『桜がもたらす再会と出会い』〜第12話〜
投稿者 フォーゲル
お世辞にも状況はいいとは言えなかった。
俺はじっくりと周りの様子を観察する。
出口は一つ、他に脱出できそうなところは無い。
目の前の誘拐犯を何とかして脱出する以外に方法は無さそうだった。
「お前・・・さっきのガキか?」
そのドスの聞いた声に春菜ちゃんがビクッとなるのが分かった。
俺はその問いには答えず、春菜ちゃんを背後に隠す。
「ダンマリか・・・まあいい。お前1人で乗り込んで来たみたいだが、何故だ」
そう思うのも無理はないと俺は思った。普通は警察あたりに連絡して―――
というかそもそもたった1人で乗り込んで来たりはしないだろうと思った。
「さあ、俺もよく分からないな」
俺はそう答える。だが心の中は違っていた。
「どうだ?このままその娘をこっちに渡せばお前には何もしないが?」
誘拐犯の戯言を聞き流し俺は逆に質問する。
「誘拐なんて成功率低い犯罪だと思うけど・・・何でこんなことを」
「その娘の父親は初音島から出た初のプロ野球選手だからな。身代金が大量に手に入る」
「真面目に働いて稼げよ・・・」
答えながら、俺は必死に何とかならないかと考えた。
拳銃は俺に向けられていて、誘拐犯は5mくらい離れている。
銃火器には詳しくないが、もしこの距離で撃たれたら確実に死ぬだろう。
だが、俺は不思議とそう怖くは感じなかった。
ふと、自分の背後を見る。
隠れている春菜ちゃんは俺の腰の当たりを掴みながら、小さく震えていた。
(ああ、そうか・・・)
俺は何故この状況で自分がこんなにも落ち着いているのか分かった気がした。
(俺は、この娘を救うためなら自分の命を捨ててもいいと思ってるからだ―――)
さくら先生は『無茶はしないで!』と言っていたが、
俺はいざとなったら自分の命を賭ける覚悟を決めた。
未来の俺には悪いが―――
そんなことを思いながら、俺は誘拐犯を睨みつける。
「ほう・・・引く気は無いか・・・ならお前には死んでもらう」
俺の目を見た誘拐犯は引き金に手を掛ける。
「!!」
俺は思わず、目を閉じた―――
乾いた音と、体に響く衝撃―――
俺が予想したのはそんな展開だった。
だがいつまでたっても、そんな音も衝撃も感じられなかった。
「?」
俺は閉じていた目をゆっくりと開ける。
見ると誘拐犯は確かに引き金を引いている。
だが、そこから弾は発射されなかった。
その代わりに―――
【ブワッ!!】
大量の桜の花びらが銃口から吹き出していた。
「な、何だ?」
誘拐犯も何が起きたのか分からないらしく、戸惑っている。
もちろん、俺も同じだった。
(何だ?何が起こったんだ?)
俺が呆然と桜の花びらが舞い散る光景を見ていると聞き慣れた声が響いた。
「柊くん!春菜ちゃん!こっち!」
ふと見ると、近くの物陰から俺達を手招きしている金髪ツインテールが見えた。
俺は春菜ちゃんの手を掴むとその物陰へ滑り込んだ。
「2人とも!大丈夫?」
手招きしていた人物―――さくら先生が心配そうな声で言う。
「な、何とか・・・」
「さくらお姉ちゃん〜怖かったよ〜」
春菜ちゃんがさくら先生に抱きつきながら泣きじゃくる。
「よしよし、春菜ちゃんもう大丈夫だからね・・・だけど」
さくら先生は俺の方を見つめながら、少し怒ったような口調で言う。
「柊くん・・・ムチャはしないでって言ったと思うんだけど」
「だ、だってあの状況じゃヘタに動く訳にもいかないじゃないですか」
「駆けつけて見たら、2人が拳銃突きつけられてるんだもん・・・とっさに魔法使っちゃったよ」
「じゃあ、この現象はさくら先生の魔法ですか?」
俺は誘拐犯の様子を見る。引き金を引いているようだが、弾は発射されず桜の花びらが依然出続けていた。
「うん、ちょっとおばあちゃんの力を借りちゃった」
そう言うさくら先生の手に一振りの桜の木の枝が握られていた。
「この桜の木の枝から、ボクの魔力を増幅させて桜の花びらを大量に出したって訳」
さくら先生がフワフワと桜の木の枝を振る。それにさらに合わせて桜の花びらが出現した。
「なるほど・・・だけど、これからどうするんです?」
俺は疑問を口にする。確かに誘拐犯を動揺はさせてるようだが、これで倒せるところまで行くとは思えない。
それに、いつバレるかも分からない以上、急いでケリを付けないといけないのは間違いないようだった。
「それなんだけどね・・・」
さくら先生もじっくり誘拐犯の様子を観察する。
すでに花びらは誘拐犯の腰くらいの高さまで来ていて、焦って来ているようだった。
そして、その背後にはいろいろな廃棄物が山のように積まれていた。
廃工場ということで悪徳業者などが大量に粗大ゴミなどを捨てていくのだろう。
それを見たさくら先生は、何か思いついたような表情をして俺の方を見た。
「柊くん・・・君、野球部だったよね」
「えっ?そうですけど?」
「じゃあね・・・」
さくら先生は、俺にそっと耳打ちをした。
太陽が西に沈んでいく。
俺とさくら先生は、あの廃工場を何とか人が来る前に脱出し、さくら先生の家に向かっていた。
ちなみに、春菜ちゃんは俺の背中でスヤスヤと寝息を立てている。
「だけど、さくら先生・・・最後に一体何をしたんですか?」
「・・・ボクは何もしてないよ。ただ、バランスが悪かっただけ」
あの時、さくら先生は俺にこう耳打ちした。
『これからボクの言うところに、何でもいいから物を当てて』
俺は近いところにあった、ちょうど野球の公式球と同じくらいの鉄の玉をさくら先生の指示通りにぶつけた。
そんなことを5・6回繰り返した。
そして、7個目を掴んで投げようとした時・・・
「お前ら何をやってる!!」
誘拐犯がこちらに気付いた。
(ヤバイ!!)
