『桜がもたらす再会と出会い』〜第33話〜
投稿者 フォーゲル
俺はテキパキと動いていた。
オフクロ主催のホームパーティの準備に追われていたのだ。
昔から何かというとオフクロはこうやってパーティやるのが好きだった。
(そういえば、初音島を離れる時も、こうやってパーティやったっけ・・・)
『誰かと別れる時には、笑って別れなさい。そうすれば再会する時も笑顔で会えるから』
というのが、オフクロの―――柊家のポリシーにだった。
まあ、その通りに俺は初音島に帰って来た時も、美春と笑顔で再会出来たんだから、
あながち、的外れでもないのかもな。
「柊君〜!!お醤油どこですか?」
俺を呼ぶ声がしたので、声のした方に行って見る。
「そこの戸棚の上に無いですか?」
俺は声の主―――白河先輩に聞いて見た。
「えっと・・・あ、ありました」
白河先輩は醤油差しを取ると、最後の仕上げのようにサッとフライパンの中に注ぎます。
「これで完成ですね」
満足気に完成した料理を見つめる白河先輩。
「すいません。招待した人に料理作って貰っちゃって」
「いいんですよ。私もこういう機会にお料理するのは嫌いじゃないですから」
白河先輩はそんなことを言いながら、料理を大皿に盛って行く。
「笑美流さんはどうしてるんですか?」
「美春を可愛がってます」
オフクロは、自分の子供は最初、女の子が欲しかったらしい。
だから、俺が生まれる時にも女の子の洋服ばっかり買ってたようだ。
そのせいか、初音島にいる時には美春をまるで自分の本当の娘のように可愛がっていた。
「さっきも美春の頭をナデナデしてましたよ」
「そうなんですか」
その光景を想像したのかクスッと笑う白河先輩。
「白河先輩・・・ありがとうございました」
「えっ・・・何がですか?」
「美春が何か・・・少し元気になったような気がして」
暦先生に言われたことが気になって、俺は美春の表情を注意して見ていた。
何となくだが、さっき暦先生の研究室で見た時と、今とでは多少違って見えるような気がした。
「白河先輩が、何かしてくれたんでしょう?」
「さあ?どうでしょう?・・・ねえ。柊君」
「何ですか?」
「天枷さんのこと、ちゃんと見てて上げて下さいね。
柊君がそばにいることが、天枷さんに取っては何よりも嬉しいことなんですから」
それは真剣な言葉だった。
「は、はい」
「よし、分かればいいです」
白河先輩はそう言うと満足そうな顔でキッチンを出て行った。
(・・・白河先輩、まさか『美春』が『美春』じゃないってことに気付いてるんじゃないよな・・・)
俺はそんなありえないことを考えながら、白河先輩の後を追った。
「いや〜やはり笑美流女史はただものではないです!!」
「そう、ありがとう!」
杉並先輩が感嘆の声を上げながら、オフクロを賞賛する。
パーティが始まり、俺達はいろんなことを話していた。
どうも、オフクロは学園周辺の人達に声をかけたらしく、いろいろな人達が来ていた。
純一先輩や音夢さん、暦先生も顔を出してくれた。
「その若さであれだけ世界の不思議現象に遭遇しているとは・・・驚きです」
「こんなものじゃないわよ〜世界にはまだまだ不思議なことがたくさんあるんだから」
「ぜひに、興味があります」
「決めたわ!杉並君、風見学園卒業したら、私を訪ねて来なさい。私の研究チームに入れてあげるわ」
「あ、ありがとうございます。大変光栄です」
「笑美流さん、今すぐ連れてってもいいですよ。私達も仕事が楽になりますから」
「音夢・・・さすがにそれはヒドくないか?」
オフクロと杉並先輩、音夢さんと純一さんがそんな会話をしている時に、俺は美春を見ていた。
さっきの白河先輩の言葉が引っかかったからだ。
(俺がそばにいることが何よりも嬉しい・・・か)
美春は白河先輩にそんなことを話したのだろうか?
