三度目の出会い。
まさか本当にあるとは思わなかったけど、微かに期待していたのも確かで。
今も、そしてこれからもずっと続いていく私達の物語の、真の意味での最初の一歩となったあの日。
私の紡ぐ歌を、心から褒め称えてくれた彼に。
――もうその時から、少しずつ惹かれ始めていたのかもしれない。
D.C. SS
「小鳥のさえずり」
Written by 雅輝
<4> 桜木の下で
「いい天気だなぁ・・・」
暦の上ではまだ2月だけれど、快晴の空は少しフライング気味な春の陽気を街へと降り注いでいる。
散歩に出て来て正解だった、と私は桜公園のベンチに座りながらぼんやりと思った。
まだ肌寒い空気の中、それを緩和するかのように天上から降り注ぐお日様の陽光はとても気持ちが良い。
元々、割と一人で散歩することが多い私だけど、ここ数ヶ月は寒さの余り自重してたんだよね。
久しぶりに来た散歩がここまで気持ち良いと、今日は何かしら良いことがあるのではないか、とさえ思ってしまう。
「・・・あ、何か歌いたいかも」
ピンと神の啓示のように思い浮かんだのは、昨日リリースされた私の好きなバンドの新曲。
昨日学校帰りに購入して、そのまま家で眠くなるまで練習したんだっけ。
――勿論、近所迷惑になるから発声は控えてたんだけど。
「それじゃあ、あそこに行くとしますか」
思い立ったが吉日。ということで、鼻唄でメロディーラインを口ずさみつつ、私はあの場所へと向かった。
私のお気に入りの場所で、歌の練習場でもある・・・桜の大樹へ。
「到着・・・っと」
跳ねるようにしてその場所に出た私は、いつものようにその壮大な桜の幹に背中を預け、そっと瞳を閉じた。
そよそよと吹き抜ける風が、とても優しく感じられる。空気を思い切り吸い込むと、仄かに桜の匂いがした。
「んっ、んぅっ・・・ラ〜〜♪」
まずは喉の調節のために、単音を少し高めの声で張り上げてみる。
・・・うん、問題ないかな。それどころか、いつもより声が伸びるかも。
「・・・」
曲の伴奏を頭で思い描き、息を整える。
「よしっ」
目の前をひらひらと重力に従って落ちていく桜の花弁。
その一枚が地に着いた瞬間を合図に、私の声が誰も居ない桜の大樹の下に舞った。
歌に集中していると、どうしても時の流れを感じなくなってしまう。
今歌っている曲は元々が5分程度の長さなんだけど、繰り返し何度も歌っているのでどれくらい時間が経ったか、今が何曲目かすらも分からない。
丁度、そんな時だった。
『あれ、あの娘は・・・ことり?』
「え?」
突如聞こえた、人の声。――正確には心の声なんだけど。
いつもは歌い終わるまで周りのことなどほとんど感知できない私なのに、その声は不思議なほどするりと私の意識下に入ってきた。
それを耳にしてようやくトリップしていた意識が戻ってきた私は、弾かれたように辺りを見渡す。
「「あ・・・」」
すると、所在無く立ち尽くしている彼と、バッチリと目が合ってしまった。
『あちゃ〜・・・邪魔しちゃったかな?もうちょっと聞いておきたかったんだけど・・・』
気まずそうに頬を掻いている彼の心の声が聞こえてくる。
私はその言葉に若干嬉しい気持ちになりつつ、その気遣いにちゃんと応えておく。
「これはこれは、朝倉君じゃないですか。どうしたんです?こんなところで」
「こんにちは、ことり・・・って呼んで良かったんだよな?」
「はい。お久しぶりですね」
「おう。んで、さっきの質問の答えだが、この場所は俺にとっても馴染みのある場所でね。ついついことりの綺麗な歌声につられてフラフラと」
「き、綺麗な歌声って・・・大袈裟ですよぉ」
「いや、ホントに。前々から評判は聞いてたんだけどな」
『実際、思ってたよりも数倍上手かったしなぁ。音程も音の強弱もバッチリだったし』
