『桜がもたらす再会と出会い〜第29話〜』






                                  投稿者 フォーゲル






  【ドボーン!!】
 俺の耳に聞こえたのは盛大な水音だった。
 全身を空気の泡が包み込む。
 それで俺は自分が水の中に落ちたことに気がついた。
 一回体が水中に沈みこみ、それから水面に顔を出す。
 「プハッ!!」
 幸いにも崖の下は川になっていたようで、俺達はそこに落ちたようだった。
 流れも速くはなく、立ち泳ぎも出来るほどだ。
 ホッとすると同時に俺は大事なことを思い出した。
 「美春!!どこだ!?」
 俺と同じく崖から落ちたはずの美春の姿を探す。
 雲に隠れていた満月がまた、姿を見せる。
 その時だった。
 (・・・!?)
 月明かりの下、何かがボウッと光った。
 俺から数メートル下流の方を流れていく向日葵の花。
 その向日葵は、まるで優しく包むかのような光を放ちながら、その持ち主―――
 美春のヘアバンドの所で光輝いていた。
 「・・・!?」
 俺はその向日葵を目印に、必死に泳ぎ、ようやく美春の体を捕まえた。
 そのまま、しばらくどこか岸に上がれるような場所が無いかと探して、
 手頃な場所を見つけた俺は、美春の体を支えながらその場所まで何とか泳ぎ着いた。





「ハァ・・・ハァ・・・」
 俺は、美春を何とか岸に上げると、自分も岸に上がってようやく一息ついた。
 「あ〜良かった・・・とりあえず怪我は無いみたいだな」
 傷のようなものは付いていない自分と美春の体を見て、とりあえずホッとする。
 「おい、美春、大丈夫か?」
 川に落ちた時に、気を失った美春に俺は声をかける。
 だが、美春は何の反応も示さない。
 「・・・美春!?おい!しっかりしろって!!」
 焦った俺は、さらに大声で美春に話し掛ける。
 それでも美春からは反応は返って来なかった。
 (これは、ひょっとして・・・)
 ゼンマイは念のために、肝試しの前に入念に巻いておいたのでゼンマイ切れの可能性は薄い。
 (・・・溺れた?)
 美春は動力源がソーラーパワーとゼンマイということ以外は、本物の美春と寸分違わず出来ている。
 となれば、人間が溺れた時のように水を飲みすぎて、それが機械に何らかの影響を与えた可能性はある。
 それなら、何とかして水を吐き出させるようにしないといけないんだが・・・
 (え〜と、こういう場合は・・・)
 俺はこういう場合の対処法を思い出し―――
 同時に顔が赤くなるのを感じた。
 (やっぱり・・・マウス・トゥー・マウスなのか?)
 すなわち、人工呼吸という奴だ。
 やり方は保健体育の授業で習ってるから、やり方は分かっている。分かっているが―――
 (いや、さすがになぁ・・・)
 いくら何でも『美春』のファーストキスを奪うようなマネは・・・
 しかし、そうは言っていられないのも事実で・・・
 「し、しょうがないよな!?緊急事態だし!うん!」
 何故か、そんな独り言を呟きながら俺は気絶したままの美春の顔をしばらく見つめた後、
 大きく息を吸い込み、自分の顔を美春に近づけていった―――
 その時だった。
 (―――!!)
 俺の脳裏に美春の―――本物の美春の顔(しかも何故かちょっと怒り気味の)が一瞬よぎり、俺の動きは止まった。
 「・・・」
 それは、本能的に『俺がキスをしたいのは本物の美春だけ』という想いの何よりの表れだった。
 が、俺はすぐにその考えを打ち消した。
 (人一人の命がかかってるんだぞ!そんなこと言ってる場合か!)
 俺はそのまま人工呼吸をしようとした。その時―――
 【ピュー・・・・】
 まるで、噴水のような音を上げながら、美春が水を吐き出す。
 「・・・ゲホッ!!ゲホッ!!」
 息を吹き返した(人間的に言うと)美春がゆっくりと目を開ける。
 「あ・・・冬・・・貴君?・・・キャッ!!」
 俺の顔がまるでキスしそうなくらい近くにあることに驚いた美春が思いっきり俺を突き飛ばした―――





