『桜がもたらす再会と出会い〜第17話〜』


                         投稿者 フォーゲル



 (やっぱり落ち着かないな・・・)
 俺はそう思いながら、頭を掻く。
 約束通り、俺は美春の家に泊まりに来ていた。
 子供の頃はよく来ていたので、懐かしい感じも最初はしていたが・・・
 しかし、少しづつそんな感慨深い感情は飛んでいった。
 言うまでもない。今、この家に俺と美春は2人きりで居るんだから。
 ちなみに、その美春は俺が家に来たことを確認すると、
 『じゃあ、早めに夕ご飯にしちゃおっか!』
 そんなことを言いながら、台所に入っていった。
 「何か、手伝うことあるか?」
 俺がそう言うと、美春は普段通りの顔で、
 「大丈夫!冬貴君は今日は来てくれただけで嬉しいんだから、ゆっくりしててね」
 と言っていた。
 そんな訳で俺は、大人しくリビングで夕飯が出来るのを待っている訳だが・・・
 (あ〜緊張する〜)
 以前の俺―――美春を『幼馴染』としか思ってない俺だったら、こんなに緊張はしてないんだろうが、
 今の俺には、『平常心でいろ』という方が無理な相談だった。
 だったら、泊まりに来るのを辞めればよかったという意見もあるかもしれない。
 だけど、俺にはそんなことは出来なかった。
 この台風の中、美春を一人で家に置いとくというのは可哀想過ぎるし、それに・・・
 (美春の奴、なんだかんだで寂しがり屋だからな)
 俺がそんなことを考えてると、台所の方から声がした。
「冬貴君〜夕ご飯出来たよ〜」
 美春がお盆に皿を載せて現れた。


 
  最初に感じたのは、香辛料のツンとした匂いだった。
 「何を作ったんだ?」
 「え?冬貴君の大好物だよ?・・・腕によりをかけて作ったんだからね」
 皿の上には、美味しそうなカレーライスが盛ってある。
 「なかなか本格的だな」
 俺はそんなことを言いながら席に付く。
 「それはそうだよ〜市販のルーじゃなくて、スパイスから作ったんだから」
 美春の料理の腕は以前、俺の家に夕飯を作りに来てくれた時に知ってるから、不安は無いし・・・
 「じゃ、遠慮なく頂きます」
 俺はスプーンでカレーをすくうと口に運んだ。
 「・・・」
 確かに味は問題無い。だけど・・・
 (か、辛い〜〜〜)
 何というか、確実にスパイスの分量間違ってるな・・・
 だけど、せっかく美春が作ってくれたものを吐き出す訳にもいかず、俺は何とか飲み込む。
 「?・・・どうしたの?冬貴君?」
 その俺の異変を知ってか知らずか、美春も自分の作ったカレーを食べる。
 数分後、美春も目を回したのは言うまでもない。
 2人して水をガブ飲みして何とか一息付く。
 「ゴ、ゴメンね、冬貴君、スパイスの分量間違えたみたい」
 「い、いや大丈夫・・・食べられないことは無いから」
 俺はそう言いながら、美春を見る。
 ふと、指にバンソーコーが巻かれているのに気が付いた。
 「美春、その指どうしたんだ」
 「ああ、これ?ちょっと野菜切ってる時に切っちゃって」
 「珍しいな・・・美春が料理でそういうミスをするなんて」
 こと料理に関してはプロ級の腕前を持っている美春らしくないミスだと思った。
 ぽつりと美春が小さな声で呟く。
 「・・・緊張してるからかな」
 「え?」
 (美春も緊張してる?それって―――)
 俺がどういう意味かと考えてると・・・
 「冬貴君、食べないの?」
 呟きが聞こえていたとは思ってない美春がスプーンが止まってる俺を見て訝しげな感じで問い掛ける。
 「あ、ああ食べる、食べる」
 俺は辛さ調整用のスパイスをガッパガッパと入れながら、とりあえず目の前のカレーを処分することに全力を注いだ。