でも、俺はそれだけではダメなような気がした。
そばにいるだけでは、結局今までと何も変わらないような気がしたからだ。
それで美春は、俺に悩みを相談出来ずに溜め込んでいるんだから・・・
俺がそんなことを考えていた時だった。
「冬貴〜何美春ちゃんのことジッと見てるのよ〜」
いつのまにか、美春の近くに来ていたオフクロが俺をからかいながら見ている。
「まあ、しょうがないか〜美春ちゃん可愛いもんね〜」
そう言うとオフクロは美春をギュッと抱きしめる。
「え、笑美流さん?苦しいですよ〜」
「オフクロ・・・美春の奴苦しそうだから離してやれよ・・・美春を抱きしめる機会だったら何回でもあるだろ?」
俺は嗜めるようにオフクロに注意する。
だが、オフクロは俺よりも一枚上手だった。
「そうね〜美春ちゃんは後10年もしたら、私の『本当の娘』になるんだもんね〜」
“ブッーーー!!”
俺は思わず飲んでいたジュースを思いっきり吹いていた。
「な、な、な・・・」
「何よ〜というかこの際聞いちゃうけど、美春ちゃんとはどこまで行ったの?キスくらいしたんでしょ〜」
「な、何で今そんなことここで言わなきゃいけないんだよ」
俺は何とか話題を変えようとする。
「あら、でもみんな興味深々みたいよ」
ふと見ると、白河先輩を筆頭にほぼ全員が俺を注目していた。
(ま、参ったな・・・)
もちろん、キスしたことが全く無いのなら素直にそう言えばいいのだが・・・
俺の脳裏には真っ赤な顔をした浴衣姿の『本物の美春』の姿と―――
その時の、美春の唇の感触だった。
(あ、あれをカウントしていいのか?)
あれも形としては、キスをしたことになるけど・・・
オフクロが言っているのは『恋人としての』キスのことなんだろうし。
しばらく、沈黙が落ちる。
「ふ〜ん、なるほどね。やっぱりキスしたんだ」
「・・・!!」
オフクロの言葉に、俺は絶句した。
「だって、質問したとたんに、黙っちゃうし、顔が赤くなるし・・・自白したも同然よ」
何故かウキウキしたような口調で言うオフクロ。
「さて、後は『それ以上』行ったかどうかなんだけど・・・」
(自分の息子の恥ずかしいところを告白させるな〜)
俺の心の中の絶叫をよそに、オフクロはさらに話を聞き出そうとする。
その時だった。
「すいませ〜ん!!お届けものです!!」
玄関の方から声がした。
「ほ、ほら、何か届いたみたいだから、行きましょう!!」
俺はそう言ってみんなの中を分け入って進んでいった。
「・・・あ〜あ残念」
心底ガッカリしたような声で言うオフクロと―――
「・・・」
俺の顔を複雑そうに見る美春の表情が印象に残った。
受取のサインをして俺はその小包を持ってくる。
「オフクロ宛てだぞ」
「あ〜やっと届いたのね、待ったわ〜」
オフクロは嬉しそうにその小包を開ける。
中に入っていたのは、ワインのボトルと小さな箱だった。
「これね〜フランスに行ってた時に、現地の人からヴィンテージものだって貰ったのよ〜」
オフクロは懐かしそうにそれを見る。
「あの人と飲むために送ってもらったんだけど・・・
3本入ってるから、1本は暦と飲もうかしら。いいわよね。暦」
「大丈夫ですよ。笑美流さん」
暦先生が返事をする。
親父は今日も仕事らしくて、天枷研究所にいる。
(まあ、何だかんだ言って仲は良いみたいだからな・・・)
以前、親父がオフクロに送るはずだったメールが間違って俺のところに流れて来たんだが・・・
いや〜・・・歯の浮きまくるような愛のメールで正直引いたぞ・・・
「あれ?じゃあこっちの箱は何ですか?」
小包の中を覗き込んだ美春が不思議そうな声を上げる。
「ああ、それね。私が今日のパーティで使おうと思ってた特選食材よ」
「!!」
俺はその言葉に背筋が凍るのを感じた。
「へえ〜私達も見ていいですか?」
その言葉に白河先輩と音夢さんも美春の近くに寄る。
「さ、三人とも!!見ない方が・・・」
だが、俺の言葉は届かず、美春はその箱を開けてしまった。
【カサカサカサ・・・】
箱から出てきたのは・・・
(ああ〜やっぱり!!)
