『桜がもたらす再会と出会い〜第22話〜』


                           投稿者 フォーゲル




  最初に俺の目に飛び込んできたのは、『枯れずの桜』だった。
 (・・・?)
 俺はその光景に疑問を浮かべる。
 何かイメージが違っていた。
 例えるなら、迫力が違うとでも言えばいいのか・・・
 「トウ君、どうしたの?」
 ふと、懐かしい呼び方をされ、俺は自分の正面に視線を移す。
 そこには、オレンジ色にも見える栗色の髪を大きなリボンで纏めた女の子がいた。
 (美春?)
 俺が転校する前、一緒に遊んだ『子供の頃』の美春の姿がそこにはあった。
 (ってことは・・・これは夢?)
 よく見ると俺の姿も子供の姿だ。
 「・・・どうかな?トウ君」
 美春が不安気に俺に尋ねる。
 ―――どうって何が―――
 俺がそう聞こうとした瞬間・・・
 「――――」
 俺は自分の口が勝手に動くのが分かった。
 ただ、何を言っているのかが、自分では分からない。
 俺の言葉を聞いた美春の表情が曇る。
 「そっか・・・何がダメなんだろ」
 美春は座っている自分の斜め下の方を見ながら呟く。
 そこには『何か』があるようなのだが、そこだけ変なモヤのようなものが掛かっていて見えない。
 「――――」
 俺がまた何かを言う。
 「ありがとう。トウ君。でも・・・」
 美春は俯いてしまう。
 どうやら、すっかり自信を無くしてしまっているらしい。
 俺は、しょうがないなと思いながら口を開く。
 「――――」
 やっぱり、何を言っているのかが分からないのが歯がゆかった。
 だが、俺の言葉を聞いた美春の顔に笑顔が戻った。
 「本当に?じゃあね・・・」
 その美春の言葉の途中で俺の意識は急速に消えていった―――



 「う・・・う〜ん」
 俺はゆっくりと目を開ける。
 いまだ、睡眠のまどろみから抜け出せずにいた。
 ベットの中でモゾモゾとしながら、ふと、ベットサイドに目をやる。
 俺の目に2枚のチケットが写った。
 (あのチケットは・・・)
 意識を少しずつ覚醒させながら、俺はチケットを貰った時のことを思い出した。



 「柊、ちょっと」
 暦先生が俺を呼ぶ。
 美春の勉強も何とか、本物の美春のレベルにまで達したところで終了となったところだった。
 そして、残りの夏休みは美春にいろんな体験をしてもらおうと考えていた。
 「何ですか?」
 「アンタ、残りの夏休み何するか決めてるのかい?」
 「いえ、それはまだ・・・」
 「そうかい。だったら・・・」
 暦先生はポケットから2枚の紙切れを取り出す。
 「ヒマだったら遊びにでも行ってきたらどうだい?」
 それは、初音島の外にある水族館のチケットだった。
 「私も急に仕事が入っちゃってね〜行けなくなっちゃったんだよ」
 暦先生は残念そうに言う。
 「だから、天枷でも連れて遊びに行ってくれるといいんだけど」
 確かに、勉強頑張ったご褒美として連れて行くのはいいかもな。
 「分かりました。じゃあ、使わせて貰います」
 俺はチケットを懐にしまう。
 「いや〜だけど・・・暦先生にもいるんですね」
 「何がだい?」
 「デートするような彼氏が」
 受け取ったチケットはカップル限定のペアチケットだった。
 「いちゃ悪いのかい?」
 「いや、ただ単に相手の人は勇気があるなと」
 「アンタは、2学期赤点の状態から始めたいみたいだね〜〜〜」
 「ア、アハハ〜失礼します!!」
 暦先生の怒りがMAXになる前に、俺は急いで生物準備室を出た。



 
  その後、美春に声を掛けて約束をしたのが今日という訳だ。
 美春は『水族館ってお魚とかが水槽の中でたくさん泳いでるんだよね?見てみたいな〜』とかなりの興味を示した。
 知識は持っていても、実際に見たことは無いわけだから当たり前といえば当たり前だが・・・
 (それに、この水族館は俺にとっては思い出の場所だし)
 俺は、そんなことを考えながらふと時計を見る。
 待ち合わせの時間は10時。
 時計の時間はまだ9時前だった。
 (まだ、時間あるな・・・もう少し寝るか)
 俺は布団を被ろうとする。
 だが、その時俺は妙なことに気付いた。
 時計の秒針が動いている音がしないのだ。
 俺は慌てて、部屋を出て居間にある方の時計を見る。
 時間は10時半を差していた。
 顔から血の気が引いていくのが分かった。
 (マズい・・・完全に遅刻だ)
 俺は慌てて身支度を整えると大急ぎで家を出た。