  俺の緊張はピークに達していた。
 (美春・・・さすがにこれは無用心すぎると思うんだけど)
 俺は思わず周りを見渡す。
 ベッドにはバナナ型のクッション、壁には美春の予備の制服が掛かっていた。
 そう、俺は美春の部屋の中にいた。
 もちろん、勝手に入った訳では無く美春に『見せたいものがあるから、美春の部屋に行ってて』
 といわれたのでこうしているのだ。
 ちなみに美春はお風呂に入っている。
 とはいえ、好きな娘の部屋にこうしているだけで、何かいらんことまでいろいろと考えてしまいそうだ。
 俺が、そんな悶々とした気分とした気分でいると・・・
 【ガリガリッ、ガリガリッ!】
 不意に部屋の壁を引っかくような音がした。
 「?」
 俺がその音に反応して、部屋の扉を開けると・・・
 【ク〜ン】
 足元に昼間、美春が拾った子犬がいた。
 「何だ、お前か・・・」
 俺は屈み込み、その子犬を抱きかかえる。
 だが、その子犬は俺よりも美春の方が良かったらしく、急に暴れ始めた。
 「わっ!こら!暴れるなって!」
 俺の言うことを聞くわけも無く、俺の腕の中から飛び出し部屋の中を走り回る。
 しばらく掛かってようやく俺はその子犬を捕まえた。
 「はぁ・・・お前も暴れん坊だなぁ」
 幸い、崩れたのは本棚の本とかで、制服などに傷がつくことは無かった。
 「全くしょうがないな・・・」
 俺は崩れた本などを取って、本棚に戻そうとした。
 「?」
 ふと、その内の一冊に目が止まった。
 ページが開いた状態の一冊の本・・・
 そのページの一部分に俺の名前が書いてあったからだ。
 俺はそのページを思わず読んでいた。


  『3月×日

   今日は嬉しいことがありました。
   小さい頃に引っ越していっちゃった冬貴君が初音島に帰ってきました―――』

 
 (これは・・・美春の日記帳?)
 俺は思わず、本を閉じようとした。
 だが、心とは裏腹に手はページを捲っていく。
 

   『5月△日

    今日は、冬貴君の家に夕ご飯を作りに行きました。
    冬貴君は美春の作ったご飯を『美味しい』って言って食べてくれました。
    『あの言葉』を冬貴君は覚えているのかな?
    あの言葉があったから、美春はお料理頑張ったんだよ―――



  (あの言葉?)
  俺は考え込む。
 これを読む限り、美春の料理の腕前があのレベルにまで達してるのは俺が何か言ったかららしい。
 俺は何とか思い出そうとしたが、何も思い出せなかった。
 そんなことを考えてると・・・
 「冬貴君?何やってるの?」
 「!!」
 俺は自分の心臓が確実に一瞬止まったように感じた。
 そこには、お風呂上がりの美春が立っていた。
 シャンプーのいい香りが漂い俺の心をドキドキさせる。
 「あ〜・・・い、いや何でも無いんだ」
 俺はそう言いながら、こっそり美春の日記を元の場所に戻す。
 「ふ〜ん、で、この惨状は何なの?」
 思わず周りを見る。
 ・・・よく考えてみたら、全然片付けしてないな。
 「ち、違うぞ!俺がやったんじゃなくて、そこの子犬が」
 見るとその子犬はいつの間にか、その場所から移動して美春の足元に移動していた。
 「よしよし・・・ダメだよ。冬貴君、この子のせいにしちゃ」
 「だ〜か〜ら〜」
 俺の言い分は通らず、その後、片付けをまずやったのは言うまでもない。
 


