――後漢第十二代皇帝、霊帝の死。

王朝内だけでなく、全国民が一驚したその報は、瞬く間に中華全土へと広がった。

だが、王朝の混乱はこれだけに収まらない。むしろ、これからどんどん加速することとなる。

霊帝の死後、劉弁を少帝として立てた外戚――大将軍何進とその妹である何皇后。

一方、霊帝時代に政治の実権を掌握し、そのまま王朝を牛耳ろうと画策する宦官集団――十常侍。

腐敗しきった後漢王朝はその二派に分かれ、醜い実権争いが繰り広げられていた。

そしてその争いも、十常侍が何皇后に付け入って何進を殺すことに成功したことで、一時期は収まりを見せたかに思えた。

だがその十常侍も、何進の部下であった曹操や袁紹によって殺されてしまい、王朝内はますます混乱の様相を呈していく。

そんな茶番とも付かないドタバタ劇の中、最終的に権力を握ったのは、涼州出身の董卓であった。

以前に宦官に対抗するべく何進に呼び寄せられていた董卓が、まさに漁夫の利と言わんばかりに政治的空白に付け込んだのだ。

そうして今、董卓が洛陽で暴政を振るっているという噂が流れるまで実に一月。中華の政治事情は、その激動の一か月で大きく変わり果てた。





そして桃香のところにも、一通の文が届く。送り主は、つい最近再会を果たした公孫賛。

その中身は、白蓮の字と共にもう一つ、別の文が添えられていた。

白蓮の文は非常に簡潔だ。「一緒に参加して欲しい」。その意を示した、ただ一文だけ。

そしてもう一通の文の方は――送り主は、袁本初。



―――王朝に仇なす董卓を共に討ち取らん。諸侯の皆々も奮って参加されたし。



反董卓連合の檄文。それはまさに、群雄割拠時代の幕開けを知らせるものであった。





真・恋姫†無双 SS

                「恋姫†演舞」

                              Written by 雅輝






<15>  反董卓連合(前編)





啄県の県城。その中でも特別に広い、軍議を行うための大広間に、劉備軍の主たる面々が集っていた。

まさに今これから行なわれようとしている、その軍議の内容は―――もちろん、白蓮から届いた要請のこと。

「――というわけで、みんなの意見も是非聞きたいの」

桃香が、皆も一度は目を通したはずの文を再度確認するように読み直した後、その場にいる臣下の皆に意見を募る。

「・・・私は要請を受けることに賛成します。打算的なことはともかくとして、洛陽の無辜の民たちを放っておくわけにはいきません」

「鈴々も賛成なのだ! 悪いやつは、鈴々の蛇矛で懲らしめてやるのだ!」

まずは、君主である桃香の左右に陣取っていた二人の義姉妹が、それぞれ肯定の意を示した。戦面でも政治面でも信頼の厚い愛紗の意見は、鈴々のみならずその場にいる他の武官文官の同意を得て、場は既にそうあって然るべきという空気にすらなっている。

だが一刀は、その場の雰囲気に合わせて声を上げるわけでもなく、かといって否定的な意見を出すわけでもなく、ただ黙しながら軍議の様子を眺めていた。

愛紗たちの言っていることは確かに正しい。だがそれは、あくまで一方から見た場合の正論でしかない。

今回の件を、もっと多面的に、懐疑的に見れば別の意見も出てくるはずだ。そして、そんな自分でも気づけるようなことを、後の蜀の二大軍師が気付かないはずはない。

「――桃香様」

その声は決して大きくなかったにも関わらず、喧騒に包まれつつあった軍議室に静かに響いた。

自然と、その場に居る者の口数も少なくなっていく。そしてそれが零になったのを見計らって、声の主――朱里は席を立ち、真剣な表情のまま口を開いた。

「私は、今回の招集は見送るべきだと考えます」

「・・・私も、です」

朱里の意見を後押しするようなタイミングで、隣に座っていた雛里もその場に立つ。自分の意見に真っ向から反対された愛紗は少々驚いたものの、二人の軍師としての才能は確かなので、傾聴の姿勢のまま目線で続きを促した。

