『桜がもたらす再会と出会い〜第19話〜』


                         投稿者 フォーゲル



 「・・・」
 「・・・」
 俺達は無言のまま、家に帰る道を急いでいる。
 美春の顔は真っ赤なままで、そこにどんな思いが浮かんでいるのか、窺い知ることは出来なかった。
 (怒ってるよな・・・)
 俺は心の中で思わず、頭を抱えたかった。
 ようやく、俺の中で決心が付いて美春に告白しようと決めたのに・・・
 だが、男の悲しい性なのか俺はさっきの出来事をリアルに思い出していた。


 
  俺達はお互いに固まったまま動けなかった。
 美春は事態が飲み込めないようで、大きな瞳をパチパチと瞬きさせていたが、
 状況を理解したのか、その顔が首筋まで真っ赤に染まっていく。
 その様子をどこか呆けたような感じで見ていた俺も、ことの重大性に気付き、
 慌てて唇を離し、美春の上から退こうとする。
 しかし、その時―――
 「おい、さくら・・・さすがにもう誰もいないんじゃないか?」
 「分かんないよ、お兄ちゃん。もうすぐ夏休みだし、開放的な気分になってるかもしれないしね」
 さくら先生と純一先輩!?
チラリと上の方を見ると、2人が土手の上の道を歩いているのが見えた。
 会話の内容から考えると、さくら先生の見回りに純一先輩が付き合っているという感じか?
 (・・・って冷静に状況分析している場合じゃない!)
 はっきり言って、今の状態はマズイ・・・
 この状況を見た人間は99%『俺が美春に手を出した』と思うだろう。
 もちろん、事故だしやましいことは何もしてないが、変な誤解をされる可能性は高い。
 かと言って今から慌てて動いたのでは、さくら先生達に見つかるかも知れない。
 (どうする?どうすればいい?)
 俺の思考回路はショート寸前だった。
 そうこうしている間にも、2人の声が近づいてくる。
 (あ〜もう!!しょうがない!!)
 俺は、覚悟を決めると美春の体を今度は抱き締めるように身を伏せた。
 ピクンと美春の体が反応する。
 その耳元に俺は小さく囁く。
 「ゴメン、美春。さくら先生達が来る。今から動くとマズイ」
 その言葉で理解したのか、美春は小さく頷く。
 「キレイな花火だったよね〜仕事じゃなかったら、お兄ちゃんと一緒に見たかったな」
 「そうか?人が多くてかったるいだけだったぞ」
 「お兄ちゃん、日本人の心を忘れちゃダメだよ」
 さくら先生達のそんな会話を聞きながら、俺は何とか2人が俺達に気付かないことを祈っていた。
 上からは、見つかるんじゃないかという恐怖感、下からは抱き締めているような感じになっている
 美春の体温を感じて、俺は二重の意味でドキドキしていた・・・
 
 結局、さくら先生達は、俺達に気付くことなく通過していった。
 気配が遠ざかるのを感じながら、俺はゆっくり美春の体から離れる。
 そして、美春の手を取って慎重に立たせる。
 「だ、大丈夫か?ケガとかしてないか?」
 「うん・・・大丈夫。と、冬貴君は?」
 「ああ・・・俺もだ」
 お互いにしどろもどろになりながら、俺は美春を見つめる。
 真っ赤に染まったうなじ、転がり落ちた時に乱れた浴衣の胸元、同じように乱れた裾から見える生足・・・
 花火大会が残した余韻と相まって、その姿はいつもの可愛らしい美春のイメージでは無かった。
 何というか・・・大人っぽくて色気があった。
 俺のそんな視線に気付いたのか、美春は恥ずかしそうに俺に背を向ける。
 俺達の間に、変な空気が流れる。
 「あ〜その・・・何だ・・・ゴメン」
 適当な言葉が出てこず、俺の口から出た言葉はそんな言葉だった。
 「う、ううん大丈夫・・・気にしてないから」
 背を向けたままの美春が俺の言葉に答える。
 そんな美春の声は、明らかに上ずっていて、動揺しているのがモロバレだった―――