俺の心に焦りが生まれる。
だが、次の瞬間・・・
【ズゴゴゴゴゴ!!】
突然、誘拐犯の背後から凄い音がしたかと思うと、粗大ゴミやら何やらが崩れ落ちていった。
「う、うわあああ〜〜」
情けない声と共に粗大ゴミの山に誘拐犯は埋もれていった。
さくら先生によると、俺が鉄の玉を当てたポイントは乱雑に積まれていた粗大ゴミのバランスを取っていた場所らしい。
そこに物を当ててやってゴミ全体のバランスを崩しただけだということだった。
その後、誘拐犯が完全にノビてるのを確認してから、俺達は逃げて来て今に至ってる訳だが・・・
「だけど、あいつ・・・多分警察に捕まるんでしょうけど、大丈夫なんですかね」
俺はふと思いついた疑問をさくら先生にぶつける。
「大丈夫って、何が」
「俺達が逃げて来たってことは、誘拐犯だという証拠はないじゃないですか?また、春菜ちゃんを狙ったりなんてことは・・・」
春菜ちゃんだけじゃない。他の子供を狙って似たようなことをする可能性もある。
そんな俺の心配にさくら先生は大丈夫だと言わんばかりに頷いた。
「あの男の人からは今回の事件の記憶は消したから・・・」
「記憶を消したんですか?それも魔法の力ですか?」
「本来はあんまりそういうことに使っちゃいけないんだけどね。今回は特別だから・・・」
「特別?」
「そう。柊くんが関わってるからね」
「俺ですか?」
「そうだよ。もし警察に呼ばれて事情聴取なんてことになったら、柊くん自分のことなんて説明するつもり?」
(あ・・・)
確かに『過去の人間です』なんて言ったところで信じて貰える訳が無い。
それどころか、不審者扱いされて、こっちが警察の世話になるような事態にもなりかねない。
「記憶に残るくらいならいいんだけど、記録に残るのはマズイと思って・・・」
さくら先生によると今回の事件に関しては、春菜ちゃんからも記憶を消したらしい。
もっとも、こっちに関しては怖い記憶を残してもしょうがないだろうという判断かららしいが・・・
そんなことを話している間に俺達はさくら先生の家に着いた。
「春菜ちゃん・・・春菜ちゃん」
俺は背中で寝ていた春菜ちゃんに声を掛ける。
「・・・お兄ちゃん」
春菜ちゃんが起きたのを確認してから俺はゆっくりと春菜ちゃんを下ろす。
「春菜ちゃん、今日一日お兄ちゃんと遊んでもらって楽しかった?」
何事も無かったかのようにさくら先生が問い掛ける。
「うん・・・あのね」
最初は寝ぼけまなこだった春菜ちゃんもだんだんと楽しかったことを話してるうちにすっかり元気を取り戻したようだった。
俺はふと、空を見上げる。
だんだんと暗くなってきた空を見て、俺は春菜ちゃんに問い掛ける。
「ねえ、春菜ちゃん。もうそろそろ暗くなってきたから、家に帰った方がいいんじゃない?」
「そうだね・・・早く帰らないとママが心配するだろうし」
俺の方を見ながらさくら先生も、俺の意見に同調する。
春菜ちゃんはしばらく考えていたが、やがて口を開いた。
「うん、そうしよっと。それに今日はパパが早く帰ってくる日だし・・・さくらお姉ちゃん、また明日」
春菜ちゃんはそう言うと、背を向けて走り出す前にクルっと俺の方を向いた。
「お兄ちゃんも、また明日遊んでね!!」
その言葉を残して、春菜ちゃんはさくら先生の家を飛び出していった。
「また明日か・・・それは無理だよ」
「え?」
その言葉にさくら先生は俺の方を見る。
俺の体は急速に透けて来ていた。
フェアリーストーンを見ると、完全に輝きを失っている。
「そっか・・・時間が来たんだね」
さくら先生もその現象を見て、俺が過去へ戻る時が来たことを悟ったようだった。
「あ、そうか。そういうことだったんだ」
さくら先生が急に声を上げる。
「ねえ、柊くん。戻ったら、過去のボクに『15年後の今日、桜公園で過去から来た柊くんに会うから』って伝えておいてくれない?
