『桜がもたらす再会と出会い〜第16話〜』


                        投稿者 フォーゲル


  天気予報の通り、今日の初音島は台風接近で危険な状態だった。
 「てっきり俺は学園休みだと思ったんだけど」
 放課後の廊下を歩きながら、俺は呟く。
 「あ〜、だから冬貴君、朝何も準備してなかったの?」
 俺の隣を並んで歩く美春が呆れたような声を上げる。
 「天気予報だと、ちょうど朝方台風直撃だったからな」
 休みだと思って余裕で寝てたら、いつものように美春に起こされたという訳だ。
 「バスも止まってなかったしね〜普通に登校出来たから・・・」
 結局、学園は普通に授業が有り、俺も美春も遅刻寸前でギリギリ校門を通過する事態になった。
 「今日は、ゆっくり来ても暦先生おとがめ無しにしてくれたんじゃないかと思うんだけど」
 俺の意見に美春はため息を付く。
 「冬貴君はそれで良くても、美春はイヤなの!」
 確かに、風紀委員である美春はどんな辛い状況でも遅刻なんぞする訳にはいかないだろう。
 
 【ビュー、ガタ、ガタ!】

  窓ガラスに風が当たり、激しい音を立てる。
 「大分、風が強くなってきたな」
 最新の天気予報をチェックすると、予報が変わり台風が初音島に一番接近するのは、今日の夜だということだった。
 「そうだね・・・雨降ってくる前に仕事を終わらせて帰ろう!」
 「分かってるよ」
 美春の言葉に俺は答えた。
 本来なら、台風近づいているのならいつまでも学園に残ってないでさっさと帰りたいのだが、
 俺達には、帰れない理由があった。それは・・・

 今から30分ほど前のことを思い出す。
 

 「よ〜し、じゃあ帰るか!!」
 俺は下駄箱から靴を出しながら、そんなことを考える。
 「今日は、この天候のせいで野球部の練習も中止だし、早めに家に帰って台風対策でもしないと・・・」
 親父は、アメリカでの学会に出席するため今日のフェリーで本土に向かったはずだから、もう家には居ないはずだった。
 (そういえば、おじさん達はどうするのかな?)
 おじさんと言うのは、美春の父親の天枷博士のことだ。
 初音島を出る前には、ちょくちょく美春の家にも遊びに行っていたので、自然とそう呼ぶようになっていた。
 (親父と一緒に行くとか行かないとか言ってたような・・・)
 美春に聞いたところ、『そういう学会絡みで出かける時は、お父さんはお母さんも一緒に連れていくんだよね』と言っていた
 もし、親父と一緒に行ったんだとすると・・・
 そこまで考えた時、後ろから声を掛けられた。
 「冬貴君、今帰り?」
 俺が後ろを振り向くと、美春がニコニコ笑顔で立っていた。
 「そうだけど?美春は?」
 「美春はね〜これから校内の見回りなんだ」
 やっぱり、最後は風紀委員の連中が見て回らないとダメらしい。
 「それでね・・・冬貴君、これからヒマ?」
 「まあ、家に帰るだけだけど」
 「じゃあ・・・見回り手伝ってくれない?」
 美春の話だと、今日は人手不足らしく風紀委員は各クラスから助っ人を借りているような状況らしい。
 「ねっ?オ・ネ・ガ・イ♪」
 何故だか、ちょっと上目遣いで俺を見つめて言う。
 「・・・」
 (そんな目で見られたら、断れないだろ・・・)
 俺はふと、思い出した。
 (そういえば、なんだかんだで俺、美春の頼み事って断ったことないよな)
 何か美春の手の上で転がされているような感じを覚えながら、俺は引き受けることにした。
 「ありがとう!・・・やっぱり冬貴君は、頼りになるよね〜」
 「・・・おだてても、何も出ないぞ」
 思わず、ぶっきらぼうな口調になりながら、俺は答える。
 その言葉と俺の表情を見て、美春は少し笑いながら言った。
 「冬貴君・・・ひょっとして、照れてる?」
 「だ、誰が!!・・・ほら!やるならとっとと早くやって帰ろうぜ?」
 図星を付かれて動揺しながらも、俺は美春を促がした。
 「そうだね〜じゃあまずは、こっちからね」
 そう言うと美春は俺の横に並んで歩き始めた。



