「あっ、これなんか可愛いかも」

「どれどれ?」

「ホントだ。でも・・・ちょっと高いかな?」

あくる日の休日。私は二人の親友と共に、商店街でウィンドウショッピングを楽しんでいた。

「それにこの服、私にはちょっと似合わないかなぁ。ことりならバッチリだろうけど」

「そ、そんなことないっすよ〜」

右隣から笑顔で臆面もなく言ってくるのは、ともちゃんこと森川智子ちゃん。

大きくクリッとした瞳に、ショートボブな髪の毛が特徴の女の子だ。

「うんうん、なんてったってことりはスタイルも抜群だからね」

「もう、みっくんまで〜」

そして左隣からともちゃんの言葉に賛成だとばかりに首を縦に振るのは、みっくんこと佐伯加奈子ちゃん。

なぜ女の子なのにみっくんなのかというと・・・彼女のお兄さんの名前が「幹彦」で、みっくんはそのお兄さん激ラブなことから自然とそんなあだ名になっていた。

彼女たちとは私が小学生の頃からの付き合いで、昔からよくこうして集まっては何かしら遊んだ仲。

そしてそれは今でもあまり変わっていない。クラスはバラバラになってしまったけど、それでも私たちの絆が薄まることは無かった。

「あ、このバンドグループ・・・」

そうしてしばらく店先からショーウィンドウを眺めている内に、いつの間にか商店街の端の方にある電気屋さんの前まで来ていた。

そのショーウィンドウの中には、人目を引く大型ディスプレイのテレビが展示されており、そこに映し出されていた高校生のバンドグループにともちゃんが小さく声を上げて反応する。

そのバンドは女の子ばかりの4人組で、メジャーデビューを果たした曲を皮切りに立て続けにヒットを連発している新進気鋭のグループだ。

「すごいよね、この人たち。これで私たちとあまり歳が変わらないんだもん」

「うん、そうだね」

同じく画面を注視するみっくんの言葉に、私も肯定の言葉を返す。

と、その時。ひとり真剣な顔で何やら呟いていたともちゃんは、「よしっ」と声を上げると私たちにキラキラした目を向けてきた。

「ことり!」

「は、はい!」

「みっくん!」

「な、なに?」

ともちゃんは直後、ふにゃっと真剣だった顔を崩し、丁度曲が終わったばかりのテレビの中のバンドグループを指さして。

「卒業パーティー。三人でバンドを組んで出てみない?」





D.C. SS

          「小鳥のさえずり」

                       Written by 雅輝






<7>  ともちゃんとみっくん





休日明けの月曜。私、ともちゃん、みっくんの三人は、放課後の音楽室に集まっていた。

ともちゃんが提案したバンドの話は、私もみっくんも乗り気だったこともあり、とんとん拍子で出場が決定してしまった。

ウィンドウショッピングは急遽作戦会議に変更となり、各人の担当と演奏する曲を決めて。

そして今日。初練習を迎えたわけである。

「それじゃあ、そろそろ始めよっか」

ギターのチューニングを終えたともちゃんの言葉に、私とみっくんも頷く。

「ことり、準備はいい?」

「うん、バッチリっすよ♪」

のどの調子もいいし、演奏する曲は私のお気に入りでもあるので、当然歌詞も頭の中に入っている。

そして――音楽室に、みっくんが演奏するピアノの旋律が静かに流れだした。



「初めてだし、まあこんなものかな?」

「うん、まだまだ時間もあるしね」

「最初にしては、上出来だと思うよ〜」

練習の最後に一度通して合わせてみたのだけれど、やはりまだまだ人に聞かせられるようなレベルではない。

とはいっても、個人のレベルが低いというわけではないと思う。

ともちゃんは現役で軽音楽部のギター担当だし、みっくんも小学校の6年間ピアノを習っていたその実力は折り紙つきだ。

ただ、やはり合わせるとなると難しい。それにみんな知っていても演奏するのは初めての曲なので、小さなミスも多い。

こればかりは、練習あるのみ・・・なんだけど。

「じゃあ、次の練習はテスト明けかな?流石にそろそろ勉強も始めないとね」

そう、ともちゃんが言うように、学年末のテストが近いのだ。ちなみに、今日が丁度1週間前。

通常部活はテストの1週間前から休みになるので、いつもは吹奏楽部が使用しているこの音楽室も借りることが出来たんだけどね。

とにかく、テストが終わる10日後までは、各個人でトレーニングかな?






