『桜がもたらす再会と出会い〜第18話〜』
投稿者 フォーゲル
美春は一枚のドアの前に立っています。
そのドアには『生物準備室』と書かれたプレートが掛かっていました。
美春はそのドアをコンコンとノックします。
「開いてるよ〜」
中から聞こえてきた耳慣れた声を聞いて、美春はドアノブを回します。
「失礼します〜」
その部屋の中には、暦先生がいました。
「悪かったね、天枷。わざわざ呼び出したりして」
「大丈夫ですよ〜今日は風紀委員の仕事も無いですから」
美春は、暦先生に『今日の放課後、生物準備室に来るように』と言われていました。
「で、美春にお話って何ですか?」
「話・・・と言っても天枷のことじゃなくて、柊のことなんだけど」
「冬貴君のことですか?」
「柊の奴ここ2〜3週間妙におかしいところというか、心ここにあらずって感じの時がたまにあるみたいなんだ」
それは、美春も感じていました。
美春が話し掛けても、上の空というか・・・
「だから、天枷なら何か知ってるんじゃないかと思って聞いてみたんだけど・・・」
「いえ、ちょっと美春にも・・・」
(2〜3週間前って言うと、冬貴君が美春の家に泊まった日ぐらいからってことになるけど)
「講師の立場上、生徒の健康状態には気を配っておかないといけないからね」
「大変なんですね〜」
「まあ、これも仕事だからね」
そう言って暦先生はタバコをフワリと吹かせます。
「お話ってそれだけなんですか?」
「ああ、いやもう一つあるんだ」
暦先生はそう言って、机の中から何かを取り出します。
「天枷に言われて一応調べてみたんだけど・・・普通の指輪だね。これは」
それは、美春が前に冬貴君から貰った指輪でした。
「そうですか・・・この指輪をしてる時には『あの娘』とより深く意思の疎通が出来たんで、ひょっとしたらと思ったんですけど・・・」
美春はしょんぼりした声を出します。
「まあ、『あの娘』に関しては9割方OKの段階までは来てるんだ。後は何かのきっかけがあれば・・・」
暦先生は美春を励ますように言います。
「そうですね・・・」
美春はその指輪を自然に指に嵌めます。
その様子を見ていた暦先生がニヤリと笑います。
「天枷〜その指輪・・・柊から貰ったものだね?」
「えっ・・・な、何で分るんですか?」
「そりゃ、そこに指輪を嵌めてればね〜」
美春はその指輪を左手の薬指にしていました。
「それに、天枷にそんな指輪を贈る相手となると一人しか居ないしね」
「冬貴君とは限らないじゃないですか〜」
「あれ?アンタ達付き合ってるんじゃないのかい?」
暦先生の言葉に美春の顔が赤くなります。
「ち、違いますよ〜これもただ貰っただけで・・・」
「でも、ただ貰っただけの指輪をそこにしてるってことは・・・好きなんだろ?」
「なっ・・・何で暦先生がそれを知ってるんですか?」
「何でって・・・普段の天枷を見てればねぇ」
その言葉を聞いて美春の心にある考えが浮かびます。
(ということは・・・冬貴君も、美春の気持ちに?)
美春の心臓がドキドキと音を立てます。
「まあ、気付いてないのは想われてる本人くらいだろうね〜」
「あ、そ、そうなんですか」
嬉しいような、悲しいようなそんな気持ちに美春はなります。
「さて、それじゃ私は会議に行くか・・・天枷」
「何ですか?」
「頑張りなよ」
「ハイ!!」
暦先生の激励に美春は大きな声で答えました。
(う〜ん、やっぱり気が抜けることが多いな)
俺はそんなことを考えながら、家に続く川沿いの道を歩いている。
今日の練習は、身が入らず監督に怒られることも多かった。
(明日は決勝戦なのにこんなんじゃダメだ・・・)
風見学園野球部は、弱小というレッテルを跳ね返し、県大会決勝戦までコマを進めていた。
そのため今日の練習は、軽い物で終わったのだ。
(いや、最も原因は分かってるんだよな)
俺は思わず、自分の頬を撫でる。
その時だった。
【ピトッ】
何かがくっついたかと思うと、撫でてる反対側の頬がヒンヤリと冷たくなる。
「うわっ!」
俺は思わず悲鳴を上げる。原因を探ろうと回りを見渡す。すると―――
「びっくりした?冬貴君?」
右手に清涼飲料水、左手にバナナジュースを持った美春が立っていた。
「何だ、美春か・・・」
「あ〜その言い方ヒドいよ〜練習終わって喉渇いてるだろうと思って買って来てあげたのに」
そう言いながら、美春は清涼飲料水の方を俺に手渡す。
「あ、悪いな」
俺は、それを受け取ると歩きながら飲み始める。
そんな俺の様子を見ながら、美春が俺の横に並ぶ。
「ねえ、冬貴君」
美春が俺に声を掛けてきたのは、しばらく歩いてからだった。
「何だ?」
「・・・悩み事でもあるの?」
「悩み事は無いけど・・・何で?」
