「心が・・・読める?」
私の突然とも言える告白に、純一君は驚きに目を見開いていたが、数秒後には何かに納得したように数度頷いていた。
思えば、彼の前では何度も能力を臭わせる行為を行なってきた。きっとそれを思い出して、整合性を確認したんだろう。
「テレパシーって言った方が、分かりやすいですかね」
一方私は、声が勝手に震えそうになるのを堪えるのに、必死だった。
――怖い。
今この瞬間、純一君にどう思われているのかが、果てしなく怖い。
でも、私は決めたから。
叶ちゃんのあの言葉を、信じるって決めたから。
だから私は待った。涙を堪え、枯れ果てた桜の枝葉を見上げ、早鐘を打つ心臓の律動を呑みこんで。
――彼の答えを。
D.C. SS
「小鳥のさえずり」
Written by 雅輝
<38> 愛の告白
「・・・そう、か。確かに思い当たる節もある。そしてことりは、きっとそれに悩んでいたんだな?」
「・・・え?」
予想外の返答に思わず言葉を詰まらせる。幹を挟んだ背中越しに、彼が苦笑しているようだった。
「ここ数日のことりは、何か変だと思ってた。それも今思えば、桜が枯れたその日から。つまりその日に、能力が無くなった」
「・・・」
「話しぶりから察するに、きっと今までずっと付き合ってきた能力なんだろ? それが突然無くなれば、戸惑うし怖くなるよな」
「あ、あの・・・純一君?」
私はその彼のあまりにもあっさりとした態度に、おずおずと尋ねていた。
「え?」
「その、怒らないの?」
「・・・怒るって、何で?」
聞き返されても・・・と、私は自分から言うのは何となくおかしいと思いながらも、今まで自分の心を鬱屈に攻め続けた本音を打ち明ける。
「だって・・・私は、純一君の心を覗いてたんだよ? 恋人同士になる過程で、そんなものを使ってたんだよ?」
「あぁ・・・なるほど、そういう考え方をしちゃったのか。でもな、ことり。俺はそうは思わない」
「え・・・?」
呆然と呟いた私に、彼はいつものように、優しく諭すような声で語りかけた。
「――ことりを、信じてるからだよ」
「・・・っ」
「ことりと出会って、恋人同士になって、一緒の時を過ごしてきたからこそ、信じられる。ことりが、何に悩んでいたのかが分かる」
「ことりはもう、能力を使わないと生きていけないと考えてはいないだろう? でもどうしたらいいか分からなくて、立ち止まっているだけじゃないのか?」
「だって・・・不安だよ。私は今までそうして生きてきたから。もう、どうしていいか、分からなくなっちゃったの」
「・・・だったら、俺がことりの背中を押してやる。支えてやる。能力なんか無くたって、ことりは飛べるんだ」
「だってことりは・・・自分の過ちに自分で気づけたじゃないか」
「・・・ぁ」
いつの間にか、嗚咽が漏れていた。すぐ近くの彼に気づかれないように声を押し殺して、でも涙はスゥッと頬を撫でていった。
私は、何を不安がっていたのだろう。
私は、何に怯えていたのだろう。
――私は何故、彼を信じられなかったのだろう。
彼は、ちゃんと私のこと見てくれていた。いつも、見守っていてくれた。
そして、誰よりも私のことを分かってくれていた。
「ことりがことりで在り続ける限り、俺もことりの事が好きな俺で在り続ける」
「――だから、信じてくれ。今の俺の言葉を。そして・・・ことり自身を」
それ以上、言葉は要らなかった。
だって・・・そこまで言われて・・・そこまで愛されて。
改めて彼の大きな想いに触れた私は、もう歯止めが利かなかった。
「――純一君!!」
もたれていた大きな桜の幹を回る時間さえ、もどかしく感じた。
こうして彼の胸に飛び込むまでが、永遠のようにすら感じた。
――思えばここに至るまで、随分と回り道をしたような気がする。
でも、もういいんだ。
もう・・・泣いたって、いいんだ。
「わた、し・・・ずっと、ふあ、んで・・・っ」
「・・・うん」
「じゅん、いちくんに、嫌われたらって・・・そう、思うと、なにもできなく、なってぇ・・・」
ずっとずっと封じ込めていた弱音が、決壊したように口から流れていく。
彼の温もりに包まれながら、涙はポロポロと零れ落ちていく。
胸にしがみ付くようにしてしゃくり声を上げる私の背中を、純一君はただ相槌を打ちながら優しく叩いてくれた。
その手つきが、「もう大丈夫だよ」と言っているようで。
私は温かい彼の胸の中で、弱音という名の膿を吐き出し続けた――。
「・・・ことり」
少し落ち着いた私が、彼の声に反応して顔を上げると、目の前に純一君の顔があって、思わず頬が熱くなる。
『ぁぅ・・・』
どうしよう、まともに顔が見られない。
もちろん、それは後ろめたさから来るものではなく。
『私、もうどうしようもないくらい、純一君に恋しちゃってる・・・』
心臓の鼓動が耳朶に響く。
おそらく顔は、既に真っ赤に染め上がっているだろう。いや、きっと耳の先まで赤くなっているはず。
『だって・・・あんな言葉を言われたら、しょうがないよね』
熱烈すぎる、愛の言葉。もはやプロポーズと言っても差し支えのないほどの、愛の告白。
『本当に、反則っすよ・・・』
視線を戻すと、彼は熱っぽい視線で私を捉えていた。
その眼差しに、思わずボォとなってしまう。自然、見つめ合う形になる。
「ことり、俺が卒パのミスコンで告白した時の言葉、覚えてる?」
「えっ、でもあの時は・・・」
あの時、純一君は何も言わずにキスという形で返事をした。
「そう、だから今ここでもう一度言おう。”俺は言葉よりも、もっと雄弁な方法を取る”」
言葉よりも、雄弁な方法。
あの時も感じたことだけど、本当にその通りだ。
「んぅっ・・・」
――――重ね合った唇からは、彼の想いが流れ込んで来るかのようだった。
39話へ続く
後書き
更新再開です。クライマックスなのに停滞していて、すみませんでした^^;
今話は、詳しく説明するまでもないでしょう。
一言でいえば、純一による熱烈な愛の告白です。
次回は、ことりの昔話のフィナーレ。そして40話にエピローグを持って来て、完結にしたいと思っております。
後少しですが、皆さま最後までお付き合いくださいませm(__)m