『桜がもたらす再会と出会い』〜第30話〜






                                  投稿者 フォーゲル






  一年中桜が咲き誇る初音島。
 原因は不明とはいえ、その桜の美しさは普通の桜に比べようも無かった。
 もちろん、こんな桜が他の土地にある訳も無く、常日頃から観光客がやって来る。
 そして、今日もそんな観光客を乗せた船が到着した。
 老若男女さまざまな人達が船を降り、さまざまな方向へ向かっていく。
 きっとこれから、いろいろな物を見て周るのだろう。
 そんな人達を横目に見ながら、私は船着き場に降り立った。
 「懐かしいわね〜」
 私はそんなことを呟きながら、初音島名物の桜を見つめる。
 ここは私の生まれ育った故郷。そして、私とあの人が出会った場所。
 そして、あの子もこの島で生まれた。
 (あの子・・・帰って来たはいいけどうまくやってるのかしら?)
 私の脳裏にはある光景が蘇っていた。
 いつも日が暮れるまで、泥だらけになって遊んでいたあの子。
 そして、その傍らにはいつも明るく笑っている女の子がいた。
 (あの子は最後まで否定していたけど・・・きっとその娘のことがあの子はそのころから好きだったのよ。
  そして・・・あの娘も)
 私はそこまで考えて自分の顔に苦笑が浮かぶのが分かった。
 そういうところも『あの人』にそっくりだからだ。
 (やれやれ・・・この分じゃきっと気持ちに気付いてもらえなくて困ってるんじゃない?お互いが)
 そんなことを考えながら、ひとまず歩き出す。
 「とはいえ、普通に帰ったんじゃ面白くないわよね〜」
 しばらく考えると私は、携帯電話を取り出してボタンをプッシュする。
 「あ、もしもし!久しぶり〜」
 私は十年来の知り合いに電話を掛けた―――





  
  「う〜・・・寒くなって来たな・・・」
 冬貴君はそう言いながら肩をすくめます。
 「オジサンみたいだよ?冬貴君?」
 私は笑いながら、冬貴君に話し掛けます。
 季節外れの桜並木の中を私と冬貴君は学園に向っていました。
 「しょうがないだろ?俺はどっちかというと夏の方が好きなんだから」
 「文句言ったって夏は戻って来ないんだよ?」
 「分かってるよ」
 季節は夏が過ぎに秋になろうとしていました。
 「まあ、今年の夏は楽しかったから尚更な・・・文句も言いたくなるってもんだよ」
 「楽しかったんですか?」
 「ああ・・・純一先輩とか楽しい人達ばっかりだったし・・・それに」
 「それに?」
 「『美春』とも知り合えたしな」
 「えっ・・・」
 その言葉と同時に私の胸がドキドキします。
 私はハッキリと『冬貴君のことが好きなんだ・・・』と自覚していました。
 「どうした?美春?」
 「・・・!!」
 ふと気が付くと、冬貴君が私の顔を覗き込むようにして見ていました。
 私は思わず、顔を離します。
 自分でも顔が真っ赤になっていることが分かりました。
 「な、何でもないよ?何でも・・・」
 でも、それと同時に私は『告白することは無いんだろうな・・・』とも思いました。
 美春さんは生きるために必死に闘っているのに、そんなことを考えちゃいけないと思ったし・・・
 他ならない冬貴君は美春さんのことが好きなんだろうし。
 “ズキン”
 でも、そう考えると『心』が苦しい自分がいるのもまた事実でした。
 「でも、美春・・・お前、それよっぽど気にいったんだな」
 「え?」
 「お前の頭の上のそれだよ」
 そこにはあのキャンプの時、冬貴君が美春にプレゼントしてくれた向日葵の花が付いています。
 私はその時からそれをヘアバンドの所に付けていました。
 「私は気に入ったから付けてるんだけど・・・変?」
 「いや・・・変じゃないけど」
 「けど・・・何?」
 「俺としては、それで喜んでくれるなら、もっと高いものをプレゼントしたいとも思うんだけど。
  本物の美春にあげた指輪も本来はお袋から貰ったものだし」
 その言葉を聞いて私はため息を付きます。
 「・・・冬貴君は女の子の気持ちを分かってないですね」
 「そんなことないと思うんだけど」
 「そんなことあるよ〜。別にお金掛かってなくたって嬉しいものは嬉しいんだよ」
 「そういうもんか・・・もう少し俺も『女心』って奴を勉強した方がいいのか?」
 そう言って本気で考え込む冬貴君。
 その姿を見て私は思わず笑顔になります。
 (美春さんも、こんな冬貴君を好きになったんですね・・・)
 それに冬貴君には言わなかったけど、私も美春さんもプレゼントを気に入った最大の理由は―――
 (『冬貴君から貰った』ってことが何よりも重要なんだよ)
 私は心の中でそう呟いていました。







