『桜がもたらす再会と出会い』〜第32話〜
投稿者 フォーゲル
(・・・)
私はある事を思い出していました。
それは、私が生まれてからのこと。そして―――
美春さんとの楽しい会話の日々。
美春さんは、『ミハさんは私の妹みたいなものだよ!!』って言いながら、
(ちなみに『ミハさん』というのは美春さんが私に付けてくれたニックネームみたいなものです)
よく私が眠る研究所の一室に遊びに来てくれました。
美春さんが話す外の世界は、とても楽しそうで、私はいつか外に出てみたいと思うようになりました。
その美春さんの話の中に、ある時から一人の人の話が多くなりました。
その人は、美春さんの幼馴染で数年振りに再会した男の子―――
冬貴君のことでした。
美春さんは、冬貴君と再会出来たことが余程嬉しかったみたいでした。
只でさえ、感情豊かな美春さんが冬貴君の話をする時は、
凄く嬉しそうな声で話すことが多かったし、
冬貴君との間に辛いことがあった時は、物凄く落ち込んでいることが多かった。
私と美春さんは意思の疎通が出来ることもあって、
その感情の起伏は私にもよく分かりました。
そして、生まれたばかりの私でも―――
『美春さんは冬貴君のことが好きなんだ―――』
と分かりました。
そんな美春さんを私は一度だけからかったことがあります。
いつものように冬貴君の話をしている美春さんに、
『私も会ってみたいですね〜その冬貴君に』と言いました。
「いつかミハさんが動けるようになったら、紹介してあげるよ」
そう言う美春さんに、私は言葉を続けます。
『でも、いいんですか?』
「何が?」
『美春さんがそんなに好きになった人なら・・・私も好きになっちゃうかも知れませんよ?』
「えっ!?」
あからさまに動揺した美春さんの気配を感じながら、私は言います。
『冗談ですよ〜美春さんがそんなに好きな人なら私なんかの割り込む余地はないですよ』
「ミ、ミハさん〜〜〜!?」
真っ赤になる美春さんを見ながら、私は思わず微笑ましい気分になりました。
私が動き出す可能性は、現実問題としてかなり低いし、
仮に私が動けるようになったとして、美春さんが好きになった人を私が好きになったりはしないだろう―――
その時は、そう思ってた―――
だけど、現実に私が動けるようになって、冬貴君と出会って・・・
冬貴君は本当に優しくて、誠実な人です。
美春さんが事故に合って辛い思いをしたはずなのに、私のお世話を引き受けてくれた。
私を『美春さんの代わり』じゃなく私自身として見てくれた。
そんな冬貴君を美春さんが好きになるのも、分かるような気がしました。
そして、私も―――
(でも、そんなことは考えちゃ・・・)
私は必死にその感情を否定しようとしました。
美春さんは必死に生きるために戦っているのに、そんなことを考えるのは悪いと思ったし・・・
そして何より・・・
(2人は両想いなんだし)
冬貴君と美春さん。
お互いが両想いだと言う事に気がついていないのは多分当の2人だけでしょう。
そんな状態のところに私が余計なことを言って2人の間に亀裂が入るのだけは避けたかった。
でも、想いを封印しようとすればするほど、私の心の中には冬貴君への想いが募って行きます。
そんな私に出来るのは、せめて冬貴君に自分の想いを悟られないようにすることだけでした。
知られたら、きっと冬貴君は苦しむ・・・
私の気持ちには答えられないから―――
でも、そう考えると私の心がざわつくのもまた事実でした。
結局、私は冬貴君に『私だけを見て欲しい』そう思っているということ―――
そんな自分がたまらなく嫌でした。
(私はどうしたらいいの?・・・)
そんな私の心の中の問いかけに答えてくれる人は誰もいませんでした―――
「・・・さん?天枷さん?」
突然呼び掛けられて私は我に返ります。
見ると、白河先輩が心配そうな顔で私を見ていました。
「えっ・・・ああ、何ですか?」
(そっか・・・よく考えると白河先輩とお買い物の途中でしたっけ・・・)
ホームパーティ用の買出しに来ていたことを私は思い出しました。
「さっきから呼んでたのに、天枷さん、ボーッとしてるから・・・」
「・・・ゴメンなさい」
「ねえ・・・天枷さん、何か悩み事でもあるの?」
「どうしてですか?」
「何か、辛そうな顔してたから・・・」
「そ、そんなこと無いですよ〜美春はいつも元気です!!」
そう言って腕をまくって力こぶを作る真似をする私。
「・・・」
しかし、白河先輩は心配そうに私を見ていました。