 そして、その後こうやって2人並んで歩いて帰っているという訳なのだが・・・
 美春はそこからずっと、一言も口を開かず黙っていた。
 (やっぱり、怒ってるのか?)
 口では「気にしてないから」とは言っても、あんなことをされれば怒って当たり前だと思う。
 しかし、そんなことを聞いても、美春は「そんなことないよ」と否定するだろう。
 そういう奴だし・・・
 そんなことを考えながら、俺達は美春の家の前まで辿り付いた。
 「じ、じゃあ冬貴君、明日頑張ってね・・・応援には行くから・・・夏祭りにも」
 「あ、ああ・・・待ってる」
 美春はそう言って俺に背を向ける。
 その瞬間―――
 俺の心の中に何ともいえない嫌な感じが走った。
 そして、何故か俺は家の中に入りかけてた美春の手を強く握り締めていた。
 どうしてそんな行動をしたのか、俺にも分からない。
 ただ、そうでもしないと美春が俺の隣から居なくなってしまうような気がした。
 「・・・冬貴君、どうしたの?」
 俺の行動を疑問に思った美春が不思議そうな目で俺を見る。
 「え?い、いや・・・何でもない」
 俺は美春の手を離す。
 ただ、今の行動のおかげで一瞬だけど、雰囲気が元に戻ったようにも感じられた。
 「じゃあね。冬貴君」
 そう言い残して、美春は今度こそ家の中へ入っていった。
 「俺も帰るか・・・」
 そう呟いて、俺も家路に着く。
 夏特有のカラッとした夜風が俺の唇を撫でていった。
 その時に感じた感触が、美春とキスをしたという事実を思い起こさせた―――


 
  
  冷たい水が美春の全身を流れていきます。
 家に帰った美春は、すぐにシャワーを浴びることにしました。
 暑くて汗をかいたという理由もありますが、それ以外にも大きな理由があります。
 (このままじゃ寝れないよ〜体が熱くて・・・)
 美春の体は冷たい水を浴びているのに、全然涼しくなったような気がしません。
 それどころか、時間が立てば経つほど逆に熱くなっていってる気がします。
 その理由も美春は分かっていました。
 (やっぱり、原因は・・・『アレ』だよね・・・)
 ついさっき起こった出来事を思い出して、顔が赤くなります。
 「冬貴君・・・」
 名前を呟いただけで、胸がドキドキします。
 それと同時に、冬貴君のいろんな表情を思い出します。
 笑った顔、怒った顔、楽しそうな顔・・・そして、美春にキスをした時の顔・・・
 思わず、美春は指を自分の唇に当てます。
 そこには、まだキスをした時の感触が残っているような気がしました。
 (冬貴君はどう思ってるのかな・・・さっきのこと)
 美春が見た印象では、戸惑っているような感じでした。
 (美春は・・・嬉しかったんだけどな。相手が冬貴君で)
 それはウソじゃない美春の本心です。
 だけど、美春はそれを伝えることが出来ませんでした。
 事故とはいえ、冬貴君にキスされたことで美春の想いは止められなくなっています。
 もし、あの状況で冬貴君に見つめられたら―――
 「冬貴君・・・好き。大好き」
 シャワーの水音に混じって、冬貴君へのシンプルで純粋な想いが唇から洩れます。
 きっと、その自分の想いを冬貴君にぶつけていました。
 でも・・・それを伝えてもし冬貴君が美春の気持ちを受け止めてくれなかったら?
 きっと今までみたいな仲のいい幼馴染には戻れなくなる―――
 (そんなのイヤだよ・・・)
 美春の心にそんな想いが生まれます。
 (だけど・・・)
 不意に美春の心がある情景を思い出しました。
 この間、他の女の子と仲良く話している冬貴君の姿です。
 (他の女の子が冬貴君の・・・大切な人になるのも、やっぱりイヤだよ・・・)
 自分でも、どうしていいのか分からない複雑な想いが美春の心を占めていました―――




  
  「早く行かないと・・・完全に遅刻だ」
 俺は急いで神社の方へ向かう。
 そこかしこから、夏祭り特有のお囃子が聞こえて来る。
 昨日、美春と約束した夏祭り一緒に行こうという話。
 その待ち合わせ場所に俺は向かっていた。
 (どうやら、昨日のことは美春はあんまり気にしてないみたいだしな・・・)
 俺は内心ホッとしていた。
 今日、約束通り野球部の試合の応援に来てくれた美春は、普段と変わらない様子だった。
 (それだと、昨日別れた後、一人で悶々としていた自分がバカみたいだけどな)
 俺は苦笑しながら、足を早める。
 その時、ふと変な声が聞こえて来た。
 「ねぇねぇ君〜一人?俺達と一緒に遊ばない?」
 「え、わ、私・・・友達と一緒に来てるんで・・・」
 (!?)
 どうやら、ナンパしているグループがいるらしいが・・・
 女の子の方の声に聞き覚えがあった俺は急いでその声の方へ向かった。
 その場所まで近づいて、俺は頭を抱えた。
 ナンパされていたのは、美春だったから―――
 (あ、あいつなんでこんな場所にいるんだ?)
 ちなみにこの場所は待ち合わせしてた場所とは全く正反対の場所だ。
 (今は、そんなことどうでもいいか・・・)
 俺は美春を助けるために、その場に出た。
 「美春・・・何やってるんだ、お前は?」
 「あ、と、冬貴君・・・」
 美春は俺に走り寄ると、背後に隠れる。
 「全く・・・心配かけさせるなよ。お前は俺の彼女なんだから」
 「え?」
 美春が驚いたような表情で俺を見る。
 「何だよ・・・彼氏持ちか、つまんねー。行こうぜ」
 ナンパグループはそう吐き捨てると、俺達に背を向ける。
 俺の腕を掴んでる美春が小さく震えていた。