  「美春〜!!」
 その声に私は振り向きます。
 「あ、音夢先輩!!おはようございます〜」
 そこには同じく今から登校らしい音夢先輩と朝倉先輩が立っていました。
 「おはよう。美春。冬貴君もおはようございます」
 「よっ!!2人とも」
 いつも通りに音夢先輩は丁寧に、朝倉先輩は気さくに挨拶してきます。
 「柊君・・・指の怪我は大丈夫ですか?」
 音夢先輩は心配そうに冬貴君に声を掛けます。
 「ああ、もう大丈夫ですよ!包帯も取れましたしね」
 あの時のキャンプで怪我した指を開いたり閉じたりしながら冬貴君は言います。
 「そうですか・・・なら良かったです」
 「その時は、大変だったからな〜美春の奴が『冬貴君の側から離れません!!』って主張してな〜」
 笑いながら朝倉先輩が言います。
 「朝倉先輩〜〜〜そのことは内緒にして下さいって言ったじゃないですか〜〜〜」
 「そうか?こんな面白いネタを内緒にしておくのも勿体無いと思うんだが」
 「杉並先輩みたいなこと言わないでくださいよ〜」
 私と朝倉先輩の会話を冬貴君は照れながら、音夢先輩は笑顔で聞いていました。
 「あ、美春。杉並くんって言えばね・・・」
 その後、4人でいろいろな話をしながら私達は学園に向っていました。
 「最近の学園での『例の噂』って知ってる?」
 「ああ、あの『夜の学園で不審な人影が目撃されてる』ってアレですか?」
 ここのところ、学園の見回りをしている風紀委員の人達の間で噂になってました。
 白っぽい人影が構内を動き回っているという目撃情報も多数寄せられています。
 「私は杉並くんがまた何か企んでいるんじゃないかと思って問い詰めたんだけど・・・
  『俺は何も知らない』って言うのよ」
 「音夢先輩はそれを信じるんですか?」
 「信じる訳じゃないけど・・・でもこのままじゃ埒があかないと思うのよ」
 「そうですよね〜」
 確かにこのままじゃ少し気持ち悪いし・・・それにみんなが安心して学園生活を送れないような気がしました。
 「それで、今日は美春が見回り当番でしょう?・・・私と交換してくれない?」
 「えっ?」
 「原因を突き止めなきゃ行けないけど、美春にそれをやらせる訳には行かないでしょう?危険かも知れないし。だから・・・」
 「そんな、私も一緒に回りますよ!!」
 音夢先輩だけに危険な仕事を押し付けて、自分だけ安全な場所にいることなんて私には出来なかった。
 「でも・・・」
 「一人より二人の方がまだいくらかは安心ですよ」
 「・・・そうかもね。でも女の子2人だけじゃやっぱり不安だと思うのよ」
 「そうですね〜」
 私と音夢先輩は同時に後ろを振り向く。
 「という訳で・・・さっきから何故か逃げようとしてる兄さん?」
 「冬貴君?」
 少しずつ私達から遠ざかろうとしている冬貴君と朝倉先輩に私達は同時に声を掛けます。
 『付き合ってくれるよね?(くれますよね?)』
 同じような意味の言葉を私達は同時に喋っていました。







  「なあ、俺はこのこと自体が杉並の計画なんじゃないかと思うんだが」
 「俺もそう思うんでですけど」
 朝倉先輩と冬貴君はそう言いながら、夜の学園を見つめます。
 「どういうことですか?兄さん?」
 「だから、俺達をこうやって集めて面白映像を撮ろうとしてるとか」
 朝倉先輩の言葉に冬貴君も頷きます。
 「特に音夢さんの映像なんか取れたら弱みを握れるかも知れませんし」
 「確かにそうかも知れませんけど・・・」
 音夢先輩は腕を組んで考え込みます。
 「だったらその罠に引っかからなければいいだけの事です」
 「まあ、確かにそうだな」
 「じゃあ、私と兄さんは本校の校舎を見てくるから、美春と柊君は付属の校舎をお願いね」
 何か見つけたら互いに連絡を取り合うということにして私達は二手に分かれました。
 

