『桜がもたらす再会と出会い〜第1話〜』 投稿者 フォーゲル


 夢を見ていた。
 俺・・・柊 冬貴(とうき)の子供の頃の夢だ。
 俺はこの日、両親の都合で生まれ育った故郷に別れを告げることになっていた。
 昨日まで、学校ではクラスメートがお別れ会を開いてくれたり、その後もパーティをしたりして、
 故郷を離れるギリギリまで楽しんでいた。
 だが。俺の心は浮かないままだった。
 一番の友達だった子がいっこうに顔を出してくれなかったからだ。
 (俺、何か怒らせるようなことをしたかな?)
 そんなことも考えたが心当たりは無かった。
 そして、時間は過ぎてとうとう故郷を離れる時が来た。
 しかし、俺は中々車に乗ろうとしなかった。
 『あの子』に一言お別れが言いたかった。
 
 『冬貴・・・もうあきらめなさい。きっと何か事情があって来れなかったのよ』
  母さんが声を掛ける。
 しかし俺は首を横に振った。
 『イヤだ!あの子は絶対来るもん!』
 このころの子供特有のワガママで俺は首を横に振る。
 するとそんな俺の態度に業を煮やした父さんが強引に俺を車に乗せようとする。
 『冬貴!ワガママ言うのもいい加減にしなさい!」
 『イヤだ!』
 父さんの力強い腕が俺に近づいてくる。
 (イヤだ・・・せめて『さよなら』じゃなくて『また会おう』って言いたかったのに・・・)
  『冬貴!』
  父さんの強い力で俺は強引に引っ張られた・・・
  『冬貴!』
  (しかし父さん強く引っ張り過ぎだ・・・痛っ!)


  
  【ガスッ!!】
  『痛って〜!!!』
  思わず頭を押さえる。
  『よう〜目が覚めたか』
  俺は頭を押さえつつ、隣で車を運転している親父をジト目で睨んだ。
  『いきなり何すんだ!親父!』
  『何って・・・お前が悪い夢を見ているみたいだったから起こしてやったんだが』
  親父殿はそう言って片手で持った辞典を掲げて見せる。
  その悪い夢の当事者の1人はあっけらかんとそう言ってくれる。
  『もうちょっと方法ってものがあると思うが』
  『何言ってる!お前を起こす方法はこれが一番効果的だからな』
  言って豪快に笑う親父。
  (まったくこんな豪快な性格で日本の桜研究の第一人者なんだから人は見かけによらないというかなんというか・・・)
  『と・・・言っている内に見えて来たぞ』
  車はゆっくりと右にカーブを取り、目の前に一年中桜が咲き乱れる島、そして俺の生まれ故郷である『初音島』が見えて来た。
  
  
  
  初音島に着いた後、さっそく島の桜の様子を見てくると親父は張り切って出ていった。
  俺も時間があるのに何もしないのはもったいないと思って、転入する予定の風見学園の様子を見に行くことにした。
  『ふ〜ん、7年ぶりに帰ってきてもやっぱり変わってないな〜』
  久しぶりに見る初音島の桜はあの頃と変わらず俺を迎えてくれた。
  『しかし・・・やっぱり私服姿だと浮きまくってるな・・・』
  流石に春休み中とはいえ校内に学生がいると私服姿は目立ってしょうがない。
  現にさっきからちらちらと生徒達の視線を感じる。
  『あんまりウロウロして不審者と誤解されるのもなんだし、今日はもう帰るか・・・』
  俺がそんなことを考えながら歩いていると・・・


  【ドカッ!!】
  急に前方から来た何かにぶつかり俺は床に転がった。
  少し派手に転んだのでおそらくぶつかった走って来た人間だと思った。
  『ああ、すまない大丈夫か?』
  『え、ああ大丈夫だけど・・・』
  その人物は見れば風見学園の男子学生のようだった。
  学園の中なんだから、学生がいるのは当たり前といえば当たり前なんだが・・・
  その男子学生は何者かに追われているらしく荷物を後生大事に抱えながら息を切らしていた。
  ふと、こちらの私服姿が気になったのか男子学生は声を掛ける。
  「ふむ・・・君はこの学園の生徒なのか?』
  「というかこの新学期から生徒になる予定なんですけどね」
  「転入生というなら話は早い。ちょっと協力してもらえないだろうか?』
  そう言うとその男子学生は抱えていた荷物の半分をこちらに渡す。
  「?あの・・・これは?」
  俺が当然のごとく浮かんだ疑問を口にすると、その男子学生は至極真面目な口調で言った。
  「これは俺達が入手したこの学園に関する極秘情報だ」
  「極秘情報?」何か学校らしくない言葉に俺は思わず眉を潜める。
  「そう!これにはこの学園の生徒全体の運命が掛かっているといっても過言ではない」
  「しかし、この情報を奪還しようと動いている連中がいる」
  「俺達はその魔の手からこの情報を守りきらなければならない!」
  男子学生は段々ヒートアップしながら熱く語っている。
  「そこで君の力を借りたい。君が情報を半分持って逃げてほしいのだ」
  「そうすれば、少なくとも全て情報を奪われる心配は無くなる。引き受けてもらえないだろうか?」
  俺はしばし考えた。
  (困ってるみたいだし・・・極秘情報も気になるし、引き受けてもいいか)
  「分かった」
  俺がそう答えると男子学生は満足気な表情を浮かべ、
  「ありがとう!my同志!」
  (もう同志になってる・・・)
  俺は苦笑を浮かべながら男子学生と荷物を半分に分けた。
  

