勉強が本分よ。美春ちゃんのご両親には私から連絡しておくから」
 (俺が心配しているのはもう一つ意味があるんだけどな・・・)
 とはいえ、無理して残れば返ってオフクロに変な疑いを持たせるだけだろうし・・・
 「分かった。じゃあ後のことは頼んだ」
 俺はそう言って家を出た。





 (多分・・・大丈夫だと思うんだが・・・)
 ゼンマイは昨日入念に巻いておいたし、酔っ払った後は寝ていたのでオフクロの前で、
 ゼンマイ切れるというようなことにはならないと思うのだが・・・
 俺はそんなことを考える。
 しかし、目下のところ、俺にとっては考えなければならないことが出来てしまった。
 (美春の奴・・・まさか・・・俺のことを?)
 もちろん、『酒で酔っ払った上での冗談』だと考えることも出来る。
 だけど―――
 昨日の美春の瞳を思い出す。
 あの瞳はとても冗談で言っているようには見えなかった。
 それに、美春が俺に好意を持ってくれているんだとすると、気になることも出てくる。
 (『精神的なものが原因ってことになるね』)
 パーティの前に暦先生が言っていた美春の不調の理由。
 もし、俺への好意がその原因だとすると。
 そんな状態のところへ、『俺は心に決めた人がいるから、気持ちには答えられない』なんて言ったら―――
 それは美春を傷つけて、機能停止に拍車をかけることにもなりかねない。
 それだけは何としてでも、避けたかった。
 (どうすればいいんだよ〜〜〜!!)
 俺は机に突っ伏して頭を抱える。
 だが、俺の悩みに答える人は誰も居なかった。



  
   結局、どうすればいいのか分からないまま、俺は家に帰って来た。
 (はぁ〜〜〜・・・)
 ため息付きながら、俺は玄関の扉を開ける。
 「あ、お帰りなさ〜い!!冬貴君♪」
 「み、美春!?体調はもういいのか?」
 制服にエプロン姿の美春が気分良さそうに立っていた。
 「うん!少し寝てたらバッチリ!!気分爽快だよ!!」
 「そっか・・・なら良かった」
 俺は安心したようにホッとため息を付く。
 「で、お前は家に帰らないで何やってるんだ?」
 「笑美流さんにお世話になったから。そのお礼でね」
 美春によると、オフクロは美春が目を覚ますまでずっとそばにいてくれたらしい。
 「美春が目を覚ました後、明日の講演会の原稿書かなきゃならないって言うから・・・
  お手伝いをしてあげたいって思って」
 そう言って笑う美春。
 キッチンからはいい匂いがしていた。
 「何か作ってるのか?」
 「うん!笑美流さんからレシピを教えて貰ったから・・・カレーライスだよ。冬貴君大好物なんだよね」
 「カレーか・・・」
 「ちょうど出来たところだけど・・・一口食べて見る?」
 どこの家庭でもそうかも知れないが、カレーライスはその家庭独特の味が出るものだ。
 いくら教えて貰ったとはいえ、そうあっさりと家の味を再現するのは難しいだろう。
 とはいえ、美春が作ったカレーを食べてみたいと思ったのも事実だ。
 (キャンプの時とはまた違うんだろうし)
 「分かった。とりあえず一口な」
 「本当に?じゃあ付いて来て」
 そう言う美春の後に俺は付いて行った。
 一口食べたカレーはほぼ忠実にウチの―――柊家のカレーの味がした。
 「美味しい・・・完全に俺の家のカレーの味を再現出来てるぞ」
 そう答えた俺の表情を見てホッとした表情を浮かべる美春。
 その顔を見た俺には複雑な想いが生まれていた。
 (いつか、こっちの『美春』には辛い想いをさせることになるんだよな・・・)
 その時、『美春』はどういう表情をするんだろう?
 そして、俺はその表情をマトモに見られるんだろうか?
 そんなことを考えると、俺は自分の気持ちが深く沈んでいくのを感じられた。





