『桜がもたらす再会と出会い』〜第11話〜
投稿者 フォーゲル
「あれ?春菜ちゃん、眠っちゃったんだ?」
俺の膝の上でスヤスヤと寝息を立てている春菜ちゃんを見ながら、さくら先生が言う。
「俺の膝の上、そんなに寝ごごちがいいんですかね」
もう、30分近く春菜ちゃんは、夢の世界へ行っている。
その代償で俺の膝は痺れが来ていたが。
「う〜ん、それもあるかも知れないけど、やっぱり分かるのかな・・・」
フワッと桜の花びらを巻き込んだ風が吹く。
そのせいでさくら先生の言葉の後半部分はよく聞き取れなかった。
(だけど見れば見るほど、ソックリだな〜子供の頃の美春に・・・)
『世の中には、自分にそっくりな人間が3人いる』って話を聞いたことはあるけど、そんなレベルを越えていた。
「やっぱり、気になる?」
春菜ちゃんの顔を眺めていた俺にさくら先生が問い掛ける。
「な、何がですか?」
「春菜ちゃんの母親」
「・・・ある程度予想は付きますけど・・・」
これだけ、受ける印象が似ているなら考えられるのは1つだが・・・
「うう〜ん」
その時、俺とさくら先生の会話に反応したのか、春菜ちゃんが身じろぎをしてゆっくり目を開けた。
「あ、お目覚めみたいだね〜お兄ちゃんの膝の上は気持ち良かった?」
「うん・・・後でもう一回してもらいたいな・・・」
さくら先生の言葉に、寝ぼけまなこで春菜ちゃんが答える。
「俺の膝の上だったら、いくらでも貸してあげるよ」
俺がそんなことを答えた時だった。
【グゥ〜〜〜】
俺の腹が盛大に鳴った。
・・・そういえば、元の時代で何も食べてなかったっけ。
美春と喫茶店には入ったけど、あいつの食欲に圧倒されて、コーヒーしか飲んでないし。
「プッ・・・ちょっと待ってね。何か持って来るから」
さくら先生が笑いながらそう言って立ち上がった、その時、
「あ!じゃあね〜春菜のおやつあげる!」
春菜ちゃんは、自分のポシェットをゴソゴソと漁る。そして出てきたのは・・・
「ハイ!」
1本のバナナだった。
「あ、ありがとう・・・」
俺は思わずボーゼンとしながら、それを受け取る。
さくら先生の方を見ると、「分かったでしょう?」とでも言いたげな笑みを浮かべていた。
「お兄ちゃん〜こっちこっち〜」
春菜ちゃんに呼びかけられながら、俺は歩く。
腹ごしらえのバナナを食べた後、春菜ちゃんに「遊びにいこう!!」と誘われたのだ。
今の自分の状況を考えると俺はためらったのだが、さくら先生が「行ってくれば?」というので出かけることにしたのだ。
もっとも、さくら先生の話だと、最近このあたりは物騒なのでガード役が必要だということだった。
「誘拐未遂とか起きてたりするから・・・柊くん、春菜ちゃんをちゃんと守ってあげてね」
さくら先生にそう念を押された。最も俺は言われなくても守るつもりだったが。
(この娘は美春の娘なんだろうし・・・惚れてる奴の娘くらい守ってあげないと)
俺がそんなことを考えていると春菜ちゃんの声が響いた。
「つ〜いた!!ここだよ〜」
そこは俺がこの時代で最初に目を覚ました場所・・・『枯れずの桜』だった。
「ここはね、春菜が大好きな場所なの!」
そう言うと春菜ちゃんは俺の手をグイグイと引っ張る。
『枯れずの桜』は15年の月日が経っても、見事に咲き誇っていた。
「それとね、ママの思い出の場所でもあるんだよ」
「春菜ちゃんのママの?」
(確かに美春もこの場所は好きだって言ってたけど・・・)
「う〜んとね・・・確かママがパパに告白されたのがこの場所だって言ってた」
「・・・」
俺は思わず黙り込む。
(ここで告白した奴と美春は結ばれたのか・・・一体誰なんだろうな)
俺はそんなことを考えていると、春菜ちゃんが話し始める。
「ママはね、たまにこの桜の所に春菜を連れてきては、パパとの思い出話とかしてくれるんだよ。
そして、必ずこう言うの。『春菜もパパみたいな人を見つけなさい』って・・・」
「春菜ちゃんのパパとママ、ずいぶん仲良いんだね」
「うん!パパはたまにお仕事で一週間くらい家に居ないこともあるけど、家に帰ってきた時はパパとママ一緒のお布団で寝てたりするよ」
(春菜ちゃん・・・俺、もし君のパパに会ったら問答無用で殴ってるかも知れない・・・)
もちろん、そんなことを口に出来る訳も無く俺は苦笑いを浮かべた。
そして、あることに気が付いた。
俺がさくら先生から「未来の俺と美春がどうなってるかは、過去の俺が知ることが出来ない」と知らされた時に、何故かホッとしたことについてだ。
