学食の一角。六人掛けのテーブルは、男女比1:5という何とも華やかな雰囲気に包まれていた。
通り過ぎゆく数多の男子生徒が一度は目を奪われ、そして誰しもがその中心にいる義之に殺意の念を覚える。
それは当然だろう。そのテーブルには、風見学園でもトップクラスの美少女が5人も座っているのだから。
だが座っている本人達は、そんな視線など意にも介さず食事を進め・・・最後に箸を置いた花咲茜は、その豊満なボディを揺らしながら嬉々として声を上げた。
「さって・・・それじゃあ、そろそろ話して貰おうかな?」
「そうね。全員食べ終えたようだし」
「つ、月島も聞きたいなぁ」
茜に続き、杏、小恋が同意とばかりに頷く。
この年代の女の子にとっては、他人の恋愛話など恰好の餌。
茜と杏は興味深々に、小恋は若干切羽詰った様子で・・・前に座る三人に視線を送る。
「よ、義之。由夢ちゃんといちゃついてたってホントなの!?」
「由夢さん。その時の状況を、なるべく詳しく聞きたいのだけど・・・」
「美冬ちゃんも、何か知ってたら喋ってくれると嬉しいなぁ〜」
いきなり質問を浴びせられた義之、由夢、美冬――唯一全てを知る三人は、苦笑いを零しながら・・・内心で大きなため息をついた。
D.C.U〜ダ・カーポU〜 SS
「自由な夢を・・・」
Written by 雅輝
<37> 美冬のキモチ(前編)
義之の願いも虚しく、学食に入った茜たちは目敏く由夢たちを見つけ、有無を言わせず彼女達の周りの席に陣取った。
そして義之は半ば強制的に由夢の隣に座らされ、尋問を受けている現在に至る。
一応それぞれが昼食を取っている間は休戦となっていたようだが、それでもこうして食べ終えた今、まだ昼休みは20分以上残っている。
――真実を吐かせるには、充分な時間だ。
『それでも、そう易々と話せる問題じゃないよなぁ・・・』
義之がチラリと隣の由夢に視線を送ると、彼女はこちらにだけ見えるように非難がましく睨んできた。
それは当然だろう。わけもわからぬまま周りの席を陣取られ、その流れのままにこうして先輩達に尋問を受けているのだから。
由夢に「ハハハ・・・」と渇いた笑いを返すと、さらに由夢の奥に座っている美冬を窺う。
美冬は義之の視線に気付くと、一瞬の間を置いてフッと微笑んだ。
義之はそれを疑問に思う。由夢の友人というだけで尋問を受けているのだから、理不尽さで言えば自分達より上なのに。
「ど、どうなの?義之」
「隠してても、いずれ分かることよ?」
「そうそう。言ってスッキリした方がいいよ〜?」
一人は不安そうな表情で、残り二人は妙に楽しそうな表情で迫ってくる雪月花。
義之から視線を逸らすと、美冬は迫り来る彼女たちに凛とした表情で向き合った。
「先輩方は、まだご存じないんですか?」
――嫌な予感がした。
「由夢ちゃんとお兄さん、付き合ってるんですよ」
・・・・・・。
世界が、止まった気がした。
「「ええぇーーーーーっ!!??」」
「・・・」
静寂を破ったのは、小恋と茜の食堂中に響くような驚愕の悲鳴。
杏も声には出さないが、その表情は驚きに満ちている。
そしてそれは――義之と由夢の二人にとっても同じことであった。
「あ、天枷さんっ?」
「な、何で美冬ちゃんがその事を・・・」
鈍感な義之はさておき、由夢は少々鋭い視線で美冬を見つめる。
予想しなかった事態に雪月花が混乱している中、由夢の視線に気付いた美冬は・・・少し寂しげに微笑んだ。
「・・・はぁ」
蒼く澄み渡る空を見上げ吐き出された息は、白い水蒸気となり雲と共に溶けていく。
先ほど鳴ったのは、おそらく5時間目開始のチャイムだろう。由夢は屋上のベンチに腰を掛けながら、ボンヤリと思った。
優等生として名が通っている由夢は、サボりなどしたことが無かったし、勿論根が真面目なのでするつもりもなかった。
ただ、目の前でこちらに背を向けながらフェンス越しに町並みを見つめている親友に、「話があるの」と真剣な顔で言われれば、授業の欠席など厭わない。
それに、先ほどの昼休みの出来事があった後なのだ。由夢としても、彼女に訊きたいことは確かにある。
