『桜がもたらす再会と出会い〜第21話〜』
投稿者 フォーゲル
「あ〜暑い・・・」
俺は思わず机に突っ伏す。
窓の外から夏の風物詩、セミの鳴き声が聞こえてくる。
「冬貴く〜ん・・・頼むからそう暑い暑い言わないでよ・・・」
美春の抗議する声が隣から聞こえる。
俺達は暦先生の根城(?)生物準備室に来ていた。
何故、夏休みなのに俺達が学園に来ているのかというと・・・
「冬貴君、ゴメンね。せっかくの夏休みなのに美春に付き合ってもらっちゃって」
「ああ、いいよ。付属の部活は引退したし、宿題も仕上げなきゃならないしな」
俺はそう言って、ノートを捲る。
本物の美春と俺の目の前にいるロボットの美春が入れ替わって一ヶ月が経とうとしていた。
幸い、この一ヶ月で基本的な生活に関することは教えることが出来た。
2学期になってからは、美春が本格的に『天枷美春』として学園に通うことになる。
その為には最低、本物の美春並みの学力も身に付けていなければならない。
そう言った暦先生の主張の元、美春は夏休み中盤のこの時期学園に来て、みっちり勉強しているのだ。
まあ、それなら俺は別に関係ないんじゃと思うのだが・・・
『私も苦手な教科もあるしな〜、柊、アンタが得意な教科はアンタが教えてやってくれ』
俺の脳裏に暦先生の言葉が蘇る。
(俺だって、教えるのは得意じゃないんだけど・・・)
「2人とも〜はかどってるかい?」
噂をすれば何とやらで、その暦先生が準備室に入ってくる。
「あ〜何でこのクソ暑いのに、会議なんてやるんだろうね〜」
「お疲れ様です」
俺は思わず苦笑しながら、声を掛ける。
「アンタ達学生が羨ましいよ・・・」
暦先生は、準備室に備え付けてある冷蔵庫を開ける。
「ありゃ・・・飲み物何も無いね〜」
連日、美春に付き合って俺も出入りしているせいか、買い置きのペットボトルは空になっていた。
「まいったね〜どうしよう・・・」
「あ、じゃあ、美春が買って来ますよ」
そう言って美春が立ち上がる。
「俺も付き合うぞ?」
立ち上がりかけた俺を美春が押し止める。
「大丈夫だよ〜冬貴君の分も買って来てあげるけど・・・何がいいの?」
「そうか?・・・じゃあ、アカリスエットで」
「天枷、私は烏龍茶でいいから」
「分かりました〜天枷美春、ちょっと行ってきます〜」
そう言うと、美春は小銭を握り締め準備室を出て行った。
「で、どうだい?柊?天枷の様子は」
美春が出て行ってしばらくしてから、暦先生は俺に聞いてきた。
「今のところは特に問題ありませんよ」
事実、事情を知ってる俺でさえも目の前に入る美春がロボットだという事実を忘れそうになるし・・・
「そうかい?ならいいんだが・・・」
「あ、でも・・・あのゼンマイの位置だけは未だに慣れないんですけど」
あれだけ本物の美春と寸分違わないロボットなのに動力源はソーラーパワーとゼンマイというエコロジーだ。
「当初の予定では本物の天枷があの娘のサポートをする予定だったからね」
美春の背中にはゼンマイを巻くための穴があるのだが、巻くためには美春に服を脱いでもらわなければならない。
もちろん、全部脱いでもらうわけじゃないけど・・・
それでも、ブラのラインとかが見えちゃって意識してしまう。
「そうか・・・でも見えるところに作る訳にも行かなかったからね」
「それは分かりますけど・・・」
思わずその時の美春の妙に色っぽい仕草を思い出してしまう。
「柊〜顔がニヤけてるぞ」
「だ、誰がですか?」
動揺しまくる俺に暦先生がツッコミを入れる。
「でも、そういうリアクションをするってことは、別に変な関係って訳じゃないみたいだね」
「当たり前でしょう?・・・出会ったばかりなんだし」
「いや、そうじゃなくて、本物の天枷と・・・ってことだ」
「?・・・そこで何で本物の美春の話になるんです?」
「だって、アンタは研究者以外で唯一、本物の天枷とあの娘の違いを見分けたわけだからね」
暦先生はそう言って、笑みを洩らす。
「そういう深い関係にならなきゃ分からないものでもあるのかな〜と思ってね」
「そんな訳ないでしょう・・・」
(俺はいつかそういう関係になりたいとは思ってるけど)
「じゃあ、何で分かったんだい?」
当然のように浮かぶ疑問を暦先生が口にする。
「・・・」
俺はしばらく考えた後、口を開く。
「・・・笑顔ですかね」
「笑顔?」
「何か違ったんですよね・・・美春とあいつの笑顔は」
暦先生は黙って俺の話を聞いていた。
「何というか・・・俺が小さい頃から知ってる美春の笑顔じゃなかったというか」
うまくは言えないけど、そんな感じがした。
「美春は普段から元気一杯で、そこからスゴく楽しそうに笑うじゃないですか?
