『桜がもたらす再会と出会い〜第2話〜』 投稿者 フォーゲル
「冬貴君!本当に冬貴君なの!」
吊るされた俺を見上げながら美春が声を挙げる。
「ああ、久しぶりだね。ミハちゃん」
昔の習慣で子供の頃の呼び名で美春を呼ぶ俺。
「うん!久しぶり〜いつこっちに帰ってきたの?」
「ついさっき。で何か面白いことがないかなと思って、この学園を見に来たんだけど・・・」
言いながら俺は美春の姿を見つめる。
確かにそこには、7年前一緒に遊び回った女の子の面影が残っていた。
(それに・・・少し可愛くなったような・・・)
久しぶりに会ったせいか、そんな考えもちらりと脳裏をよぎった。
「どうしたの?美春の顔に何か付いてる?」
頬に手を当てながら美春が首を傾げる。
「いや、そういう訳じゃないけど」
俺は思わず視線を逸らした。
心なしか俺の顔は赤くなっているような気がした。
「あ〜それでミハちゃん・・・お願いがあるんだけど」
それを美春に悟られないようにするために俺は口を開いた。
「え?何」
「俺を早く・・・」
俺が要望を口にするより早く、美春の後ろから声がした。
「美春〜」
見ると女生徒と男子生徒がこちらに向かって歩いてくる。
「音夢先輩!朝倉先輩も一緒なんですか?」
「杉並君を捕まえるために、兄さんにも協力してもらったの」
「杉並先輩は捕まったんですか?」
「何とか追いつめるところまではいったんだけど・・・」
「逃げられちゃったんですか?」
「荷物は放棄して、目くらましを使ってね」
「そうですか・・・」
「でも、荷物は確保したから」
そう言って音夢さんと呼ばれた女生徒が情報が入っていると思われる荷物を掲げる。
「そっちもうまくいったみたいね」
吊るされた俺と下に落ちている情報入り荷物を見ながら満足気に頷く。
「だけど・・・見ない顔ですね。兄さん、あの人どこかで見たことあります?」
話を振られた男子生徒は眉を潜め、
「いや、俺も見たことないな」
「あの〜音夢先輩、朝倉先輩、実はですね・・・」
美春が俺のことを説明しようとすると、おもむろに朝倉さんと呼ばれた人が口を挟む。
「いや、美春、事情は後でいい。あいつ助けてやった方が良くないか?」
「え?」
美春が後ろを振り向く。
「ミハちゃん・・・お願い・・・助けて・・・」
俺はずっと逆さに吊るされていたせいで、頭に血が昇り半分気絶していた。
「あ〜!!大変です〜音夢先輩、朝倉先輩、手伝って下さい〜」
「まったく、かったりぃな」
半分薄れた意識の中で朝倉さんがそう言うのが聞こえた気がした。
「本当にゴメンなさいです〜」
美春が謝っていた。
「ほら、冬貴君も謝って!!」
「あ・・・スイマセンでした」
美春に促がされ、俺は思わず頭を下げていた。
ここは学園近くのオープンカフェ。
お互いの事情説明と自己紹介も兼ねて俺は美春達と一緒に来ていた。
「しょうがないですよ。今日初音島に戻ってきたばかりなら事情を知らないのも当然です」
音夢さんは柔らかい笑みを浮かべる。
「でも、もう杉並君には協力しないで下さいね」
「はい、分かりました」
余談だが、杉並先輩が(年上だということが分かったのでここからは先輩付けでいくことにした)
持って逃げてた極秘情報というのは今年の新入学生のデータ(主に女子)らしい。
「何でそんな物を?」
俺が疑問を口にすると、その疑問に答えたのは朝倉さん――― 音夢さんの兄貴で純一さんというらしい―――だった。
「何でも、『今の内に調べ上げてポスト白河嬢になるような逸材がいないか調べなければならん』とか言ってたな」
「兄さん・・・そういう話を何で私にしないんですか?」
「あ?だってかったるいし」
「そもそも兄さんが杉並君を止めてくれればこんなことには」
「あのな、音夢、俺が止めたくらいで止めるようなタマか?あいつが」
「そうかも知れないけど・・・」
そこで2人の会話を止めたのはこの俺だった。
「じゃあ、お2人の自己紹介は終わったので俺も自己紹介を・・・」
俺が自己紹介を始めようとした時にそれを音夢さんの声が止めた。
「えっと・・・柊君ですよね?」
「え?」
どうして音夢さんが俺の名前を?
島を出る前にどこかで会ってたとか?