  「ゴ、ゴメンね〜冬貴君」
 美春が平謝りに謝る。
 「いいよ・・・大丈夫だって」
 (まあ、あんなに顔が近くにあったら美春じゃなくても突き飛ばしてるよな・・・)
 そんなことを考えながら、俺は腕組みをしてこれからどうするか考える。
 こういう事態の場合、普通はその場から動かないのは鉄則なのだが・・・
 ここは川沿いの崖下にポッカリ空いた洞窟のような場所だ。
 多分、地上からでも、空からでも見えない可能性が高い。
 となると、移動するしかないのだが・・・
 (また、川に入って移動するのも危険なような気がするし・・・)
 俺の体を冷たい風が流れていく。
 『ハ・・・ハクション!!』
 俺と美春、2人のクシャミが同時に響いた。
 「これじゃ風邪引いちゃうね〜」
 美春がため息混じりの声を洩らす。
 「そうだな・・・よっと」
 俺はそう言うと、自分の着ているTシャツを脱ぐ。
 「と、冬貴君!?何やってるの?」
 美春が顔を真っ赤にしながら、聞いてくる。
 「何って・・・Tシャツの水分だけでも取ろうかと思って」
 俺は、Tシャツを思いっきり絞る。
 「あ・・・そ、そうなんだ」
 「美春もそのままだと、風邪引くぞ」
 「う、うん・・・そ、それは分かってるんだけど・・・」
 さらに顔を真っ赤にして俯く。
 「あの〜冬貴君?その・・・後ろ向いてて欲しいんだけど」
 「あ、わ、悪い」
 俺は慌てて後ろを向く。
 「こっち見ちゃダメだよ」
 後ろを向いた俺の背中に美春の声が掛かる。
 「大丈夫だよ」
 とはいえ・・・
 【シュル・・・シュル・・・】
 背後から服が擦れる衣擦れの音がする。
 ・・・男の悲しい性(さが)でついつい美春が今どういう状態なのか想像してしまう。
 (今、それどころじゃないだろ?)
 俺が自分に一人ツッコミを入れていると・・・
 「冬貴君。もういいよ」
 美春の声に俺は振り向く。
 振り向いた俺の目に風に靡く髪を抑える美春の姿が写った。
 (・・・?)
 俺はその姿に違和感を覚えた。
 (髪を抑えてるってことは・・・風が吹いてるってことだよな?でも風は川の方から・・・)
 その時に気が付いた。
 美春の髪は川に背を向けて立っている俺に向かって靡いている―――
 つまり、風は洞窟の奥の方から吹いて来ているということになる。
 ということは―――
 「美春、希望が見えてきたかも知れないぞ」
 「どういうこと?」
 それは、この洞窟の奥に進んでいけば、地上側に、今よりは見つかりやすい場所に出られるかも知れないということだった。






  「美春ちゃーーーーん!!柊くーーーーん!!返事してーーーー!!」
 だけど、ボクの叫びに2人が答えることは無く、山の中にこだまするだけだった。
 「さくら!落ち着けって!!闇雲に探したって見つからないぞ」
 お兄ちゃんが冷静に声を掛ける。
 「だって・・・2人が遭難したのはボクにも責任があるんだよ!?」
 「さくらだけじゃない、俺にだって責任がある。だからもう少し冷静になれ」
 2人と連絡が取れなくなってから、もう2時間近くが経過していた。
 さすがに、これはおかしいということになって探しに行こうということになったんだけど・・・
 下手に大勢で動くと、二次遭難が起こる可能性があるのでボクとお兄ちゃんが2人を探しに行って、
 残りのみんなにはおとなしく集合場所で待っててもらうことにした。
 美春ちゃんと特に仲がいい音夢ちゃんは「じっと待ってるなんて嫌です!」って主張したんだけど・・・
 『美春が見つかった時に、今度は音夢が居なくなったなんてことになったら、今度は美春が心配するぞ?
  だから大人しく待ってろ』
 っていうお兄ちゃんの言葉に音夢ちゃんは従ってくれました。
 「だけど・・・2人共本当にどこに行っちゃったの〜」
 2人が向かったはずの向日葵畑には、誰も居なくて、その代わりに崖が崩れたような跡がありました。
 それからボク達はその崖下の川に沿って2人の姿を探していました。
 川を向日葵畑から飛んだ花が流れて行きます。
 「・・・!!」
 それを見ていたお兄ちゃんの顔が何か閃いたように表情が変わりました。
 「お、おい!!さくら!!」
 「ど、どうしたの?お兄ちゃん」
 いきなりボクの肩を掴んだお兄ちゃんをボクは驚きながら見つめます。
 「お前、ここの向日葵ってどう思う?」
 「ど、どう思うって・・・」
 「初音島の桜と同じじゃないのか?」
 「まあ、一年中咲いてるってことは多分おばあちゃんの桜と同じだと思うんだけど・・・」
 「だったら・・・、魔法で何とかならないのか?」
 「魔法で・・・」
 どうにもならないよとボクは言いかけて・・・
 「あーーー!!」
 ボクはあることを思い出して思わず声を上げた。
 「ど、どうしたんだ」
 大声をいきなり上げたボクにビックリするお兄ちゃん。
 「ボク、何でそんな大事なこと忘れてたんだろう!」
 思わず自分の頭を殴りつけたくなった。
 そうだよ・・・それさえ分かれば2人を見つけられるかも。
 「何か分かったのか?」
 「うん!簡単に説明するけど、魔法が掛かってるものっていうのはそれぞれ特徴的な魔力の波長を持ってるんだ」
 「魔力の波長?」
 「人間でいうDNAみたいなものだと思ってくれればいいよ。ここの向日葵は大抵畑に植えられて厳重に管理されてるみたいだから」
 「俺にも分かってきたぞ。つまり向日葵と同じ波長を探して―――」
 「もし、それが離れた場所にあったり、移動していたりしたら」
 「向日葵を持って移動している2人の可能性が高いって訳か」
 肝試しのクリア条件が『向日葵を摘んでくること』だから2人も持ってる可能性が高い。
 「善は急げだよ!ボク、やってみる!」
 ボクは目を閉じて集中する。
 そして―――
 「見つけた!!多分これだよ!お兄ちゃん!こっち!」
 ボクがそう言って走り出そうとしたその時―――
 【グラグラグラッ!!】
 急に地面が揺れた。
 「キャッ!!」
 思わずその場に尻餅を付く。
 「大丈夫か?さくら!」
 ボクを助け起こすお兄ちゃん。
 「い、今の何?」
 「多分、地震だ・・・あんまり大きくは無かったみたいだけどな」
 「・・・急いだ方がいいかもね」
 「ああ」
 ボクとお兄ちゃんは顔を見合わせて頷くと、また走り出した。