  「ただいま〜〜!!」
 「お帰りなさい〜美春ちゃん、ちゃんと送って来た?」
 「ああ、大丈夫だ」
 そう答えながら、俺はリビングに入って腰を下ろす。
 原稿を書き終えたオフクロも交えて3人で夕食を食べた後、俺は美春を送り届けて来た。
 美春は明日のオフクロの講演会にも会場に行くと言っていた。
 というのも会場が風見学園の体育館でやるので、風紀委員の美春達も会場の設営とかの準備があるらしい。
 (大変だな・・・)
 俺がそんなことを考えてると・・・
 「コーヒー飲む?」
 オフクロが珍しく声を掛けて来た。
 「あ、うん」
 オフクロが入れてくれたコーヒーを飲むと何だか気持ちが落ち着いた。
 その様子を見たオフクロが口を開く。
 「ねぇ。冬貴・・・あんた何か悩んでない?」
 「えっ・・・何で?」
 「朝から感じてたんだけど・・・何か暗いし、美春ちゃんを見ながらため息付くし・・
  美春ちゃんと何かあったの?」
 「別に、美春と何かあったって訳じゃないよ」
 「私に相談出来ることなら相談しなさい?明後日には今度は私、アメリカに行くんだから」
 今回の講演会が終わった後、オフクロは次の調査に出発することになっていた。
 「最後に母親らしいことをしてあげたいしね」
 そのオフクロに俺は今回の美春のことを相談して見ることにした。
 最も、バカ正直に『今、目の前に入る美春は、実は・・・』なんぞと説明する訳にはいかないので、
 『実は、ある女の子から告白されて、でも俺には美春がいるからその娘の気持ちには答えられなくて・・・
  だけど、俺の気持ちを伝えれば、きっとその娘は傷ついてしまう。
  俺にとってもその娘は大切な娘であることには変わりないから、どうすればいいのかなって・・・』
 という風に説明した。
 俺の説明を聞いたオフクロはただ黙って話を聞いていた。
 そして、一言呟いた。
 「若いわね〜」
 「オフクロ・・・俺は真面目に相談してるんだけど」
 「ああ、ゴメンね」
 「いっそのことその娘とは距離を置いた方がいいのかな・・・とも思うし」
 俺の存在が美春を苦しめているのなら、例え美春に嫌われてでも、そうするのがベストなのかとも思った。
 それで美春の機能停止を避けられるのなら・・・
 「冬貴・・・アンタも分かってないわね〜」
 だが俺の考えを否定するかのように、オフクロは頭を振った。
 「あのね・・・」
 だがそこまで言ってオフクロは言葉を切った。
 「冬貴、アンタ明日ヒマなんでしょ?」
 「あ、ああ・・・」
 「じゃあ、私の講演を聞きに来なさい。ひょっとしたらアンタの悩みの解決になるかも知れないわよ」
 「えっ?そ、それはどういう意味だ?」
 「明日来れば分かるわよ」
 俺の心の中に疑問だけが残った―――







                       〜第35話に続く〜


               こんにちは〜フォーゲルです。第34話になります。

              今回は前半のミハルの告白(?)を力入れて書きました。

          読んだ皆さんが『切ないな・・・』とか思ってくれれば作者的には成功です。

              ミハルの気持ちを知ってしまった冬貴がどう動くのか?

                  笑美流は講演会で何を語ろうというのか?

                そのあたりを次回は楽しみにしてくれると嬉しいです。

                       それでは、失礼します〜


管理人の感想

ども〜。フォーゲルさん、今回もありがとうございました!

前半部分のミハルの告白。叶わないと分かっていても、一瞬でも冬貴に振り向いて貰いたいというミハルの気持ちがヒシヒシと伝わってきました。

しかし・・・冬貴もあそこまでハッキリと言われてようやく気付くとは。しかもやはりというか、本当にまったく気付いていなかったみたいですし^^;

それでも、たとえそっくりだとしても、冬貴が好きなのは本物の美春なわけで・・・そこで揺るがないのが、冬貴の良いところですよね^^

けれどミハルの身体のこともあってか、翌日もハッキリ告げることは出来ず。母である笑美流に相談することに。

果たして、笑美流の講演会と冬貴の悩みがいったいどんな関係があるのか?次回も期待ですね。



2007.9.22