確かにこの島は狭いしどこかで会ってても不思議じゃないけど。
「あなたに会うのは初めてですけど、話は聞いてましたから。美春から」
「美春から?」(ミハちゃんは恥ずかしいからやめてと美春に頼まれたので呼び捨てで呼んでいる)
「音夢先輩〜それは・・・」
美春が恥ずかしそうな声を上げて音夢さんを遮ろうとする。
「ええ、『転校していっちゃった友達に無鉄砲でどんなことにも挑戦する、スゴイ男の子が居た』って」
「そうなのか?」
俺は思わず美春に聞く。
「美春は知らないよ〜」
そっぽを向いて美春が言う。
だが、美春の表情を見る限り、本当のことなんだろう。
(けど、そんな話をしてたってことは少なくとも嫌われてた訳じゃないみたいだな)
となると俺を見送りに来なかった理由が分からないな。
俺は浮かんだ疑問をひとまず打ち消した。
その時、テラスのウェイトレスが注文した食べものを運んで来た。
「お待たせしました〜バナナパフェをご注文のお客様〜」
「あ、は〜い、美春です〜」
美春の前に大きなバナナパフェ入りの器が置かれた。
「うっ・・・」
俺はそれを見て思わず口を押さえる。
「あれ?冬貴君バナナ嫌いだった?」
美春がバナナパフェを心底嬉しそうな表情で食べながら聞く。
「というか、美春のせいで苦手にさせられたという方が正しいぞ」
「何で?小さい頃は美春と一緒にバナナを食べてたよね?」
「あのな・・・それが1年365日毎日食わせられてたら、普通苦手になるだろうよ」
「美春は平気だよ?」
「それはお前だけだ」
俺はゲンナリとうめく。
「それに、『新作バナナ料理〜』とか言って毎日考案したバナナ料理の試食をさせられてたんだぞ」
1日3本以上は食わせられたような気がする。
俺達がそんな話をしていると、コーヒーを飲んでいた純一さんが口を挟む。
「でも、冬貴・・・だっけ?そのバナナ料理は食えたんだろ?」
「そうですけど、でも純一さん、毎日はキツかったですよ」
「純一でいいよ。俺が言いたいのは食えるだけマシだと思うってことだ」
「どういう意味ですか?」
俺が聞き返すと純一先輩は声を潜めて言った。
「音夢の奴もな、何かというと料理したがるんだがこれがまたマズイのなんの・・・」
俺はチラッと美春と話している音夢さんを見る。
「見た目そんな風には見えませんけど」
「お前も食べてみれば分かるが一瞬違う世界に行けるな、だから食べられるだけマシだって―――」
純一先輩はそこで言葉を切った。
俺は一瞬不思議に思ったが理由はすぐに分かった。
「に〜い〜さ〜ん〜!一体何を柊君に吹き込んでるんですか!!」
怒りのオーラを立ち上らせつつ、音夢さんが純一先輩を追いかけ回す。
「き、聞こえてたのか!」
「聞き逃す訳ないじゃない!」
「悪い、冬貴!また後でな、コーヒー代は置いてく!」
「待ちなさい!兄さん!美春、じゃあね!」
音夢さんと純一先輩はそんなことを言いながらカフェを出て行った。
「何か・・・スゴイ人達だな。あの人達」
俺は思わず美春に問い掛ける。
「うん、でも美春はちょっと羨ましかったな」
「何で」
「冬貴君が転校しちゃってから、あんな風に追いかけっこするような人は居なくなっちゃったから」
「・・・」
そういえば、子供の頃はいつも俺が走ってて美春がそれを追っかけてるっていう関係だった気がする。
「あ、そう言えば冬貴君を連れて行きたい場所があったんだ」
パフェを食べ終わった美春が声を上げる。
「どこだ?」
「いいところだよ〜今から行こう?」
美春はそう言って席を立った。
どこに連れていかれるのか・・・そんなことを思いながら俺は美春の後についていった。
むせかえるような桜の匂いに俺はたじろいでしまう。
美春に連れて来られたのは、この初音島の桜の中でも一際大きな存在感を持っている
通称『枯れずの桜』の下だった。
普通子供の頃に大きな物として印象に残っているものは自分が成長して大人に近づいていくと、見た目にも、
価値観としても変わってしまい、『何だ、こんなものか』と拍子抜けしたりもするが、この桜は今も昔も
全く変わらない存在感を誇っていた。
「冬貴君、こっちこっち」
美春は俺を呼びながら、自分はその『枯れずの桜』の下に腰を下ろした。
俺も美春の隣に座る。
「・・・」
「・・・」
だが、美春は座った後、何故か考えこむかのように黙ってしまった。
しばらく、沈黙が続いた。
(何で黙ってるんだ?・・・しょうがないこっちから話を振るか)
沈黙に耐えかねた俺は口を開こうとした。