俺は内心頭を抱えながらオフクロに詰め寄る。
「オフクロ!!何だ!アレは!!」
「何だって・・・ただのサソリよ」
「どうして人を招待するパーティでゲテモノ料理を食わせたがるんだよ!!」
「大丈夫よ。毒はないし、ワシントン条約にも引っかからないから」
「そういう問題じゃない〜!!」
見ると、女性陣三人は箱を開けた時の状態のまま固まっていた。
あ、美春の顔をサソリが通過した・・・
『キャアアアア!!』
白河先輩と音夢さんが同時に悲鳴を上げ―――
美春は、その姿勢のまま固まっていた。
(本当に大丈夫か・・・?)
俺は気絶した美春を連れてとりあえず自分の部屋に来ていた。
正確にはゼンマイ切れを起こして止まってしまったのだ。
俺は自分の心に不安が蘇ってきた。
昼間の暦先生の言葉を思い出す。
(いつかは機能停止してしまうかも知れないってことだ)
それだけは何としてでも避けないと・・・
そのためだったら、俺は何でもする覚悟だった。
でも、今はそれよりもしなければならないことがあった。
(どうしよう・・・)
目の前には、ゼンマイ切れの美春。
いつもだったら、美春に制服脱いでもらってからゼンマイ巻くのだが・・・
緊急事態だったせいで当然美春が制服自分で脱げる状態な訳は無く。
(これって・・・俺が脱がせなきゃいけないのか?)
いくら『俺の好きな』美春とこの美春は違うとはいえ、
男である以上変な気分になるのは当然な訳で、
でも、そんなこと言ってる場合じゃ無いし・・・
(あ〜もう!!しょうがない!!)
俺は邪(よこしま)な考えを頭の隅に押しやると、美春の制服のリボンに手を掛けた―――
(痛い・・・)
俺は自分の頬を押さえた。
ゼンマイを巻くために、俺は美春の制服を少しだけ脱がせた。
そこまでは良かったのだが・・・
目が覚めた後、何を勘違いしたのか、思いっきりビンタされたのだ。
もちろん、事情を説明したら美春は納得してくれたのだが。
「それにしてもいきなりビンタすることは無いだろ?いつもやってることなんだし」
そういう俺に美春は、
「だって、『自分から脱ぐ』のと『脱がされる』のとでは気分が違うんだもん」
と、オフクロ達が聞いたら100%誤解しそうな発言をしていた。
ちなみに、今俺と美春はパーティ終了後の後片付けを2人でしている。
みんなが帰った後、オフクロは『仕事が終ったからってメールが来たから、あの人と外で飲んで来るわね〜』
と言って送ってもらったワインを持って出て行った。
「冬貴く〜ん!!ジュース飲んでもいい?」
「ああ、いいぞ〜〜!!」
キッチンからの美春の声に俺は答える。
(しかし、オフクロは勘違いしてるな・・・)
家を出て行く直前にオフクロは俺にコソッと耳打ちした。
(冬貴・・・私今日、家には帰らないから美春ちゃんと『仲良く』しなさいよ〜〜!!)
