『桜がもたらす再会と出会い〜第20話〜』
投稿者 フォーゲル
『私』が最初に感じたのは冷たい感覚―――
(何だろ・・・)
目をゆっくりと開ける。
私はカプセル状の機械の中に寝かされているようだった。
【ヴィィィーーーン】
機械的な電子音が響き、そのカプセルがゆっくりと開いていく。
そのカプセルが完全に開くと、私は自分の体が動くことを確認する。
そして、私は身を起こした。
そこはいろいろな機械が並んでいて、何かの研究室のようでした。
そして、私の目の前には―――
「こ、こんなことが起こるなんて・・・」
白衣に赤い髪の女の人が驚きに目を見開いて立っていました。
「あなたは・・・」
私がそう聞こうと思った瞬間―――
【ズキッ】
私の胸の部分に鈍い痛みが走るのを感じました。
その痛みは何故か泣きたくなるような痛みです。
思わず、私は自分の胸を抑えます。
「ど、どうしたんだい?」
私の目の前にいた女の人が心配そうに私に近づきます。
その人の声を聞きながら、私は自分の頭の中に流れてくる『声』に耳を傾けていました。
(行かなくちゃ・・・行かなくちゃ・・・)
その声の響きはどうしようも無く、切ない想いがこもっているように感じられました。
それは、私のよく知っている人の声でした―――
「何だったんだ?昨日の出来事は・・・」
俺はそんな呟きを漏らしながら、学園への道を急いでいた。
もちろん、大会で優勝した翌日に部活がある訳じゃない。
では、何故夏休みに入ったばかりなのに俺が学園へ行ってるのかというと・・・
「暦先生・・・事情を説明するからって、一体どういうことだ?」
昨日、夏祭りの会場で倒れた美春を抱き止めた俺の前に、暦先生が現れた。
そして、詳しい事情は明日説明するから、生物準備室に来てくれと言って、
美春を連れて帰っていったのだ。
しかも、なるべく人目につかないようにして来てくれと言い残して。
(確かに昨日の美春は少しおかしかったよな・・・)
何か妙にテンション高いというか・・・
いや、テンション高いのはいつものことかも知れないが、種類が違うような気がした。
それに、俺の見間違いじゃなければ煙噴いてたような・・・
(・・・さすがにそれは無いか?)
自分のあまりにもバカバカしい考えに半分呆れながら、俺は暦先生のところに急いだ。
「おっ・・・来たね、さあ、入った入った」
生物準備室に来た俺を、暦先生はまるで犯罪者を匿うように急いで中に入れた。
「何が飲むかい?コーヒーでいいか?」
「あっ・・・ハイ」
矢継ぎ早に話す暦先生に促がされ、俺は生返事で答える。
「・・・で、何があったんですか?」
コーヒーを入れてくれた後、しかし、なかなか口を開かない暦先生に俺は思い切って尋ねた。
「分かってるよ・・・なあ、柊、アンタは『人間みたいなロボット』ってありえると思うかい?」
「『人間みたいなロボット』ですか?・・・ありえると思いますよ」
事実、ハイテクモーターショーなんかで公開もされてるし・・・
「いやいや、アンタの考えてるのは外見がいかにもロボットって感じのロボットだろ?
