『桜がもたらす再会と出会い〜第23話〜』



                            投稿者 フォーゲル



  浜風が船のデッキの上を吹き抜けていく。
 遠くでは、カモメが2・3羽ホバリング状態で空を飛んでいた。
 俺は、船の柵にもたれながら心地よさに身を任せていた。
 (ああ〜気持ちいい・・・)
 このまま眠ってしまいそうな感じだ。
 「・・・君、・・・君!!」
 かなり遠くから、俺を呼ぶような声がする。
 (な、何だ?)
 俺は声のした方を振り向く。
 美春が『しょうがないなぁ』みたいな顔をしながら俺を見ていた。
 「あ・・・美春か」
 ついつい気持ちよくて眠りかけていたみたいだ。
 「『あ・・・美春か』じゃないよ〜。せっかく遊覧船に乗ったのに〜」
 その言葉に水族館に着いた時のことを思い出す。

 水族館に着いて、まずどこから見て廻るかと2人で検討していたら・・・
 「冬貴君、美春はこれに乗りたいな〜」
 「?・・・乗りたい?」
 水族館に来たのに乗りたいってのはどういう意味だ。
 俺は訝しげに思いながら、美春が指差しているパンフレットの一部を見る。
 「遊覧船?」
 それは水族館のある港から、湾内を一周してまた港に戻ってくるというコースをとる遊覧船だった。
 「初音島も見えるみたいだし・・・ねっ!いいでしょ!!」
 そう主張する美春に押し切られ、まずは遊覧船に乗ることにしたのだが・・・

  「冬貴君、船に乗ってからすぐにウトウトしちゃうんだもん」
 美春が怒った感じで俺を見る。
 「あ、わ、悪いな・・・」
 俺としては、景色も変わらないし、風が気持ちいいしでついついウトウトしてしまったのだが・・・
 「もういいよ〜いろいろ写真も撮ったしね〜」
 美春の口調にはどことなく笑いが混じっているような気がした。
 そういえば、さっきのどことなく怒った感じも本気ではないように感じた。
 嬉しそうに写真を撮ったというデジカメを見ている美春。
 「一体何を撮ったんだ?美春」
 何となく気になった俺は聞いてみた。
 「えっ?いろいろだよ。初音島とか・・・冬貴君の寝顔とか」
 「はい?」
 「結構可愛い寝顔だったよ〜」
 にっこり笑顔で言う美春。
 「あの・・・美春さん?そのデータは出来れば消去して頂けると嬉しいんですが」
 思わずおずおずと問い掛ける。
 「・・・イヤだって言ったら?」
 完全に俺をからかいながら、美春が問い掛ける。
 「その時は・・・こうだ!!」
 俺は美春を捕まえようとする。
 「エヘへ〜そう簡単に捕まらないよ〜美春は」
 しばらく、船のデッキの上で俺と美春の追いかけっこが続いた。



【ザバーン!】
 俺達の目の前を白い巨体がその身を翻し、再びプールの中へ潜っていく。
 「うわ〜スゴイ!スゴイよ〜」
 すっかり興奮状態の美春が歓声を上げていた。
 遊覧船を降りた俺達が次に向かったのは、イルカショーの公演をしているプールだった。
 (ちなみに俺の寝顔写真は根負けした俺が、何とかお願いして美春に消してもらった)
 ここも美春が『見てみたい〜』と強く主張したからだ。
 目の前でイルカ達は、輪っかくぐり、ボールタッチ、ハイジャンプなど様々な演技をパーフェクトにこなしていく。
 (おお〜スゴイな〜)
 俺は思わず感心する。
 きっと、想像も付かないような訓練を受けてるんだろう。
 美春も俺の隣で声も出ないほど熱心に見ていた。
 (そういえば・・・)
 俺の脳裏に昔の出来事―――
 この水族館に『本物の美春』と一緒に来た時のことを思い出す。
 (美春もここにいる『美春』と全く同じリアクションをしてたっけ・・・)
 思わず笑みが洩れる。
 と、同時に俺は今朝見た夢のことを思い出す。
 あの夢を見たせいか、今日は何か昔のことを思い出すことが多くなっていた。
 (あの時に美春と何か『約束』したような気がするんだけど・・・思い出せない)
 そんな俺の考えを知る由も無く、イルカショーは進んでいく。
 『はい!じゃあ次の演目は来ているお客さんに協力してもらいましょう!』
 マイクを持ったインストラクターの女性が客席を見渡す。
 『では、そこの彼氏連れのオレンジ色の髪の女の子!手伝ってもらえますか?』
 女性の指は真っ直ぐ美春を差していた。
 「え?」
 美春は戸惑ったような声を上げる。
 「いいじゃん、やってみたら。いい思い出になるぞ」
 俺の提案に美春はしばし考え込んでいたが・・・
 「と、冬貴君も来て!」
 緊張しているのかも知れない美春に引きづられ俺もイルカショーの舞台に立つハメになった。
 俺達がやるのはさっきイルカ達が見せてくれた演目の一つだ。
 よっぽど高度の訓練の賜物か、イルカ達は素人である美春の指示にもちゃんと従っていた。
 思わず会場から拍手が起きる。
 演技を終えた内の一匹のイルカがプールの縁に座っている美春の方に近づいてくる。
 そして、水面からチョコンと頭を出すと、美春の頬にキスをした。
「くすぐったいよ〜」
 笑顔を浮かべながら、イルカの頭を撫でてやる美春。
 「・・・」
 俺はその様子を見ながら、イルカに指示を出す。
 指示に答えて、イルカ達が4連続でハイジャンプを決める。
 俺達素人2人に指示にも関わらず、イルカ達は見事に期待に答えてくれた。
 『はい!2人ともありがとうございました!』
 (ふう〜何とか無事にこなしたな〜)
 俺が何とか胸を撫で下ろした次の瞬間・・・
 『では、最後に協力してもらった幸せそうなお2人のキスで最後は締めてもらいましょう』
 (なるほど〜最後はキスで・・・って、ええっ!!)
 きっと声を出していたら裏返っていたような気がした。
 俺はチラリと美春の方を見る。
 客席の空気はキスをしなきゃ、収まらないような雰囲気になって来ていた。
 美春は、俯いてモジモジしていたが、やがて―――
 俺の正面に立ち、目を閉じた。
 (マ、マジか!?)
 俺の心に焦りが生まれる。
 もし、ここにいるのが俺が好きになった『本物の美春』だったら、俺は勢いに任せてキスしていたかも知れない。
 だけど、俺の目の前にいるのは―――
 そんなことを考えている間にも、時間だけが経過していく。
 その時、俺はインストラクターの女性がイルカ達に何か指示を出しているのを目撃した。
 (ひょっとして・・・)
 俺は、『ある可能性』を考えながら、美春の肩を掴む。
 美春の体がピクンと反応するのが感じられた―――




