『桜がもたらす再会と出会い〜第25話〜』




                            投稿者 フォーゲル




  「う〜ん・・・」
 難しい顔をしながら、暦先生はパソコンのディスプレイを眺めます。
 「どうしたんですか?何かおかしいところでもあったんですか?」
 私は制服のボタンを止めながら、暦先生に聞きます。
 今日は、毎週定期的に受けている検査の日です。
 検査自体はそんなに大変ではないのですが、検査用のコードを繋ぐ場所が、
 腰の当たりにあるので、いちいち制服を脱がなきゃならないのが大変です。
 その問題もあって検査は研究所の暦先生の部屋で行われています。
 「なぁ・・・天枷・・・アンタ自分の頭脳に何か負担を掛けるようなことしてないかい?」
 暦先生が心配したような顔で私を見ます。
 「何もしてないですよ〜」
 私はそう言いながらぱたぱたと目の前で手を振ります。
 「そうかい?でも、ここのところ天枷の人工脳のデータに一瞬だけど膨大な負荷が掛かることが多くなってるんだ。
  何かあるんじゃないかい?急に頭や胸が痛くなったりとか・・・」
 「何も無いですよ?」
 私はきっぱりと言います。
 暦先生はそれでも納得いかなさそうな顔をしながら、私を見ます。
 「分かった・・・天枷を信じるよ。だけど」
 暦先生は私を真剣に見つめながら言います。
 「自分の体に何か異変を感じたらその時はすぐ私か柊に言うこと。分かったね」
 「はい、分かりました」
 私は暦先生に心配を掛けないように頷きます。
 「よし、じゃあもう行っていいよ」
 「はい!ありがとうございました〜」
 私はそう言って暦先生の研究室を出ました。




  私は暦先生の研究室を出た後、同じ研究所内のある場所に向かいました。
 そこには私の大切な人がいます。
 (今日はどんな感じなのかな・・・)
 私はそんなことを考えながら、『その人』のいる部屋のドアを開けます。
 【ピッ・・・ピッ・・・】
 聞こえて来たのは、機械的な電子音でした。
 そして、ガラス張りの病室の外から私は中の様子を見ます。
 色んな機械に囲まれたベットには私と同じ顔をした女の子―――『美春さん』が眠っています。
 最初に研究所に担ぎ込まれた時は、血の気が引いた状態で今にも死んでしまいそうな感じでした。
 だけど、美春さんのお父さん―――天枷博士の治療の甲斐もあって少しづつ美春さんの容態は快方に向かっていました。
 現に美春さんの顔には日に日に赤みが増して来ていました。
 お父さんや暦先生の見立てによると、『後2〜3ヶ月もすると意識が回復するんじゃないか』とのことでした。
 そんな美春さんの左手の薬指には指輪が光っています。
 その指輪はキラキラとキレイな輝きを放っていました。
 それは美春さんが冬貴君から貰った物でした。
 (確か・・・フェアリーストーンとかって言ってたっけ・・・)
 暦先生は、私が動き出すきっかけもあの指輪じゃないかと言っていました。
 (だけど・・・)
 私は美春さんの左手の薬指に輝くフェアリーストーンを見つめながら思いました。
 (あの場所だと、完全に婚約指輪みたいなものじゃ・・・)
 少なくとも美春さんはそう思ってると私は確信していました。
 前にその指輪を貰った時のことを話していた美春さんはとても嬉しそうで・・・
 私はその時に『美春さんは冬貴君のことが大好きなんだ・・・』と気付きました。
 そして、多分・・・
 (冬貴君も美春さんのことを・・・)
 この間の水族館に遊びに行った時のこと―――
 『美春が事故に会ったのは自分のせいだ』そう言って冬貴君は自分を責めるように泣いていました。
 私はそんな冬貴君を抱き締めながら、冬貴君の気持ちに―――
 ううん、冬貴君と美春さんの間にある強い絆を思い知らされたような気がしました。
 (いつか美春さんが目覚めたら、冬貴君は・・・きっと告白するんだよね)
 そして、美春さんはそれを―――
 そこまで、考えた時でした。
 【・・・ズキン】
 私の胸に鈍い痛みが走ります。
 (まただ・・・)
 さっき暦先生には『胸が痛くなったりするようなことはない』って言ったけど・・・
 本当は、ここ数日間こんな風に胸が痛くなることがありました。
 だけどそれは、体が痛いんじゃなくて心が震えるような切ない痛みでした。
 そして、この痛みがあの冬貴君の涙を見た時からだということに私は気付いていました。
 ふと、私は時計を見ます。
 「大変!!もうこんな時間!」
 私は今日、学園に行って風紀委員のお仕事がありました。
 (美春さん、また来るからね!)
 そう心の中で声を掛けると私は美春さんの病室を出ました。