その笑顔を見てるとこっちも元気になれるというか・・・」
それは俺の偽らざる心境だ。
「お〜言うねぇ」
暦先生がニヤニヤしながら俺を見ている。
「そんな天枷に柊は惚れたって訳だ」
「!!・・・な、な・・・」
俺は、思わず絶句してしまう。
「『何で分かるんですか』って顔だね」
暦先生は思わず肩を竦めながら言った。
「普段の柊の言動を見てればねぇ」
「そ、そんなに分かりやすいですか?」
「まあな〜」
このままだと、いつまでも暦先生にからかわれそうだと思った俺は話題を変えようと思った。
「そ、そういえば美春が動き出した理由ってなんだか分かったんですか?」
確か、起動実験はうまく行っていなかったという話だったはず。
「それなんだけどな〜やっぱり科学的には原因不明なんだよ」
「そうなんですか?」
「一応科学的なこと以外では心当たりがないこともないんだけど・・・」
「何ですか?」
「本物の天枷がしていた指輪」
「!!」
俺は自分に心当たりのあることが出てきたので驚いた。
美春がしていた指輪は、俺が未来に行く原因になったフェアリーストーン・・・
あの騒動の後、美春はその指輪を気に入ったのか結構していたのを俺も見ている。
「天枷・・・と言ってもロボットの方なんだけど・・・
そっちが言うには本物の天枷があの指輪をするようになってから、深く意思の疎通が出来るようになったらしい」
それまでも、意思の疎通は出来てたらしいんだけどね。
そう暦先生は付け加える。
「それに事故に合った時もその指輪をしてたから」
そのお陰で動き出したばかりの美春が本物の美春の居場所を見つけて、すぐに研究所に運ぶことが出来た・・・
ということらしい。
「結構人通りの少ない場所だったからね・・・あのまま見つけることが出来なかったら、
手遅れになっていたかも」
暦先生はそう言って一息付く。
「まあ、何にせよあの指輪が原因である可能性はあるんじゃないかと、私は思ってる」
そう言って今度はタバコに火を付ける暦先生。
「調べてみたんだけど、科学的には普通の指輪だから私の手には応えないんだよ。
天枷が言ってたけど、あの指輪は柊が天枷にプレゼントしたものなんだろ?何か知らないのかい?」
暦先生の言葉に俺は考え込む。
「あの指輪は俺がオフクロから貰ったものなんですけど特に詳しいことは」
本当は恋愛成就のご利益があるかもって話は聞いてたが、それを話すとまた暦先生にからかわれそうな気がしたので
俺は黙っていた。
「そうかい・・・じゃあ今の所は様子見しかないのかねぇ」
「お待たせ〜飲物買って来ました〜どうしたんですか?2人共」
暦先生がとりあえずの結論を出したところで、美春が戻って来た。
それに合わせて、俺と暦先生の話もひとまず終了となった。
「う〜ん、おいしい〜」
私は両手にチョコバナナを持ちながら、至福の時を味わっていました。
今日の勉強も終わって、私は冬貴君と一緒に桜公園に来ています。
「おいおい・・・ゆっくり食べろよ」
冬貴君はそんな私をあきれたような顔で見ています。
「さすが・・・本物の美春さんが・・・おいしさを力説するだけのことはあります」
「美春はそんなことも喋ってたのか」
冬貴君が『しょうがないな・・・あいつは』みたいな表情をしながら私を見ています。
「あ・・・そうだ」
ふと、何かを思い出したような表情をした冬貴君は美春の方を見ます。
「美春・・・ありがとう」
「?」
私の心に疑問が浮かびます。私、冬貴君に感謝されるようなこと何かしたっけ?