 「よし終わった〜」
 何とか散らかした部分の掃除を終わり、俺は腰を下ろす。
 「はい、ご苦労様」
 美春が俺の隣に座る。
 「で、美春・・・『見せたいもの』ってなんだ?」
 「エヘへ〜これだよ。」
 美春がニコニコしながら、一冊の分厚い本を取り出す。
 「何だ、それ」
 「アルバムだよ」
 「アルバム?」
 「この間、いろいろ整理してたら出てきたんだよ。冬貴君が一緒に写ってる写真もあるから、一緒に見ようかと思って」
 「それで俺を家に呼んだと」
 「そういうこと!」
 俺達はアルバムを見ながら、思い出話に花を咲かせた。
 「あ、この時は冬貴君が運動会で一等賞取るんだって張り切ってたときだっけ?」
 「と思ったらスタートの時に思いっきりコケたんだよな」
 そんな俺の面白写真があったかと思えば、
 「お、これは・・・」
 ある写真を見て俺はニヤリとする。
 「・・・あっ!ダ、ダメ!それは見ないで〜」
 美春が俺から写真をひったくろうとする。
 「いいじゃん、3・4歳くらいなんだし」
 俺が見ていたのは美春のオールヌードの写真だった。
 「ダメなものは、ダメなの!!」
 美春は執念で俺から写真を奪った。
 「・・・冬貴君のエッチ」
 「そこまで言われる筋合いないと思うんだが」
 他にも、あんなこともあった、こんなこともあったと思い出話は尽きなかった。
 今更ながら、引っ越すまで俺の隣には美春がいたんだなぁと実感させられる時間だった。



 「じゃあ、次は・・・」
 俺が次の写真に手を伸ばした。
 「あ・・・」
 美春が思わず声を漏らす。
 その写真には、小さい頃の俺と美春、そして小さい子犬が一緒に写っていた。
 「この写真って・・・」
 俺がそう言った瞬間―――
 【バチン!】
 音がしたかと思うと、電気が消えた。
 「キャッ!!」
 美春が俺にしがみついたのが分かった。
 時間帯としては台風が初音島に一番近づいているはずだから、その影響だろう。
 外もかなり暗いので島全体が停電しているのかも知れない。
 「・・・」
 美春が無言のまま、小さく震えているのが分った。
 俺は思わず、美春の肩に手を回す。
 ピクンと美春の体が小さく反応する。
 そのまま、お互いにしばらく無言だった。
 「ねぇ・・・」
 不意に美春が口を開く。
 「前にもこんなことあったよね」
 俺も、以前似たようなことがあったのを思い出していた。
 「あの時も発端は美春が子犬を拾ったことだよな」
 ちょうどこんな台風の日に、美春が子犬を拾って来た。
 美春は自分の家で飼おうと思ったらしいのだが、おじさん達はダメだって言って・・・
 「その子犬を連れて家出しちゃったんだっけ」
 「・・・放っておくことなんて出来なかったんだもん」
 当然、大騒ぎになってみんなで探したんだけど見つからなくて―――
 どうしようかってなった時に、俺はまだ探してない場所があることに気が付いた。
 それは、俺と美春が2人の秘密にしていた秘密基地。
 大人達に見つからないように行ってみると、そこに美春がいた。
 「入ってきた俺に気付いて思いっきり泣いたんだよな」
 「だって一人で心細くて・・・ホッとしたんだよ」
 その後、雨風が強くなってとりあえずその日は秘密基地で一晩過ごした。
 その時はまだ、あの小屋も作りはしっかりしてたし。
 そう、ちょうどその時も俺は今みたいに暗闇の中で美春の肩を一晩中抱いていた。
 「冬貴君・・・その時、冬貴君が美春に何て言ったか覚えてる?」
 「え?いや、さすがにそこまでは・・・」
 「冬貴君はね・・・こう言ったの」
 暗闇の中で美春が俺の目を見ているような気がした。