  そんなやりとりを思い出しながら、俺は見回りをしながら歩いていた。
 (美春は、さっきの言葉、本心から言ってくれた言葉なのか?)
 そんな想いが俺の心の中に生まれる。
 やっぱり、美春に―――好きな娘にそう言って貰えると男としては嬉しいわけで・・・
 「よ〜し、これで全部終わり!!」
 美春が声を上げたのは、俺がそんなことを考えてる時だった。
 「後は、先生達に報告すればOKと」
 チェックボードに書き込みをしながら、美春が言う。
 「2人でやったから、大分早く終わったな」
 「そうだね〜冬貴君、ありがとう!」
 美春は俺に笑顔を向ける。
 (あ、そうか・・・)
 俺は何故自分が美春の頼み事を断れないのか分かった気がした。
 (この笑顔が見たかったってのもあるかも知れないな・・・)
 この笑顔を見たい。そんな思いがだんだん積もって俺が守ってやりたいって想いに変わっていったんだとそう思えた。
 (う〜ん、こういうのも『惚れた弱み』って奴なのか?)
 そんなことを考えてると、美春が真剣なまなざしで俺をじっと見ていた。
 「冬貴君、良かったらもう一つ美春のお願い聞いてくれる?」
 (まあ、一つ聞くも二つ聞くも一緒か・・・)
 「いいよ、言ってみろ」
 「あ、あのね・・・今日の夜なんだけど」
 美春が『お願い』を口にしようとした時、
 「美春〜そっちは終わった〜?」
 「あ、音夢先輩!こっちは大丈夫ですよ」
 音夢さんと純一先輩が歩いてくるのが見えた。
 (多分、純一先輩も俺と同じ理由で校舎に残ってるんだろうな・・・)
 俺はそんなことを考える。
 「2人共、ご苦労様。柊君は部外者なのに風紀委員の活動に協力してくれてありがとうございます」
 「いや〜どうせヒマだったので。たいしたことはしてないですよ」
  実際に美春の後をついて回っただけだし。
 「はぁ・・・兄さんも柊君みたいに素直に手伝ってくれると助かるんですけどね」
 「おい、音夢、俺だってこうして協力してやってるだろ」
 それまで黙っていた純一先輩がさすがに抗議の声を上げる。
 「朝から頼んでおいたのに、さっさと帰ろうとしていたように見えましたけど?」
 「ま、まあまあ、朝倉先輩もなんだかんだ言って手伝ってくれてるんですから、いいじゃないですか」
 美春が純一先輩のフォローに回る。
 「そうですよ。俺だって『美春の頼み事は断れない』ってそれだけですから・・・危なすぎて」
 「冬貴君〜それはどういう意味かな〜」
 「そのままの意味だよ」
 ちょっと怒り気味の美春の声を聞きながら、俺はツッコミを入れた。
 俺の言葉を聞いた純一先輩は思わず笑みを漏らしていた。
 「どうしたんですか?」
 「うん?いや・・・」
 俺の言葉に純一先輩は口を開く。
 「冬貴・・・それって要は『美春の尻に敷かれてる』ってだけじゃないのか?同じ男として情けないぞ」
 「・・・純一先輩に『だけ』は言われたくないですけど」
 俺は純一先輩と、音夢さんを交互に見ながら言う。
 「おいおい、勘違いするなよ。俺は音夢の尻に敷かれてる訳じゃないぞ。
  ただ、自分で行動するのは、かったるいから音夢の言うことを聞いてやってるだけで」
 「兄さん、それは威張って言うことじゃないですよ」
 音夢さんが、ため息付きながら言う。
 ふと、外を見ると、風がますます強くなっていた。



  「うわぁ〜こりゃヒドイな」
 先生に報告を終えた後、純一先輩達と別れた俺達は外に出てみて、呆然とした。
 ますます、風が強くなり物が飛びまくり、歩くのもやっとの状態になっている。
 空を見ると、雨も今にも振り出しそうだった。
 「さっき、先生達が言ってたけど、バスは止まっちゃってるみたいだよ」
 「マジか・・・」
 美春の言葉に俺はげんなりとした。
 とはいえ、いつまでもここで止まっている訳にもいかない。
 仕方なく、俺達は風が吹き荒れる中を歩き始めた。
 だが、すぐに悠長に歩いていられるような状況でも無くなった。

 【ポツッ、ポツッ、ザァ―――】


 歩き始めてすぐに、大粒の雨が落ちて来た。
 「くそ〜持ってくれなかったか・・・美春!大丈夫か?」
 横を歩く美春に声を掛ける。
 「う、うん、大丈夫!!」
 何とか、大丈夫そうだ。
 (せめて傘持ってくればよかったかな)
 雨が降るのは夜からだろうと思って傘は持ってこなかったのだ。
 ちなみに美春も同じらしい。
 仕方なく、俺達は走って帰ることにした。
 しかし、強風と雨にジャマされて、なかなかペースは上がらない。
 「冬貴君、あそこで休もう?」
 美春が指差した先には俺達が乗るバス停があった。
 ここはちょっとした小屋みたいな作りになってるので、とりあえず雨風はしのげる。
 俺達は何とかそこに駆け込み一息付いた。
 「びしょ濡れだな〜大丈夫か?み・・・」
 美春の方を見た俺は思わず固まった。

 ―――季節は夏、当然制服は衣替えして俺も美春も夏服を来ている。
    夏服ということは当然、生地は薄いわけで・・・
    その状態で雨に濡れるとどういうことになるか―――

  「あ〜その美春・・・これ着てろよ。風邪引くといけないし」
 俺は視線を逸らしながらスポーツバックから取り出した、スタジャンを美春に渡す。
 「え、いいよ、夏だし、寒くないし」
 「いや、それもあるけど―――その状態だと家に付くまで注目を浴びまくることになるぞ」
 「え?」
 美春はゆっくりと自分の姿を見た。
 「・・・!!」
 美春は慌てて胸を隠しながら、俺に背を向ける。そして首だけを向けて言った。
 「・・・見た?」
 その言葉に俺は慌ててブンブンと首を振る。
 「み、見てない!実は意外とセクシーなの付けてるなんて、これっぽっちも―――」
 俺の言葉に美春の顔が一気に紅潮する。
 「だ、だから、それ着てろよ」
 「う、うん・・・ありがとう」