「あっ!!そうだ!!」
突然、白河先輩は何かを思いついたような顔になりました。
「天枷さん、チョコバナナ食べたくありません?」
「えっ・・・私はいつでも食べたいですけど」
バナナは私に取って主食みたいな物だし・・・
「じゃあ、これから食べにいきませんか?」
「でも、お買い物が・・・」
「まだ、パーティ始まるまで時間があるし、行きましょう!!」
そう言ってわたしの言葉を聞かず歩き出す白河先輩。
「あ、待って下さいよ〜」
私は白河先輩の後を急いで追いかけました。
「つい最近、新作が出てたんですよね〜」
白河先輩はそう言いながら、手に持ったチョコバナナを一口食べます。
私と白河先輩が来たのは、桜公園です。
ここには、いつもチョコバナナの屋台を出しているおじさんがいて、私も顔見知りでした。
最も、ここ最近は顔を出してませんでしたが・・・
私と白河先輩はチョコバナナを持って、『枯れずの桜』の下に来ました。
「どうしたんですか?天枷さん?食べないんですか?」
手に持ったチョコバナナをしばらく見つめていた私に白河先輩が声を掛けます。
「遠慮しなくてもいいんですよ?私が好きで奢ったんですから」
チョコバナナを買う時に、お金を出そうとした私を白河先輩が押しとどめました。
『今日は私が奢りますよ〜私が誘ったんだから』
私はその好意に甘えることにしました。
「はい、頂きます・・・」
私はチョコバナナを一口齧ります。
何ともいえない甘い味が口の中に広がります。
(そういえば・・・初めてバナナを食べたのも冬貴君と一緒だったっけ・・・)
そのことを思い出して、そして―――
“ズキッ”
私の心の中に鈍い痛みが走ります。
その痛みこそが私が冬貴君を諦めきれない何よりの証明でした。
そんな私の様子を見て、白河先輩が私に語りかけます。
「ねえ・・・天枷さん。柊君とケンカでもしたんですか?」
「えっ!?な、何でですか?」
「ここのところ、天枷さん何か元気無いみたいですから・・・ちょっと気になっちゃいまして」
私は驚きました。
この悩みを誰にも悟られないようにしてたつもりでした。
「べ、別にケンカした訳じゃないですけど・・・」
「でも、柊君絡みの悩みですよね?」
「・・・」
思わず黙ってしまった私に白河先輩はさらに言葉を続けます。
「天枷さん・・・良かったら話してみませんか?」
白河先輩の声はとても優しくて、私は今すぐに話してしまいたい衝動に駆られました。
でも、それは出来ません。
この悩みを話してしまえば、美春さんと私の秘密が皆さんにバレてしまいます。
でも、何も話さなかったら白河先輩を心配させてしまうでしょう。
考えに考えた私はある質問をすることにしました。
「・・・じゃあ、白河先輩のことについて聞いてもいいですか?」
「私のこと?」
白河先輩はしばらく考えた後、言いました。
「いいですよ。それが天枷さんの悩みの解決のヒントになるのなら」
その言葉を聞いて、私は思い切って口を開きました。
「白河先輩は、朝倉先輩のことが・・・好きだったんですか?」
桜公園に来る前に、私と白河先輩は、朝倉先輩と音夢先輩に会っていました。
相変わらず、仲の良い2人を見て私は嬉しくなりましたが・・・
白河先輩は、私とは違う―――
嬉しさと悲しさが入り混じったような複雑な表情をしていました。
その時に私は思いました。
白河先輩も私と同じ―――
『決して届くことの無い想い』を持ってるんじゃないかって・・・
しばらくして白河先輩は答えました。
「うん。私は朝倉君のことが好きだったよ。フラレちゃいましたけどね」
「フラレたって・・・告白したんですか?」
それは私にとっては予想外の答えでした。
告白したんじゃないかっていう噂は聞いてましたが・・・
「もちろん!・・・結果は分かってましたけどね」
「じゃあ・・・白河先輩は・・・」
「知ってました。音夢と朝倉君が両想いだっていうことは」
そう言って笑う白河先輩。
その表情には今の私のような悩みの影はありませんでした。
「・・・怖くなかったんですか?」
思わず、私はそう聞いていました。
音夢先輩達が両想いだと知っていたということは白河先輩は―――
『自分の想いが決して届かない』ということを分かっていたということになります。
「・・・怖くない訳ないじゃないですか」
そう言って空を見上げる白河先輩。
「悩みましたよ。この告白に意味があるのかなとか・・・」
確かに、決して届くことのない想いを伝えることに何か意味があるんでしょうか?
