「双龍―――転じて、双頭龍」



連結された天龍と地龍。それにより、両端に刃の付いた長刀が完成する。

しかし、この技はまさに文字通り諸刃の剣だ。一刀の背丈を越える長さとなったそれを扱うのは、至難の業。

だが今はそんなことを言っていられる余裕は無い。目の前の鬼神に、唯一対抗できるかもしれない策を、自分の身可愛さに出さないわけにはいかないのだから。

「剣が、繋がった・・・手品?」

「へ?」

「パチパチ・・・」

「あっ、いや、どうも・・・って違う!」

天然さは桃香以上かも――などと思いつつ、その弛緩した空気を断つように、一刀は再び剣を構える。変貌を遂げた相棒を。

対して呂布も、一刀の闘気に当てられたのか。目を細め、方天画戟をユラリと水平に薙ぎ、その肩に掛けた。

「・・・来い。恋は、負けない」

「その余裕が、いつまで続くか―――なっ!」

思い切り地面を蹴った一刀が、一瞬にして呂布の間合いへと入る。しかし簡単にそれを許すわけはなく、呂布はカウンターの突きを一刀の顔面へと運ぶ。

「ふっ――――!」

一刀はそれを、姿勢を低くすることで回避。だが既に呂布の二撃目が、一刀の頭上へと振り下ろされていた。

「これで、終わり」

もしここに観客が居たならば、こう思うだろう。一刀は攻を焦るが故に、呂布の間合いに入り込み過ぎたのだと。

だが、その見解は大いに違う。何故ならば、一刀の真の狙いはここから始まるのだから。



―――さあ、双頭龍による演舞を始めようか。



「ああああああああああああああああああっ!!!!!!」

咆哮。ただその瞬間を待ちわびて、一気に溜めていた力を爆発させる。

“グルンッ!”

そんな擬音が聞こえてきそうなほど、一刀の体は回っていた。自ら腰を捻り、極限までに遠心力を得る。

そして――――。

“ギャギィィンッ”

体に対して垂直に構えていた双頭龍。まずは天龍の刃が振り下ろされた戟に当たって勢いを弱め、続いて地龍の刃が弾き返す。その間、実に千分の一秒。

二刀では得られない、一刀だからこそ与えられる「一撃の重さ」。そして全推進力を乗せた連撃は、とうとう呂布の一撃を真正面から打ち返した。

「はぁぁぁぁっ!!」

千載一遇の好機。武器を跳ね上げられ無防備となった呂布の胴に、回転の勢いはそのままに双頭龍を薙ぐ。

「――――くっ!」

完全に決まったと思った。しかし彼女は、猛獣じみた瞬発力を生かし、瞬時にその場から離脱を図る。

結果、一刀の刀に手応えは感じられなかった―――が、その刃は確実に呂布の胴を掠めており、呂布はその浅い裂傷から、この一騎討ちで初めてとなる血を流した。





真・恋姫†無双 SS

                「恋姫†演舞」

                              Written by 雅輝






<23>  虎牢関の戦い(後編)





「おおおおおおおおおおっ!!!」

気迫の篭った声を上げながら、一刀の双頭龍が猛威を振るう。

一刀の体を軸にしての高速回転。両端に付いた刃は自由自在、多角度から呂布を攻め立てた。

「くっ・・・ふっ・・・」

だがそれでもなお、目の前の三国志最強は何とか捌き続ける。しかし決して余裕ではないことは、その額に浮かんだ汗が物語っていた。

『ぐ―――っ、まだだ!』

けれどそれは、一刀の体中の汗腺から噴出す脂汗とは比較にならない。

数日内での連続した双頭龍の使用。これまで呂布を相手取ってきた疲労。無茶な動きにガタが来始めた身体。

腕を動かすたび、足を動かすたび、身体のどこかが軋み、悲鳴を上げる。しかし、ここで止めるわけにもいかなかった。

事実、徐々に呂布の体には浅いながらも、幾本もの裂傷が出来始めている。このままのペースで―――いや、もっとオーバーペースに出来るなら、呂布を倒せ
るかもしれない。

『やるしかない、か』

ようやく見えた光明。一刀が更に回転数を上げようとした―――その矢先だった。

『――――え?』

“ギィィィンッ!!”