  そして、荷物を分け終わる頃になって男子学生の表情が引き締まった。
  「むう・・・もう追いついて来たか、なかなかやるな朝倉妹」
  男子学生はそう言うと俺に向き直って言った。
  「早く逃げないと追いつかれるぞ。お互いに無事だったらまた会おう」
  そう言って男子学生は走り出した。
  その背中に向かって俺は声を掛ける。
  「あの!名前は?」
  男子学生は答える。
  「風見学園で杉並といえば知らぬものはいない!ではさらばだ!」
  そう答えると男子学生―――杉並さんとやらは立ち去っていった。
  そのヒーローばりな退場の仕方に俺がしばし呆然としていると。


  「って俺もこんなことしてる場合じゃないな」
  確かに廊下の端の方に走ってくる女生徒らしき姿が見えた。
  「俺も逃げた方がいいな」
  俺もとりあえず手近にあった階段を下に向かって行った。

  
  「あ〜ん、音夢先輩〜杉並先輩に逃げられちゃいましたよ〜」
  情けない声を美春が挙げる。
  「落ち着いて美春・・・ちらっと見えたんだけど杉並君と誰かもう1人いたわ」
  「仲間がいるってことですか?」
  「多分非合法新聞部の仲間だと思うけど・・・美春はもう1人の人を追ってくれない?私は杉並君を追うから」
  「分かりました〜任せてください」
  2人は分かれてターゲットを追い始めた。


  あれから俺は必死に逃げた。
  いろんな罠をかいくぐり、ようやく中庭まで逃げて来た。
  (こんなに必死になるということはそんなに重要な情報なのか?)
  杉並さんから預かった荷物をじっと見つめる。
  (それに・・・さっきからずっと見られているような気が)
  多分、杉並さんを追っていた連中なんだろうが・・・
  おそらく、先回りされているんだろうと思う。
  よく考えてみれば、地の利は向こうにあるんだから。
  (だけど、この中庭を抜ければ杉並さんとの合流地点だ)
  その油断が俺の命取りだった。
  【ブツッ】
  イヤ〜な音がしたかと思うと俺の体はあっという間に逆さ吊りに吊るされた。
  「うわあああああ!」
   どうやら木に結んであったロープに俺の足が引っかかり、罠が発動したみたいだ。
  「あれ〜この罠に引っかかるってことは・・・」
  「あなたは杉並先輩の仲間じゃないんですか?」
  近くの木の陰から1人の女生徒が出てきた。
  おそらく俺はもう抵抗出来ないと思って出てきたんだろうが。
  だが、俺はその女生徒の声に反応が出来なかった。


  「ひょっとして、その声・・・ミハちゃん?」
  「!・・・そのあだ名で美春を呼ぶのは、もしかして冬貴君?」
  
  これが、俺が初音島を出たあの日最後の最後まで会いたかった友達
  そしてお別れに来てくれなかった
  天枷美春との再会だった。

              〜第2話に続く〜

  
 
 


あとがき

読んで頂ければ、分かると思いますがメインヒロインは美春です〜

ちなみにすでに読んで貰った人の感想では「美春(本物)がメインで長編は珍しい」って言われました。

主人公と美春の関係上美春のウリの一つである「先輩♪」って呼び方がほとんど使えないのがイタイw

その代わりですます調じゃないフランクな美春がウリです。

作者が幼馴染み萌えってのもあるんですけどね。

D・CUじゃ小恋萌えだし・・・

それと、感想送って頂けると嬉しいです〜それでは!!


フォーゲル 


管理人の感想

フェニックスさんのサイト、「不死鳥の聖域」が残念ながら閉鎖することとなってしまいましたので、そこで投稿・連載をされていたフォーゲルさんが今度は私のサイトで連載を続けてくれることになりました。

実は私もこの作品は読んだことがなかったので、続きが楽しみだったり・・・。

個人的にこういう話は大好物です(?)。長編LOVEなもので(笑)

まだ序盤・・・D.C.のキャラも美春しか出ていませんが、先が楽しみな展開ですね。

幼い日に、別れの挨拶も告げられぬまま離れ離れになってしまった二人の男女。

そして時を経ての再会。新しい物語が綴られていく第一歩でしたね。

珍しい純粋な美春の長編もの。皆さん、応援しましょう^^


雅輝