だが・・・その何故か寂しげな背中を見ていると、声を掛け辛かった。
「・・・訊かないんだね」
と、その時。
冬の空気に交じって、不意に彼女の声が耳に届く。
「・・・さっきの事?」
「うん。前は、誰にも話す気は無いなんて言ってたくせにさ。あっさりとバラしちゃったんだよ?」
「勿論・・・聞きたいよ。でも、悪気があったり、からかったりする為じゃなかったんでしょ?それくらい、わかってるよ」
由夢は一言一言を噛み締めながら、言葉を返す。
美冬はまだ町並みに視線を向けているので、彼女の表情は分からない。
「わかってる、か・・・。ふふっ、由夢ちゃんらしいね」
「・・・天枷さん?」
「理由はね。二つあるんだ。・・・一つは、こういう言い方はずるいかもしれないけど、由夢ちゃんの為なんだよ?」
「私の・・・為?」
不思議そうに首を傾げる由夢を、背中越しに想像したのか・・・美冬は少し表情を崩して、話を続けた。
「由夢ちゃん達が付き合ってる事って、私を除けば二人だけの秘密だったでしょ?」
「う、うん」
「そしてこれからも・・・出来れば卒業するまで、ずっと周りには隠しておくつもりだった。・・・違う?」
「・・・違わないよ」
そう、おそらく違わない。
義之とこの事について話し合ったことは無かったが、二人の関係を隠すのは暗黙の了解だったと言っても過言ではない。
元は「兄妹のような関係」という、後ろめたさ・・・そういうものを、二人は心のどこかで持っていたのかもしれない。
「でもさ。それじゃあ学園では、まったく恋人として振舞えないってことだよ?」
「・・・」
「あの噂を聞いて、思ったんだ。熱を測るために額に触れたくらいで「イチャついてた」なんて。あれでそんな噂が流れるんだったら、恋人らしく振舞ってるのを誰かに見られたら、もっと酷い噂が流れるかもしれないよ?」
「そ、それは・・・」
「それに、それは何も学園に限った話じゃ無い。デートスポットでもある商店街や桜公園だって、放課後は学園の生徒が流れるところだしね」
「だったら、最初からバラしちゃった方が良いと思ったんだ。いずれはバレるんだし・・・下手に隠してたら、余計な勘繰りをされるかもしれないから」
美冬の話は、確かに的を射ていた。
しかし、それは模範解答のようなもの・・・それも彼女の気持ちではあるに違いないが、行動を移すに至った理由の大半は、きっと「もう一つ」にある。
「じゃあ・・・もう一つは?」
確信めいた何かを胸に、おずおずと由夢は訊ねた。
美冬の、深い青色のような瞳が動揺に揺れる。
「私・・・私はね・・・」
そこまで言うと美冬は口を一旦噤み、逡巡するように瞳を閉じた。
――これも、言うつもりなんて無かった。
ずっと胸に閉じ込めておくべき想い・・・これからも彼女の親友でいたいのなら、尚更かもしれない。
一度は言わないでおこうと決意した。でも結局・・・「親友だからこそ」、彼女に打ち明けたいという気持ちが勝ってしまった。
「きっと・・・」
振り返り、瞳を開け、眼前の由夢を見つめる。
そして学食で見せた表情――悲しげな笑みを浮かべて、そっと言葉を紡いだ。
「お兄さん――義之先輩のことが、好きだったんだと思う」
38話へ続く
後書き
ようやく書き上げられました。第37話UPです〜^^
今回は展開にホント悩みました。完全にオリジナルな上、オリキャラが主体の話だったので。
さて、上記の通り美冬が主体の話だったわけですが・・・。
う〜ん、当初の予定ではこの辺りは義之と由夢のラブラブ話で終わるはずだったのに、かなりの進路変更となりました^^;
やはりどうしても私が書いていると、シリアス筆が暴走し始めるようです(笑)
今回は中途半端なところで切りましたが、次回は勿論この続きから。お楽しみにして頂ければ幸いです^^
話は変わりますが、123456のキリリク、頂きました♪
ヒロインは、D.C.のことり。やっぱり人気がありますね。彼女のリク作品を書くのは、これで三回目になります。
ジャンルは、「バカップル並のラブラブ話」で頂いたのですが・・・シリアス筆が暴走しないようにせねば(笑)