  「じゃあ、美春はあの時『ああいうオチ』になるって分かってたのか?」
 「うん!美春だけ最後にインストラクターの人に呼ばれたからね」
 俺達はイルカショーの行われていたプールを後にして、ブラブラと歩いていた。
 ちなみに、イルカショーの最後の展開は、
 『美春にキスしようとした俺が、イルカに割って入られて引っくり返る』というオチだった。
 (俺、オチ担当かよ!)
 そんなツッコミが俺の心の中で響いた。
 「それじゃ、あれもただのフリか?」
 俺の脳裏に『キスしてほしい』と言わんばかりに目を閉じた美春の姿がよぎる。
 「だって、ちゃんと演技しないと、冬貴君騙されてくれないもん」
 「クソ〜完全に一杯喰わされたな」
 俺は思わず苦笑いを浮かべる。
 「本当ですよ〜もうちょっとで柊くんのキスシーンが見られると思ったのに」
 俺の言葉に答えたのは美春では無く、第3の声だった。
 「あれ?森川先輩と佐伯先輩じゃないですか?どうしたんですか?」
 俺達に声を掛けて来たのは、白河先輩の友達だった。
 「柊くん、私達のことは『ともちゃん』と・・・」
 「『みっくん』でいいですよ」
 「いや、先輩なんですし、そういう訳にはいかないですよ」
 俺は苦笑いを浮かべる。
 「でね、柊くん、デート中のところ悪いんだけど・・・」
 チラッと美春の方を見た森川先輩が言う。
 「あ、美春は大丈夫ですよ〜」
 美春の言葉を確認した森川先輩は満足そうに頷くと俺の方を見る。
 「柊くん・・・『あの話』考えてくれた?」
 「『あの話』ですか・・・すいません、もう少し時間くれませんか?」
 「分かった。ことりにはそう伝えとく」
 「時間はまだありますから、ゆっくり考えてくださいね」
 佐伯先輩もそう言ってくれた。
 「でも、私達としては柊くんに協力してもらえるとやりやすいかなって思ってるから」
 森川先輩と佐伯先輩はそう言うと『用事はそれだけだから』と言い残して立ち去った。


  「冬貴君、何なの『あの話』って?」
 2人が立ち去った後、美春が当然のように疑問を俺にぶつける。
 「ああ、白河先輩達に誘われたんだよ。『一緒にバンドやらない?』って」
 「バンド?・・・冬貴君が?」
 「何だよ、その『うわ〜似合わない〜』みたいな顔は・・・」
 失礼な表情をする美春に俺は思わずツッコミを入れる。
 「えっ?ゴ、ゴメンね〜・・・でも、どうするの?」
 「面白そうだし、部活引退している今じゃないと出来ないことだし協力してもいいかな〜とは思ってる」
 「そっか・・・じゃあ、入ることに決めたら美春もその時は練習見に行ったりするから、教えてね」
 「ああ、分かった」
 俺はそんなことを言いながら、次に行くところを考え始める。
 そんな俺を横目で見ながら、美春が呟く。
 「だけど・・・ダメだからね、冬貴君」
 「?・・・ダメって・・・何が」
 「バンド練習見に来た女の子に聞かれたからって携帯番号教えたりしちゃ」
 「美春・・・そんなこと有りえないから」
 「分かんないよ〜それに、冬貴君には―――」
 そこまで言って美春は急に口をつぐんだ。
 「えっ?あ、ああ・・・な、何でもないよ?つ、次にどこに行くか決めたの?冬貴君?」
 明らかに、動揺しているのがモロ分かりな口調で美春が促がす。
 「・・・じゃあ次はここに行くか」
 俺は次の行く場所を指差した。