  「よ〜し、これで終わりです!!」
 私はようやく一息付きます。
 「お疲れ様〜天枷さん」
 白河先輩がジュースを差し出して来ます。
 「あ、ありがとうございます〜」
 私のお仕事はこれから2学期に掛けて学内でのイベント・・・学園祭やクリパに関しての中央委員会との打ち合わせでした。
 中央委員の白河先輩は先に本校の方で音夢先輩達との打ち合わせを終えた後、美春達の方に来てくれました。
 「音夢先輩はどうしたんですか?」
 「朝倉君と帰りましたよ。これからデートだって言ってました」
 「そうですか〜幸せそうで羨ましい限りですよね」
 2人の幸せそうな姿を想像して、私も顔がほころびます。
 「羨ましいって・・・天枷さんにも居るじゃないですか?柊君が」
 「えっ!?」
 私は思わず動揺してしまいます。
 「・・・2人は付き合ってるんじゃないんですか?」
 「そ、そんなんじゃないですよ〜」
 思わず否定してしまう私。
 「そうなんですか?2人はお似合いだと思うんですけどね〜」
 「・・・」
 白河先輩の言葉に私は思わず黙ってしまいました。
 (白河先輩がお似合いだと思ってるのは、私じゃなくて・・・美春さんのことなんだよね)
 何も語らない私に白河先輩が言葉を続けます。
 「でも・・・後悔はしないようにした方がいいですよ」
 「え?」
 「私は・・・スッキリしましたから」
 そう言って天井を見上げる白河先輩。
 (そう言えば・・・白河先輩が朝倉先輩に告白したって噂が・・・)
 私がそんなことを考えてると―――
 「あ・・・天枷さんにお迎えが来たみたいですね」
 「えっ?」
 「美春、お前も学校に来てたのか?」
 「冬貴君?」
 少し汗をかいた冬貴君が私と白河先輩を見ていました。
 「さて、じゃあお邪魔虫は帰りますね〜」
 白河先輩は私にウインクをしながら教室を出て行きました。
 「・・・どうしたんだ?」
 冬貴君の顔に疑問が浮かんでいました。




  
  「なるほどな〜そういう理由で美春は学園にいたのか?」
 「うん、冬貴君は?」
 いつものように私と冬貴君は並んで帰っていました。
 「俺はな〜本校の野球部の先輩に協力を頼まれちゃってな」
 「協力?」
 冬貴君の話によると、本校の野球部も付属の野球部に釣られるように大会で快進撃を続けていて、
 春の甲子園大会まで後一歩というところまでコマを進めていて・・・
 次の対戦するチームのピッチャーが冬貴君と似たようなタイプのピッチャーらしいということでした。
 「それで今日はずっと先輩達の打撃投手をやってたって訳だ・・・大変だったよ」
 「お疲れ様〜」
 私達がそんなことを話しながら、歩いていると・・・
 『ファイト!ファイト!』
 私達の隣を本校の女子の先輩達が十数人がランニングしながら通過していきました。
 「あ〜やってるな〜」
 冬貴君がその様子を見つめています。
 「何か知ってるの?」
 「あの先輩達、ウチの学園のチアガールなんだよ」
 「チアガール?」
 冬貴君は運動系の部活の大会で上位進出した時に結成されることを教えてくれました。
 「チアガールの人達も試合の間中踊りっ放しだからな、体力作りが必要なんだろ」
 「ふ〜ん、そうなんだ・・・」
 「それにウチの学園のチアガール、コスチュームが可愛いって結構他校生から評判いいんだよ」
 冬貴君は遠ざかっていく先輩達を見つめながらいいます。
 「冬貴君も、チアガールのコスプレした女の子好きだもんね」
 「ぶっ!!」
 私の言葉に冬貴君は思わず吹き出します。
 「な・・・な・・・・」
 「『何でそれを知ってるんだ?』って言いたい顔だね〜」
 私は笑いながら言います。
 「美春さんが私に教えてくれたの」
 「そ、そんな、あの本は秘密の隠し場所に隠してたはずなのに・・・」
 (冬貴君・・・そう言う本隠し持ってるんだ)
 私は冬貴君を少しからかいたくなってきました。
 (ここのところ、冬貴君のせいで変な想いしてるんだしいいよね)
 「大体、その本・・・美春さんが呆れてたけど・・・1000円くらいするんだよね?」
 「うっ・・・ま、まあ確かに」
 「そんな本買わなくても、私に頼めば・・・その・・・き、着てあげたのに」
 「えっ・・・」
 冬貴君の表情が一瞬緩みます。
 「あ〜!冬貴君、今私か美春さんのチアガール姿、想像したでしょ〜!!」
 「だ、誰が!というか美春、俺のことからかってるだろ!!」
 冬貴君が美春のことを追い掛け回します。
 「お前達相変わらず仲がいいな」
 私と冬貴君以外の声が掛かったのはその時でした。