(つまり、俺は現在であろうと、未来であろうと美春が他の男と結ばれてるって可能性を否定したいんだろうな・・・)
もう少しいろんな意味で大人になってからならともかく、今、そんな未来を知らされたら俺、立ち直れそうに無さそうだ。
(って、今そんなことを考えてもしょうがないか・・・)
俺は気持ちを切り替えて、春菜ちゃんに話す。
「じゃあ、春菜ちゃんもそんな人がいつか出来るといいね」
すると、春菜ちゃんは俺の顔を見ながら言った。
「春菜はね・・・お兄ちゃんみたいな人がいいな」
「俺?」
「うん!何かお兄ちゃんは安心できるから・・・」
「じゃあ、春菜ちゃんが大人になるまで、気楽に待つかな」
俺はそんな話をしながら、しばらく『枯れずの桜』の下で春菜ちゃんと過ごした。
春菜ちゃんは俺に桜の花びらで作ったネックレスをプレゼントしてくれた。
「スゴイな〜春菜ちゃんの年でここまで丁寧には作れないよ」
俺は素直に感心する。
それは確かに凄く細かく綺麗に作られたものだった。
「誰かに教えて貰ったの?」
「ううん。いつのまにか自然に作れるようになってたんだ・・・ママの妹が似たようなのを作ったことがあるとは聞いたけど・・・」
「妹?」
(おかしいな・・・美春は一人っ子だったはずだけど・・・)
もちろん、15年の時間が空いてる訳だからその間に美春に妹が出来るのかも知れないが。
「ママの妹さんってどんな人なの?」
「それがね、そのことを聞くとパパもママもちょっと悲しい顔をするから、春菜もくわしく聞いたことは無いんだ」
(何か特別な事情でもあるのかな・・・)
俺はそんなことを考えていた。
桜公園を出て、俺と春菜ちゃんはさくら先生の家に帰ることにした。
春菜ちゃんによるとそろそろママが迎えに来るかもしれないかららしい。
さくら先生の家に帰る間、春菜ちゃんは俺にベッタリだった。
(いや〜こんなに懐かれるとは・・・人懐っこさではさすが美春の娘って感じだな)
そんなことを考えていると、不意に春菜ちゃんが口を開く。
「ねえ、お兄ちゃん・・・初めて会った時から思ってたんだけどね」
「何だい?」
「春菜とお兄ちゃん、どこかで会ったこと無い?」
「え?だって、俺は今日ここに来たばかりだからな・・・気のせいじゃないかな」
俺は子供の頃の美春を知ってるから、会ったことがあると思ったが、春菜ちゃんと俺の接点は今日が初めてのはずだ。
「う〜ん、でも春菜はどこかでお兄ちゃんに会ってる気がするんだよね〜」
春菜ちゃんがそんな言葉を漏らした瞬間だった。
【ガンッ!!】
鈍い音がしたかと思うと俺の視界が急速に暗くなった。
そして自分の体が倒れていくのが分かった。
「お兄ちゃん!?・・・イヤッ!離して!離してよ!」
春菜ちゃんの声がやけに遠くに聞こえた。
―――誘拐未遂とか起きてたりするから・・・柊くん、春菜ちゃんをちゃんと守ってあげてね―――
脳裏にさくら先生の言葉が蘇る。
「ま、待て・・・」
何とか立ち上がり、俺は前方を見る。
見ると、春菜ちゃんを抱えた見るからに人相の悪い男が車に乗り込もうとしていた。
「お兄ちゃん!助けて!」
その声を聞いた途端、俺の体はほとんど本能でその男に向かって動いていた。
だが1度殴られている俺の動きはその男にはあっさり見切られる。そして―――
【ビリッ!】
電流が流れたような音と感覚に襲われ、俺の意識は闇に落ちていった。
男の右手にはスタンガンのような物が握られていた―――
「・・・くん!柊くん!!」
耳元で呼びかける声に俺は気を取り戻す。
「・・・さくら先生?」
俺の体を懸命に揺すっているさくら先生の姿を認めると俺の意識は覚醒した。
「2人の帰りが遅いから、探しに来てみれば柊くんは倒れてるし、春菜ちゃんはいないし・・・何があったの?」
「!?・・・そうだ、早く助けに行かないと・・・」
俺は慌てて立ち上がる。だが足がふらつく。
「柊くん、落ち着いて!何があったの?」
さくら先生に俺は事情を説明する。
変な男に襲われたこと。そいつに春菜ちゃんが連れていかれたこと・・・
「じゃあ、すぐに警察に連絡しないと・・・」
「そんなの待ってられませんよ!・・・さくら先生、この辺で誘拐犯がアジトに出来そうな場所ってあります?」
「えっ?島の西側に廃工場みたいな場所だったらあるけど・・・まさか!?」
「俺が乗り込んで春菜ちゃんを助けだします」
「そんな!ダメだよ!?危険過ぎるよ!!」
「こんなことになったのは俺の責任です!俺が行かないとダメなんですよ!!」