  
  「う・・・うん」
 埃っぽい空気に鼻がむず痒くなりながら私は目を覚まします。
 (あれ・・・私、どうしたんだっけ)
 洞窟の中を歩いていたら行き止まりに当たって、冬貴君が
 「この壁の向こう側は外みたいなんだけどな〜木が風で揺れている音がするし」って言った時に急に地震が来て落盤が―――
 「・・・冬貴君!?」
 私は、一緒に落盤に巻き込まれたはずの冬貴君の姿を探します。
 落盤で洞窟が崩れたせいか、私達が来た方の道は崩れて戻れなくなっていました。
 冬貴君は、私のすぐ近くに倒れていました。
 「冬貴君!?大丈夫!?」
 私は冬貴君に近寄ると体を揺さぶります。
 だけど、冬貴君は何の反応もしてくれません。
 よく見ると、冬貴君の手の爪は剥がれ落ちて、血が流れていました。
 きっと、目を覚ましてから外に脱出するために素手で土を掘っていたんでしょう。
 それで、何時間も掘っている内に力尽きて―――
 「イヤだ・・・イヤだよ・・・冬貴君!!お願い!目を開けて!!」
 私は夢中で冬貴君の体を揺さぶります。
 しかし、冬貴君はピクリとも動いてくれません。まるで死んでしまったかのように―――
 「冬貴君をあんなに大好きな美春さんを悲しませるつもりですか!!それに・・・」
 堰を切ったように私は言葉を続けます。
 「それに私だって、まだ『本当の気持ち』を冬貴君に伝えてないんですから!!」
 そう口走ったその時―――
 【ボコッ!!】
 突然、壁の一部が崩れ、そこから―――
 「美春!冬貴!大丈夫か!」
 朝倉先輩の顔が見えました―――





  
  あの後、冬貴君は近くの病院に運ばれて命は助かりました。
 狭い場所に閉じ込められたことによる酸欠状態で気を失っただけですみました。
 今では、すっかり回復して元気になっています。
 「美春〜早く学園行こうぜ〜」
 「あ〜待ってよ!今行くから〜」
 私はそう言って冬貴君の後を追います。
 その背中を見ながら、私はあの時の私の言葉を思い出していました。
 ―――『それに私だって、まだ『本当の気持ち』を冬貴君に伝えてないんですから!!』―――
 あの時、冬貴君が私の前からいなくなっちゃうかも知れないって思った時に、
 私は、今まで冬貴君に抱いていたモヤモヤとした感情の正体に気が付きました。
 (何だ・・・私も美春さんと同じ感情をいつのまにか抱いていたんですね)
 私の本当の気持ち―――
 (冬貴君・・・私は冬貴君のことが・・・好きです)
 私は冬貴君の背中に向かって心の中で告白していました―――






                        〜第30話に続く〜



                こんばんわ〜フォーゲルです。第29話になります〜

                    キャンプ編はこれにて終了になります。

      読んで頂ければ分かりますが、『ミハルが自分の気持ちに気付く』というのがキャンプ編のテーマでした。

     だが、その一方でミハルと一緒にいれば居るほど、冬貴は本物の美春への想いが募っていくという皮肉な展開・・・

         果たして、次回以降ミハルは自分の気持ちをちゃんと冬貴に伝えられる時が来るのか?

                 その辺を楽しみにして頂けると嬉しいです。それでは!!


管理人の感想

キャンプ編終了!フォーゲルさん、お疲れ様です^^

崖下に落ちた冬貴とミハル。下が川で何とか助かった二人だが、ミハルが意識を取り戻さずに・・・。

人工呼吸をしようとしているというのに、悩んでいる冬貴の姿が微笑ましいですね。やはり美春を裏切ることはできないと。

そして今度は逆に冬貴がピンチに。地震による落盤。その落石が直撃したのかと思いきや、単なる酸欠だったようで。

それでもミハルには一大事。ついつい自分でも気付いてなかった気持ちを吐露してしまう・・・。

自らの想いに気付いてしまったミハルが、今後どういった動きを見せるのか、次回以降も期待ですね^^



2007.7.14