  雨は依然強い勢いで振り続けている。
 だが、俺はそんなことを気にしている余裕は無かった。
 (何とかしてくれ・・・この空気)
 俺はさっきの至福の映像のせいで美春の顔をまともに見れないし。
 美春は恥ずかしいのか、チラッと俺の方を見てはあわてて顔を逸らす。
 そんな状態がもう30分近く続いていた。
 【ク〜ン】
 か細い鳴き声が聞こえたのはそんな時だった。
 ふと、見ると美春の足元に子犬がじゃれついている。
 美春もそれに気付いたのか、その子犬を抱き上げていた。
 「どうしたの、ご主人様は?」
 雨に打たれて震えていたその子犬は、安心したのか抱き締めた美春の胸に顔を擦り付けて甘えていた。
 ・・・実に羨ま―――もとい微笑ましい光景だった。
 その光景を見た時に、俺の脳裏に『何か』がよぎった。
 台風―――雨に濡れた美春と子犬―――
 前にどこかで見たことがあるような光景だった。
 だが、それ以上は思い出せなかった。
 「・・・可愛いな」
 「そうだね〜」
 いつの間にか、俺と美春の間にあった変な空気は消えていた。
 (こいつに感謝しなきゃな・・・あ、そうだ)
 俺はこの機会に思い出したことを聞いてみた。
 「美春、そういえばさっき学園で言ってた『もう一つのお願い』って何だ?」
 「えっ?・・・ああ、あのこと?」
 そう言うと、美春は何故か深呼吸をしながら、俺を見た。
 「あ、あのね、冬貴君、今日家に一人なんだよね」
 「ああ、そうだけど」
 「じ、じゃあ良かったらその・・・美春の家に来ない?」
 「へっ・・・」
 「お、お父さん達がね、今日冬貴君が家に一人でいるようなら、呼んであげなさいって」
 「な、何だ、そういうことか?」
 俺は思わず、胸を抑える。
 (まあ、確かに帰って来てから美春の家には遊びに行ってないし・・・)
 「分かった、じゃあ今日は美春の家にやっかいになるか」
 「本当に!じゃあ待ってるね」
 そう言う美春の表情が少し緊張気味なのが気になった。



  その後、雨が一時的に小振りになったので、俺と美春はそれぞれの家路に着いた。
 別れ際に子犬を抱えた美春が「絶対来てね!」と念押ししていた。
 (そんなに念押ししなくなってちゃんと行くって)
 俺はそう思いながら家についた。
 家に入ると、電話の留守電がチカチカと付いていた。
 表示されている番号を見ると―――
 (親父?)
 俺は携帯を見てみる。30分くらい前から着信があった。
 (美春と雨宿りしていた時だったから、気がつかなかったんだな)
 それと同時に、その時の美春の姿を思い出し、ドキドキしてしまう。
 (あ〜もう!!)
 俺は留守電の再生ボタンを押す。

  『冬貴か?俺だ。予定通りに島を出ることが出来たから連絡しておく。
   ああ、それと結局天枷の奴も一緒に行くことになったから、奥さん同伴で―――』


 そこから先の留守電の内容は結局俺の耳には入らなかった。
 (え〜と・・・)
  今日、美春の家に行ってもおじさん達は居ない。つまり―――
 (俺、今夜美春と二人っきり!?)
 俺はしだいに自分が緊張していくのを感じていた・・・



                〜第17話に続く〜


               こんばんわ〜フォーゲルです。

             今回からまた、冬貴視点に戻ります。

      今回の話、冬貴がかなりいい思いというか、役得な感じに(笑)

        雨宿りシーンは前から書きたかったので書けて良かったかなと。

         次回は天枷家で過ごす2人きりの夜になります。

            果たして、冬貴は理性を保てるのか(笑)

        それとも、プツンと切れて18禁な展開になるのか(←マテ)

              それでは、次回もお楽しみに!!


管理人の感想

こんばんは〜、皆様、今回もフォーゲルさんのSSを楽しんで頂けたでしょうか?

今回は台風という設定。
美春のお願いを断れないのは、完全に惚れた弱みですね。「尻に敷かれている」というのは案外間違いではないかも(笑)
でも、美春って絶対に「尽くすタイプ」だと思うんですよねぇ、家庭的ですし。
まあどっちみち、二人の仲が安泰なのは「未来編」を読めば一目瞭然なのですが。

そして帰っている途中で雨が降ってきて・・・びしょ濡れになりながらも、バス停で小休止。
ふと美春を見てみると・・・冬貴オイシイなぁ(笑)恥らう美春も可愛かったです。

さて、美春の家で二人きりになった時、冬貴はどんな行動を取るのか?
若干想像(妄想?)しつつ、今日はこの辺で。



2007.2.17