私が言ってるのは、外見が人間そっくりのロボットのことだ」
「・・・そんなこと言われても」
俺が、そう言って押し黙ると暦先生は覚悟を決めたように口を開いた。
「実は・・・昨日アンタと一緒にいた天枷はロボットなんだ」
「・・・」
部屋の中に沈黙が落ちる。
「そうですか〜さて、俺はトレーニングがあるのでこれで・・・」
「おいこら、さらっと流すんじゃない」
立ち去りかけた俺を暦先生の声が押し止める。
「私が天枷研究所の研究員も兼ねてるのは知ってるよな」
「ええ、おじさん達の研究所ですよね」
親父も出入りしてるので、その辺のことは俺も知っている。
「私はそこで人工知能や多足歩行機械の研究をしてるんだが・・・
あの娘はその研究過程で偶然生まれたんだ」
そう話す暦先生の目は真剣で、ウソをついているようには見えなかった。
「ちょ、ちょっと待って下さい、昨日見た美春がロボットだとして・・・本物の美春は?」
俺の問いに暦先生は、俺の目を真正面から見据えて言った。
「柊・・・落ち着いて聞いてくれ、本物の天枷は・・・事故にあった」
「!!」
「昨日、柊の応援に行く途中で暴走運転をした車に・・・」
不意に目の前が真っ暗になったような気がした。
足がガクガクと震え、立っていられないような感覚―――
思わず、近くにあった机に手を付く。
「柊!大丈夫かい?」
暦先生が心配そうに俺に声を掛ける。
「・・・ですか」
俺の口からか細い問いが洩れる。
「どうしてすぐに連絡してくれなかったんですか!!」
思わず、俺はそう暦先生に喰って掛かっていた。
「そんなことになってるのなら・・・試合なんか放っといてすぐにでも病院に・・・」
だが、俺の言葉に暦先生はふっとため息を漏らした。
「やっぱり、天枷の言った通りだね」
「え?」
「実は事故に合った天枷を発見したのは、私とあの娘―――ロボットの天枷なんだけどね」
美春は暦先生達が見つけた時には、意識があったらしい。
「柊や朝倉達にも連絡しようと思ったんだけど・・・天枷本人が連絡しないでって言ったんだよ。
特に柊、アンタにはね」
「俺には・・・ですか?」
「ああ、『冬貴君の夢のジャマはしたくないから・・・』ってね」
それは、どこまでも美春らしい言葉だった。
美春は昔から、自分のことより他人のことを優先してしまう奴だし・・・
気がつくと、俺の足はフラフラと準備室の出口に向かっていた。
「柊!どこに行くんだい?」
「どこって・・・美春の所に決まってるでしょう!?どこの病院ですか!?」
「・・・天枷は今、面会謝絶だ。でも、命に別状は無いから、安心しろ」
「でも・・・面会謝絶ってそんなに悪いんですか?」
「今は意識を失ってる。もちろんいつかは目が覚めることは分かってるんだけど、
それがいつになるがが分からないんだ」
「そんな・・・」
「治療は天枷教授達が万全の体制でやってるから大丈夫だよ」
暦先生はそこまで話すと一息付く。
「で、問題はあの娘―――ロボットの方の天枷なんだけど」
暦先生の話によると、あの美春を生み出すことは美春本人も同意していて、
むしろ積極的にデータの提供などをしていたらしい。
しかし、9割方完成していたのに何故か起動実験はうまく行かず、暦先生も美春も半分諦めかけていた。
ところが、何故か今回美春が事故に会ったのと前後してロボットの美春が動き出したというのだ。
「最初は完成したら、天枷の双子の妹ってことにして、日常生活を送ってもらってデータを取ろうと思ってたんだけどね」
だけど、今回美春が事故に会ったことでその計画は使えなくなってしまった。
そこで、美春が入院している間ロボットの美春を代わりに学園に通わせてみようということになったらしい。
「で、そこで本題なんだけど・・・」
暦先生は俺の目を見て言った。
「柊、アンタにあの娘の世話役を頼みたいんだ」
「世話役?」
俺は、思わず訝しげに暦先生を見る。
「ああ、正直に言うけど、あの娘は天枷の知識・思考は持っていても経験が無いから、