「ここのところボーッとしている事が多いから、ちょっと気になっちゃって・・・」
美春は俺の目をじっと見つめる。俺のことを心配してくれている目だ。
(だけど、美春には言えないよな)
俺がここのところボーっとしている事が多い原因、それは―――
(美春にキスされたことだとは)
この間、美春の家に泊まりに行って、停電の後寝れそうに無いと思った俺は、一人リビングに移動したのだが、
美春の顔が目に焼きついて全然寝れなかった。
そんな風に悶々と寝れない夜を過ごしていた時、美春がリビングに入って来て、
思わず、寝たふりをした俺の頬に美春はキスをしていったのだ。
それ以来、その時のことを思い出してボーッとしてしまうことが多くなってた。
停電明けのあの表情、そしてキス・・・
美春は俺のこと―――
「・・・君、冬貴君!」
またまた、ボーッとしていた俺を美春の声が現実に引き戻す。
「うん?どうした?」
「も〜、またボーッとしてたよ。本当に大丈夫?」
「ああ、大丈夫だよ」
「そう?ならいいんだけど・・・何かあったら相談してよね?」
「分かった」
理由を説明するのは恥ずかしいし、余計な心配を掛けさせることも無いと思った俺はそう言った。
しばらく歩いた後、俺達2人の目に変わった光景が飛び込んで来た。
河原に大きな筒が用意してあり、人がテキパキと動いている。
「あれはね〜花火大会の準備じゃないかな?」
「花火大会?」
美春の話だと、初音島では毎年夏休みが近くなるこの時期に花火大会と夏祭りをセットでやってるらしい。
俺は、最初は卒パやクリパなどいろいろなイベントをやってる風見学園がお祭り好きだと思っていたが、
実は、風見学園だけじゃなくて、初音島の住民自体がお祭り好きなのかも知れないと思った。
「花火が凄くキレイでね〜美春も毎年楽しみにしてるんだ」
美春はそう言いながら嬉しそうなまなざしを俺に向ける。
「そっか・・・俺も楽しみだな」
そう言いながら、俺はある決意を固めていた。
「おい、美春」
「何、どうしたの?」
「花火大会・・・一緒に見に行かないか?」
「えっ・・・」
美春がビックリしたような声を上げる。
「いや、そのもう誰かと一緒に行くとか決まってるのなら別にいいんだけど」
「そ、そんな人いないけど・・・」
美春は俺から視線を逸らしながら答える。
「じゃあ、決まりってことでいいか?」
「う、うん!!」
俺達は待ち合わせ場所を決めて、一旦別れた。
(やっぱり人が多いな〜)
俺は待ち合わせに決めた場所―――桜公園の入り口の所で美春を待っていた。
浴衣姿の女の子達が俺の前を通って行く。
(う〜ん、やっぱり夏の代名詞の一つだよな)
俺が目の保養をしながら、それを見ていると・・・
「冬貴君」
周りの女の子達と同じように浴衣を着た美春が現れた。
「・・・」
浴衣を着た美春はいつもよりも、落ち着いて見える。
そのいつもとは少し違う雰囲気に、俺は思わず見とれてしまった。
浴衣の柄がバナナ柄だというのが、そこはかとなく美春らしかったが。
「めったに浴衣なんて着ないから・・・おかしくない?」
「あ、ああ・・・大丈夫だよ」
「良かった〜似合ってなかったら、どうしようかなと思ってたんだよ」
「大丈夫だって・・・俺が保障してやるから」
「ありがとう。冬貴君」
「さ〜て、それじゃ花火を見るベストポイントでも探して回るか?」
「でも、大分混んで来たけど大丈夫かな」
そんなことを言いながら、俺達は歩き始めた。
しかし、さすがに人気の花火大会。
俺達は完全に出遅れたらしく、もうどこにも座って見られるようなポイントは無かった。
立ち見だと、俺はともかく美春がロクに見れないだろう。
その上・・・
「冬貴君〜どこ〜」
「ここだ、ここ」
俺の声が聞こえたのか美春が俺の隣に来る。
この人ごみのせいで、ちょっと目を離すとすぐに美春とはぐれてしまいそうになる。
「しっかし・・・参ったな」
俺は頭を抱える。
(こんなに混むとは正直予想外だった・・・)
もう、見られるようなところはほとんど人がいるだろう。
我慢して、人ごみに紛れて見るという選択肢もあるが・・・
俺はちらりと美春を見る。
(せっかく2人で見に来たんだし、何とかゆっくり見られるポイントどこか無いかな)
その時、俺の脳裏に『ある場所』が浮かんだ。
(あそこなら、ひょっとして・・・)
だけど・・・美春が何ていうか・・・
俺は美春に近寄ると、そっと耳打ちした。
「なぁ・・・美春」
「な、何?」
美春が少し身を引きながら聞く。
「花火を見れるポイントに心当たりがあるんだけど・・・そこに行くか?」
「本当?じゃあそこに行こうよ!」
「・・・怒るなよ」
「?」
俺は疑問を浮かべている美春の手を掴んだ。
