「・・・お?」
あくる日。
義之がいつものように、普通に歩いて始業ベルギリギリに教室に入れるくらいの時間に家を出た時、丁度隣の家から一人の女の子の姿が現れた。
「う〜ん、ちょっとヤバいかなぁ・・・って兄さん?おはよう」
靴をトントンと履きそろえながら、何やら時計を見てぶつぶつと呟いていた由夢は、突然現れた義之に驚きつつも朝の挨拶を交わす。
「おう。・・・ってあれ?音姉は一緒じゃないのか?」
「・・・お姉ちゃんなら、生徒会の仕事で今日は早く出て行きましたけど」
「へぇ〜、さすが生徒会長。ご苦労な事だな」
さして気にした様子もなく呟いた義之を、何故か由夢はじっ・・・と眺めていた。
「ん?何か顔に付いてるか?」
「や、お姉ちゃんがいなくて残念そうだなって」
「・・・は?」
義之は『そんな顔してたか?』といった様子で自分の顔を触って確かめる。
そんな義之を、尚もじと目で見ている――と言うよりは睨んでいる由夢。
「な、何だよ?」
「いえいえ、いいんですよ別に。兄さんがどう思おうと、妹の私には何の関係もありませんから」
彼女はたじろぐ義之からプイっと視線を逸らすと、最後には少し拗ねた様子でスタスタと先に歩き出してしまった。
「?・・・何なんだ?いったい」
ポカンと呆気に取られたように由夢の背中を眺めている義之は、要領を得ていない声で呟いた。
しかしその問いに答えてくれる者は誰もおらず、目に映る彼女の姿だけが徐々に小さくなっていく。
「・・・ってこんなことしてる場合じゃねーよっ!」
そして結構ギリギリなのを思い出した義之は、その小さな背中を目指して猛然と走るのであった。
D.C.U〜ダ・カーポU〜 SS
「自由な夢を・・・」
Written by 雅輝
<4> 由夢は優等生?
「よおっ、義之」
”バシッ”
何とか由夢に追いついて学校の校門を抜けたところで、義之の背中に走る衝撃と聞き覚えのある声。
「・・・なんだ、渉か」
朝っぱらから無駄にハイテンションな男子――板橋渉(いたばし わたる)の姿に、義之は確認すると同時にため息を漏らした。
「うわっ、何それ?ちょっと酷くない?」
「大丈夫だ、渉。別に酷くない」
「や、兄さんがそれを決めるのはどうかと思いますけど・・・」
杉並、渉、そして義之は全校でも”3バカトリオ”として有名で、いつもイベントとなると何らかのトラブルを起こすので生徒会からも目を付けられている存在だ。
そしてその役割は義之がツッコミで、残り二人がボケなのだが・・・今日は義之がボケに回ったので代わりに由夢がツッコんだ。
「由夢、ナイスツッコミだ。腕を上げたな」
「・・・そんなことで褒められても全然嬉しくないんですけど」
「あっ、由夢ちゃんおはよう!相変わらず可愛いねぇ」
「おはようございます。板橋先輩」
女好きな性格の渉の少々ナンパっぽい挨拶にも、由夢は義之への不満顔を即座に切り替えて完璧な笑顔で挨拶を返す。
そこには家で「かったるい」を連呼するものぐさの姿は無く、完璧な優等生としての姿があった。
『さすが由夢・・・一瞬で切り替えたな』
義之や音姫といった家族以外は、皆この優等生モードに騙されているのではないか・・・と義之は思う。
それほど彼女の切り替えは完璧で、学校では既に”礼儀正しい優等生”というイメージで定着していた。
さらにその愛らしい顔立ちもあり、噂では”由夢親衛隊”という名のファンクラブまであるそうだ。
『まあこいつも黙ってりゃかなり可愛い部類に入るからな・・・』
「?・・・どうしたんですか?兄さん」
「えっ?い、いや。何でもない」
いつの間にか由夢の顔をじっと見ていたことに気付いた義之は、慌てて由夢から目線を逸らせた。
”キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン”
そしてタイミングよく鳴った予鈴に、密かに安堵の息を漏らす。
「あっやべ。ほらっ、急ぐぞ義之」
「ああ・・・って、おまえまだ居たの?」
「ひ、酷っ!」
「いや、だから大丈夫だって。別に酷くない」
「もうその話はいいですから。急がないと本当に遅刻しますよ?」
昇降口では、いつの間にか靴を履き替えていた由夢が呆れたように立っていた。
「それでは、私はこっちですから。板橋先輩、失礼します」
そして渉に一礼をすると、そのまま優雅に自分の教室へと歩いていった。
「はぁ・・・由夢ちゃんって、ホントに礼儀正しくて可憐で清楚だよなぁ。どっかの誰かさんとは大違いだぜ」
「・・・ここにも騙されてるバカがまた一人・・・」
感嘆のため息を漏らしながら、わざと皮肉っぽく言ってくる渉に、義之はギリギリ聞こえないくらいの小さな声で呟いた。
「ん?何か言ったか?」
「いや、何でもない。ほらっ、さっさと教室に行くぞ」
「え〜?何だよ〜、教えろよ〜」
『まあ、わざわざあいつの評価を下げることはないしな』
義之はしつこく聞いてくる渉を適当にあしらいつつ、本鈴のチャイムと同時に悠々と教室に入ったのだった。
「腹減った〜」
学園中に4時間目終了のチャイムが鳴り響き、それと同時に義之の正確な腹時計も空腹を知らせた。
「今日は・・・まあいつも通り学食でも行くか」
と呟きながら、渉でも誘おうと席を立った義之の耳に、放送が始まる合図が届く。
〜〜「――学生のお呼び出しを致します。3年3組の桜内義之くん。3年3組の桜内義之くん。至急学園長室までお越しください。繰り返します――」〜〜
「・・・」
「・・・俺?」
まさか自分の名前が呼ばれるとは思っていなかった義之は、呆然と呟いた。
『なんだ?学園長室っていうと・・・さくらさん?何か急用なのか?』
「ねえねえ」
思案に耽っていた義之に、前の席の茜が振り向いて声を掛けた。
「うん?」
「義之くん。今度は何をしでかしたの?」
「・・・ヲイ」
初めから疑っているようなその様子に「何もしてねーよ」と反論を続けようとした義之だが、その台詞をまた別の声が遮る。
「どうせまた杉並や渉とよからぬ事でもしたんでしょ。たとえば、女子更衣室の盗撮とか」
「ふぇえ?それは駄目だよ、義之〜。犯罪だよ〜〜!」
「・・・はぁ」
相変わらず意地の悪い笑みでとんでもないことを言い出す杏と、その杏の冗談(?)を真に受けてあたふたし始める小恋に、義之は思わずため息を零した。
「あっ、でも義之くん達なら有り得るかも〜。杉並君なら女子に気付かれないようにカメラを設置することくらい、お茶の子さいさいって感じだしね」
「ふふ。義之も案外スキモノなのね」
「はいはい。じゃ、俺もう行くから」
茜、杏のコンビをまともに相手しても敵わないことを充分理解している義之は、適当にあしらいつつ教室を出て行った。
「よ、義之〜〜っ!盗撮は駄目だからね〜〜っ!!」
「・・・」
――去り際に背中を貫いた小恋の台詞に、義之がこの昼休み、時間ギリギリまで学園長室に居ようと決意したのは言うまでもない。
5話へ続く
後書き
4話UPです。
う〜ん、今回は場面が結構コロコロ変わっちゃいましたね(汗)
もうちょっとテンポよく話を進めたい・・・。
しかし4話でようやく渉の紹介をし終えたことから考えるに、とてつもなく長くなりそうな気が・・・。
本編自体結構長いですからね〜、由夢のイベントもなかなか多いし。
多分週一でも今年中に完結できないかも・・・まあプロットも何もない作者なのでどうなるかはさっぱりわかりませんが(笑)
次回は学園長室から始まります〜。
それでは、また^^