鍔迫り合いの最中、一刀は感じた。呂布が纏う、空気そのものが変わったことに。

「―――認める。お前、なかなか強い」

とても、静かな声だった。だがそれ故に―――恐怖を感じた。褒めてくれているというのに、嬉しいという感情より恐怖が頭を支配した。

「だから、恋も本気を出す」

変わった。それは変化―――いや、もはや変貌と言ってもいいかもしれない。

『あぁ・・・』と、一刀は瞑目した。彼女はどうやら、鈴々と同じタイプのようだと。自分は、眠れる獅子を叩き起こしてしまったのだと。

それを認めてしまった瞬間、体の力が抜けてしまった。張り詰めていた糸は簡単に切れ、限界を超えていた体は言うことを聞かなくなった。

―――鈍い衝撃が、体を襲った。







「桃香様、危険です!!」

最低限の親衛隊だけを引き連れて、駿馬を疾走させる主君の背中に、その忠臣である愛紗が叫ぶ。

こんな大規模な戦場で、武を持たない主を先行させるなんてとんでもない話だ。尤も、現在走っている一帯は、主要な敵軍のいない空白地帯となってはいるのだが―――それでも流れ矢が飛んで来ないとも限らない。

『気持ちは分からんでもないがな・・・』

こういう時の桃香の「勘」が良く当たることを、愛紗は知っている。特に今回は、北郷一刀に関する「不安」だ。

愛紗自身、一刀の武ならそう滅多なことは起こらないだろうと思ってはいるものの。桃香同様、嫌な予感が拭いきれない。

「虎牢関の門が見えてきました!!」

と、その時。桃香と行動を共にしていた親衛隊の一人が、報告するように上げた声を、愛紗の耳が拾う。目を細めてみると、確かにずっと目指して走っていた巨大な関の門が視界に入った。

それと共に感じたのは―――思わず身震いするほどの、濃密な殺気。

「な、なんなのだ、これ・・・」

隣を共に走っていた鈴々が、そう呟くのを愛紗は聞き洩らさなかった。全くもって、同意せざるを得ない。

先ほどまで疲れた素振を見せずに走ってくれていた愛馬さえ、動物としての本能で生命の危機を感じたのか、その足並は徐々に落ちていく。

「ちっ―――!」

完全に止まってしまった馬から飛び降り、鈴々と共に主君の背中を追いかける。桃香の馬も、数十歩先で止まっているようだった。

だが、その背に乗る彼女自身は、何故か動こうとしない。不思議に思いながらも、二人は彼女の元へと駆け寄る。

「桃香様! あれほど先行しては駄目だと・・・・・・」

「お姉ちゃん、どうかし・・・・・・」

愛紗は主への諌言を。鈴々は動かない義姉を心配して声を掛けようとしたところで―――目の前の光景に、言葉を呑み込む。

いや。思考が真っ白になり、言語能力を一瞬失った、という方が正しいか。

―――絶句。







―――元々、嫌な予感はしていた。

それは勘に近いようなものだったけれど。信を置く愛紗の言うことさえ耳に入らないほど、桃香はひどく焦っていた。

確かに、まだ共に過ごした時間は少ない。しかし、彼は自分たちにとって既に無くてはならない存在になっていた。

だから、駆ける。元々馬術は得意な上に、愛馬は啄県が一の駿馬。追い掛けてくる愛紗に捕まることもなかった。

「・・・」

それまで軽快に走っていた馬の速度が、もうすぐで虎牢関の門に辿り着くというところで途端に落ちる。

特別な武を持たない彼女でも感知できるような殺気。足を進ませようとしない馬で何とか前進しながら、桃香はその「嫌な予感」を加速させる。

そして――――その瞳が、拒絶したい光景を捉えた。






「・・・かず、と・・・さん?」

顔面蒼白。見開かれた桃香の視線の先。

「嫌・・・」

まず目に止まったのは、大地に浸み渡った大量の赤。

「嫌――――!」

奥で佇んでいるのは、誰なのだろうか。その赤髪の少女は、背の丈ほどある戟を支えに苦しげに立っていて。

「嫌あああああああああああああああああああああああああ!!!」

その目の前。

血の大地にその身を投げ出すようにして―――北郷一刀は倒れ伏していた。



24話へ続く


後書き

ぬ〜、最近本気で不定期になりつつある雅輝です(・x・`)

まあまだ更新できてるだけマシですけど。クオリティが下がっていないか心配だったり。


さて、そんなことはさておき内容に移りましょうか。

今回はついに切り札を切った一刀と呂布の対決でした。やはり戦闘シーンはなかなか難しいですね。

結果としては賛否両論あるかもしれませんが―――天下無双の呂布を相手取るとなると、まあ妥当な結果だと思います。あまり主人公を強くし過ぎても面白くないですしね。

半分くらいは桃香や愛紗の視点でしたが、少しくどすぎたかなと反省。

次回で、とりあえず物語も一段落する予定です。

それでは〜^^



2009.11.25  雅輝