「ち、ちょっと?冬貴君?」
「何か、手を繋いでないと、またはぐれそうだからな・・・」
「う、うん・・・ありがとう」
人ごみの中、美春が俺の手を強く握るのを感じながら、俺は歩き始めた。
「よし、読み通りだ!」
俺は思わずガッツポーズをする。
ここは、学園の屋上。ここなら、誰にもジャマされず花火を楽しめそうだった。
「ダメだよ〜冬貴君。夜は立ち入り禁止なんだよ〜ここは」
そう言う美春の口調も咎めるものでは無く、むしろこの状況を楽しんでいるように聞こえた。
夜の学園に忍び込んで、屋上から花火を見る―――
それが、俺の考えたプランだった。
不安は風紀委員の美春にいろいろと文句を言われるんじゃないかということだったのだが・・・
どうやら、そんなことを言うほど、美春もヤボではなかったらしい。
「あ、冬貴君!見て見て!始まるみたいだよ」
【ヒュルヒュルヒュル〜〜〜ドン!!】
花火が豪快に上がり、夜空に大輪の花を咲かせる。
「うわぁ・・・キレイだね」
美春は花火を見つめていた。
俺は、その横顔を見て、ここに連れて来て良かったなと思っていた。
そして、その横顔をじっと見つめていた。
「あ、そういえば・・・」
花火を見ていた美春が俺に話し掛ける。
「冬貴君、明日試合なんだよね?」
「ああ、そうだけど?」
「頑張ってね〜美春、応援に行くからね」
「ありがとう・・・っていうか応援に来て欲しい」
「どうして?」
「・・・負けないから」
「?」
俺は昔から美春が俺の試合を見に来ると負けたことがないという事実を話した。
「だから、俺にとって美春は勝利の女神みたいなものなんだよ」
「そっか〜美春は冬貴君にとっての女神様か〜」
美春の機嫌がすこぶる良くなったのを俺は感じていた。
そして、それと同時にとびきりの笑顔を俺に向ける。
(この笑顔をずっと見ていたい。幼馴染としてじゃなく―――)
俺の心をそんな想いが駆け巡る。
「美春」
意を決した俺は美春に向き直る。
「どうしたの?」
「明日、その試合でもし俺が活躍したら、夏祭りの会場で聞いて欲しいことがあるんだ」
美春の目には今の俺はどんな感じに写っているんだろうか―――
―――明日、告白しよう―――
俺はそう決意を固めていた。
「う、うん・・・いいよ」
美春の顔が赤く見えるのは、花火の光のせいか、それとも―――
俺はそんなことを考えながら、美春の顔を眺めていた。
花火大会が終わった後、誰にも見つからず学園から脱出した俺達は、
ついさっきまで、混雑していた河原の土手の上の道を歩いていた。
「♪〜♪〜♪」
美春が俺の前を楽しそうに歩いている。
「おい、美春・・・さっきからずいぶん楽しそうに歩いてるな」
俺の言葉に、美春がクルリとこっちを見ながら言う。
「それはそうだよ〜今年の夏は楽しい夏になりそうだし」
「今までよりもか?」
「うん、音夢先輩や朝倉先輩だけじゃなくて、冬貴君も今年は一緒だから」
俺も、美春が一緒なら楽しい夏になるような気がしていた。
「冬貴君・・・思い出一杯作ろうね!!」
「ああ、そうだな!!」
俺達がそんなことを約束したその時―――
【ズルッ!】
いつの間にか、河原の土手の端の方を歩いていた美春の足が滑った。
「美春!!」
俺はとっさに、手を伸ばし美春の腕を掴む。
だが、重力には逆らえず俺と美春は河原の方へ転がり落ちた。
(???)
最初に感じたのは妙に柔らかくて、生暖かい感触―――
俺がゆっくり目を開けると、美春の顔が驚くほど間近にあった。
だけど、不思議なことに美春は何の声も上げない。
いや、声を上げられないと言った方がいいのかも知れない。
何故なら・・・
―――美春の唇を、俺の唇が塞いでいたから―――
〜第19話に続く〜
こんばんわ〜フォーゲルです。第18話になります。
今回の話はいろいろと語るポイントは多いのですが・・・
ついに「あの人」が動き出すのかとか、今回は冬貴の方が積極的にアピールしてるとか、
暦先生にツッコまれて動揺する美春は可愛いとか・・・
そんなこんなを全て最後の一文が吹っ飛ばしたような気が(汗)
これで冬貴は美春ファンをある意味完全に敵に回したな(笑)
事故とはいえ、美春のファーストキスを・・・ってことだし。
次回以降どんな展開になるのか、楽しみにして頂けると嬉しいです。それでは!!
管理人の感想
だんだんと物語はクライマックスに近づいてきてますね。
まさか美春がキスした時、冬貴が起きていたとは・・・。でも、流石の冬貴でもその意味は分かった様子。
そしてそれを勇気に変えて、ようやく告白を決意。しかしその矢先、更にとんでもないハプニングが・・・。
さて、この事故とも呼べるようなキスが、二人にはどう作用したのか・・・今後の展開に期待が高まりますね^^