「いいですけど・・・何でまた?」
「ボクがあの時、桜公園にいたのは柊くんからその伝言を聞いてたからなんだ。15年前にね」
「じゃあ・・・」
「そう、未来のボクの伝言を柊くんが過去のボクに伝えたってことだね」
「そういうことなら・・・あ〜あ、だけど・・・」
俺は急速に消えていく自分の体を見ながら、ため息をついた。
「俺は結局、何の為にこの時代へ来たんでしょうかね」
さくら先生は、魔力増幅と俺の願いの影響でこの時代へ飛ばされて来たんじゃないか―――
と言ったが、結局俺の願い――『15年後に俺と美春はどういう関係になってるのか』は分からずじまいだし・・・
俺の問いかけにさくら先生が口を開く。
「『春菜ちゃんを助けるため―――』だったんじゃないかな」
「春菜ちゃんをですか?」
「そうだよ、事実柊くんが居なかったら春菜ちゃんどうなってたか分からないし、それに・・・」
「それに?」
「柊くんは美春ちゃんと将来どうなってるか知りたかったみたいだけど、ボクは自分の未来がどうなってるかは知りたくないな」
「どうしてです?」
「だって未来は分からないから面白いんだよ。先に何があるか分からないからワクワクしたりドキドキしたりするんじゃないかな」
確かにそうだ。これから自分がどう生きればいいのか全部分かってるのなんてたしかにつまらなさそうだ。
ふっと俺の意識が飛び始めた。
本当に限界が近づいてきているらしい。
さくら先生が消えかけた俺の手を握って言う。
「柊くん・・・大丈夫だよ。この未来の柊くんは美春ちゃんを―――」
俺の意識はそこで完全に無くなった。
「じゃあ、準備が出来たら、みんなで行くから。美春、嬉しいからって無理しちゃダメよ」
「分かってますよ、音夢先輩」
美春はそんな会話を交わして、音夢先輩と別れました。
音夢先輩には気を付けるように言われたけど、それでも美春の心は弾むような嬉しさで一杯でした。
(早く報告してあげないと・・・冬貴君も春菜も喜んでくれるもんね)
美春がそんな気持ちでいると、後ろから声がしました。
「ママ〜〜!!」
見ると、美春の姿を見つけたのか、春菜が走ってくるのが見えました。
「春菜〜走って来なくてもいいよ。ママ、春菜を置いていったりしないから」
その声が聞こえたのか、春菜はゆっくりとスピードを落としながら、美春の隣に並びました。
「ママ、どうしたの?これからお買い物?」
「今日はね〜ちょっと嬉しいことがあったから、ご馳走作ろうかと思って・・・春菜も来る?」
「うん、春菜も一緒に行く〜」
美春達は2人並んで歩き始めました。
「ねえ、ママ。嬉しいことって何なの?春菜にも教えてよ〜」
「う〜ん、どうしようかな〜」
(本当は2人に同時に教えてあげようかと思ったんだけど・・・)
「じゃあね・・・ママのお手伝いしてくれるんだったら、教えてあげる」
「うん、するする!!」
「春菜にもスゴく関係あることなんだけどね・・・」
美春は春菜と同じ目線まで視線を落として、教えてあげました。
『あのね、春菜はもうすぐ―――』
〜第13話に続く〜
<後書きコメント>
こんばんわ〜フォーゲルです。12話目をお届けします〜
本当は今回の話で未来編終わる予定だったんですが、意外に長くなってしまったので、もう1話続きます。
何かこのシリーズ初めて冬貴の男気溢れるシーンを書けた気がする。(若干ヘタレ気味だったからな〜)
さくらの魔法をどれくらいのレベルにしようかと悩んだ結果、作中くらいのレベルに
(さすがに攻撃魔法とか使えるとやりすぎな気がして・・・)
でも、これだけシリアスシーンに気合い入れても、最後の可愛いママな美春に全部持ってかれてるような気が・・・(笑)
未来の美春に起こった『嬉しいこと』とは何なのか?とかも楽しみにして下さい。
(音夢のセリフと最後の美春のセリフで勘のいい人は分かるかも知れませんが)
それでは、失礼します〜
管理人の感想
今回の話で、一応未来編での事件は終了ですね。冬貴も過去(現代?)へと帰りましたし。
しかし拳銃から桜が吹き出た時は、読んでて驚きましたね。さくらがちょっと魔女っ娘になってました(笑)
でも魔法の杖代わりに、桜の枝というのは納得ですね。ある意味、杖よりよっぽど効果を発揮しそうだし。
その前のシーンも良かったですね。冬貴が男らしくて。
「冬貴は春菜を救うために来た」と、確かに感じましたね。
ところで、最後の未来の美春に起こった嬉しいこと。読者の皆様はお分かりになったでしょうか?
ちなみに私は分かりました。最後の美春の台詞が最大のヒントですね。
それでは、次回もお楽しみに〜。