(それに、春菜ちゃんに何かあったら・・美春が悲しむ。俺は美春の悲しむ顔は見たくないんだ)
俺は決意を胸に秘めて、さくら先生を見つめる。
「・・・分かったよ、その様子じゃ止めたっていくんだろうし」
「ありがとうございます!!」
「ただし、約束して!絶対ムチャはしないって!柊くんに何かあったらこの時代の柊くんも消えちゃうんだからね!」
「分かりました!」
俺はそう言って、春菜ちゃんを乗せた車が走り去った方へ向かった。
「ボクも警察に連絡して準備が出来たらすぐに行くから!」
幸いにも、春菜ちゃんを誘拐した奴のアジトはすぐに見つかった。
意外に車の目撃者が多かったことで、見つけることが出来たのだ。
このことから考えると、春菜ちゃんが誘拐されてからさくら先生が俺を見つけるまでそんなに時間は掛かってないということだ。
(さて、これからどうするか・・・)
俺は物陰に潜みながら考える。
さくら先生の指摘した通り確かにそこは廃工場のようなところだった。
今、使われた車はアジトの前に止まっているのだが、工場の中には誰もいる気配が無かった。
つまり、忍び込むなら今がチャンスなのだが・・・
(って考えるまでも無いか・・・)
こうやって考えてる間にも春菜ちゃんが心細い思いをしてると考えるととてもじっとしていられなかった。
俺はゆっくりとアジトの中に侵入することにした。
アジトの中は乱雑に物が置かれていて、身を潜めるには格好の場所だと思った。
工場といってもそうは広くなく、部屋数も少なそうなのが幸いだった。
俺は警戒しながら、部屋を一つずつ開けていく。
そして、ある部屋のドアを開ける。そこには―――
(見つけた・・・)
気絶させられているのか、縛られてぐったりとしている春菜ちゃんがいた。
刺激しないように、ゆっくりと春菜ちゃんの肩を揺する。
「う・・・うん」
春菜ちゃんが目を開ける。
「大丈夫?春菜ちゃん?乱暴なことされてない?」
「お・・・お兄ちゃん?うわ〜ん!怖かったよ〜」
目の前に俺がいることにホッとしたのか、春菜ちゃんは泣き始めた。
「もう大丈夫だよ。今助けてあげるからね」
俺はそう言うと、春菜ちゃんを縛っている縄を解こうと手を伸ばした。
だが、その手は縄を掴むことが出来ず、スルリと通り抜けた。
「え?」
思わず自分の手を見る。俺の指は少しづつ透けたり、元に戻ったりしている。
ふと指に嵌めていたフェアリーストーンを見つめる。
フェアリーストーンの輝きが急速に消えかかっていた。
―――その指輪の魔力が消えれば強制的に元の時代に戻されるんじゃないかな―――
さくら先生の言葉を思い出す。
(じ、冗談じゃない!お願いだから、もう少しだけ持ってくれ!)
俺は祈りながら、急いで春菜ちゃんの縄を解いた。
春菜ちゃんを助けた以上、長居は無用だと思った俺はさっそくこの工場を脱出しようと思った。
出来れば、誘拐犯に遭遇しないことを祈ったのだが・・・
【パァン!!】
出口まで後5Mくらいのところで、乾いた音がした。
「お前・・・何をやってる」
(やっぱりそううまくはいかないか・・・)
俺の目の前には、人相の悪い男―――春菜ちゃんを誘拐した男が立っていた。
そして、その手には黒い拳銃が握られていた。
〜第12話に続く〜
こんばんわ〜フォーゲルです。第11話をお送りします〜
10話目が説明話なら、今回の11話目は伏線話ですね(笑)
中盤の冬貴と春菜ちゃんとの会話はほとんどシリーズ後半に向けてのネタ振りみたいなものだし・・・
そして、春菜ちゃんの両親のラブラブぶりに嫉妬している冬貴に関しては読者さん全員でツッコミ入れたい気分だと思われ(笑)
今回、後半をこういう展開にしたのは自分の未来を知ることは出来ない冬貴が未来に飛ばされた理由のようなものです。
そして、春菜ちゃん救出のために危険な場所に自ら飛び込む。
そこまでする理由は―――
そのあたりにも次回は注目して頂けると嬉しいです。それでは!!
管理人の感想
いやぁ、まさに驚きの展開ですね。
序盤から中盤に掛けて、春菜とのほのぼのとした展開だったのに、いきなり急転直下。
出て行くときにさくらが念を押した時点で、何かしらあるとは思っていましたが・・・まさか本当に起こるとは。
作中に出てきた美春の妹というのも気になりますが・・・これは私なりの予想がついています。
しかしフォーゲルさんの後書きにもあった、「自分の未来を知ることは出来ない冬貴が未来に飛ばされた理由」というのがまったく・・・。
次回に期待するしかありませんね^^;