 “スタ・・・スタ・・・”
 夜の学園に私と冬貴君の歩く音だけが響いています。
 私はこの間のキャンプの肝試しの時のように冬貴君の腕にしがみついていました。
 「なあ・・・美春」
 「な、何?」
 「お前は、暦先生の態度どう思う?」
 「暦先生の?」
 私達は念のためにということで、夜に学園の調査をすることを暦先生に報告していました。
 そう聞いた時の暦先生の態度は・・・
 『そ、そうかい?・・・あんまり気にすることもないと思うんだけどね〜』
 何故か妙に動揺していました。
 「俺は何か知ってるんじゃないかと思ったんだけど・・・どう思う?」
 「そうだね〜でも話してはくれないと思うな・・・言葉を濁してる時点で」
 「だよな〜」
 (それに・・・冬貴君の態度も気になるし・・・)
 私は音夢先輩から詳しい事情を聞いた時の冬貴君の呟きも気になりました。
 その時、冬貴君は―――
 『まさか、もう・・・いや、だけど・・・この前来た―――』
 冬貴君もこの騒動の原因に心当たりがあるみたいでした。
 だけど、私は深くは聞きませんでした。
 冬貴君も『心当たりはあるけど確証が持てない』っていう感じなんでしょう。
 私がそんなことを考えていた時でした。
 「―――!!」
 私と冬貴君の目の前の廊下を人影が横切りました。
 「・・・追うぞ、美春!!」
 「うん!!」
 私達が駆け出そうとしたその時でした。
 “ガクッ”
 急に私の足から力が抜けました。
 「美春!?」
 冬貴君が慌てて私に駆け寄ります。
 「ゴ、ゴメンね・・・ちょっと動けなくて」
 「ゼンマイ切れか?」
 「う、うん・・・多分」
 それを聞くと冬貴君は美春の身体を支えながら近くの教室に入りました。




  私は冬貴君に首から下げているゼンマイを渡します。
 「ゴメンね・・・冬貴君。捕まえるチャンスだったのに」
 「いいよ、別に・・・美春の方が心配だ」
 私は後ろを向いて制服のリボンを解きます。
 ふと私をじっと見ている冬貴君の視線が気になります。
 「?・・・どうしたんだ?早く脱げよ」
 「・・・そんなにマジマジと見ないでよ」
 何故か私は服を脱ぐのを意識していました。
 「今更って気もするけど・・・分かったよ」
 そう言って冬貴君は私から視線を外します。
 そんな冬貴君を見ながら私は何となく思いました。
 (そっか・・・私が冬貴君を一人の男の子として意識しだしたから、急に肌を見せるのが恥ずかしくなったのかな・・・)
 「いいよ・・・冬貴君」
 私は冬貴君に背中を向けます。
 冬貴君はゆっくり私の背中に開いている穴にネジを差し込みます。
 「あっ・・・うんっ・・・ああっ!!」
 「み、美春・・・頼むからその声は何とかならないのか?」
 「だ、だって・・・そ、そんなこと言われても・・・あっ!!」
 私のゼンマイをどうにか冬貴君は巻いてくれました。
 「はぁ〜〜〜毎回毎回、精神的に疲れるぞ」
 ぐったりした表情を浮かべる冬貴君。
 「ゴ、ゴメンね〜冬貴君・・・でも」
 「でも・・・何だよ」
 「その・・・ドキドキする?」
 私はそんな質問をしていました。
 「なっ・・・それは・・・」
 「どうなの?」
 「まあ、あんな声を上げられるとな〜・・・その・・・やっぱり男だし」
 「そっか〜そうなんだ〜」
 私はその言葉を聞いて嬉しくなりました。
 「ほ、ほら、もういいだろ?とっとと・・・」
 冬貴君がそう言って立ち上がった、その時―――
 “ガラッ”
 急に教室の扉が開いて、誰か人が入ってきました。
 「!!」
 冬貴君はとっさに私を背後に庇います。
 そこに居たのは長い黒髪をポニーテールに纏めた、一人の女性が居ました。
 「ひょっとして、冬貴と・・・美春ちゃん?」
 ―――この人、私達のことを知ってるみたいだよ―――
 私はそう聞こうとして冬貴君を見ました。
 冬貴君は頭を抱えながらその人を見つめて言いました。
 「まあ、こんなことだろうと思ったけど・・・何やってるんだよ!!オフクロ!!」
 (ええっ!!)
 冬貴君のその言葉に私は心の中で大きな声を上げていました―――







                         〜第31話に続く〜


                  こんばんわ〜フォーゲルです。第30話になります。

                  新展開な今回の話。皆さんいかがでしたでしょうか?

            世界を飛び回るぶっ飛びマザー(笑)笑美流の帰郷でこれからどうなるのか?

                     そのへんを楽しみにして頂けると嬉しいです。

                 一応、補足しておくと最初のシーンは笑美流視点になります。

      今回の話を読んだ後、5話目、8話目、特別編を読むと笑美流のキャラがある程度分かるようになってます。

                  次回も楽しみにして頂けると嬉しいです。それでは!!


管理人の感想

笑美流初(?)登場!

今まで、電話や手紙などでは出てきた人物ですが、実際に登場するのは初めてですね。

そしてなにやらどこかへ電話を・・・。十年来の知り合いとなると・・・うーむ。

話は変わり、冬貴たちは校舎の見回りに行くことに。影を目撃するも、ミハル充電切れであえなくダウン。

・・・正直いって、ゼンマイ回すのにあえぐのは反則だと思う。冬貴以外の男子生徒なら、理性がぶっとんで(ry

さて、笑美流の目的が気になるところで次回^^



2007.7.28