しかし、同じことを美春も考えていたらしく、2人の口からはまったく同じ言葉が漏れた。
『ゴメン!!』
全く同じ言葉が出たことに驚き、俺達はお互いの顔を見合わせた。
「な、何で冬貴君が謝るの?」
「み、美春こそ」
「み、美春はあの時のことを謝ろうと思って・・・」
「あの時?」
「冬貴君がこの島から出て行った時のこと」
「俺が引っ越していった時に美春が見送りに来なかった時の話?」
美春は少し考えながらも、小さく頷いた。
「やっぱり、俺のせいか?」
「え?」
「俺が何か美春を怒らせるようなこと言っちゃってとか」
しかし、美春は大きく首を振る。
「違う!違うよ・・・そうじゃなくて、この桜の木の下で、冬貴君とお願いしたから」
「お願い?」
正直、どんなお願いをしたのか思い出せないのだが・・・
美春はその時のことをポツリポツリと話し始めた。
「ううっ・・グスッ・・・ヒック」
その日、桜の木の下で美春は泣いていました。
あの頃、どっちかといえば美春は泣き虫でした。
泣かないように頑張っても、どうしても涙が溢れてきてしまってました。
「あ〜、ミハちゃんこんなところにいたの」
「トウくん・・・」
「おなかすいたでしょ?バナナもってきたよ」
「うん・・ありがとう」
そして、2人でだまってトウくんが持ってきてくれたバナナを食べました。
「ねぇ、ミハちゃん。ミハちゃんは『笑顔の神様』ってお話知ってる?」
美春は大きく首を振りました。
「これはボクのおじいちゃんが話してくれたんだけどね。この世の中には笑顔の神様っていう神様がいて、
いつも笑顔でいる人のところに幸せを運んでくれるんだって」
「・・・」
「それでね、この神様は気前のいいところがあって1人の人に幸せを運んで来るとその回りの人達も幸せに
してくれるみたいなんだ」
「だからね、ボクは笑顔の神様にお願いしたんだ。ボクの分の幸せを笑顔に変えてミハちゃんにも分けて上げて下さいって』
「トウくん・・・」
「ねっ!だからミハちゃんも笑って」
「うん!」
今にして思えばそれは美春を元気付けるためのウソ話だったのかも知れないけど。
だけど何とかして美春を励ましてあげたいというトウくんの気持ちが嬉しかった・・・
「それに・・・ミハちゃんは笑ってた方が可愛いし」
「えっ?何か言った?」
「な、何も言ってないよ。そうだ!2人でお願いしようか?」
「お願い?」
「そう、ボクとミハちゃんがいつも笑顔でいられるようにって」
「うん!」
「じゃあ、おたがいの笑顔を祈るようにしよう?」
「ということは・・・美春がトウ君でトウ君が美春の?」
「そういうこと」
そして美春とトウ君は2人並んで桜の木の前に立ち、願いました。
「ミハちゃんが」
「トウ君が」
『いつまでも笑顔でいられますように!』
俺は美春の話を聞いてようやくそんな願いごとをこの桜に掛けたことを思い出した
「そっか、そういえばそんなことをした記憶がある」
「だから、冬貴君が転校しちゃうときにも会いに行けなかったんだよ」
美春が深いため息をつく。
「だって、会いに行っちゃったら絶対に泣いちゃって冬貴君が願ったことが無駄になっちゃうと思ったから」
「美春・・・」
「でも、その後思いっきりこの桜にすがって泣いちゃったから意味無いかも」
「・・・俺はその後も笑顔でいられたから、美春のお願いは効き目バツグンだったってことだな」
「冬貴君・・・ありがとう」
「さて、そろそろ帰るか!」
少ししんみりした空気を振り払うように俺は声を上げた。
「そうだね〜あっ!冬貴君。美春、あそこの屋台のチョコバナナが食べたいな」
「お前な〜さっきバナナパフェ食っただろ」
「あれはあれ、これはこれだよ」
「ったく・・しょうがねぇな」
俺は苦笑しながら、そしてこれから初音島で始まる新しい生活に心弾ませながら財布を開けた。
〜第3話に続く〜
管理人の感想
第2話のあとがきは第1話とセットということで、今回は省かせてもらいます。
さてさて、いよいよ動き始めた二人のストーリー。
過去の約束・・・うーん、こういう設定良いですねぇ。
泣き顔を見られるというのは些細なことかもしれませんが、それだけ美春が「約束」を大事にしていたということですね。
そして序盤から何やらいい雰囲気の二人。
冬貴のことを何度も聞かされていたという音夢と、それを遮る美春を見ていると、もしかして過去は・・・とか思っちゃいました。
全体的にはほのぼのとした雰囲気で、テンポ良く話が進められていたと思います。
これからも注目!ですね^^
雅輝