そこまで言われてしまうと流石に照れくさくなってしまって、照れ隠しに人差し指を胸の前でツンツンと突き合わせる。
実際はどう思ってるのかな?と失礼ながら心を読んでみても、返ってきたのは同じく・・・いや、それ以上にべた褒めな内容で。
でもいつまでも赤面しているのも変なので、別の話題を振ってみた。
「あ、ありがとうございます。・・・そういえば、今日は彼女さんと一緒じゃないんですか?」
「・・・は?カノジョ?」
心底驚いたというように、彼は口をあんぐりと開けて、私の言葉を反芻した。
『あれ?この反応・・・。もしかして、私の勘違いかな?』
「俺に、彼女が?」
「そうです。これくらいの髪の長さで、左右に黄色いリボンを結んだ・・・」
「・・・おぉ」
身振り手振りであの時の女の子の特徴を伝えていると、途中で合点がいったのか、朝倉君は手をポンと叩いて苦笑した。
「いやな、ことり。あいつは俺の――」
”〜〜♪〜〜♪”
答えようとした朝倉君の言葉を遮って、携帯電話の着メロが響き渡る。
・・・って、私のか。
「ちょっとごめんなさい、朝倉君」
「あ、ああ」
電話だったので、少し彼から距離を置いてディスプレイを見る。
着信相手は・・・お姉ちゃん。
「もしもし」
――「もしもし、ことり?今どこにいるの?」
「えっと、桜公園だけど?」
――「・・・はぁぁ」
「?」
電話口から聞こえてくる盛大なため息。私はその意味が分からず、思わず首を傾げてしまう。
「どうしたの?」
――「いや、やっぱり忘れてたのかと思ってね」
「・・・何か――!」
「あったっけ?」とそう続けようとした私の口を、思い出した予定が噤ませる。
「そっか!今日って聖歌隊の臨時練習だっけ?」
――「そういうこと。さっき聖歌隊の方から電話が掛かってきたから、まさかと思えば・・・」
その言葉に、急いで腕時計を見る。
・・・あぁ、確かに。もう30分も前に集合時間は過ぎていた。
「ごめんね、お姉ちゃん。すぐに行くから」
――「はいはい。夕飯までには帰ってくるんだろ?」
「うん。そんなに遅くならないはずだから」
――「了解。それじゃあ、頑張ってね」
「うん、ありがとうお姉ちゃん」
携帯を閉じて、慌てて朝倉君のところへと戻る。
彼は桜を見上げていたけど、私が駆けてくる足音が聞こえたのか、視線を私へと下ろした。
「どうしたんだ?そんなに慌てて」
「あはは。・・・ちょっと用事を忘れていまして。ごめんなさい、もう帰りますね」
「ああ、なるほど。いや、こっちも引き止めていたみたいで悪かったな」
聖歌隊のことを完全に忘れていた私の自業自得なのに、まるで自分が悪かったみたいにさらっとそう言える彼は、正直凄いと思う。
何となく嬉しくなった私は、気付けば笑顔で言っていた。
「いえいえ。朝倉君のせいじゃないですよ♪さっきの話は、また今度聞かせてくださいね?」
「・・・おう、分かった。それじゃあな」
「はい。さよならです、朝倉君」
最後に彼に向けてシュタッと敬礼してみせて、背中を向けて走り出す。
「・・・ふふ♪」
桜公園を抜け、目的地へと急ぐ私の顔は・・・やっぱり、笑顔だった。
5話へ続く
後書き
どうも、雅輝です!何とか間に合った・・・かな?
最近モチベーションが上がらず、執筆に苦労していたり・・・。何かこの時期って、やる気出ないんですよねぇ^^;
さて、今回はゲーム本編の出会いのシーン。桜の木の下で歌うことりに、純一が近づく場面ですね。
ゲームは勿論、小説なども結構純一視点が多いので、ことり視点で表現するのはなかなか骨が折れました。
んで、結局は本編は何処に?的な内容に。そしてまだことりは勘違い中(笑)
ナイスタイミングだ、暦先生(爆)
次回は定時にUPできればなぁと思いつつ・・・それでは!