  「あ、杉並先輩・・・どうしたんですか?」
 私は横から声を掛けてきた杉並先輩の姿を見ると、自然に警戒モードになります。
 「ふっ・・・わんこ嬢よ、そういきなり警戒するな」
 「警戒もしますよ〜何企んでるのか、分からないんですから」
 杉並先輩の今までの悪行を思いだして、私は油断なく周りを見ます。
 「今日は、柊とわんこ嬢を誘いに来てやったんだが」
 「誘い?」
 冬貴君が疑問を浮べながら聞きます。
 「実は、今度朝倉達とキャンプにいくことになったんだが、柊とわんこ嬢もどうかと思ってな」
 杉並先輩によると大人数で言った方が楽しいだろうということみたい。
 「どうする?美春」
 冬貴君の言葉に私はしばらく考えます。
 (・・・音夢先輩も一緒なら杉並先輩が何か企んでたとしても大丈夫・・・かな)
 「美春は・・・行きたいな」
 「じゃあ、俺達も参加します」
 「そうか、じゃあ詳しいことが決まったら連絡するからな」
 そう言い残すと杉並先輩は私達に背を向けました。
 

 杉並先輩が去った後、私は冬貴君に聞きます。
 「冬貴君・・・キャンプって何?」
 「えっ?・・・ああ、そうか美春は知識はあっても経験はないもんな」
 冬貴君は簡単に『キャンプ』について説明してくれました。
 「へ〜つまりみんなで、自然の中でお料理したり、寝泊りしたりすることなんだね、楽しそう!」
 「杉並先輩が誘ってきたってのが不安要素だが・・・まあ大丈夫だろ。朝倉先輩や音夢さんも一緒だしな」
 「そうだね〜楽しみ〜」
 私はそんなことを言いながら、未知の体験にワクワクしていました―――



                  〜第26話に続く〜

            こんばんわ〜フォーゲルです。第25話になります〜

    次回のキャンプ編が結構重要な話になるかも知れないので今回はその前振りになります。

  まあ、今回の話もミハルの体の異常や美春の復活が近いかもとかさらに先への伏線がありますが・・・

      萌えポイントは冬貴が想像したであろうミハル(美春)のチアガール姿ですか(笑)

      個人的には着た後に恥らってくれる可能性のある美春の方が萌えですが・・・

       次回はキャンプ編になります(杉並プロデュースというのが不安ですが・・・)

                  それでは、失礼します〜


管理人の感想

今回はALLミハル視点。暦先生との会話で、そろそろミハルも自身の気持ちに気付き始めてきたのではないでしょうか。

時折胸に走る痛みの正体・・・気付きたくないだけかもしれませんが。

そして何やら次の話の伏線が。キャンプですか・・・。

杉並が発案者の地点で何かあるとは思いますが・・・まあそれは次回の楽しみにしておきましょう。



2007.5.5