  「『ミハちゃんも、その子犬も、僕が必ず守ってあげるから』って」


 「俺・・・そんなこと言ってたんだ」
 う〜ん、子供の頃とはいえ、そんなことを言ってたのか・・・
 「あの時は嬉しかったな―――」
 美春が思い出すかのように言う。
 「でも、実際には今みたいに肩を抱いてやるくらいしか出来なかったしな、ほとんど何もしてないぞ」
 俺の言葉に美春がブンブンと首を振ったのが分った。
 「そんなことない・・・」
 美春が言葉を紡ぐ。
 「美春は冬貴君が側にいてくれるだけで良かったんだから。それに・・・」
 「それに?」
 「ちゃんと冬貴君は約束を守ってくれたし」
 その時に美春が拾った子犬は本土にいる俺の親戚の家に引き取られることになった。
 さっきの写真はその引き取られる前に記念として撮ったものだ。
 「その時からかな、美春が冬貴君の隣にいたいと思うようになったの」
 「え?」
 思いがけない言葉に俺の心が動揺する。
 「だから、冬貴君が転校していった時にはすごく悲しかったんだよ。隣にいつもいた人が突然いなくなっちゃって」
 「美春・・・」
 美春が暗闇の中で俺の顔を真剣に見つめているのが分った。
 「その時に・・・気付いたの。美春は冬貴君のことが―――」
 その時だった。
 【チカッ・チカッ・ブウ・・ン】
 停電が復旧し、美春の顔が照らされる。
 美春の顔は熱っぽく、瞳が潤んでいた。
 そして、俺の顔をしばらく見つめたかと思うと、凄い勢いで俺の側を離れた。
 そのまま、自分のベッドに潜り込む。
 もちろん、俺も動揺していた。
 (え、ま、まさか・・・美春も俺を?)
 そう考えただけで、心臓がドキドキして、顔が赤くなる。
 きっと、さっきの美春にも負けてないだろう。
 「さ、さ〜て、俺はリビングにでも行って寝るか?」
 ここにいたら朝まで寝れないような気がした俺は美春の部屋を出た。




  (一体どれくらいの時間がたったんだろう)
 ようやく気持ちが落ち着いた美春はベットの中から出ました。
 自分がしようとしたことを思い出すと、また顔が赤くなります。
 (冬貴君は・・・リビングにいるのかな?)
 美春はリビングに行ってみることにしました。
 冬貴君はリビングでシーツにくるまって寝ていました。
 その寝顔は子供の頃と変わらない、純粋な顔です。
 (冬貴君・・・さっきはゴメンね。変な態度取っちゃって)
 美春はじっと冬貴君を見つめます。
 (あ、そうだ・・・)
 美春はあることを思いついて、冬貴君に近づきます。
 それは、今日あの時みたいに美春を守りに来てくれたことに対するお礼です。
 (今日は来てくれてありがとう・・・嬉しかったよ、冬貴君)
 そんな想いを込めながら美春は―――
 冬貴君の頬に優しくキスをしました。




                〜第18話に続く〜

         こんばんわ〜フォーゲルです。第17話になります。

         今回の話で、大分2人の関係が急接近したと思います。

       書き終えて見ると、冬貴より美春の方が積極的にアピールしてるな・・・

  ラストで美春らしい『可愛らしく、積極的なアピール』が表現できたかなと個人的には思ってます。

      (つーか、ラストの美春はイラスト書ける人良かったら書いてくれ)(爆)

  今回の話で冬貴も『ひょっとして・・・』とは思ってるので、これから先どうなるかを、
   
     楽しみにしてくれると嬉しいです。それでは!!


管理人の感想

・・・。

・・・・・・。

・・・・・・はっ!

ヤバイヤバイ。衝撃の展開にぼんやりとしてましたよ(笑)

まあ衝撃ってわけでもないんですけどね。今までの話がほのぼのだったので、急にこういうのになると・・・ね?(←壊)

今回の話はフォーゲルさん自信、相当構成に気合が入っていたように見受けられました。

寸止めになってしまった美春の告白。

ここまで来れば、流石の冬貴でもなんとなく気付いたようですね。本人は「まさか」と否定してますが。


「その時からかな、美春が冬貴君の隣にいたいと思うようになったの」

この一言が、管理人的にツボでした^^



2007.2.24