どんな行動をするかは分からない。だから誰かあの娘を見ててくれる人間が必要なんだ」
「それで、俺ですか?」
「ああ、柊だったら天枷と四六時中一緒に居ても誰も不思議に思わないだろうし、
何も考えずに、器用に立ち回ってくれるような気がするからね」
「・・・分かりました。引き受けます」
俺はそう答えた。
「そうか。ありがとう」
暦先生はそう言うと、準備室を出て行こうとする。
「どこに行くんですか?」
「一応、天枷を隣の教室に待たせてあるからね。連れて来るから」
そう言って暦先生は出て行った。
だが、しばらくして暦先生は大急ぎで戻って来た。
「マズいね・・・天枷の奴、どこにもいない」
「いないってどういうことですか?」
「分からない・・・ひょっとしたら学園の外に出たのかも」
「俺も探します」
あの『美春』が本物の美春のデータを持ってるのなら、俺が探した方が見つけるのも早いかも知れない。
「・・・分かった。じゃあ私は学園内を探してみるから」
俺は暦先生から、『美春』に何かあった時のための対処法を一通り聞いた後、学園の外へ向かった。
俺は必死に『美春』を探し回りながら、暦先生の言葉を思いだしていた。
『天枷は本当にあの娘を生み出すことに協力的でね・・・私達はそれで助かったんだけど』
俺には美春がそこまで熱心だった理由が何となく分かるような気がした。
(あの時の話は『美春』のことだったんだな・・・美春)
この間、本物の美春から聞いた話を俺は思いだしていた。
「ほら〜冬貴君〜早く行かないと遅刻だよ〜」
「分かってるって・・・」
美春の声に急かされながら、俺達は必死に校門目指して走っていた。
「全く・・・何で今日に限ってバスが5分も10分も遅れるんだ?」
「そうだよね〜」
俺達がそんなことをグチりながら、走っていると・・・
【ポン、キン、コン、カン】
えらく調子はずれな音が聞こえて来た。
「?」
俺が前を見ると、萌先輩が木琴を叩きながらゆっくりと歩いているのが見えた。
「萌先輩〜遅刻しちゃいますよ」
俺の隣に並んだ美春が心配そうに声を掛ける。
「あら〜柊くんに美春ちゃんじゃないですか〜おはようございます〜」
萌先輩は相変わらずのスローテンポで話し掛ける。
「は、はぁ・・・おはようございます」
思わず挨拶を返してしまう俺。
「今日は〜お2人とものんびり登校なんですか〜」
「そうだったらいいんですけどね・・・なぁ美春」
「そうですよ〜早く行かないと音夢先輩に怒られちゃいますよ」
俺達がそんなことを話してると・・・
「お姉ちゃん、まだこんなところにいたの?」
眞子先輩が息を切らしながらこっちに向かって走って来た。
「あ〜眞子ちゃん、どうしたんですか?」
「どうしたんですかって・・・お姉ちゃんがいつまで経っても来ないから迎えに来たんじゃない」
眞子先輩は学園からこっちに向かって来たのだ。
そして、俺達に気が付くと忠告するように言った。
「2人とも、おはよう!・・・急いだ方がいいわよ。今日は遅刻した生徒は罰としてプール掃除みたいだから」
「・・・マジですか?」
俺は思わず聞き返す。
「マジよ・・・体育教師の五反田が手ぐすねひいて待ってたわ」
「あら〜それは大変ですね」
「そうなのよ!大変なの!だから急ぐわよ、お姉ちゃん!」
眞子先輩はそう言って萌先輩の手を引いて歩き始めた。
「じゃあね。2人とも!本当に急いだ方がいいわよ」
「それでは〜お先に行きますね〜」
眞子先輩と萌先輩は俺達より先に学園に向かった。
「俺達も急いだ方がいいな・・・行くぞ、美春」
だが、返事は無かった。
俺が美春の方を見ると、美春は去っていく眞子先輩と萌先輩を見つめていた。
「・・・美春?」
俺は思わず美春に声を掛ける。
「えっ・・・ああ、ゴメンね」
「どうしたんだよ?」
「ちょっと・・・羨ましいかなって」
「眞子先輩と萌先輩がか?」
「うん・・・美春にも本当はお姉ちゃんか妹がいるはずだったから」
「どういうことだ?」