そんなことをすれば、朝倉先輩がきっと悩む・・・
それが分からない白河先輩じゃ無いと私は思いました。
「じゃあ・・・どうして告白したんですか?」
私の問いに白河先輩はしっかりとした口調で答えました。
「・・・朝倉君とちゃんと向き合うため・・・かな?」
「ちゃんと向き合うため・・・」
「何となくね、自分のこの気持ちを整理しないとダメなような気がしたの」
白河先輩は淡々と話します。
「朝倉君への気持ちを持ち続けてたら、私はその場所から止まったままずっと動けないような気がしたから・・・
だから私は、朝倉君に告白したのかも」
それは、決して後ろ向きな感情では無く、あくまでも前向きな―――
前へ進むための告白―――
それを越えた白河先輩の表情は話を聞く前よりキレイに見えました。
「だから、天枷さんも―――」
いつのまにか、白河先輩は優しい目で私を見ていました。
「自分の気持ちに素直になった方がいいですよ。きっと何かが変わりますから・・・」
「はい・・・分かりました」
私は白河先輩の話を聞いて自分の心が少しだけ軽くなるのを感じました。
(そうか・・・私は冬貴君に告白してもいいんですよね?悪いことじゃないんですよね?)
そう思ったその時でした。
『・・・いいんだよ。ミハさん・・・』
「!!」
一瞬、本当に一瞬、研究所にいるはずの美春さんの声が聞こえたような気がしました―――
〜第33話に続く〜
こんばんわ〜フォーゲルです。第32話になります〜
前回の後書きで、次回はホームパーティ編とか言っときながら、入っていないことをお詫びいたします。
今回の話、一言で言うなら、「ことり、アンタいい先輩だ」と(笑)
つーかふと気がつくと、冬貴が全然出てこない話ってのも初めてだな。
それと一応補足しておくと、ことりは美春とミハルが入れ替わってるのを知っています。
(心読めるからな・・・)
次回こそホームパーティ編です(今度は確実に)
それでは、失礼します〜
管理人の感想
桜がもたらす再会と出会い、第32話をお送りしました^^
今回は幕間というか・・・時間軸はほとんど進んでいませんが、今後の展開を占う重要な分岐点になったのではないでしょうか。
未だに昏々と眠り続ける美春。彼女が冬貴と両思いだと知っているにも関わらず、彼のことを好きになってしまったミハル。
ことりは心を読む能力で、ミハルの悩みも分かっていたのでしょう。だから遠回りの方法で相談に乗った。
しかしミハルから問われたのは予想外の質問。でもそれは同時に、ミハルの悩みの解答でもある。
だから彼女は教える。過去に自らが決断した、けじめとなる告白を。
結果は分かっていたけど、それは必要な行為だったと。
・・・次回はホームパーティーですね。お楽しみに^^