どうやら、自分が初音島にいる間に俺と美春の仲を進展させたいらしい。
(こっちの『美春』と進展しても意味ないんだけどな・・・)
俺がそんなことを考えてる時だった。
「冬貴く〜ん」
後ろから美春の声がした。
「どうしたんだよ?み・・・」
後ろを振り向いた俺は固まった。
美春は何故か―――制服の上を脱いでいた。
「な・な・な・・・」
口をパクパクさせるしかない俺に美春は抱きついて来た。
美春の全体重を支えることが出来ずに俺は倒れこむ。
ちょうど美春に押し倒されるような格好になった。
「と〜う〜き〜く〜ん〜」
物凄く嬉しそうな顔で俺にしがみつく美春。
「う〜ん、体が熱いです〜〜」
そんなことを言いながら、スカートのホックに手を掛ける。
「そ、それはダメだ!!」
必死に止める俺。
「え〜何でよ〜いいでしょう〜」
(お前は良くても、俺がダメなんだよ!!いろんな意味で・・・)
美春からは酒の匂いがしていた。
俺は美春が何故こんな状態なのかにようやく思い至った。
オフクロが送って貰ったワインは3本。
一本はさっき暦先生と飲んでいた。
もう一本は親父と飲むと言って持っていった。
じゃあ、もう一本は?
その答えが今の美春の状態だった。
(そ、そういえばそのワインのビン、家に置いてあったジュースの瓶と形が似てたっけ・・・)
多分、間違えて飲んでしまったんだろう。
で、美春はものすごく酒に弱かったと。
だが、そんなことが分かっても今のこの状況がよくなる訳でも無く・・・
「う〜ん〜しょうがないなぁ〜」
何とかスカートを脱ぐのを思いとどまってくれた美春。
俺が内心ホッとしていると・・・
「じゃあですね〜」
美春は俺に唇を近づけて来る。
「だぁぁ!!それもダメだ!!」
「え〜美春さんとはキスしたんだよね〜だったら私とも・・・」
酒のせいで変にテンション高い美春は俺の声を気にもせずに唇を近づける。
「あ、あの〜ほ、ほら!!美春だって俺とキスするより自分の好きな人とファーストキスした方がいいだろ?」
それは、俺の心からの言葉だった。
しかし、その言葉を聞いた美春の表情が一変した。
一瞬だけ酔いが抜けたような表情になった。
「だから、冬貴君とキスしたいのに・・・」
(えっーーー!!)
美春の言葉に俺は固まる。
(まさか、『美春』の悩みごとって―――)
今まで考えもしなかったことが俺の頭によぎった―――
〜第34話に続く〜
こんにちは〜フォーゲルです。第33話になります〜
今回は予定通りにホームパーティ編でした。
笑美流の弾けているキャラ(美春ちゃんは10年たったら私の娘発言とか)に笑ってもらえると嬉しいです。
後は冬貴の鋼の理性にも(笑)
酔ってるとはいえミハルに半裸状態で迫られたら・・・大抵は、ねぇ(爆)
酔ってるミハルを可愛いと思って貰えたら嬉しいです。
さて、さすがにミハルの気持ちに気付きかけた冬貴が次回以降どう動くのか注目して下さい。
それでは、失礼します〜
管理人の感想
ホームパーティー編、いかがでしたでしょうか?
笑美流も含め全員が集まったパーティー。杉並と笑美流のやり取りに思わず噴出しそうになりました^^
そしてそんな中、問われるのは美春との関係。沈黙を肯定と取られた挙句、もはや収集が着かない事態に・・・。
まあミハルにとっては複雑ですよね。自分の分身とも言える人が、好きな人とキスをしたなんて。
そしてミハルはゼンマイ切れ。丁度「放心した」という理由が出来てよかったですねぇ。それとも、サソリを見たからゼンマイが切れたのか?
その後の展開はお約束。突然ミハルが意識を覚まし、冬貴に強烈なびんたをお見舞い。
冬貴にとっては、理不尽この上ないと思いますが(汗)
さて、次回。ジュースと間違ってワインを飲んでしまった酔っ払いミハルと冬貴は、果たして進展するのでしょうか(笑)
それでは!