朝倉君がマネージャーになってくれた翌日。
風邪薬を飲んでしっかりと睡眠を取ったおかげか、昨日さんざん私を悩ませていた頭痛はほとんど治っていた。
ただ、やはり喉は完治にはまだ程遠いようで。普通に話す分には平気なのだけど、高い声を出すとなると結構ヒリヒリする。
今日の目標は、それを朝倉君に気取られないようにすることかな?
私がちょっとでも無理をしてるって分かったら、彼は絶対に止めてくれるから。絶対にそうだって思えるくらい、彼は優しい人だから。
その優しさはありがたいし、すごく嬉しいことなんだけど・・・本番まであまり日が無いだけに、あまり悠長にも構えてられなかった。
D.C. SS
「小鳥のさえずり」
Written by 雅輝
<13> 朝倉君奮闘記 そのいち
「それにしても、朝倉君どうしたのかなぁ・・・?」
朝の桜並木を、私は一人ごちながら歩く。
どうせ行く場所は同じなのだから、いつものように待ち合わせて登校しようと、昨日彼を誘ってみたのだけど・・・。
――「ん〜、悪いことり。明日はちょっとやることがあるから、先に行ってるよ」
と、やんわりと断られてしまった。
『やること・・・もしかして、朝倉君も何か出し物をやるのかな?』
校門をくぐり、昇降口に着いた段階でふとそんなことを思った。
基本的に卒パの出し物に関しては、生徒個人の意思に任される。
つまり度を超えなければ有志を募って何をやっても構わないし、逆に何もやらなくてもいいので、この時期に学校に来ている生徒は7割といったところだろう。
朝倉君が何かをやると聞いたことは無かったけど、逆に何もやらないと聞いた覚えも無い。
『だとしたら、悪いことしちゃったかなぁ・・・』
バンドのマネージャーをお願いすることによって、彼が仕事の掛け持ちをするのはやはり心苦しい。
もしそうならば、もちろん先約である自分の出し物の方を優先してもらいたい・・・はずなのだけど。
『何だろう・・・なんか、やだな』
まるで心のどこかで、我儘な自分が叫んでいるようだった。
彼がマネージャーの仕事を快く引き受けてくれた時、心の底から嬉しかったのは確かで。
何で嬉しかったのかというと、それは・・・。
―――それは?
私は、その答えを知っているというのだろうか。
知っていたとして、認められるのだろうか。
「はぁ・・・やめよう」
考え事をしながらでも足はしっかりと動いていたようだ。
視線の先に音楽室が見えてきたのを確認して、気持ちを切り替える。
『本番まで時間も無いんだし、今日も頑張って・・・あれ?』
何だろう?昨日とは、音楽室のドアの色が違うような・・・?
「おはよう、ことり。どうしたの?こんなところ立ち止ま・・・って・・・」
「うわぁ・・・」
私より少し遅れてやってきたともちゃんとみっくんも、私と同様に唖然とそのドアを見やる。
そしてそのドアの前には、不敵な笑みを浮かべる彼の姿が。
「ふっふっふ。どうだ!これで昨日みたいに野次馬たちは入ってくれないぜ!」
・・・なるほど。どうやら昨日彼が言ってた「やること」というのは、”これ”のことだったらしい。
「あ、あはは・・・」
思わず、乾いた笑いが漏れてしまう。
そのドアは・・・ドアと壁の継ぎ目をガムテープを幾重にも掛けてガチガチに固められ、来るものを拒む開かずの門となっていたからだ。
その門は、確かに昨日のような人たちに対しては絶大な効果を与えるだろう。
でも、それってつまり・・・。
「確かに誰も入れないよね・・・」
「うん。・・・私たちも、含めてね」
ともちゃんが職員室から借りてきた音楽室のカギを、チャリンとかざす。
「はっはっはっはっは・・・HA?」
ともちゃんの言葉を聞き、腕を組みながら高笑いをしていた朝倉君が、その状態のままフリーズする。
その笑みが痙攣したかのようにピクピクと崩れていく中、彼の足元には使いきった3つのガムテープの芯がコロコロと転がっていた。
「ホントにすんませんでしたっ!!」
ビシッとどこからか擬音が聞こえてくるくらい綺麗な土下座で、朝倉君が謝ってくる。
結局、あの後フリーズが解けた朝倉君と4人で、ドアの復旧(?)作業に取り掛かった。
何重にも貼られたガムテープはかなり強固で。何とかドアが開くようになるまで実に30分。
その間練習が出来なかったことについて、罪悪感を感じているのだろう。
「そんな、気にしなくていいですよ!」
「そうですよ。私たちのためにしてくれたっていうのは分かってますし・・・ね?ことり」
尚も頭を下げ続ける朝倉君に対して、ともちゃんとみっくんが狼狽しながらも手を横にブンブンと振る。
「朝倉君、頭を上げてください。まだたっぷりと時間も残ってますし、私たちは気にしてませんから」
私も目線を合わせるように彼の前にしゃがみ込んで、言葉を掛ける。
言ったことはもちろん本音だ。確かに最初はびっくりしたけれど、私たちのためにしてくれたのは疑いようがないので、責める気持ちはまったく無い。
それにマネージャーとしては行動力がある方がいいので、朝倉君はやっぱり適任と言える・・・というのは、流石にこじつけかな?
