俺たちが初めて会ったのは、病院だった。

 おふくろ同士はお隣さんってこともあり仲が良く、愛が生まれてから2週間後に、俺たちは初めてお互いの顔を見た。

 もっとも、俺も愛もその頃のことなんて覚えてるはずもない。

 ただ、おふくろ達がそういう話をするから、そうなんだっていう感覚しかない。

 ちゃんと覚えてるのは、俺が5歳の頃。

 2歳になったばっかりの愛が公園で転んで、わんわん泣いてたのが、俺が覚えてる最初の思い出。

 家が近くて、兄妹同然に育ってきたからなのか。

 愛は俺のことを『おにいちゃん』とか、『そうちゃん』とか呼んでた。

 そういう風に言われるのは恥ずかしくもあったけど、何でか嬉しくもあった。

 

 いつでも一緒。どこでも一緒。

 3歳離れてるから一緒の学校になったのは小学校だけだが、俺たちはいつもそうだった。

 彼女を作れとか周りから言われても、比較対象になるのはまず愛。

 贔屓目云々抜きで、愛はやっぱ可愛い。

 他の女の子には悪いけど……愛以上に可愛い子には、はっきり言ってお目にかかったことがない。

俺の同級でも、愛を見たヤロー連中は決まって、

『愛ちゃんって、彼氏いねぇのか?』

 とか聞いて来るし。

 

 で。

 周りがそういう話ばっかりしてくると、気になるのは俺自身の気持ちと愛の気持ち。

 

 正直な話、高校に入ったあたりから愛のことは好きだった。

ちゃんと女の子として意識し始めたのは、愛が中学に上がってから。

 今まではやっぱり妹的な感覚があったが、保体で習った内容が愛の身体にも起きると……意識せざるを得ない。

 愛もやっぱり、女なんだってことを。

 好きか嫌いか、っていう両極端な話をするのはイヤだが。

 まぁ…………好きでもなきゃ、子どものころから一緒にはいないよな?

 

 だから、高3の春に。

俺は思い切って、昔よく遊んだ公園で。

愛と一緒に帰りながら、聞いてみた。

『愛、お前さ……好きなヤツって、いる?』

『え? うん、いるけど……どうして?』

『イヤ……俺も……好きなヤツ出来たから、愛はどうなのかなって、思って』

『あたしは、ずっと好きな人がいるよ。子どもの頃からずーっと好きで、今も変わらない……ううん。前よりもっともーっと、大好きな人っ』

 その言葉に、俺は期待して。

 それ以上に、動揺してた。

『それって…………誰?』

『あたしばっかり質問されてつまんないよ。……総志くんの好きな人って、……誰?』

『お、俺?』

 愛の声が震えてた。

俺の声も、情けないくらいに擦れていた。

 でも、言わなくちゃいけない言葉があったから。

 どんなにみっともない声でも、伝えたい気持ちだったから。

『俺、は……愛のことが、好きだ』

『……っ』

 どすっ、と俺の胸に顔を埋める愛。

『めぐ……?』

『やっと、言ってくれたぁ……ずっと、総志くんから言ってくれるの、待ってたんだよぉ……っ』

 ――――知らないうちに、待たせてた俺を怒ることもなく。

 愛も、俺に告白した――――。

『……待たせて、ゴメンな』

『言ってくれたから、いいよ……』

 俺の制服の袖を掴んで、爪先立ちになる、涙目の愛。

 もう、躊躇う理由も。

 断るなんて必要も。

 俺たちには、なかったから。

 だから、キスをした。

 重ねるだけの口づけだけど、本当の気持ちでする、ファースト・キス。

 

 それが、俺たちの始まりだった。

 

 

 〜秋の夜長の恋人たち〜

 

 <Part2>  ふたりの夜

 

 