 
 「美春・・・ゴメンな」
 昨日に続いて、俺は美春に謝っていた。
 いくら状況を打開するためとはいえ、昨日のアレに続いて今日の彼女発言・・・
 さすがに、怒ってるだろうと思った。しかし―――
 「ううん、大丈夫だよ・・・さすがにちょっとビックリしたけどね」
 意外にも美春は怒っていなかった。
 「それより、色んなお店があるね〜見て回ろうよ」
 「あ、ああ・・・」
 昨日のリアクションから考えるに、多少は怒るかとも思ったのだが・・・
 それと同時に俺は目の前の美春から奇妙な違和感を感じていた。
 美春なんだけど、美春じゃないというか・・・
 俺がそんなことを考えてると、後ろから声を掛けて来る人物がいた。
 「柊君、天枷さん!こんばんわ〜」
 振り向くと、浴衣姿の白河先輩が立っていた。
 俺達も挨拶をする。
 「柊君、今日はおめでとう!カッコ良かったですよ」
 「あ、ありがとうございます」
 今日の試合でウチの野球部は、見事勝ち、全国大会へ出場を決めた。
 俺もピッチャーとして活躍した。
 「先輩方が応援してくれたおかげですよ」
 白河先輩だけじゃなく、純一先輩や音夢さん、水越先輩達、杉並先輩まで応援に来てくれた。
 (けど、俺にとっての一番の応援は・・・)
 俺は気付かれないようにチラリと美春を見る。
 「それで、今日は天枷さんからのご褒美でデートですか?」
 「ち、違いますよ〜元々誘われていたんですから〜」
 美春が反論の声をあげる。
 「う〜ん、そういうことにしておいてあげましょう」
 白河先輩のからかいに俺は話題を変えようと口を開く。
 「それより・・・白河先輩こそ、誰かとデートじゃないんですか?」
 「そうだったら、いいんですけどね。今日はお姉ちゃんと一緒に来てるんですよ」
 「暦先生とですか?」
 俺の言葉に美春がピクリと反応したような気がした。
 「そうです。急に一緒に行くって言い出して・・・着いたら急に居なくなっちゃったんですよ」
 可愛い妹を放っとくとは、何か重大なことでもあるのか?
 「2人とも、お姉ちゃん見かけたら探してたって言ってくださいね」
 白河先輩はそう言うと、楽しんで下さいと言って去っていった。





  その後、俺達は色んな屋台を見て回った。
 美春は本当に楽しそうにお祭りを楽しんでいる。
 だが、俺の美春に対する違和感は少しづつ、大きくなっていた。
 (何か・・・違う・・・)
 そして、次の瞬間俺は自分でも訳の分からないことを口走っていた。
 隣の美春を見る。
 「なあ・・・」
 「うん?何?」
 「お前・・・誰だ?」
 「!!」
 美春の表情に一瞬動揺が浮かぶ。
 「な、何言ってるの?美春はみ―――」
 その瞬間だった。不意に美春の体がバランスを崩す。
 「美春!?」
 俺は慌てて、美春の体を抱きとめる。
 そして、俺は異常な状態を目の当たりにした。
 美春の頭から黒い煙が吹き出している。
 そして―――
 「・・・やっぱり柊と一緒だったんだね」
 「暦先生」
 俺は、現れた暦先生と倒れた美春を交互に見比べた。
 「一体、何がどうなってるんですか―――」

 
 俺の言葉は余りにも、間の抜けた問いかけだった―――



                 


                     〜第20話へ続く〜


             こんばんわ〜フォーゲルです。第19話になります。

        今回の話は読んで頂ければ分かりますが、このシリーズ2度目の山場です。

     美春の口からついに言葉として冬貴への想いが語られたが、このタイミングで・・・

            今回は美春のシャワーシーンをリキ入れて書きました。

  読者の皆さんには、想像力で萌えてもらって、文章で切ない想いを感じてもらいたいです(爆)

    次回はこのシリーズ特別編で、美春の誕生日記念SSを書きたいと思っています。

             そちらも楽しみにして頂けると嬉しいです。それでは!!


管理人の感想

う〜ん、物語も佳境に入りつつあるようですねぇ。

衝撃のキスから目覚めて、二人ともどことなくギクシャクした雰囲気。

まあ勿論双方ともに嫌がっているわけではないようですが・・・内心のドキドキを隠そうとしているって感じですね。


途中の美春視点の描写も、確かに力が入っているように感じましたね。グッドでした^^


そして夏祭り当日。しかし出会ったのは美春ではなくて・・・?

さて、続きが楽しみなところで今日はこの辺で。



2007.3.10