「そう言ってくれるのは有難いけどさ。ことりたちに迷惑を掛けたのは事実・・・だ・・・し・・・・・・」
ようやく顔を上げてくれた朝倉君は、何故かセリフの途中で顔を真っ赤に染め、即座に目線を逸らせた。
『こ、ことり!不用心すぎるぞ!でも・・・白、かぁ。ことりには確かにピッタリな色だよな・・・って俺は何を考えてるんだ!!』
『えっ、白?それにピッタリって・・・』
急いで目線を逸らせたってことは、そこに何かがあったからということで。
彼はまだ土下座から頭だけ上げた状態で。私は彼の前にしゃがみ込んでて。
ということは、彼の視界に入るのは――。
「〜〜〜〜〜〜っ!!」
ようやく答えに辿り着いた私は、倒れてしまうかと思うくらいの恥ずかしさに顔を染め、咄嗟にスカートの中を隠した。
「・・・見ました?」
「いや、あのだな!これは宇宙の陰謀というか!天界からの導きというか!科学を超越するような事象が働いてだな!」
「・・・見たんですね?」
「スミマセン、ばっちりと」
彼は先ほどの狼狽っぷりが嘘のように即答で肯定すると、再度頭を地面に擦りつけてしまった。
このままでは堂々巡り。埒が明かない。
それに・・・その、見られたのは私の不注意が原因だったわけだし。彼が頭を下げる理由はどこにも無いはず・・・たぶん。
「だ、大丈夫ですから、頭を上げてください。そうだ!そろそろ練習を始めますので、今の内に飲み物をお願いできますか?」
「ことり・・・ありがとう」
それはたぶん、許してくれたことに対してなのだろう。
でも、それこそ私の方がお礼を言いたい。空振りに終わってしまったとはいえ、彼が私たちのために朝早くから作業をしてくれたのは事実だから。
それに・・・スカートの中を見られてしまったのも、別に嫌悪感は無かったし。
もちろん、他の男の子には絶対に見られたくないと思うけれど。
『これって・・・やっぱり、彼だからなのかな?』
マイクの高さを調節している段階で突然頬を染めてモジモジとし始めた私を見て、ともちゃんとみっくんは顔を見合せて首を傾げていた。
14話へ続く
後書き
ようやくテストも終わりましたので、2日間で書き上げた続きをUPしておきます^^
少し短いですが・・・まあ復帰後第一作ということで大目に見てやってください(汗)
さて、タイトルはなんかノリで付けちゃいましたが・・・ぶっちゃけ、「そのに」は全く考えていないです(笑)
考えてないだけで、「そのいち」と銘打ったからにはおそらく書くと思いますが・・・どうなることやら。
とりあえず今回の朝倉君は、役得でしたよっとw
次は、おそらく音夢を出します。そろそろ伏線回収に走らないとBAD
END逝きですからね(笑)
でもその前に「FORTUNE ARTERIAL」の短編も書きたいなぁと思いつつ。
それでは!