「ねぇー、まだー?」

「1時間くらい前にも聞いたぞ、それ」

 カタカタとキーボードを打つ俺の首に両腕を回し、ベッドの上に寝転がったまま、べたーっと抱きついてる愛に答える。

 時刻は午後940分過ぎ。

 晩飯は俺の部屋で取って、今はまったり休憩中。

 でも俺は教授からのバイトの休日分を仕上げなくちゃならないんで、今もこうやってパソコンと格闘中。

「つまんないよぅー。もぅ、画面と睨めっこばっかりしてるから、総志くんの目、悪いんだよー?」

「目が悪いのは中学からだっつーの……って、こら」

 愛の長い指がメガネを奪う。構って欲しいのは分かるけど、そういう真似はマジ勘弁して欲しい。

 仕方ないから作業を中断。保存して、パソコンの電源を落とす。

 まあ、3コマ目が終わってから研究室のパソコン使って4時間以上ぶっ通しで作業してたんで、もうあらかた終わっちゃいるからな。

 明日にでも仕上げればいいし。

「わ、相変わらず見えにくい。こんなのしててよく平気だね?」

「目が悪い人はそれが普通なんだよ。ほら、返せ」

捕まえられてる首を回す。90度くらい曲げたところで、愛の顔が見えた。

メガネをかけたその顔はいつもの愛と全然違うようで、でもやっぱり同じにも見える。

「やーん」

「いや、やーんじゃねえっ。返しなさい」

 ベッドの上を転がる愛。けど自慢じゃないが俺のベッドは狭い。言ってて悲しいが。

 でもおかげで、捕まえるのはわりと簡単に済む。

「うぁうっ」

「ハイ、捕まえた」

「うー、捕まっちゃったぁー……」

 愛の足の間に俺の両足をねじ込み、左手は軽く右手を押さえ込んでる。跡とかつくと困るから、あくまで優しく。

 右手がフリーなんで、左手で抵抗しても簡単にあしらえる体勢。

 って、おい待て。

 これじゃ、まるで俺が襲ってるみてーじゃねえ?