 「冬貴君!どうしたの!!」
 大急ぎで待ち合わせ場所に来た俺を見て、美春はちょっと怒ったような声を出す。
 「ゴメン!美春・・・遅くなった」
 「いつまで経っても来ないから、心配したんだよ」
 そう言って、むくれたような表情をする美春。
 「悪かったな・・・本当にゴメン!」
 「じゃあ、お詫びに朝ご飯くらい奢ってくれるよね〜」
 「ああ、それくらいだったら・・・」
 そう言った、俺の顔を見て美春が少し笑ったような気がした。
 

 「なあ、美春・・・」
 「何、どうしたの?」
 美春が不思議そうに俺に聞いてくる。
 「俺にはそれがとても、『朝ご飯』には見えないんだけど・・・』
 「美春にとっては朝ご飯と変わらないよ?」
 「それは、お前だけだ」
 美春は俺を喫茶店に連れ込むと、パーティサイズ用のバナナパフェを注文した。
 「ここのバナナパフェは、おいしいって美春さんのお薦めだったから・・・」
 美春はそう言って、フォークにバナナを突き刺すと一口で食べる。
 「それに、美春さんはこのバナナパフェ完食したんだよね」
 確かに以前2人で遊びに来た時に、この店で美春はバナナパフェを完食していた。
 「そんなことで、美春になりきろうとしなくてもいいから」
 俺達が、そんな話をしていると・・・
「美春〜何してるの?」
 聞いたことのある声に俺が振り返った。
 そこには、音夢さんと純一先輩が立っていた。
 「にゃむ先輩、こんにちはです〜!!」
 「にゃむ?」
 音夢さんが思いっきり訝しげな表情をする。
 「あ、あの〜美春の奴、この暑さでボケてるんですよ」
 こんなことで美春の正体がバレたらシャレにならん・・・
 そう思った俺はすかさずフォローを入れる。
 だが、フォローだと思わなかった人物が一人いた。
 「冬貴君〜、美春はいつだってマジメだけど?」
 「あれがマジメなのか・・・」
 そんな俺達のやり取りを見ながら、音夢さんがプッと笑ったのが見えた。
 「どうしたんですか?」
 「え、ああ、ゴメンね。2人とも相変わらず仲がいいなぁ〜と思って。ねえ、兄さん」
 「全くだ。・・・お前ら、もう付き合ってるのか?」
 「そんな訳ないでしょう」
 俺は普通に答える。
 (それに・・・俺が好きになったのは『ここにいる』美春じゃないんだから・・・)
 そんなことを考えながら、俺は隣の美春を見る。美春は―――
 「そ、そそそそ、そんなことある訳ないじゃないですか〜」
 何故か思いっきり動揺しながら、純一先輩の質問に答えていた。
 「い、いや〜何言ってるんですか?朝倉先輩は?」
 そう言いながら、動揺を抑えようとするかのようにバナナを口に運ぶ美春。
 次の瞬間だった―――
 「うっ・・・」
 美春が口元を抑えながら立ち上がった。
 「キ、キモチワルイ・・・」
 「お、おい大丈夫か?」
 だが、美春は俺の言葉に答えることも無く、トイレの方に走っていった。
 (だから、朝から食いすぎだっての・・・)
 俺はそんなことを考えながら、美春の後を追おうとした。
 「柊君?」
 呼び止められた声に俺の足が思わず止まる。
 声のした方を見ると、音夢さんが何故か顔を赤くしながら、純一先輩はニヤニヤしながら俺を見ていた。
 「何ですか?」
 「・・・この夏休み、美春とほとんど毎日2人でいたんですよね?」
 「な、何でそれを?」
 「美春から聞きました。それで・・・あの・・・」
 音夢さんは、さらに顔を赤くしながら言葉を続ける。
 「・・・美春に何もしてませんよね?」
 「はい?」
 質問の意味が分からず、俺は聞き返す。
 「冬貴・・・美春のさっきの行動と音夢の言葉を足してみろ」
 音夢さんに助け舟を出すような感じで純一先輩が言う。
 (食べ物を食べて、気持ち悪い・・・)
 そこに音夢さんの言葉を追加すると・・・
 (・・・!!)
 俺は音夢さんが言いたいことが分かった。
 どうも、音夢さんは俺が美春に手を出した上に、アレさせたんじゃないか・・・と思っているらしい。
 「ま、待って下さい!!俺はまだ何もしてません!!」
 「まだ?」
 音夢さんの片眉がピクンと跳ね上がる。
 (ああ〜俺も訳わかんないこと言ってる)
 「じ、純一先輩、助けて下さい〜」
 俺は思わず、純一先輩に助けを求める。
 だが、純一先輩は少し笑いながら、こう言っただけだった。
 「冬貴・・・責任は取ってやれよ」
 「そ、そんな〜助けてくださいよ〜」
 「さあ、柊君・・・説明して貰いますからね〜」
 すっかり風紀委員モードの音夢さんがにじり寄って来ていた―――