「・・・今の我が軍は、経済的に見てとてもではありませんが、豊かと言えません」

「ですので、今回は戦争に参加せず、この地で少しずつ力を蓄えていく方が得策かと」

「でも、董卓さんは洛陽で暴政を振るってる。私は、困っている人を放ってはおけない」

確かな意志を宿した瞳で、桃香が二人を見据える。だが、二人にはまだ言い分があった。それは―――。


「その噂が、事実とは限らないってことだろ?」


「「「一刀さん?」」」

桃香、朱里、雛里の声が重なり、他の武官文官たちの視線も自然と一刀へと集まるが、彼はそれに動じず言葉を続けた。

「事実上、後漢が滅亡した今の状況。天下を狙ういくつかの諸侯にとって厄介なのは、間違いなく都で実権を握っている董卓の存在だ。そうだろ?二人とも」

「は、はい・・・」

「です・・・」

「つまり、それだけで董卓は共通の敵になり得る。後は、他の諸侯にも協力を促せるだけの理由があればいい。それが―――」

「流布された董卓の悪評と、袁本初による檄文ですか・・・」

合点がいったのか、愛紗が小さく呟く。一刀はその通りと言わんばかりにコクリと頷くと、締めの言葉を紡いだ。

「だけど、それも所詮は確証の無い話だ。だから桃香、最終的には君に決めて欲しい。ただその際には、俺たちの意見も参考にして欲しいんだ」

「・・・うん、わかった。皆さん、今日のところは解散します。明日、また同じ時間に集まってください」

いつになく真剣な表情で、君主としての桃香が宣言する。皆が一礼をして広間を去った頃、一人残った桃香は天井を見上げ、一つ息を吐き出した。

「朱里ちゃんたちや一刀さんの言うことも分かるけど・・・でも、私は――――」

甘い、と言われるかもしれないけど。呆れられるかもしれないけど。

それでも彼女は、曲げたくなかった。

―――自分が生涯を賭して貫くべき、信念だけは。









そして一週間後。所は変わり、啄郡より遥か南東――陳留郡のとある県城。

暫定的にその場所を拠点としていた“彼女”の元へ、文を携えた早馬が届いた。

その書簡の送り主は、袁本初。だがその内容は、他の諸侯に送ったものとはまるで違う。

「――ふふ、思った通り。此度の檄文に、断る諸侯の方が少ないか」

その内容とは、平たく言えば「反董卓連合」に参加する諸侯の一覧。何故彼女がそれを、“あの”袁紹から受け取っているかといえば・・・彼女こそが、今回の連合の提案者であり、袁紹に檄文を促したからに他ならない。

だが今の彼女には、他の諸侯を集めるだけの力は無い。だからこそ腐れ縁である袁家の主を唆して、諸侯による連合を完成させた。

この一覧の中のいくつかは、袁紹の影響力に恐れを成した諸侯もあることだろう。もちろん、そのネームバリューも計算の内だ。

「――ん?」

と、その一覧の中に見慣れぬ名を見かけた。

今回の連合は中華史上稀に見る大規模なものとなり、当然弱小諸侯は自然と参加を見送る形になるのが当たり前だ。

連合の盟主になるであろう袁紹に、河南の袁術。その下で牙を隠している孫家に、西涼の馬一族。徐州の陶謙、白馬長史公孫賛など、錚々たるメンバー。

だからその中に、彼女も知らないような諸侯が混ざっているとは思わなかった。その名は、公孫賛の下についでのように書かれている。
 
                                けいふぁ

「啄県県令――劉玄徳、ねぇ。・・・桂花」

「お傍に」

彼女は訝しげにその名を呟くと、続いて別の名を呼ぶ。そして従順な犬のように、即座に姿を見せた桂花と呼ばれた少女が、彼女の前にかしずいた。

「この劉玄徳とかいう者の名前、聞き覚えはあるかしら?」

「はい、私も気になって独自に調べては見たのですが・・・風の噂によると、啄県で善政を敷き、幾度も黄巾党を追い払っているとか」

「そう・・・けれど、県令の立場でこの連合に参加するとはね。向こう見ずの馬鹿なのか、それともこの連合に飛躍の機を見出したか――」 
 
        かりん

「・・・華琳様?」

桂花に真名を呼ばれた彼女は、ニヤリとその口端を歪めた。ゾクリと背中が泡立った桂花は、それ以上言の葉を紡ごうとせず、上気した眼差しでただ嬉しそうに笑う主を見つめる。

「まあ、連合の時に会う機会もあるでしょう。どちらかは、その時に見極めさせてもらうとしましょうか」

彼女はその書簡を桂花の手元へと指で弾くと、そのまま“玉座”を立ち、窓際へと歩み寄る。特徴的な金髪のツインロールがふわりと揺れた。

「連合なんて、諸侯同士のただの腹の探り合い程度にしか考えていなかったけど、少しは面白くなってきたじゃない」

彼女自身が立案した今回の連合だが、何も董卓の打破だけが全てではない。確かにそれもあるが、それ以上に彼女にはある目的があった。

「さて―――我が覇道に花を添えてくれるような諸侯は現れるかしら?」

――三国志において「乱世の奸雄」と呼ばれ、多くの諸侯から恐れられた北の覇王。

そう、彼女こそが後の魏武帝、曹孟徳。そして他の諸侯の力量を計ることが、彼女の真の目的であった。



16話へ続く


後書き

予定通りの更新、第15話になります〜。

今回からようやく物語も進展を見せ、「反董卓連合編」に突入していきます。さて、何話いくかなぁっと。

まあ今話は導入編ですね。要請を受けた劉備軍の様子と、後半には華琳様にも初登場願いました。

華琳は個人的にも割と好きなキャラです。さて、今後どう動かしていくか。

それでは、また次の後書きでお会いしましょう!



2009.6.21  雅輝