「結構イケるね、この新作」

「うん、バナナとカスタードクリームが絶妙にマッチしてるよ」

練習後の帰り道。桜公園の出店でクレープを買った私たちは、ベンチでそれを食しつつ談笑していた。

「そういえばことり、最近ある男の子と仲が良いんだって?」

「え?」

と、突然思い出したかのようにみっくんから訊かれた問いに、思わず素の声を返してしまう。

「あっ、私も噂で聞いたよ。確か相手は・・・朝永君?」

「違うよ、朝比奈君だよ」

「もうっ、朝倉君ですっ!・・・あ」

自爆した!と思ったがもう遅い。二人はその顔に意地悪げな笑みを浮かべ、にやにやと見つめてきた。

うぅ、長年の付き合いから察するに、これはからかう時の目だ。絶対に。

「へぇ、随分とお熱のようですなぁ」

「ねえねえ、朝倉君ってどんな人なの?」

案の定、みっくんからは顔が赤面するようなセリフを言われ、ともちゃんからはさらに深いところまでツッコまれる。

うーん、どんな人って言われてもなぁ。

「えっと・・・不思議な人かな?」

「不思議って?」

「他の男の子とは少し違っていて・・・ぶっきらぼうで、でも優しくて」

そして、アイドルという枠に捕われずに、本当の「私」を見つめてくれる人。

「・・・これは、思ったより重症だね」

「ごちそうさま、かな?」

「も、もうっ、二人とも!」

両サイドの二人に冷やかされ、頬が熱くなるのを止められなかった。

未だににやついている二人から目線を外し、恥ずかしさから空を見上げる。

『やっぱり、ことりは朝倉君のことが好きなのかな?』

『たぶん、ことりは朝倉君のことが好きなんだろうなぁ』

「――っ」

そんな時、同時に聞こえてきたのは二人の心の声。

――私が、朝倉君のことを?

空を眺める振りをしながら、その問いを何度も自分自身に問いかける。そして、考えれば考えるほど何もかもがわからなくなる。

――好きなの?

シラナイ。ワカラナイ。

恥ずかしい話ながら、私は今まで誰かを異性として好きになったことがなかった。

だから、恋をするということを、私は知らない。

だから、この感情が何なのか、私にはわからない。

まだ知り合って間もないはずなのに、果たしてそんな想いを抱くものなのか。

「――りっ」

「――ことり!」

「え?」

気がつけば私は、両隣の二人を忘れて思考に没頭していた。

「どうしたの?なんだか難しい顔をしていたけど」

「何か悩み?良かったら相談に乗るよ」

「あ・・・ううん、そんなんじゃないよ〜」

まさかその原因が彼女たちの心の声にあるとも言えずに、私は笑って首を横に振った。

――別に、今考えることじゃないよね?

私はそうして自分自身に”言い訳”をして、問題を先送りにする。

今はまだ怖いから。この気持ちの正体を知るのが怖いから。

でも、何となく。

「さてと、そろそろ帰ろ?ともちゃん、みっくん」

――その日は、そう遠くない内に来るような・・・そんな予感がしていた。



8話へ続く


後書き

はい、こんにちは〜。雅輝でっす。

本当は今回の更新はリクエスト作品になる予定だったのですが、ネタが固まっていないため先にこちらを更新です^^;

いろいろと展開に悩みまして・・・なので来週はそちらをUPします。


今回は初登場な二人がメインの話にしてみました。

ともちゃんにみっくん。ちなみに本名は、今回初めて知りました(笑)

仲良し三人組って感じですねぇ。まあ今回もオリジナルで、ゲームの空白の時間の補完みたいなものなのですが。

そう、バンド設立のきっかけです。本編では特に語られていなかったので、ともちゃんの提案に二人が乗るという形にしてみました^^

後半は、ことりがかなりの惚気っぷりを披露(爆)

思っている以上に、彼女は純一に惹かれつつあるようです。

それでもまだ自覚していない・・・しようとしないって感じなんですねぇ。


それでは、次にお会いするのがリクエスト作品の後書きでありますよう・・・。



2007.12.16  雅輝