「お前が美春を助けてくれたんだろ?・・・事故に会った時に」
冬貴君が言っているのが、美春さんが事故に会った時の話だと分かった私は首を振ります。
「気にしないでよ〜困った時にはお互い様だし・・・それに」
「それに?」
「美春さんの回りにいる人を泣かせちゃいけないと思ったし・・・」
私が目覚めてから、美春さんとして過ごした一ヶ月で私にも分かったことが一つあります。
それは、美春さんの回りにいる人が常に笑顔でいるということ―――
例え、どんなに辛いことがあっても美春さんが笑うだけでその場の空気がパッと明るくなります。
「美春さんは周りに幸せをあげられる人だから」
冬貴君は私の言葉を黙って聞いています。
「みんな、私のことをそんな美春さんだと思ってる」
私はさらに言葉を続けます。
「だから、私は美春さん以上に『美春さん』で居なきゃいけないと思うんだ」
もし、美春さんが事故に会ったことを―――そして、入れ替わって私が存在していることを知られれば―――
きっと美春さんの回りにいる人が悲しむ。
そんなことは私には耐えられなかった。
(現に冬貴君は―――)
あの日、私が美春さんと入れ替わったことを冬貴君が知った日―――
冬貴君は暦先生に喰って掛かっていた。
隣の教室でその様子を聞いていた私は思わずその場から逃げ出していました。
結果的には、冬貴君を騙して、悲しませたことになるんだから―――
「なぁ・・・」
それまで、黙って聞いていた冬貴君が口を開きます。
「俺は思うんだけど・・・そのままのお前じゃダメなのか?」
「え?」
私は思わず聞き返します。
「今のお前だって充分美春らしいし、回りの人間もそう思ってる。それじゃダメなのか?」
「冬貴君・・・」
「だって勿体無いだろ?せっかく生まれてきたのに、他の誰かの代わりとして生きるなんて・・・
俺はお前にも自分ってものを大切にしてほしいと思う」
私が一番傷つけてしまった人の言葉に私は胸が熱くなるのを感じました。
「それでも、私は美春さんの代わりに『美春さん』として、みんなに幸せをあげたい」
私の真剣な想いを聞いた冬貴君はフゥーッと息を一つ付きました。
「分かったよ・・・お前がそうしたいっていうのなら、俺は何も言わない。だけど」
冬貴君は私の肩をつかみ、目を真っ直ぐに見つめ言います。
「お前がこれから経験することは『美春』として経験することなのかも知れない。
だけど、お前が感じる喜びや悲しみは間違いなくお前自身が感じることだ。
それだけは忘れないでほしい」
冬貴君の言葉が私の心に深く染み込んでいきます。
「それと、もし『美春』のフリをするのが辛くなったらいつでも、俺の前では素のお前を出していいからな」
そう言って冬貴君は美春の顔を一度覗き込むように見ると、笑顔になります。
その笑顔を見た時、私の心が一瞬ざわついたように感じました。
「よし、湿っぽい話はこれで終わり!!帰ろうぜ!」
冬貴君は空気を振り払うように立ち上がります。
「あ、待ってよ〜」
私も急いで冬貴君の後を追います。
そして、ある考えが私の心に浮かびました。
『私が動き出したのは、美春さんが一番悲しませたくない人物が冬貴君だったからかも―――』
〜第22話に続く〜
こんばんわ〜フォーゲルです。第21話になります〜
今回はミハルが動き出した原因について少し語ってみました。
今回の話を読んだ後に、13話(未来編ラスト)の話を読んで貰うと、ミハルが動き出した理由が
ある程度分かるかも(?)
後半のミハル視点は、気合い入れて書きました。
何か冬貴がエラいカッコ良くなってる(笑)
それでは、失礼します〜
管理人の感想
本格的にミハルとの生活がスタート。といっても、冬貴はただの監視役ですが。
実際、最終的にはどうなるんでしょうね?冬貴が簡単に想いを変えるとも思えませんが、ミハルはある意味では美春なわけですし・・・。
と、とにかく、今回は後半の冬貴の台詞が良かったですね。そんなコト言ったら、ミハルにフラグが立っちゃいますよ〜(笑)
それではフォーゲルさん、今回もありがとうございました〜^^