 「ゴメンね〜冬貴君」
 美春が平謝りをする。
 「全く・・・大変だったんだぞ・・・あの後」
 あの後、音夢さんの誤解を解いて、美春を介抱した後(やっぱりゼンマイ切れかかってた)
 俺達は喫茶店を出た。
 音夢さんは結局純一先輩の、
 『冬貴にそんな度胸も甲斐性もある訳ないだろ?』の言葉で納得し、
 (それで納得されると男としてはそれはそれで悲しいものがあるが・・・)
 俺達は音夢さん達と別れ、水族館行きのバスに乗り近くで降りて、水族館への道を歩いていた。
 「本当にゴメンね〜その分、これに期待しててね」
 美春はそう言うと、持ってるバッグを掲げる。
 「中に何が入ってるんだ?」
 「エヘへ〜内緒だよ」
 そんな会話をしながら、俺達は歩き続ける。
 「あ、そうだ・・・なぁ、美春」
 「どうしたの?」
 「一回聞いてみたかったことがあるんだけど?」
 「何?」
 「お前、あの夏祭りの夜、どうして一発で俺が俺だって分かったんだ?」
 さっきの音夢さんの名前間違えもそうだが、美春はいまだに友達の顔と名前が一致しないことがある。
 美春が言うにはデータのズレがたまに起きたりするとのことらしいが・・・
 「あ〜それはね〜美春の中に『感情値』が設定されてるからだよ」
 「感情値?」
 美春の中には本物の美春がそれまで出会ってきた人間をどういう風に思ってるかを数値化したデータがあるらしい。
 それが感情値。
 「その感情値のデータが冬貴君は例えば音夢先輩や朝倉先輩とはちょっと違ってたの」
 「違ってた?」
 「具体的に言うとね・・・物凄く高くなることもあれば、物凄く低くなることもあるって感じかな」
 「それはまた・・・凄く微妙な評価だな」
 「でも、一ヶ月前・・・そうだ、美春さんが事故に合う前の日の夜に急に跳ね上がったんだけど・・・
 美春さんと何かあったの?」
 俺はその言葉を聞いて、思わず顔が赤くなった。
 本物の美春が事故に合った前日の夜―――
 それは、俺と美春が事故とはいえ、キスをした夜のことだ。
 その時に、感情値が上がったってことは・・・
 (少なくとも嫌われてはいないってことか?)
 俺はホッと胸を撫で下ろす。
 「ねえ、冬貴君・・・じゃあ今度は美春が質問してもいい?」
 「え?いいけど・・・」
 「この水族館って何か思い出でもあるの?」
 「どうしてだ?」
 「冬貴君、この水族館のパンフレット見るたびに懐かしそうな顔をしてたから・・・」
 「ああ、実はな・・・」
 「この水族館、本物の美春と初めて2人だけで来た思い出の場所なんだ」
 親父達が共同で研究をしていた時俺と美春2人だけでここに来たことがあった。
 今にして思えば、2人とも親が全然かまってくれなかったのが寂しかったってのもあるのかも知れない。
 「だけど・・・ちょっとした冒険みたいで楽しかったな、あの時は」
 「なるほど・・・つまり、2人の初めてのデートの場所ってことだね」
 「・・・そうなるのか?でも子供の頃の話だぞ?」
 「そう思ってるのは冬貴君だけかも知れないよ?・・・美春さんは・・・」
 美春の言葉の響きに一瞬切ないものが感じられた。
 「あっ!冬貴君、ひょっとして・・・あれ?」
 だが、次に放った言葉にはそんな響きは感じられなかった。
 「そうだ。大分大きくなったな〜」
 増改築でもしたのか、その水族館は俺が見た時より規模が大きくなっていた。
 「冬貴君〜早く、早く〜」
 興味津々の美春が俺を呼ぶ。
 その時だった。

 『トウ君〜早く、早く〜』

 一瞬、子供の頃の『本物の美春』の姿が今の美春にダブって見えた。
 「冬貴君〜どうしたの〜」
 「あ、ああ今行く」
 俺は美春の方に向かって走り出す。
 そして、俺は今朝の夢がこの水族館に美春と来た時の夢だということを思い出していた―――



                  〜第23話に続く〜


         こんばんわ〜フォーゲルです。第22話お送りします〜

           今回重要なのは、冒頭の夢のシーンですかね。

          次回大事な約束をしていたことが判明したりします。

  音夢達が出てくるシーンは、ゲームのバナナパフェのシーンで音夢がいたらって感じで書きました。

          何か絶対そっち方面に連想しそうだ。音夢は(笑)

後は、ミハルの感情に少しづつ変化が出てきてるっていうのも感じとって貰えれば嬉しいです。

                  それでは、失礼します〜


管理人の感想

今回は冒頭の冬貴の夢から始まったわけですが・・・。

子供の頃の二人。話の内容はまだよくわかりませんが、かなり気になる話しぶりですね。

そして中盤のバナナパフェのくだり。

本編とは微妙に異なったアレンジですね。純一が主人公では、できないアレンジの仕方です。

っていうか音夢、妊娠てw 一応全員中学s(ry

過去に行ったことのある水族館で、果たして何が起こるのか・・・注目ですね。



2007.4.7