 私は戸惑っていました。
 さっき冬貴君が聞いたことに対して、私が言った言葉・・・
 『分かんないよ〜それに、冬貴君には―――』
 ―――『美春さん』っていう大切な人がいるんだから―――
 私はそう続けようとしました。
 だけど・・・何故か、その言葉が出ませんでした。
 それと同時に私の胸に鈍い痛みが走りました。
 (何なのかな・・・帰ったら、暦先生に検査してもらおうっと)
 それに分からないことは、まだあります。
 さっきのイルカショーの時のこと、私は冬貴君に演技だって言ったけど本当は・・・
 キス・・・されてもいいと思ってました。
 (美春さんの気持ちがそう思わせたのかな・・・)
 私はそんなことを考えながら、冬貴君の後について行きます。
 「着いたぞ〜美春。ここだ」
 冬貴が足を止めます。
 「?・・・真っ暗だよ?冬貴君?」
 その場所は水槽がドーム状になっている場所で、美春達はそれを見上げるような形になっています。
 「ここで何が始まるの?」
 「まあ、黙って見てろって」
 そのまま、美春達はしばらく待ちます。
 すると―――
 【ポゥ・・・】
 水槽の中のある一点が豆電球のように輝き始めました。
 チラチラと漂うように、その光が水槽の中を移動しはじめます。
 その光に合わせるように、水槽の中にいくつもの光が生まれて漂いはじめます。
 それは、まるで急に水の中に蛍が現れたみたいでした。
 「うわ〜キレイ・・・」
 私は思わずうっとりとした声を洩らします。
 「気に入ったか?美春?」
 隣に並んだ冬貴君が言います。
 「うん!冬貴君、これは一体何なの?」
 冬貴君はこれがこの水族館のウリで、水槽の中を暗くすることで中で泳いでいるホタルイカが、
 発光して昆虫の蛍のように見えるってことを教えてくれました。
 「パンフレットの受け売りだけどな」
 そう言って水槽を見つめる冬貴君。
 その顔にはどこか懐かしさが漂っていました。
 私はそんな冬貴君の顔を見つめながら言います。
 「この場所も『美春さん』との思い出の場所なの?」
 以前に美春さんと来たことがある以上、今日廻ったところは大抵美春さんとの思い出の場所だと私は思いました。
 そう思った私はそんなことを聞いていました。
 「いや、この場所は俺達が来た時には無かった施設だからな」
 冬貴君はそう言って私の頭を撫でます。
 「それに、いくら過去に美春と来たからって、今日ここに来たことは俺とお前だけの思い出だろ?」
 「私と冬貴君だけの思い出・・・」
 「そうだよ!俺としてはこういう思い出も大事にしてほしいと思ってるんだ・・・お前には」
 「冬貴君・・・」
 私の心に、暖かいものが生まれるのを感じました。
 冬貴君はまた、光輝く水槽を見つめています。
 その横で私は―――
 
  「『私と冬貴君だけ』の思い出―――」

 その言葉を心の中で何回も繰り返していました―――


                     
                    
                    〜第24話に続く〜


            こんにちは〜フォーゲルです。第23話になります。

       前回の後書きで、『冒頭の夢に関しては次回判明します』とか書きながら、

       冬貴とミハルの水族館デートを詳しく描写していたら、長くなってしまったので、

                     もう1話続きます。

       今回の話のポイントは、ミハルとのキスを何とか『回避』しようとする冬貴ですね。

          その一方で、ミハルは・・・っていうのを感じて貰えれば嬉しいです。

         後、苦労したのはともちゃんとみっくんが出るところですね。

    『どっかで2人の本名出てたよな〜』とか思いながらネットで探したけど見つからず、

     家にあったFSの説明書にあっさり載ってたのには、思わずガックリしました(笑)

                    それでは、失礼します〜



管理人の感想

今回はほのぼのデート編・・・とは言っても、ロボミハルとなのですが。

イルカのショーって、結構カップルばかりが指名されますよね。ミハルと冬貴もそのご多聞に漏れず。

そして最後のキスオチ。これはちょっと予想外でしたね。もしかすると本当にキスするのかもと思いましたから^^;

しかし、冬貴は「美春」のことを思い、躊躇う。ミハルは違ったようですが・・・。

そして最後の方でも、段々とミハルフラグが(笑)・・・修羅場エンドか?(爆)

それではフォーゲルさん、今回もありがとうございました!



2007.4.14