「そーじ、くん……」

「…………わりぃ」

 なぜ謝る俺。あと愛よ、変に艶っぽい声出すな。

「メガネ、外すな?」

「うん……」

 しゅっ、と髪を梳いてから俺のメガネを外す。

 長い睫毛。綺麗な目。下目蓋に軽く、触れるだけのキスをする。

「ん……くすぐったいよぅ」

 嫌がる言葉とは逆に、愛の声も表情も明るい。

 右手をどけて、ベッドの上に座りなおす。

愛も同じく起き上がり、俺たちはベッドの上で向き合う形になる。

「総志くん、メガネしてない方がカッコいいのになー」

「んなこと言うのお前だけだって。メガネ外してると目つき悪いって、よく言われるんだから」

 本当の話だ。二重だがやや切れ長気味の俺の目つきは、見ようによっては結構人相悪く見える。

 メガネをしてるとそれを隠してくれるんだが、愛はメガネがないほうの俺がいいとよく言ってくる。

 けど、愛も知ってることだけど、俺は瞳が弱い。

 だからコンタクトは出来ないんで、メガネはこれからも手放せない。

「それに、メガネがなかったら……しやすいもん」

顔を寄せ、当たり前に唇を合わせる。

 舌がちょっと短い(自己申告だ)愛は、舌を絡めるようなキスは苦手らしく、俺の舌を吸ったり、啄ばむようなキスが多い。

 そのときによくメガネで鼻とか目をぶつけそうになるんで、メガネがない方がしやすいらしい。

「ん……ちゅ……」

 舌を吸われる。されるがままっていうのも悪くはないけど、やっぱり……何というか。

 ちっちゃい口で一生懸命キスされると、こっちから手を出してしまいたくなる。この場合は舌だけど、んなことはどうでもいい。

「んっ」

「?……っ、んっ、ゃん……」

 舌を伸ばす。愛が言うには俺の舌はやや長いらしい。んなこと言われなきゃ分からんし、そもそも長さを比べるようなモンでもない。

 愛の舌は、何で出来てるのか分からないくらい甘い。砂糖とか蜂蜜とかとは違う……、女の子の甘さとでも言うべき味。

 自分でも何言ってんだーとは思うが、そう思っちまうモンは仕方ない。

「んゅ…………く、ふぁ、っはぅ……」

 舌の裏側、歯の裏、歯茎。どこを責めても上がる可愛い嬌声。

 ぴちゃ……と粘度の高い音を立てながら唇を離すと、くたっとしなだれかかってくる愛。

 肩より少し長いセミロングの髪を右手で梳きながら、首筋にも軽く口付ける。

「ぁ……総志、くん……っ」

「……ん?」

 熱に浮かされたみたいに擦れた声は艶を帯びて、お互いの興奮を一段階引き上げる。

「明日、学校……だから、……その」

 遠まわしな拒絶。一度始めるとなかなかお互い止めたくないから、なんだかんだで時間も遅くなるし、疲れて寝るとやっぱり起きるのが遅れる。

 愛が言いたいのは、つまりそういうこと。

するのが嫌なわけじゃないけど今日は出来ないのゴメンなさいって言いたいのだ。

でもな愛、それくらい分からない俺じゃないぞ? 彼氏なんだから。

「ゴメンね……? 最近、その……でき、なくて」

「あのな……俺を性欲の塊みたいな言い方すんな。それに生理だったんだから仕方ねーだろ?」

「え? あ、うぁ……ゴメンなさい」

 性欲、生理って単語に反応して赤面。

何度回数重ねても、そーいう単語にはまだまだ弱い愛ちゃんである。

「愛が言いたいことはちゃんと分かってるから。だから今日は、いっぱいキスしてやる」

「うー……そーじくーん♪」

 嬉しそうにむぎゅっと密着。押し付けられる立派なもの。確か今、Dのはず。

これでまだまだ発育中ってのが怖いなぁ。

「あ、首……残ってない? 跡」

「付けてないから、大丈夫だって」

 首筋にはキスマークが残らないくらい弱くキスしたから、跡は残ってない。ただよーく見ると、うっすら赤く見えなくもない。

「メイド服って、首元見えるのか?」

「うーん……露出は低いと思うけど、首周りが少し開いてる、かな? あとスカート短いよ。今と一緒くらい」

 ……やべ。ちょっと見てみたい。

「時間あったら、俺も行っていいか?」

「あ……うん!」

 すっげー嬉しそうな笑顔。素直に喜んでくれると、こっちとしてもやっぱり嬉しい。

 ……でもゴメン、愛。俺はお前のフリル付きメイド服姿が見たいだけなんだ。

 

 

「ところで、今日どうすんだ? 帰るか?」

「え? あー……どうしよっかなー……ていうか、泊まってもいいの?」

「当たり前だろ。親いないし、愛は俺の彼女なんだし」

「むぅー、さっきは帰そうとしたくせにー……」

それはそれで、俺にも理由くらいある。

いい加減メシの一食くらい自分ひとりで作れるようになって欲しいから、あんなことを言ったまでだ。愛の将来的にも困るから。

 というか、本音を言ってしまえば。

愛はおふくろ達が帰ってくるまで、この家で暮らしてもらっても、俺的には全然無問題なんだから。

「拗ねるな拗ねるな。ちゃんと風呂沸かしてやるから、シャンプーとかも持ってきていいぞ」

「うん。じゃあ、着替え取ってくるねっ」

ベッドを降りる愛。ところがブレザーには見向きもしないで、そのままの格好で出て行こうとする。

「待てい」

「う? って、わぅっ!?」

 腕を掴んで、ぐいっと引き寄せ。身長のわりに軽い愛は半回転しながらあっさり俺の腕の中に納まる。

で、俺がたまに着てる丈の長い、ちょっと厚手のジャケットを羽織らせる。

うん。これだけでもだいぶ寒くないハズ。

「まだそんなには寒くないけど……上着くらい着てけ。カゼ引くから」

「うん……ありがと」

 もそもそと袖を通す。けど袖がちょっと余って、手の半分が隠れて指しか見えない。

「あー……なんか、総志くんのにおいがする♪」

「嗅ぐな」

「へへぇー」

 へにゃっと笑う。あーもう、惚れた弱みってホント怖ぇ。だって何されても大抵の事は許せるんだから。

「行ってきまーっす」

「おう」

 返事しといてなんだが……自分の家に帰るのに行ってきますってのはどうなんだ。

 

 


 

あとがき:

なんというか、エロい展開に差し掛かりそうだったので回避したPart2です。
このサイトの姿勢に18歳未満お断り描写は相応しくないようなので。

完全無欠のバカップル、総志と愛。
生まれたときから一緒だなんて、現実にはありえませんねぇ。

だがそれがいい!! それこそ創作の醍醐味。

そんなわけで、次回も二人の世界は続きます。
タイトルどおり、本当に「夜長」ですから。まだまだ夜は終わりませんよ?

ご意見、ご感想はこちらまで → cxmct821@yahoo.co.jo

2006年3月 鷹



なんかいい感じですねぇ〜。
とろけちゃいそうなくらいラブラブの二人です^^

個人的にはこのまま18禁に突入してもOKなんですが(←?!)、サイト管理者としてはやっぱりNGですね。
色々と規約を設けるのはめんどくさいので(笑)

生まれた時から一緒・・・いいじゃないですか!創作物万歳!(←馬鹿)
次回も夜が続くそうで・・・非常に楽しみです^^


雅輝