美春の話だと、美春は生まれて来るとき、医者には双子だと診断されていたらしい。
しかし、美春は無事に生まれて来たけれどもう一人の子は死産だった・・・
「だから、水越先輩達を見てると羨ましいなって・・・ねえ、冬貴君」
「何だ?」
「もし・・・もしもだよ?その子がちゃんと生まれて来ていたら、冬貴君はその子とも美春と同じように接してくれた?」
美春の目は例え話とは思えないほど真剣な目をしていた。
「ああ、それはもちろんその子とも美春と同じように接してただろうな」
「そっか。そうだよね!!」
美春は満面の笑みを浮かべていた。
「あ、だけど・・・」
「だけど?」
「美春みたいに、バナナ中毒者にならないようにしないとな〜」
「と〜う〜き〜く〜ん・・・どういう意味かな〜」
俺達はそんなことを言い合いながら、学園に向かって走り始めた―――
(今にして思えばあの時の美春の問いはあの『美春』が動き出した時のことを考えてのことだったのかもな・・・)
そんなことを考えながら、俺は桜公園に来ていた。
何となくだが、『美春』はここに来ているような気がした。
そして、俺の予想は当たっていた。
桜公園の名物『枯れずの桜』。その木の下に『美春』はいた。
「美春」
俺はそっと声を掛ける。
その声にピクッと『美春』が反応する。
「あ・・・と、冬貴君」
その姿はまさに本物の美春そっくりでとてもロボットには見えなかった。
「心配させるなよ・・・暦先生も心配してたぞ」
俺はゆっくり美春に近づく。
「あ・・・じゃあ冬貴君・・・」
「事情は全部暦先生から聞いたよ。ちょっとビックリしたけどな」
「・・・ゴメンなさい」
美春は俺に頭を下げる。
「何で、美春が謝るんだよ」
「だって、結果的には冬貴君を騙してたってことになるし・・・」
「そんなこと気にするなよ。それにある意味では俺はお前にも会えて嬉しいんだぞ」
「どういうこと?」
俺は本物の美春が話していたことを『美春』に教えた。
「そうですか・・・美春さんがそんなことを・・・」
「俺のことはともかく、『美春』が動き出したってことは本物の美春の願いは叶ったってことだからな」
俺はそう言って『美春』の顔を両手で左右から挟む。
「なっ?だからもうそんな泣きそうな顔をするな」
「冬貴君・・・うん!」
俺の言葉に『美春』はようやく笑顔を見せてくれた。
「さ〜て、じゃあ暦先生のところに帰るか?心配してるぞ」
「そうだね〜謝らないと・・・」
俺の横に『美春』が並ぶ。
―――これが俺と『美春』との事実上の出会いだった―――
〜第21話に続く〜
こんばんわ〜フォーゲルです。第20話になります〜
20話目にしてやっとタイトルの意味にまで辿りつきました。
『桜がもたらす再会(美春)と出会い(ミハル)』って意味なんですよね〜
まあ、『桜関係あったか?』って言われればそれまでなんですけど・・・
今回の話書くのに小説(パラダイム版)と『桜達のパルティータ』読み返したのは言うまでもない(笑)
ゲーム本編よりは、美春(本物)の存在が重要になるかな〜と。
冬貴は本物の美春にもう惚れてる訳だし・・・
今回の描写では回想シーンに力入れました。
これが私の考えた「美春がミハル開発に協力した理由」です。
それと同時に私が考える『美春が音夢に懐きまくる理由』でもあります。
それでは、失礼します〜
管理人の感想
はい。フォーゲルさん、今回もありがとうございました〜^^
やはり夏祭り時の美春はロボットの方でしたか。しかも本物の美春は交通事故に遭ってるし・・・。
ここは本編に準じつつ、上手いことアレンジが効いていたと思います^^
さて、問題はここからですね。本編ではこのまま「ミハル」エンドで終わったわけですが、今回は既に冬貴が「美春」に惚れてますからね。
一波乱二波乱くらいありそうな予感?(汗)
美春が本当は双子で、しかし一方は死産だったというのも良い設定だと思いました。
確かにこれで納得できますからね。
さて、冬貴とロボミハルの活躍を期待しつつ、今日はこの辺で。